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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第三章『ロックバンド、砂漠の国を往く』

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六曲目『黒豹団』

 次の日。

 俺たちは魔鉱石を買うための資金を集めるために依頼をこなそうと、ユニオンに来ていた。

 受付の職員に何かいい依頼がないか聞いていると、そこにアレヴィさんが声をかけてくる。


「あんたたち、依頼を探してるんだろう? だったらいい依頼があるよ」

「ま、マスター! もしかして、あの依頼を?」

「あぁ。ま、クリムフォーレルを倒すような奴らだ。だったら大丈夫だろう?」


 アレヴィさんが教えようとしている依頼に心当たりがあったのか、心配そうにしている職員。本当に大丈夫なのか?

 俺の心配をよそに、アレヴィさんが一枚の羊皮紙を手渡してきた。


「ここいらで商人を困らせている盗賊団がいるんだ。その名も<黒豹団>って言うんだけどねぇ。そいつらの捕縛の依頼だよ」

「黒豹団?」


 盗賊団、つまりは対人戦か。

 まぁ、殺すとかじゃなくて捕縛だから、いいか。

 話を聞いていると、真紅郎が右手を挙げながら口を開いた。


「盗賊団の捕縛……その盗賊団は頻繁に現れるんですか?」

「そうだね。結構、被害を受けている商人がいる」

「そうですか……」


 真紅郎はアレヴィさんの話を聞いて顎に手を当てて考える。

 そして、ある作戦を提案した。


「被害があったルートを調べて、そこにボクたちが御者に扮装する。黒豹団が現れたら捕縛……っていうのはどう?」

「悪くないな」


 真紅郎の作戦に同意すると、やよいが元気よく話に入ってくる。


「そうだね、あたしは賛成!」

「ハッハッハ! 小難しいのはよく分かんねぇから、任せる!」

「……ぼくもそれでいいよ」

「きゅ!」


 やよいに続いてウォレス、サクヤ、キュウちゃんが返事をした。

 満場一致だし、それでいくか。


「アレヴィさん、そういうことなんで……」

「分かってるよ。商人が被害を受けた場所の情報と、竜車を手配しようじゃないか」


 話が早くて助かるな。

 よし、俺たちは準備をしようか。


「御者役はどうする?」

「ボクとやよいにしよう。弱そうな御者なら狙われやすいだろうし。タケルとウォレス、サクヤは竜車の中に隠れて、黒豹団が現れたらすぐに戦えるようにしてて欲しいね」

「それが一番だろうな」


 それから俺と真紅郎は作戦を練り、黒豹団について調べる。そこでアレヴィさんから貰った情報を合わせ、全ての作戦が決まった。

 そして、現在。

 俺とウォレス、サクヤは竜車の中に隠れ、ローブを着たやよいと真紅郎はフードを被り、リドラの手綱を握る。

 ちなみに、キュウちゃんはユニオンで待機だ。危ないし、それにアレヴィさんがキュウちゃんの虜になってて離そうとしなかったからな。

 キュウちゃんが助けを求めているように見えたけど……うん、気のせい気のせい。


「……本当に来るのかな?」

「多分ね」


 前にいるやよいが、心配そうに真紅郎に聞く。

 今竜車が進んでいるルートは、何度も黒豹団に襲撃されている。そこに竜車が走っていれば、高確率で出てくるはずだ。

 砂漠から岩だらけの場所に変わり、岩の壁で挟まれた細い道を進む。情報通りなら、この辺りで出てくるはずだ。

 すぐに飛び出せるように準備をしながら、周囲に耳を澄ませる。

