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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第二章『ロックバンド、セルト大森林でライブをする』

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二十八曲目『激闘の終曲』

「ここで終わらせろぉぉぉぉぉッ!」


 ケンさんの気合いの入った怒声が響く。その声に呼応するようにケンタウロス族、エルフ族、そして俺たちも叫んだ。

 クリムフォーレルは左翼があったところから血を吹き出し、片目を失い、ふらつきながらも残った眼には戦意が残っていた。

 喉を鳴らし、自分に向かってくる大群に背を向けることなく待ち構えている。


「弓矢部隊、一斉掃射!」


 タウさんのかけ声に鏃の雨がクリムフォーレルに降り注ぐ。矢を受けたクリムフォーレルは顔をしかめながらも大きく息を吸い、俺たちに向かって火球を放ってきた。


「やらせるかよ__<レイ・スラッシュ!>」


 みんなよりも一歩前に出て火球に走っていき、剣と魔力を一体化させる。そして、走りながら火球に向かって剣を振り抜いた。

 レイ・スラッシュで火球を真っ二つに斬り裂く。散った火の粉を振り払い、それでも前に進む。


「<フォルテ!>」


 一気に近づいてから一撃強化の魔法をかけ、クリムフォーレルの頭を狙って剣を振り下ろした。

 フォルテを使えば俺の攻撃でも外殻を斬ることが出来るのは、もう知っている。

 だけど、簡単に許すほどクリムフォーレルは甘くはなかった。


「グルウゥゥ!」

「__なッ!?」


 クリムフォーレルはその場で一回転し、尻尾で薙ぎ払ってきた。咄嗟に剣で防いだけど、その勢いまでは殺せない。

 吹き飛ばされた俺は宙を舞い、ゴロゴロと地面を転がっていく。

 クリムフォーレルは一回転したあと止まりきれずに地面に横たわっていた。そんなギリギリの状態で俺を攻撃してきたのか……。


「クッ、まだまだ!」


 負けられないと転がりながら地面に手を置き、反動で立ち上がってからすぐに走り出す__。


「……タケル」

「うお!? び、ビックリした……」


 前に、いつの間にか隣にいたサクヤが呼び止めてきた。

 急ブレーキをかけ、サクヤに声をかける。


「どうした?」

「……聞きたいことが、ある」


 こんな時に聞きたいこと? 

 チラッとクリムフォーレルの方を見ると倒れたまま火炎を吐いて近づこうとする者を牽制し、ゆっくり立ち上がる。

 それから雄叫びを上げながら突進してケンタウロス族を吹き飛ばし、魔法を放つエルフ族には火球を放っていた。

 

「それ、今じゃなきゃダメか!?」


 最後の力を振り絞るように暴れ回るクリムフォーレル。ボロボロになっても戦い続けるケンタウロス族やエルフ族。

 そっちの方が気がかりで焦りながら聞くと、サクヤは小さく頷いた。


「分かった! 答えるから早くしてくれ!」

「……聞きたいことは、一つだけ」


 そう言うとサクヤは俺が持っている剣を指差しながら、問いかける。


「……レイ・スラッシュって、どうやる?」


 サクヤの問いかけに呆気に取られた。

 レイ・スラッシュのやり方? どうしてこんな時に? 今じゃなくてもいいんじゃないのか?

 そう言いたかったけど、サクヤの眼は真剣そのものだった。

 だから俺は、色々疑問はあるけど素直に答えることにする。


「……魔力じゃなくて剣に集中すること。魔力を纏わせるって言うより、一体化させるイメージだ」

 

