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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第三章『ロックバンド、砂漠の国を往く』

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四曲目『大食い女王』

「さぁ、始まりました! ヤークト大食い王決定戦! 今回も大食い自慢たちが集まっております! おっと? どうやら今回は少年と……なんと! 女の子が出場しております! 二人の健闘を祈りたいところですね!」


 ステージの上で、司会の男が会場を盛り上げている。

 俺は観客に混じってさっき屋台で買った串焼きを頬張りながら、出場しているやよいたちに目を向けた。

 ウォレスは雄叫びを上げ、サクヤは我慢しきれないのか屋台の方にフラフラと向かい、やよいは慌ててそれを止めている。

 ちなみに、キュウちゃんは俺の頭の上に移動していた。


「本当に大丈夫なのかなぁ……?」

「きゅ?」


 俺の独り言に、キュウちゃんが首を傾げる。

 心配しているのは、やよいのことだ。やよいは自信ありげだったけど俺が知る限り、やよいが大食いを披露した時はない。

 俺が知らないだけで、本当はめちゃくちゃ食うのか? いや、まさかな。


「優勝者には賞金と、大食い王の称号が与えられます!」

「うわ、いらな」


 大食い王の称号の部分で、思わず言葉が漏れる。でも、賞金は魅力的だな。

 見たところ結構な額みたいだし、優勝出来る可能性があるウォレスに期待しておこう。

 ステージにいる選手たちが長いテーブルの前に座ると、テーブルにどんどん料理が置かれ始めた。

 肉料理、魚料理、麺類などあらゆる料理を前に、選手たちがたじろいでいる。


「料理を前に選手たちの緊張感と空腹感が高まっています! さぁ、ヤークト大食い王決定戦!」


 もうすぐ始まりそうだ。

 選手たちは手にフォークを持つ。ウォレスとサクヤもフォークを手にしている中、やよいは魔装の収納機能を使って、自作の箸を持っていた。


「__始め!!」


 司会のかけ声と共に銅鑼の音が響き渡り、選手たちは一斉に料理を口に運び始めた。

 筋骨隆々の男たちが皿を持って口に料理をかき込んでいく。ウォレスもまるで吸い込んでいるかのように食べまくっていた。サクヤも負けじと料理にがっついている。

 そしてやよいは__美しい所作で箸を使い、上品に口に運んでいた。


 だけど、そのスピードは凄まじかった。


 美しい所作からゆっくり食べているように錯覚するが、その速度はまさに__神速。

 しかも、料理の美味しさから頬を緩ませる余裕を見せていた__ッ!


「あいつ、まさか本当に……ッ!」


 道理でやよいが自信ありげだった訳だ。心配する必要なんてなかったんだ。

 俺がRealizeに加入してから数年。俺は、やよいがこれほどまでに大食いだということを知らなかった。

 まだまだ俺は、みんなの全てを知ってはいないのかもしれない。


「クッ……未熟だな、俺も」


 これからはもっと知っていこう。全部を知ったつもりじゃダメだ。

 だって俺たちは__Realizeは大事な仲間なんだから。


「ちくしょう……」


 でも、だからこそ思う。

 どうして俺は、あのステージにいないんだ?

 どうして俺は、こんなところでみんなの活躍を見ているだけなんだ?

 俺も、あのステージに……輝かしいあのステージにいないといけないんじゃないのか__ッ!?


「いや、それはないわ」


 別に大食いに興味ないし。

 さて、結構時間が経ったけど……何人か脱落してる奴がいるな。


「う、ぷ……ま、まだまだぁぁぁ!」


 苦しそうにしているウォレスは、気合いを入れてまた食べ始める。


「……おかわり」


 サクヤはまだ大丈夫そうだな。


「美味しい!」


 やよいは、もはや楽しんでるな。というか本当に凄い。軽く引くぐらい。


「おっと、また脱落だぁぁ! なんと、少年と女の子はまだ脱落せずに食べ続けています! この二人、なんなんだぁぁぁぁ!?」


 俺が知りたい。と、思わず心の中で突っ込む。

 なんか、見てると腹一杯になってきたな。


「キュウちゃん、これ食べる?」

「きゅ!」


 手に持っていた串焼きをキュウちゃんに見せると、キュウちゃんは嬉しそうに頭から肩に移動してモグモグと食べ始めた。


「もう、げん、かい……」


 残り四人になった時、ウォレスがとうとう限界を迎えて倒れた。

 残り、三人。


「……お腹いっぱい。満足」


 次にサクヤが脱落した。

 これで残り、二人。


「おぉぉぉっと! これは誰が予想していただろうか!? 残っているのはたったの二人! 一人は前回優勝者、鍛冶屋のゴードン! そして、そしてそして、もう一人は初出場の女の子、やよいだぁぁぁぁ!」


 ステージにいるのはやよいと比べて体格が三周りぐらい違う巨漢の男、ゴードン。そして、もう一人が我がバンドの紅一点である、やよいだけだ。

 汗を流しながら食べているゴードンと、最初からずっと同じペースで食べているやよい。これは、もしかしたら、もしかするかも?

 そんな期待をしていると、テーブルの上にはもう料理がなくなっていた。


「おっと、ここで料理が底をつきました。ですが安心して下さい! ここからはデザートのお時間です!」


 司会の人が指示を出すと、テーブルの上に色とりどりのフルーツやケーキなどのデザートが山ほど置かれ始めた。

 うわ、見てるだけで胸焼けする。


「さぁ、ここからが本番! 果たして、どちらが脱落するのか? どちらが優勝するのか! デザートサドンデス、始め!!」


 ゴードンはゴクリと息を呑むと、自分を鼓舞するように雄叫びを上げてケーキにかぶりつく。

 そして、やよいは目をキランと光らせて箸からスプーンに持ち替えた。


「デザートは女の子にとって、別腹なんだよ……」


 やよいは笑みを浮かべ、フォークでケーキを切り分ける。


「__甘くみないでよ、デザートだけに!」


 よく分かんないことを言いながら、やよいはペースを上げてケーキを食べ始めた。

 そのスピードにゴードンが目を見開いて驚き、それでも前回優勝者としての意地があるのか負けじとペースを上げていく。

 だけど、その速度は歴然。やよいはどんどんゴードンを突き放す。

 その食べっぷりに、観客の一人が叫んだ。


「魔法だ! これぞ、まさに魔法! あの子の胃袋は、神が生み出した魔法だぁぁぁ!」


 え? どういうこと? 意味分かんない。

 だけど観客たちはその叫びに呼応されるように、大歓声を上げて盛り上がっていた。

 なんか、俺だけ取り残されている気がする。


「う、ぐ……おぉぉ…ッ!」


 やよいコールが響く中、ゴードンは苦しそうにフォークに突き刺したケーキを口に運ぼうとしている。

 だけど、その手はプルプルと震えていた。

 どうにか口を開けて食べようとしているが、体が拒絶しているのか中々動こうとしない。


「ぐ、ぐぐ……こ……降参、だ」


 ゴードンはとうとう、テーブルに突っ伏した。

 一瞬、静まりかえる会場。その静寂を破ったのは、司会の叫び声だった。


「__ゴードン、破れるぅぅぅぅ! 優勝者は、やよいだぁぁぁぁぁぁ!!」


 こうして、やよいはヤークト大食い王決定戦で見事優勝し、大食い王……いや、大食い女王の称号を獲得した。

 おめでとう、やよい。

 お疲れさま、やよい。

 そして__。


「うぇ……気持ち悪ッ」


 あまりの胸焼けに俺は、胃をさするのだった。



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