 すると__リドラの足下に突然、ナイフが飛んできた。


「うわ!?」

「きゃ!?」


 ナイフに驚いたリドラが暴れ出し、竜車が急停止する。

 何事かと竜車からこっそり顔を覗かせると、進行方向の先に一人の少年がいた。


「はぁい、止まって止まって。こっから先はオレが通さないッスよぉ」


 黒いローブを纏い、口元を布で隠した少年が立ちふさがっていた。

 フードからチラッと見え隠れする金髪、綺麗な蒼眼。フードと口元の布のせいでそれぐらいしか容姿が分からない。

 華奢な体だし、声も高い。本当に少年なのかも分かんないけど……口調からして多分、少年だと思う。

 少年は手にしていたナイフを向け、ゆっくりと近づいてきた。


「大人しくするッスよ?」

「……キミは黒豹団なのかな?」

「ご名答! 察しがいいッスね。ま、そういう訳だから黙って荷物をオレにくれッス」

「キミ一人だけ?」


 やよいの問いかけに、少年は布の下で笑みを浮かべる。


「それはオレだけだったら問題ない、ってことッスかぁ? それは甘く見られたものッスね……ま、一人じゃないッスけど」


 少年が言う通り、竜車の後ろに人の気配を感じた。

 多分、少年を囮にして後ろから荷物を強奪する作戦なんだろう。

 だけど、残念だったな。


「__てあぁぁぁ!」


 竜車には俺たちがいるんだよ。

 俺は竜車から飛び出し、驚いている男たちの一人に飛び蹴りを食らわせた。同時にウォレス、サクヤも竜車から飛び出す。


「な、なぁぁ!?」


 少年は俺たちの登場にあんぐりと口を開けて驚いていた。

 竜車を襲おうとした男たちは六人。その内の一人は俺の飛び蹴りによって気絶してるから……残りは五人だな。


「残念だったな、黒豹団。神妙にお縄につけ!」

「ぐ、ぐぬぬぬ……お前ら、御者じゃないッスね! 何者ッスか!」


 悔しげにしている少年に向かって、ウォレスは豪快に笑いながら拳を胸に打ち付けて叫ぶ。


「ハッハッハ! オレたちはユニオンメンバーだ!」

「……お縄に、つけぇ」


 俺たちがユニオンメンバーだと知ると、少年は地団太を踏んだ。


「ちくしょう! 汚ないッスよ! 騙し討ちなんて人間がやることじゃないッス!」

「いや、お前が言うなよ」

「う、うるさい! わ……オレたちはいいんッスよ!」


 どんな理屈だよ。まぁ、いいや。とにかく黒豹団を一網打尽にしよう。

 俺たちは魔装を展開して構え、サクヤは拳を握りしめる。

 戦闘準備を整えた俺たちをビシッと指差した少年は、仲間に向かって命令を出した。


「お前たち、こいつらをぶっ倒すッス!」

「うるせぇ! なんでお前が仕切ってるんだ!」

「そうだそうだ! 偉そうにするな!」

「お前がやれよ、シエン!」

「ば、バカ! 名前を出すんじゃないッスよ!?」


 ……こいつら、本当に戦う気あるのか?

 とにかく、情報が一つ貰えた。少年の名前はシエンだな、覚えておこう。

 シエンは頭を抱えると、俺たちにビシッと人差し指を向けてくる。


「お前らなんて、アニキが来たら一発ッス!」

「……そのアニキとやらは、どこにいるんだシエン?」

「名前を言うな! アニキなら……アニキは……アニキ、どこッスか?」


 周りを見渡してアニキとやらを探していたシエンは、どこにも見当たらなかったのか男たちに訪ねる。

 男たちはその問いに、スッと視線を逸らしていた。


「またッスかぁぁぁ!? どうしてアニキはいつもいつも迷子になるッスかぁぁ!?」


 迷子なのかよ。

 もう、本当にこいつら盗賊団なのか? 漫才集団の方が納得出来るぞ?