 前にロイドさんから教えられた通りにサクヤに教えると、サクヤは何か考え事をしているのか黙り込んでいた。


「もういいか!?」

「……うん。ありがと、タケル」


 サクヤの返答を聞いてすぐに走り出す。

 傷つき、倒れているケンタウロス族やエルフ族を追い抜いて一気に前線に躍り出た。


「ヘイ、タケル! どこ行ってたんだよ!?」

「悪い!」


 クリムフォーレルの足を斬りながら話しかけてきたウォレスに短く謝る。

 今クリムフォーレルの前にいるのは俺とウォレス、ケンさん。その少し後ろで真紅郎とやよい、そしてリフがいた。


「リフ!? 危ないからもっと下がれ!」


 この中で一番戦闘に慣れていないリフがここにいるのは、かなり危ない。だけどリフはクリムフォーレルから目を離さずに首を横に振った。


「出来ません! たしかに、僕はまだ成人してないし、あまりモンスターと戦ったこともありません! でも! 僕だって同族のために戦いたい! 兄さんのように!」


 リフは亡くなった兄のことを思い出したのか涙を浮かべ、感情のままに叫んだ。


「__僕は、戦士だ!」


 経験は浅い。実力も伴っていない。ただの感情論だ。

 だけど、その心は一端の戦士のそれだった。


「__年若きエルフ族よ」


 リフの熱い叫びを聞いたケンさんが、リフの肩をポンッと優しく叩く。


「認めよう。お前は我らと同じ誇り高き戦士だ」

「僕が、誇り高い……?」

「そうとも。誰がなんと言おうともな」


 ニヤリと笑みを浮かべたケンさんはリフの両脇に手を入れると、そのまま自身の背中に乗せた。


「わっ、わわわっ!?」


 いきなり背中に乗せられたリフは慌てていたけど、すぐに周りを見渡して目を輝かせていた。

 ケンさんは剣を掲げ、声を張り上げる。


「さぁ往くぞ、我と同じ誇り高き戦士リフよ! 今から我はお前の足となり、戦場を駆け抜けよう!」


 最初はいがみ合っていた両種族が、同じ誇り高き戦士として認め合い、戦う。その姿こそ両種族のあるべき姿。新しい時代の幕開けだった。


「……ありがとう」

「ククッ、礼には及ばん」


 静かにお礼を言うリフに、ケンさんは口角を上げて返す。

 そして、リフは魔力を放出させて詠唱に入り、ケンさんは走り出した。


「<我放つは鬼神の一撃>」

「ハッハッハ! オレもテンション上がってきたぜ!」


 そんな熱い二人の姿を見たウォレスがスティック型の魔装をクルリと回し、体勢を低くしながら二人と一緒に走り出す。

 駆け寄ってくるケンさんとリフ、そしてウォレスを見たクリムフォーレルは口を大きく開けて火球を放つ。


「<フレイム・スフィア!>」


 対抗するようにリフも火球を放ち、ぶつかり合う。リフの放った火球は、クリムフォーレルよりも小さく、数秒拮抗してからかき消されてしまった。


「__はぁ!」


 向かってくる火球をケンさんは走りながら避け、そのままクリムフォーレルに肉薄していく。

 そして、剣を横に薙ぎ払いながらクリムフォーレルの足を斬り、そのまますれ違った。


「<我の道は闘神の導き>__<ランド・スパイク!>」


 ケンさんとクリムフォーレルがすれ違う直前に、リフは魔法を使う。するとクリムフォーレルの足下から岩の棘が飛び出し、丁度ケンさんが斬った箇所に突き刺さった。


「グルゥ!?」

「しゃあ! チャンス!」


 痛みでバランスを崩したクリムフォーレルが地面に倒れて悶えている中、ウォレスはジャンプして背中に飛び乗った。


「<エネルジコ><ブレス><フォルテ!>」


 筋力強化、接続して一撃強化の魔法も使ったウォレスが、両手の魔力刃を勢いよくクリムフォーレルの背中に突き刺す。魔力刃は堅い外殻にヒビを入れた。


「秘技! ウォレスラッシュ! おりゃおりゃおりゃおりゃぁぁぁ!」


 そのままよく分からない技名を叫んで背中に魔力刃を突き刺しまくり、外殻が割れたところを強化した筋力で魔力刃を強引に貫く。


「グッ!? グルゥ!」

「おわぁぁぁぁぁ!?」


 悶えながら身を捩ったことによってウォレスが振り落とされたけど、ウォレスの攻撃は充分にダメージを与えていた。


「今だ、真紅郎!」


 宙を舞うウォレスが真紅郎の名前を叫ぶ。

 真紅郎はクリムフォーレルの真っ正面に立ち、魔装を構えて銃口を向けていた。


「オッケー!」


 ウォレスの声に真紅郎は笑みを浮かべ、スリーフィンガーで弦を速弾きする。銃口から放たれた魔力弾は、十五発。

