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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第一章『ロックバンド、異世界に渡る』

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六曲目『ディアナ高原』

「ケツ痛ぇ……」


 思わず、そうボヤく。

 ガタガタと舗装されていない道を俺たちが乗っている馬車……じゃなくて、<竜車>が進んでいく。

 牽引する動物が馬じゃなくて、深い緑色の鱗を持った二足歩行のトカゲ__<リドラ>と呼ばれるモンスターだから、竜車と言うらしい。異世界ならではって言えばいいのか?

 一番の問題はデコボコの道を進んでいるから、たまに俺たちが乗っている車が跳ね上がることだ。そのせいでケツが痛くて、座っているのがキツい。


「サスペンションとかないから仕方ないけど、これは結構クるね」


 真紅郎も痛みを堪えながら、苦笑いを浮かべる。


「うぇぇ……オレ、酔ったわ」


 ウォレスは車酔いしたのか、ぐったりとうなだれている。


「疲れたし、お尻痛いし、狭いし、揺れるし、男臭いし! もう最悪!」


 やよいも限界なのか、イライラしている様子だ。

 それぞれが不平不満を漏らしながら、<ディアナ高原>と呼ばれる青々とした草花が生い茂る高原を進み、鉱山に向かう。

 モンスターの姿もない平和そうな光景を眺めつつ、リドラの手綱を引くアシッドさんに声をかける。


「あの、アシッドさん。あとどれぐらいで着きますか?」

「あとちょっとだよぉ。それと、俺のことは呼び捨てでいいし、敬語もなしってことで」


 怠そうに言ってくるアシッドさん……呼び捨てでいいってことだし、アシッドと呼ぶか。


「じゃあ、アシッド。さっきもあとちょっとって言って、結構経ってると思うんだけど?」

「そうだっけ? まぁ、大丈夫でしょ。あと少しだからさぁ」


 何が大丈夫なんだろう?

 時計がないから正確な時間は分かんないけど、体感でもう三時間ぐらい揺られている気がする。


「そうだ、アシッド。魔鉱石を使って作った武器……えっと、<魔装>だっけ? それってどんな武器なんだ?」


 魔鉱石で作った武器__魔装。

 城下町から出る前にロイドさんに聞いていたけど、詳しくは知らないままだった。

 気になってアシッドに聞いてみると、「ほい」と言って俺に何かを投げ渡してくる。


「何これ? 指輪?」


 アシッドが渡してくれたのは、なんの変哲もない普通の指輪だった。

 これがなんなのかと首を傾げると、アシッドは欠伸混じりに答える。


「それ、俺の魔装ねぇ」

「へぇ……え? こ、これが魔装!? というか、どうしてアシッドなんかが魔装を持ってるんだ!?」

「え、何? 俺ってそんなに下に見られてたの? なんかがって、ヒドくない? まぁ、いいけどさぁ」


 返せと言いたげに手を差し出してくるアシッドに指輪を返すと、指輪が光り輝き始める。

 そして、アシッドが手に持っていた指輪が__両刃の西洋剣に姿を変えた。


「はい、これが魔装だよぉ」

「うぇ!? 凄ッ!?」 

「何だよそれ、超カッケー(クール)!」


 初めて見た魔装に俺とウォレスは目を輝かせて驚く。


「へぇ、凄い……手品かな?」

「いや、手品じゃないと思うよ、やよい」


 不思議そうにしているやよいの言葉に、真紅郎は苦笑しながらツッコミを入れていた。

 アシッドは満足そうに頷くと、魔装を指輪の形に戻す。


「どう? 少しは俺のこと見直したぁ?」

「あ、ごめん。凄いのは魔装な、魔装。別にアシッドのことを褒めた訳じゃないから」

「ねぇタケル? 敬語じゃなくていいとは言ったけど、俺のことをバカにしていいって言った訳じゃな……まぁいいや」


 文句を言うのも面倒になったのか、途中で言葉を切ったアシッドは怠そうに欠伸を漏らす。

 それからもう一度魔装を出してとお願いしても、「面倒だからヤダ」の一点張りで見せてくれなかった。もしかして意外と根に持ってるのか?

