第55話 恥ずかしいけど
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「では、気を取り直して、宿に行こう!」
「……」
「あーもう!ニミちゃん!こーゆーときは、”ごっーー!”って言ったじゃーーん!」
「流石に人が多いですし……恥ずかしいですよ……!」
「えーー!さっきまで”わーわーわーわーわー!ぎゃあ!ぎゃあ!ぎゃあ!”って騒いでたのにぃ!ニミちゃん楽しそうだったよーー?」
「楽しくないです!あれは、ちょっと興奮しちゃっただけで……周りの皆さんの迷惑にもなってしまいましたし……」
「興奮した時でも、あんなに大きな声を出せたんだもん!ニミちゃん!普通の人なら、人がたっくさんいる場所で、すっごい大きな声は出せないよ!つまり、ニミちゃんはやっぱり普通じゃ無いんだよ!!普通じゃ無いと分かったんだから、安心して生きれるね!だから、頑張って声出そ!!ね??」
「もう言ってる事めちゃくちゃですよ……フナさんはどうしてそんなに元気何ですか……声もデカいし」
「私はありのままの自分を受け入れて、包み隠さずありのままの自分を曝け出して、ありのままで生きているから!他人からどう思われようとも気にしない!あ、ただしデッヒ様は覗く!変人は変人らしく生きていくのだぁ!!あははははっ!!」
うん、ダメだこれは。ダメな子だ。ダメというより、ヤバイ子だ。フナという少女に対しての自分の評価は、私とは性格が合わない、ちょっと厄介になったススみたいなイメージだったが、バージョンアップする事にした。
ススよりも遥かにヤバイ少女、それが私の評価だった。
この場合の”ヤバイ”には色々な表現が含まれているのだが、まず今現在で理解した事が一つ。
フナの話す事に逆らわない、反論しない方が良い、だった。
フナの言う事に素直に従った方が楽なのでは?と私は考えた。
フナを私の力で打ち負かせる事は不可能だろうし、フナのペースに合わせていたら、どんどん沼に引き摺り込まれてしまい、先程の様になってしまう。
だから、私は……!
「フナさん、分かりました!言いますよ!」
「ほんと?やったぁ!じゃあ、いくよ!!気を取り直して、宿に行こう!」
「ごっーー!」
「あ、やっぱり”ごっーー!”だとつまらないから、”おっーー!”にしよ!じゃあ、もう一回いくよ??気を取り直して、宿に行こう!」
「おっーー!」
「もっと大きい声で!気を取り直して、宿に行こう!」
「おっーー!!」
「ニミちゃんの限界に挑戦しよ!!気を取り直して、宿に行こう!」
「おっーーー!!!!」
私は出せる限りの声を吐き出した。
周りの視線なんて、もう知らない!
「わぁぁぁぁぁ!!凄いよニミちゃん!!」
「はぁ……はぁ……ありがとうございます!」
「フナ、ニミちゃんの事ますます好きになったよ!!」
な、何なんだこれは。
ほんのちょっぴり感動してしまった。
達成感を感じてしまった。
何なんだ、一体……!
と、よく分からない事をやり、私達はようやく宿へと向かった。
疲れた……あと恥ずかしい。