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モンスターにされた悲しき人間

 岩山の上で月を眺めている女性がいた。

 艶のある黒色の髪をしており、容姿は非常に整っていて美しい。旅人がそれを見たら、月の下で微笑む美女がいると噂になるだろう。

 そんな、女性は感傷に浸っていた。



 ――――"アラクネ"と人間は私をそう呼ぶ。

 この姿になってからの、モンスターとして名だ。私にはしっかり名前があったのだ。ただ、ちゃんと呼んでもらっていたのは短い間だった。


 私は比較的豊かな農家の長女として生まれた。明るく活発な子供であり、容姿だってそれなりに自身はあった。親からは弟たちと共に愛情を受けて育った。

 それも家の畑のお陰だ。小麦を栽培していたのだが、家の畑でとれる小麦は質が良いと評判になり、たちまち小麦が飛ぶように売れた。私や弟たちが学校へ通えるくらいに豊かな生活になった。


 ――――幸せな家庭だった。


 ただ、王国にも知れわたるようになった時からだ。奴らのせいで私の人生は狂い始めた。


 ある日から商人がやって来ては土地を購入したいと話を持ち掛けられたのだ。両親は勿論、断り続けて商人たちを追い返していた。来る日も来る日も......。


 それでも、諦めきれない商人たちは、やがて土地に難癖をつけ始めるようになった。

 人を生き埋めにした土地を使っている! だとか、奴らは盗賊の血筋だ!! とか酷いものだった。

 やがて、噂は広がっていき、外に出ると罵倒されるようになった。

 しかも、運が悪いことに、飢饉や疫病が同時に蔓延し、王国の役人が調査に来るようになった。その役人も既に商人に買収されており、過激なカルト教団として捕らえられて、父と母は処刑された。私と弟たちも処刑されるはずだった。


 けれども、なぜか国の研究所へ連れていかれた。


 連れてこられた場所は薄暗い拷問部屋のような研究室であり、ここでは魔道士が王国のために日々、兵器の開発などを行っていたのだ。

 そこでの日々は過酷なものだった。人体実験が繰り返され精神的にも身体的にも限界を越えていたのだ。

 弟たちは死んで行き残されたのは私だけだった。


少女

「もう、やめて助けて、 お願いします......」


 泣きじゃくる少女をよそに研究員たちは実験を続けていた。


研究員A

「こいつに、タランチュラエキスを注入してから、錬成すれば成功するのではないか?」


研究員B

「それだと、解毒処理をする前にこいつらが使い物にならなくなってしまう」


研究員A

「なら、あらかじめ許容量をこえた解毒剤を体内に投入すればよいのではないか? なに...許容量を5倍を越えなければ、人体に影響はない」


研究員B

「そうだな、それが最も効果的だろう」


 研究員たちは少女を押さえ込み、口に無理やり管を入れて、解毒剤を流し込み始めた。

 少女は首を振って抵抗するも器具で固定される。


少女

「ンンーン!! ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛!!」


 少女は白目を向き泡を吹きながら、ビクビクと失神している。


研究員A

「おい、気絶したぞ!」


研究員B

「まぁ待て、雷魔法でショックを与えて叩き起こせばいいさ」


 バヂッ


 少女は涙で顔をぐちゃぐちゃにして目覚めた。


研究員A

「よし、これからが本番だ」


 研究員Aがそう言うと、研究員Bが大型の蜘蛛と緑色の液体を手術台の上に置いた。

 それを見た少女は必死に命だけは助けてほしいと懇願し始める。


少女

「だすげでぇ......うっぷ......おぇええ......だすげてくださいぃ......」


研究員B

「これは、凄い! あの濃度で被験体は発狂してないぞ! これは期待できる」


 研究員Bは少女の懇願を無視してノリノリでガラス張りの丸い装置に少女と大型の蜘蛛を押し込んだ。


研究員A

「じゃあ、入れるぞ?」


研究員B

「おう! 早く入れてくれ!!」


 緑色の液体を持った研究員は装置の上の容器に液体を注ぎ込むと、装置の中はたちまち白い煙で様子が見えなくなってしまった。


少女

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」


 少女の叫びが装置の外まで聞こえる。

 研究員は実験の結果を楽しみそうに待っている。

 やがて、プシューという音をたてて装置の扉が開いた。煙がまだ残っているためか、影しか見えないが、中からは大きい何かが見える。煙が薄くなるのを確認して、研究員たちが目を凝らして中を覗いた。そこには蜘蛛のような八本脚とその上に少女の胴体がくっついた生き物を確認した。


研究員B

「よしっ! 実験は成功だ!!」


 ノリノリに少女の髪を引っ張って装置の外へ出すが、たちまち研究員達は、しらけたような表情をした。


 少女はの身体はドロドロに焼き爛れており、無垢で整った顔はパンパンに膨らんで醜くなっていたのだ。あの明るい少女のみる影もない。


研究員A

「あーあ、最後の一体も失敗作か......いや、まぁ前の被験体と違って頭が弾け飛んでいないだけでも、成果はあったか......」


研究員B

「くそっ、早いところ、こいつも処分しよう」


 やれやれと研究員たちは少女を台車に乗せて運び、王国の外れにある崖まで来て、少女だったものを崖から突き飛ばした。


 ――――グシャ!


 肉が飛び散った音を確認すると、研究員たちはその場をあとにした。




 少女の身体は消え行く意識の中で、声が聞こえた。

 この世の者とは思えぬ声をしており、少女は恐怖した。悪魔なのではないだろうか? ここでも私は助けを乞うしかできないのだろうかと......。


 朦朧とする意識の中で、声は次第に大きくなる。


???

「汝に力を与える......我を手に取れ、そして唱えるのだ......」


 どうやら、声の主は少女に復讐する力を与えるというのだ。


 少女は折れてブラブラになった腕で地面を這いながら思う。


 なぜ、自分だけがこのような目に?

 なぜ、人は自分の立場になって物事を考えないのだろうか?

 なぜ、こうも残虐なことができるのか!

 

 少女は人間に絶望をして、誓った。

 必ず、人間に復讐をすると。


 こうして、少女は禍々しい魔道書を開くのであった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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