 十五発の魔力弾は上下左右斜めとあらゆる方向に曲がり、クリムフォーレルの体中に着弾した。


「グルオォォォォン!?」


 悲痛の叫びを上げるクリムフォーレルがヨロヨロとふらつく。ついでに着地に失敗したウォレスは、背中から地面に落下して「あだっ!?」と声を上げていた。

 もう少しだ。もう少しで倒せる。


「オォォォォォォッ!」


 その隙を狙ってケンさんが駆け出した。剣を横に構え、とどめを刺そうとしている。

 だけど、クリムフォーレルは尻尾をケンさんに向けて振り回した。


「しっかり掴まれ!」

「え? えぇぇぇぇぇ!?」


 それを見たケンさんは背中にいるリフに声をかけると、一気に跳び上がって尻尾を避ける。

 太い尻尾がケンさんの体スレスレを通り過ぎていく。驚きながらケンさんの体にしがみついていたリフは、今にも泣きそうな顔をしていた。

 そして、尻尾を避けたケンさんはすぐにそこから離脱する。

 やっぱりあの尻尾が邪魔だな……。


「なら、斬ればいいか」


 そう決めた俺は剣を居合いのように腰元に置き、集中する。剣と魔力を一体化させるイメージで、魔力を操作した。

 浅く、長く息を吐き、クリムフォーレルの尻尾を見つめる。


「やよい! 隙を作ってくれ!」

「うん、分かった!」


 やよいは元気よく返事をして走り出す。

 斧を握りしめ、真っ直ぐクリムフォーレルに向かっていった。


「<アレグロ><ブレス><エネルジコ!>」


 敏捷強化と接続して筋力強化を使い、速度を増したやよいはクリムフォーレルの足下に潜り込んだ。


「__てあぁぁぁぁぁッ!」


 その速度のまま、野球のバッティングのようにクリムフォーレルの足に向かって斧を振り回す。

 斧は足のスネの辺りに直撃し、鈍い音が響いた。

 クリムフォーレルは声にならない悲鳴を上げ、動きが止まる。


「__今しかない!」


 体勢を低くし、弾丸のように走り出す。

 魔力と一体化した剣は、紫色に輝いている。この色は、音属性魔法の色。

 動きが止まり、低い位置にある尻尾に向かって剣を薙ぎ払った。


「<レイ・スラッシュ>__」


 紫色の斬撃が尻尾の根本に食い込んだ。だけど、このままだと尻尾を切断するに至らない。

 そう、いつものレイ・スラッシュなら。


「__<二重奏(デュオ)!>」


 音属性を纏った斬撃は、一回では終わらない。俺が今出来るのは二重奏(デュオ)までだ。

 尻尾の半ばまで食い込んでいた剣身に、音の衝撃が伝わる。

 その二撃目の衝撃により、俺の剣は尻尾を切断した。

 尻尾を断たれたクリムフォーレルがたたらを踏んでバランスが崩れ、前に倒れ込む。

 そして、そこには__。


「……魔力と一体化させる」


 サクヤがいた。

 サクヤは右拳を腰元に置いて左手を軽く広げて前に突き出して構え、小さく呟く。

 その右拳には魔力ーー紫色の魔力が集まっていた。


「……フッ!」


 短く息を吐いて前に飛び出す。

 瞼が半分だけ開いたその目は、倒れているクリムフォーレルの頭に向けられている。

 そして、サクヤは左足で踏み込み、腰を半回転させて右拳を突き出した。


「__はぁぁぁぁぁぁッ!」


 気合一声。

 紫色の魔力を纏った右拳が、クリムフォーレルの眉間に突き込まれた。

 メキメキと外殻が割れる音が響き、その勢いのまま右拳が外殻を貫く。


 その瞬間、衝撃がクリムフォーレルの頭に打ち込まれた。


 外殻を打ち抜き、肉を貫き、骨をへし折る。その奥にある脳にまで衝撃が伝わり、紫色の魔力が爆発する。

 地面がビリビリと揺れ、クリムフォーレルの巨体が浮かび上がった。


「ご、が…………」


 白目を剥いたクリムフォーレルは、そのまま力なく地面に頭を落とす。

 サクヤは右拳を腰元に戻して残心すると、ゆっくりと息を吐いた。


「__<レイ・ブロー>」


 サクヤは音属性の魔力を纏った一撃をよく使っていたけど、今の攻撃はレイ・スラッシュを参考にしたのか今までで一番洗練された一撃だった。

 サクヤはその一撃に名前を付ける。レイ・スラッシュが剣を使っての一撃なら__拳で放ったその一撃の名は<レイ・ブロー>。

 とどめを刺したサクヤが構えを解くと、一瞬の静寂のあとに爆発するように歓声が上がる。


 これでようやく俺たちは、長かった激闘の終曲(フィナーレ)を迎えるのだった。

 



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