目覚める
※別投稿作品、「いきてもどり、その先に」内ゲーム、アーク・メリュジーヌ原型です。
R15。キャラクターの死亡、ヤンデレ要素があります。
一部人物の名前が異なります。
また、ネタバレが含まれることがありますので、ご注意ください。別投稿サイトに別名義で投稿していたものを、修正したものとなります。
世界は、閉じている。
「アウラ」
それは、機械的複製において、コピーを多量に作成できる世界にて、オリジナルから失われる、今、ここにのみ存在することを根拠とする権威を意味する。
失われる意味。生かされる意味。
世界は、有限で。
たぶん、生きる意味などなくて。
それでも、意味などなくても人は生きるのだろう。
✳︎????
私には記憶がない。
はじめの記憶は廃棄物処理場だ。私を拾ってくれた、ミラド・ナースの薄い色の瞳と、ミラドの影から背後に伸びていた、ルナド・ナースの長い体だった。何故か、ルナドの頬や腕に鱗があったことだけは鮮明に覚えている。
六公の家系であるミラドは、色素の抜けた肌と弱々しい身体を持つ少女だ。彼女は、生まれながらにして呪いを受け、彼女の影に繋がる地中に潜むことで命をつなぐ双子の弟のルナドとともに、この国の北に隠れ住んでいる。
冬には白い雪の降る広大な平野と、そこに積み上げられた廃棄物の山。ミラドの仕事は、魔法でそれを圧縮することである。この国はひと月も歩けば国の端から端まで行ける国であるが、それでも北部はその寒さのため、広大な土地が放置されているのだ。
保護されてひと月になるが、ミラドとルナド以外の人に出会ったことがない。こじんまりとした小さな家が荒野にぽつんとあり、王都やその周辺域からのゴミが馬車で運ばれてくる毎日のようだった。馬車を操作する者たちは、ミラドたちと顔をあわせることはない。午前中は、2人は外に出てはならないのだそうだ。その間にゴミは捨てられ、私も捨てられた。
そう、私とミラド、ルナドの出会いは、ある日、私がミラドの仕事場の一角に、捨てられていたことから始まったのだ。
私は、ゴミと間違うほどに血まみれのぼろぼろの姿だったという。ミラドはあやうく圧縮魔法で潰しそうになったと苦笑いしていた。ゴミの山は勝手に作られ、ミラドは選別しない。初夏にもかかわらずあまりに強い日差しのため、影から出てミラドの日除けになっていたルナドが、私に気づいてくれたのだそうだ。
私はミラドの家で手当てされて、それから20日以上、高熱でうなされていた。そうして、目が覚めたらすべてを忘れていた。
目が覚めてから起き上がれるようになるまで3日、なんとか動けるようになるまで一週間。
あわせて1ヶ月経過したころに、事態は動いた。
夏が近づいた午前中、炉端の座椅子に寄りかかり、木じゃくしで粥をすくって口にしていた私に、最初に注意を促したのはルナドだった。
人間のこどもの両手両足を引っ張ったような造形の彼は、ミラドの影から左手を出して私を寝所の奥に引っ張った。右手は私が持っていた粥の椀を持って、机の上に置く。
からからと木の実の殻で作られたドアベルが鳴り、私は寝所のカーテンの影から玄関を伺った。
この家で唯一、人前に出て問題ないミラドが、玄関を開ける。ルナドはミラドの周囲に潜んでいる。姉に何かあれば、加害者を地中に引きずり込むことすらするのだろう。
玄関の先には、ねずみ色の日除けのコートを着た大男が立っていた。
「六公ルナド・ナース様に、召喚状がございます。私は近衛兵第8連隊のオルヴァ・シスと申します」
二十代のはじめごろか。肌と髪が黒く、髪は縮れている。いきなり晴天から室内の暗がりを覗いたからか、目を細めながら大男は言った。
「第124代アウラ・アウリア様が、身罷りました。ルナド・ナース様に即位式にご出席をお願いいたします」
そうして、羊皮紙を丸めた手紙を手渡し、大男は部屋に入ることなく帰って行った。
すぐに玄関の扉を閉めた彼女は、羊皮紙を開き、寝所の影に隠れる私に聞こえるように、それを読み上げた。
「六公ルナド・ナースへの召喚状。第124代アウラ・アウリアの死亡が確認された。皇太子セラム・セレイスが告ぐ。指名された六公は睦月耀日に王宮に参られよ」
その内容に、影のある位置から顔を出したルナドは、ミラドと似た薄い色の瞳を閉じ、歌うように言った。
「さあ、眠る竜が蠢いているよ。王宮に行こうか、ミラド、アウラ」
その言葉に、私は1つだけ事実を思い出した。
ああ、私はアウラ・アウリアだった、と。