「……仕方ないッス! アニキ抜きでこいつらをぶっ倒すッス!」


 シエンの呼びかけに男たちは武器を構えて襲ってきた。

 男の一人が俺に向かって剣を振り下ろしてくる。それに合わせて剣を薙ぎ払うと、男の持っていた剣が簡単に折れた。


「……は? ふぐぅ!?」


 唖然としている男の腹を思い切り蹴り、その一撃で男は沈んだ。


「……あれ?」


 シエンがその光景を見て首を傾げている。


「__おらぁぁぁ!」

「ぷぐぇ!?」


 ウォレスは向かってくる男にドロップキックを食らわせ、吹っ飛ばした。


「……あれれ?」


 シエンはまた首を傾げる。


「__フッ!」

「ぎゃ!?」

「ぐえ!?」


 サクヤは一瞬で距離を詰めると右の前蹴りで男の顎を蹴り抜き、同時にそのままかかと落としをもう一人の男に食らわせる。


「……えぇ!? なんッスか、どういうことッスか!? どうしてそんなに強いんッスかぁぁぁ!?」


 驚いているシエンには悪いけど、当然なんだよな。

 俺たちはあのロイドさんの厳しい修行を受けてるし、クリムフォーレルという強力なモンスターと戦ったんだ。

 少なくとも、こいつらに負けるほど今の俺たちは弱くない。


「さて。大人しく捕まってくれるか?」


 剣をシエンに向けて言い放つ。勝負は決まったようなもんだ。

 シエンは涙目になりながら後ずさっている。戦う気はなさそうだな。可哀想だけど、黒豹団に所属している以上捕まえない訳にはいかない。


「んじゃ、そういうことだから……」

「__俺抜きで楽しそうなことしてんじゃねぇぞ、こらぁ」


 シエンを捕まえようと歩き出そうとした瞬間、上から男の声がした。

 声がした方に顔を向けてみると、崖の上から俺たちを見下ろしている一人の男が立っていた。


「あ、アニキぃぃぃ! 遅いッスよぉぉぉ!」


 あれが、シエンの言うアニキか。

 黒いローブを纏い、フードを被っている男はニヤリと笑みを浮かべている。


「お前たちが俺を置いてったんだろ? 俺は悪くねぇ」

「迷子になっただけッスよね!?」

「俺は迷ってねぇ」

「あぁ、もう! いいから、こいつらどうにかして下さいッス! 結構強くてオレたちじゃ無理ッス!」


 シエンの泣き言に男はヤレヤレと首を横に振った。


「仕方ねぇな。ったく、お前らは俺がいねぇと何も出来ねぇ……世話が焼ける奴らだ」


 そして、男は結構な高さの崖なのに躊躇なく飛び降りた。

 落下しながら男は切り立った岩の壁を蹴り、反対側の壁に移動する。それを何度も繰り返し、時に一回転しながらアクロバティックに降りてきた。

 まるで猫のように軽快な動きで地面に降り立った男は、被っていたフードを取る。


「よう。俺の可愛いバカ共が世話になってみてぇだな? 俺は黒豹団のアタマ張ってる__アスワド・ナミルだ」


 黒いボサボサの髪。琥珀のように黄色い瞳。目つきの鋭さと黒い格好からその姿はまさに__黒豹。

 アニキと言われているこの男、アスワドが黒豹団のリーダーなのか。


「バカ共が世話になった礼だ……俺も混ぜて貰おうじゃねぇか」


 アスワドはそう言うと手にナイフを持ち、姿勢を低くして構えた。

 ちょっと待て……今、ナイフをどこから出した?


「おい、てめぇら! 気合い入れろ! ナメられっぱなしで黙ってるような奴は、黒豹団にはいらねぇぞ!」


 アスワドの檄に男たちは雄叫びを上げる。さすがはリーダーだな、一発で志気を上げた。

 そして、アスワドはニヤリを口角を上げる。


「__行くぞ、こらぁぁぁ!」


 一瞬で距離を詰め、俺に向かってナイフを振り下ろしてくる。俺もすぐに反応し、剣を振った。

 ぶつかり合うナイフと剣。鋭い金属音を合図に、黒豹団と俺たちの戦いが始まった。



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