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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第三章『ロックバンド、砂漠の国を往く』

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八曲目『氷属性魔法』

「そういうことか……」


 魔装であるシャムシールを構えたアスワドを見て、俺は思わず呟いた。

 手品のようにどこからともなくナイフを取り出せたのは、魔装の収納機能(・・・・)を使っていたからだ。

 それにしても、魔装のアクセサリー形態って服にも出来るのかよ……。


「さすが、ファンタジーな世界だ」


 動揺していた心をどうにか落ち着かせて、剣を構える。


「じゃあ……行くぜ?」


 シャムシールを右手に持ったアスワドが姿勢を低くしながらニヤリと笑い、地を這うように走り寄ってきた。


「おらぁ!」


 低い体勢から下からすくい上げるように剣を振り上げてくるアスワド。それに対して俺は、剣を振り下ろして防ぐ。

 防いだと同時にアスワドはその場で一回転して、左後ろ回し蹴りを放ってきた。


「__ぐッ!」


 向かってくる蹴りを後ろに下がることで避けたものの、アスワドは蹴りを外した勢いのまま一回転し、遠心力を使ってシャムシールを振り下ろしてきた。

 咄嗟に剣で防いだけど、全身の力を使って振り下ろされたアスワドの攻撃に膝を着きそうになる。


「どうしたぁ! そんなもんかぁ!?」


 怒声を上げながらアスワドは右手を鞭のようにしならせ、シャムシールを薙ぎ払ってきた。


「まだまだぁぁ!」


 俺も怒声を上げて剣で攻撃を防ぎ、そのままシャムシールの剣身に剣を擦りながら前に出る。


「__シッ!」


 短く息を吐き、シャムシールを弾いてから右斜め上から剣を振り下ろす。

 同時に、アスワドは弾かれたのを利用して俺に背中を向け、後ろ向きのまま剣を振ってきた。

 ぶつかり合う剣とシャムシール。火花と共に甲高い金属音が響いた。


「はんッ、やるじゃねぇか」

「お前もな」


 口角を歪ませるアスワドに、こっちも口角を上げて笑って返す。

 本来、シャムシールの方が得意武器なんだろう。ナイフを使っていた時よりも、今のアスワドは強くなっていた。


「……フッ!」


 そこでサクヤが俺とアスワドの間に乱入し、俺を押しのけてアスワドに向かって右の前蹴りを放つ。


「おっと。またか、ガキ! 邪魔すんじゃねぇよ!」

「……黙れ」


 アスワドを睨みながらサクヤは前蹴りをした右足を戻して左足でジャンプし、宙に舞いながら左の前蹴りを放った。

 蹴りの二連撃に対し、アスワドはサクヤの蹴りに合わせてバク転して避ける。


「……避ける、な」

「だったら、避けられない攻撃でもしてくるんだな」


 アスワドの挑発に、サクヤの睨みがキツくなっていく。アスワドとサクヤは相性が悪いみたいだな。


「サクヤ下がれ! 俺がやる!」

「……やだ。こいつはぼくが、ぶっ飛ばす」

「やれるもんならやってみなぁ!」


 あぁ、もう! 俺の言うこと全然聞かなくなってるし!