 そんなこんなであと少しって言われてから、体感で三十分ぐらいして……アシッドが遠くを見ながら声をかけてくる。


「着いたよぉ」

「やっと着いたのか……ようやくケツの痛みから解放されるな」


 俺はやれやれとため息を吐いて体を伸ばす。


「早く……止めて……リバースする」

「ちょっとウォレスここで吐かないでよ? 帰りもこれに乗ってくんだから」

「やよい、少しはウォレスの心配してあげようよ」


 今にも吐きそうになっているウォレスを見て、やよいは顔をしかめながら離れると、真紅郎は苦笑いを浮かべながらウォレスの背中をさすった。

 色々と限界だった俺たちは、竜車を止まった瞬間に外に飛び出す。

 そして着いた場所を見て__愕然とした。


「ここからは歩きだからねぇ、頑張って行くよぉ」


 目の前に広がる光景は、ゴツゴツとした岩が転がっている山。その山には上へと続いていく山道があるけど、かなり急勾配で登るのはかなりキツそうだ。


「え? 登るの? 嘘だろ?」

マジかよ(アーユーシリアス)……?」

「あたし無理、絶対無理、死んでも無理、というか死ぬって」

「あはははは…………キツっ」


 俺、ウォレス、やよい、真紅郎。それぞれが絶望していると、アシッドは「ほら早くしてよ。俺だって登りたくないんだからさぁ」と面倒臭そうににしながら、俺たちを急かしてくる。


「はぁ……行くしかないか」

「嘘でしょ? マジで行くの? あたしヤダ。絶対ヤダ!」


 諦めた俺が行こうとすると、やよいは駄々をこね始めた。

 すると、アシッドは面倒そうに深いため息を吐く。


「じゃあ、やよいちゃんはここでお留守番してていいよぉ」

「え? いいの!?」

「いいけど、一人になるから頑張って自衛してねぇ。あ、ごめん。一人じゃなくて一人と一匹だった」


 そう言って、アシッドはリドラの首を撫でる。

 モンスターが出てくる危険な異世界で、飼われてるけど歴としたモンスターと一緒にお留守番。

 最悪な状況を想像したのか、やよいは青ざめた顔で震え始めた。


「行く……あたしも行く! だから一人にしないで!?」

「はい、決定」


 アシッドはやよいの答えを聞くなり鉱山へと足を踏み入れる。こいつ悪魔か、と思いつつ怯えているやよいの肩をポンと叩いた。


「ドンマイ」

「うぅ……異世界なんて大嫌い。早く日本に帰りたい……」


 泣き言を言うやよいを連れて、俺たちも鉱山を登り始める。

 結構なスタミナを消費するライブをこなしてきた俺たちは、一般的な人に比べれば体力がある方だけど……この山を登るには体力が足りていなかった。

 足はパンパンだし、肺が痛い。汗は止めどなく流れてきて、視界がぼやけてくる。

 年のせいか、とも思ったけど高校時代の俺でもこれは無理だっただろうな。


「ぜぇ……ぜぇ……ね、ねぇ、す、少し、休もう」


 体力が限界のやよいが息も絶え絶えになりながら休憩を求めるも、アシッドは「あと少しだから頑張ってねぇ」と余裕そうな足取りで却下してくる。

 正直、俺も休憩したいんだけど。

 ウォレスと真紅郎はもはや喋ることすら億劫なのか、無言で足を進めていた。


「まぁ、この辺ならありそうかなぁ?」


 山の中腹部、少し拓けた場所にたどり着いたアシッドは辺りを見渡してから立ち止まる。

 目的地に着いた俺たちが地面にへたり込みながら息を整えていると、アシッドが指輪__魔装を取り出した。


「はい、これ使ってねぇ」


 アシッドがそう言うと魔装が輝き、そこから人数分のツルハシが金属音を立てながら地面に転がる。

 何もないところから突然現れたツルハシに、目を丸くした。


「え? 何それ、どっから出したんだ?」

「魔装からだよぉ。魔装には武器の形状と、アクセサリーみたいに小型化する形状があるのは教えたけど、実は便利な使い方(・・・・・・)もあるんだよねぇ」


 魔装の便利な使い方。その名も__<収納機能>。

 言葉通り、魔装には別空間に物を収納出来る機能があるようだ。その容量は持ち主の魔力によって違うらしく、魔力量が多ければ多いほど収納出来る容量も増えるらしい。

 アシッドの説明を聞いた俺たちは、もはや感嘆の声しか上げられなかった。


「凄いんだな、魔装って……」

「キミたちもその魔装を手に入れるんだよぉ。まぁ、見つかればだけどねぇ」


 アシッドはニヤニヤと笑いながら人差し指を地面に向ける。

 この岩だらけの場所のどこかにある……かもしれない、希少な鉱石を今からツルハシを持って探さないといけないのか。


不可能(インポッシブル)だろ……」


 ウォレスががっくりとうなだれながら言うと、アシッドは肩を竦める。


「それでも探さないとねぇ。一応、仕方なく俺も手伝うけど……面倒だなぁ。やっぱり俺、休んでていい?」


 やる気のないアシッドにため息を吐きつつ、俺たちはツルハシを持って魔鉱石を探し始めた。



 

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