第六章(上)
ちょっと、、、短いです。
さて。
入谷が捜査資料をくまなく調べていたその頃、第四班班長荒松清は、全く別の方面から調べていた。
まずはまどかの周りをうろつくハエ共をどうにかしたい。これである。
この前は、まどかに指示を出して現場に行ってもらったが、これといって反応は得られなかった。
そこで、まどかに張り付き尾行しまわっている探偵…に、依頼をしている人物を、調べることにしたものである。
調査会社の入っているビルに侵入、然るべき物を色々と仕込んで一週間。
忍耐強く待っては情報を集め…依頼人が判明した。
依頼人指名。尾上一郎。39歳。住所、兵庫県芦屋市内(詳細は伏せる)。家族構成、本人、妻、娘5才。
職業。会社役員。企業名、大河内製薬。
結構な大手である。薬局でも普通に目にする。荒松でもその名前は知っていた。
しかし…
(なんでこんな奴が…?)
北島まどかとの接点が、全く見当たらない。
まどかの通う学校とも関わりが見つからない。
となると、去年から養子となった北島家―…この家は昔から代々続く製菓会社を経営していて、兄弟杯を交わした北島満はそこの4代目である―…これも、関わりは見つからなかった。満本人に聞いてみても、首をひねるばかりだったのである。
となると残るは…この男が、例の放火事件に何らかの関係がある、という可能性が浮上してくる。
(ふむ…)
荒松は、思案した。
結論を出すのは早い。それこそ、まどかのストーカー…なんて可能性だってある。もう少し、あらゆる可能性を考えるべきだろう。
と、その時だった。
不意に、視界いっぱいにひょっこり現れた老紳士のにこやかな顔に、荒松は思わずのけぞった。
老紳士が振りかぶってきたステッキの端が、荒松の頬をかすめていく。
荒松の小柄な体躯が、くるりとソファの後ろへ一回転、さらに腰を落として数m後ろずさった。
素晴らしい早業である。
老紳士は、そのステッキをヒュンヒュンと音を立てて回しながら、にこにことしている。そして、トンっとステッキを床に鳴らすと、こう言った。
「お困りのようじゃの。」
荒松はそのまま膝まずき、
「ご足労、痛み入ります………河上理事長。」
「なあに…暇を持て余しとっただけじゃ」
老紳士はそう言うと、ソファにちょこんと座った。
この頼りなさげな老紳士…彼こそが、怪盗結社"黒ウサギ"創始者にして理事長、河上利之その人でああった。
そこへ、バタバタと通路の方から音がした。
(またやりおるわ…)
苦笑いになる荒松。
第四班の詰所である、この部屋の扉がバタン!と開いた。
そこには、この組織の上層部を名乗る三人が揃って、息を切らしていた。
「おや。上層部三羽ガラスが血相変えてどうしたのかの?」
河上がぬけぬけと言ってのける。
「勝手に出歩かれては困ります…!」
この中では一番若手の実行犯主任、佐藤弘毅が苦言を呈していた。
「お前たちがまどかの件をいつまでも話さずにおるからいかんのじゃ。」
河上理事長は、ツーンとそっぽを向いてしまった。
これには荒松も思わず、噴出し笑いをこらえきれなかったものである。