 仕方がない、どうにか俺がサクヤに合わせるしかないか。


「<アレグロ!>」 


 敏捷強化(アレグロ)使ってから、アスワドに向かって走り出す。

 サクヤに気を取られていたアスワドは俺の接近に気付くと、サクヤを強引に蹴り飛ばしてシャムシールを振ってきた。

 また剣とシャムシールがぶつかり合う。右、左と連続で剣を振っても、アスワドは即座に防ぎながら俺に攻撃してきた。

 敏捷強化している俺の速度に、アスワドは対応して速度を上げてくる。この様子だと、まだ速度が上がりそうだな。

 野性的な苛烈な攻撃。猫科の動物のような敏捷性。曲芸師のようなアクロバティックで、読み辛い動き。

 対人戦はあまり経験がないけど、今までで一番やり辛い相手だ。


「……無視する、な」


 俺とアスワドの攻防に、サクヤがまた乱入してくる。

 アスワドは舌打ちしながら向かってくる右拳を避け、距離を取った。


「ったく、俺の楽しみを邪魔するんじゃねぇよガキ」

「……お前の相手は、ぼく」

「てめぇじゃ相手にならねぇんだよ」


 アスワドとサクヤが話している内に、俺は剣を左の腰元に置いて居合いのように構える。

 剣身に魔力を集め、魔力と剣を一体化させるように集中。


「っと、そいつはヤバそうだな……ッ!」


 野生の勘が働いたのか、アスワドは俺の邪魔をしようと地面を蹴った。

 だけど、その前にサクヤが間に入って邪魔をする。


「邪魔だ! ガキ!」

「……うるさい」


 サクヤがアスワドの邪魔をしている間に、準備は完了した。

 深く息を吐きながら、アスワドに顔を向ける。


「<アレグロ!>」


 もう一度敏捷強化(アレグロ)を使ってから居合いの構えのまま体勢を低くし、左足で地面を蹴って弾丸のように飛び込んだ。


「__サクヤ!」


 走りながらサクヤの名前を叫ぶと、サクヤは渋々その場から飛び退く。

 止まることなく走り、アスワドに向かって剣を薙ぎ払った。


「__<レイ・スラッシュ!>」


 俺の必殺技、魔力を込めた一撃をアスワドに向かって放つ。

 アスワドは向かってくる一撃に対して__ニヤリと笑みを浮かべていた。


「<我が祈りの糧を喰らう龍神よ。我が戦火を司る軍神よ。今こそ手を取り我が征く道を指し示せ>」


 魔法の詠唱をしていた。

 ここで魔法の詠唱? しかも、これは……<混合魔法>か!?

 一瞬、驚いたけどもう俺の動きは止められない。振り切るしかない!


「__<アイス・シャックル>」


 そして、魔法が行使される。

 アスワドの足下から俺に向かって地面が凍り始めた。

 レイ・スラッシュを放とうとしている俺に、それを避ける手立てがない。

 広がっていく氷が足下まで来ると、一瞬にして俺の両足が凍り付いてしまった。


「__なッ!?」


 その場で動きを止められてしまい、レイ・スラッシュが不発に終わる。

 熱いはずの砂漠地帯に発生した冷気に、流れていた汗がピシピシと凍り付いていく。


「……残念だったな。どうやら強力な一撃を放とうとしてたみてぇだけどよぉ、そう簡単にやらせると思ってんのかぁ?」

 

 パキ、パキと俺に向かって真っ直ぐに伸びる氷を踏みしめ、シャムシールの峰で肩をトントンと叩きながらアスワドが近づいてくる。

 マズい、すぐに凍った足をどうにかしないと!


「__やらせねぇよ?」


 右手に持っていた剣で氷を砕こうとする前に、アスワドが氷を踏み砕く。

 すると俺の足を凍らせていた氷が上へと登ってきて、右腕が凍り付いてしまった。


「く、そ……ッ!」


 完全に凍ってしまい、身動きが取れなくなる。徐々に手の力が入らなくなり、剣を取り落とした。


「どうだ、俺の<氷属性魔法>は? 少しは涼しくなったか?」


 氷属性魔法。

 別の属性同士を合わせた強力な混合魔法の一種で、氷属性は水と風を合わせた属性だ。

 二つの属性を混ぜ合わせるのは熟練の魔法使いでも難しいとされているのに、アスワドはまるで息をするように簡単にやってのけていた。

 甘かった。完全に俺の油断が招いたことだ。

 たしかに、アスワドの実力はロイドさんよりも低い。それでも、アスワドは黒豹団のリーダーなんだ。なら、それに比例する実力があってもおかしくなかった。

 アスワドは俺の目の前まで来ると、シャムシールを俺の首もとに置いた。


「__言い残すことはあるか?」


 氷のように冷たい剣身を俺の首に当てながら、アスワドは笑みを浮かべて問いかけてくる。

 抵抗しようにも身動きが取れないし、冷気に体力が奪われて頭がぼんやりしてきた。

 このままだと俺は、殺される__ッ!


「__やらせ、ない!」


 俺のピンチを救ったのは、サクヤだった。

 サクヤはアスワドに突進すると、紫色の魔力を拳に纏わせている。そして、強い踏み込むと共に右拳を突き出した。


「__<レイ・ブロー!>」


 サクヤの必殺技、レイ・ブロー。

 俺が使うレイ・スラッシュと同じ原理で音属性の魔力を拳と共に放つ攻撃が、アスワドに向かっていく。

 アスワドは一瞬の判断でその場から飛び退き、ギリギリ攻撃を躱した。


「危ねぇな、ゴラァ! またか、ガキ! さっきから邪魔ばっかりしやがって!」

「……ちっ、外した」


 攻撃は避けられたけど、サクヤのおかげで一命を取り留めた。

 さらに、真紅郎が俺の状態を見てすぐにベースのネックの先端にある銃口を俺に向けている。


「タケル、動かないでね!」


 弦を弾き、銃口から放たれた魔力弾が俺の足下に広がっている氷を撃ち砕いた。

 氷から解放されたけど、力が入らずその場で倒れそうになる。すると、いつの間にか近くにいたやよいが抱き留めてくれた。


「__ウォレス! 退却しよう!」

「オーライ!」


 やよいの指示にウォレスは魔装__二本のドラムスティックに纏わせていた魔力刃で、地面を何度も斬りつける。

 モクモクと立ちこめる砂煙に紛れ、俺はウォレスに運ばれながらどうにか逃げ出すことが出来た。


 そして__俺たちがユニオンメンバーになって初めての、依頼失敗だった。




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