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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第三章『ロックバンド、砂漠の国を往く』

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十二曲目『新生Realizeの初ライブ』

 サクヤがRealizeに加入してから、早一週間。

 俺たちはずっと黒豹団を捕まえるための作戦を練りながら、サクヤに音楽知識のほぼ全て教え込んだ。

 サクヤは客観的に見ても、かなりの天才だった。

 俺たちが教えたことを全部吸収し、自分なりのアレンジもしてみせるどころか俺たちの演奏に対して意見もするようになっていた。

 しかも、的外れなんてことはなく納得出来るぐらいに。

 結果、サクヤだけじゃなくて俺たちも成長することが出来た。これは、かなり嬉しいことだな。

 そして、サクヤはプロとまでは言わないけど、それなりに演奏出来るようになった。

 後はもう、観客の目の前に立ってライブの空気感を味わうだけだ。


「らいぶ? おんがく? なんだい、それは?」


 ライブをしようにもいきなりゲリラライブをする訳にはいかないってことで、俺たちはアレヴィさんに相談しに来ていた。

 話を聞いたアレヴィさんは聞き慣れない単語に、訝しげに首を傾げている。まぁ、分かんないよなぁ。


「よく分かんないが、面白そうじゃないか。いいだろう、私が許可する。その、らいぶとやらを見せてみな!」

「ありがとうございます!」


 完全には理解してないようだけど、とにかく面白そうと判断してくれたアレヴィさんが即決で許可してくれた。

 場所は……この国に来てすぐにウォレスが飛び込んだ噴水の前だ。あそこなら人通りも多いし、集まれるスペースもある。

 アレヴィさんから許可を貰った俺たちは、すぐに動き出した。

 俺とウォレスで木材やら釘やらを買い込み、噴水の前にステージの土台を組み立てる。やよいと真紅郎は、そのステージの装飾だ。

 サクヤは一人で最後の練習をしている。初めてのライブ演奏ってことで、どうやら緊張してるみたいだな。

 俺たちがステージを準備していると、何事かと住人たちや商人が興味深そうにチラチラと見てきた。


「おぉ、俺を助けてくれた兄ちゃんたちじゃねぇか! 何をおっ始めるつもりだ?」


 そこに、俺たちがこの国に来る前に助けたおっさんが声をかけてきた。

 一度作業を止め、おっさんにニヤリと笑いかける。


「めちゃくちゃ楽しくて、熱くなれることだよ!」

「あん? なんだそりゃ?」

「ハッハッハ! おっさんにはこっそり教えてやるけど……商売チャンスだぜ?」

「ほう? ちょいと聞かせてくれや」


 そのままおっさんはウォレスと内緒話を始めた。

 そして、話を聞き終えたおっさんは「ガッハッハ!」と豪快に大笑いする。


「そいつは面白そうだ! いいぜ、おっちゃんも乗らせて貰う!」

分け前(シェア)は六、四でどうだ? オレたちが四でいいぜ?」

「おいおい、それはないだろう。七、三ってとこじゃねぇか? と、言いたいところだが……がっぽり儲けたら六、四でいいぞ?」

「ハッハッハ! 決まりだな!」


 何か商談を終えたウォレスとおっさんが、ガッシリと握手していた。何を企んでるんだか……ま、いいや。

 そんなこんなでステージを作るのに一日かけ、次の日を迎えた。

 ステージの前には、多くの観客が集まっている。皆一様に今から始まる未知に、心を躍らせていた。

 いいね、最高の気分だ。

 音楽を知らない人たちに、音楽を教える。元の世界では味わえない感覚だ。ちょっと、病みつきになりそう。


「……サクヤ、大丈夫か?」


 集まっている観客を見て、表情がいつもよりも強ばっているサクヤに声をかける。

 サクヤは俺の声かけに、ビクリと肩を震わせた。


「……大丈、び」

「噛んでる噛んでる」


 めちゃくちゃ緊張してるな。まぁ、そりゃそうか。初めてのライブは誰だって緊張するもんだ。俺もそうだったしな。

 そんな緊張しているサクヤの肩を、やよいがポンッと叩いた。


「心配ないって! あたしたちがいる! 少しぐらいのミスなら、フォローするから!」

「そうだよ。だから、サクヤは思い切り演奏すればいいよ」

「ハッハッハ! あんだけ練習したんだ、大丈夫だ! 流れに身を任せな(ゴーウィズザフロウ)! 楽しもうぜ!」

「きゅきゅ!」


 やよい、真紅郎、ウォレス、そして多分キュウちゃんもサクヤを元気付ける。

 最後に、俺はサクヤの頭をポンポンと撫でた。


「そういうことだ。思いっきりやろうぜ!」

「……うん」


 サクヤは一度深呼吸すると、力強く頷いて見せた。これなら大丈夫そうだな。


「よし、行くぞ! 新生Realizeの初ライブデビューだ! 楽しんでいこうぜ!」


 俺の呼びかけに、全員が「おぉぉ!」と返した。

 俺たちがステージに上がると歓声が沸き上がる。観客たちも中々ノリがいいな。

 ふと気付くと、おっさんが観客たちに混じって弁当を売っていた。うん、意外と売れてるっぽい。

 他にも大食い大会に出場していたゴードンや筋肉隆々な選手たち、司会の人、防具服店のラルドさん、ガンドさんにアレヴィさんも観客の中にいた。

 俺はゆっくりと息を吸い、魔装を展開して切っ先をステージに突き刺し、柄に取り付けてあるマイクを口元に近づけて叫んだ。


「ハロー! ヤークト商業国の皆様! 今日は俺たちRealizeのライブに集まってくれて、ありがとう!」


 マイクを通した俺の声がビリビリと空気を震わせ、観客たちが目を丸くして驚いていた。

 驚くのはまだ早いぜ?

 ニヤリと笑いながら、続けて声を張り上げる。


「今から俺たちがやるのは、音楽って文化だ! 全員知らないとは思うけど、聴いてくれると嬉しいぜ! 最高に熱くなれるはずだ!」


 チラッとやよいたちに目配せすると、全員同時に魔装を展開した。

 やよいは斧型の赤いエレキギターを構え、サクヤは銃型の木目調のベースを構える。

 ウォレスはスティックを両手に持って紫色の魔法陣に腰掛けると、目の前にドラムセットを模した魔法陣を展開させた。

 そして、キュウちゃんを頭に乗せたサクヤが魔導書を開くと、そこから紫色の鍵盤__キーボードが現れる。

 全員の準備が整ったのを確認し、観客たちに向けて人差し指を向ける。


「全員、音楽の楽しさを味わってくれ! 行くぜ__<壁の中の世界>」


 俺が曲名を告げるとウォレスがスティックで魔法陣を叩き、ビートを刻む。

 そこにやよいのギター、真紅郎のベース……そして、サクヤのキーボードの音色が合わさっていく。

 キーボードが入ったことにより<壁の中の世界>は、前よりも色鮮やかなアレンジが加えられた。

 イントロが始まり、俺は叩きつけるようにマイクに向かって歌い始める。


 さぁ、楽しいライブの始まりだ__!







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