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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第二章『ロックバンド、セルト大森林でライブをする』

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十七曲目『睨み合い』

「タケルさん! もうケンタウロス族の集落には行かないで下さい!」


 昨日、ケンタウロス族の集落に行っていたことを知ったリフは俺に詰め寄ってきて叫ぶ。


「いや、そんなこと言われてもな……」

「いいから、もう行っちゃダメです! 脳味噌まで筋肉になってしまいますよ!?」

「何!? 脳味噌にも筋肉があるのか!?」


 筋肉に反応したウォレスが話しに入ってきた。入ってくるな、余計に拗れるだろ。

 それにしても、エルフ族とケンタウロス族が仲が悪いのは知っているけど、ここまでとは……。

 どうしたものかと悩んでいると、一人のエルフ族の男性が声をかけてきた。


「そうですよ、タケルさん。ケンタウロス族とは関わらない方がいいです。今回は私たちも同行しますからね?」


 そこまでして行って欲しくないのか、今回の狩りにはエルフ族もついてくるようだ。

 するとリフは「ムムム……」と唸ると近くを通りがかったユグドさんに勢いよく近づいた。


「__族長!」

「ほっ!? な、なんじゃいきなり……」

「今日は僕もタケルさんたちと一緒に狩りに行ってはダメですか!?」

「む? どうしてじゃ?」

「タケルさんたちをあの野蛮な脳味噌筋肉種族のところに行かせないためです!」


 そ、そんなに信用ないのかよ。

 リフの熱意に圧されたユグドさんは、困ったように髭を撫でる。


「むぅ……しかしなぁ。お主はまだ成人していないしのう」

「大丈夫です! 最近は魔法も上手くなりましたし、大人のエルフ族も行きます! 邪魔はしません!」


 ギュッと拳を握りながら力説するリフに、ユグドさんは深いため息を吐いた。


「タケル殿。申し訳ないが、リフも連れてってくれぬかのう?」

「俺はいいですけど……」

「下手に止めるとまた無断で森に入りそうじゃしのう」


 まぁ、たしかにこの様子だと勝手に一人で森に入りそうだ。それなら、まだ目が届くところにいた方が安全か。


「分かりました、リフも連れて行きます」

「すまんのう」

「ありがとうございます! 必ず、あの野蛮な脳味噌筋肉種族のところには行かせませんので! 安心して下さい!」


 何をどう安心しろと言うのか。

 まぁ、今日はケンタウロス族の集落に向かう予定はないし、大丈夫か。


 __そう思ってた時もありました。


「……タケル殿、そのような軟弱種族と一緒にいると弱くなる。こちらに来い」

「……タケルさん、あんな野蛮な脳味噌筋肉種族と一緒にいるとバカになりますよ。あちらには行かない方がいいです」


 両種族の領域の境界線となる川を挟んで、ケンさんたちケンタウロス族とリフたちエルフ族が睨み合っていた。

 どうしてこんなことになったのかと言うと……一時間ぐらい前に遡る。


「ヘイ、タケル! 今日はどこで狩りするんだ?」


 俺たちRealizeとキュウちゃん、そしてエルフ族が三人とリフは森を歩いて狩り場を探していた。

 そこでウォレスに尋ねられ、顎に手を当てて考える。


「ねぇ、タケル。今日もキュウちゃんにお願いしてみる?」


 頭にキュウちゃんの乗せたやよいが提案してきた。特にどこで狩るかは決めてないし、キュウちゃんが案内する方に向かってみるのもありか。


「そうだな。キュウちゃん、頼めるか?」

「きゅきゅー!」


 任せろ、と言わんばかりに片手を上げたキュウちゃんは、耳をピクピクと動かし、鼻をスンスンと鳴らす。

 そして、ある方向に向かって「きゅー!」鳴き出した。


「あっちか」

「っしゃあ! 行こうぜ(レッツゴー)!」


 我先にとウォレスが先頭を歩く。その後ろを苦笑している真紅郎、ぼんやりとしているサクヤ、やよい、俺の順で並んで森を進んだ。

 エルフ族たちは一列になっている俺たちの両サイドに陣取り、リフは周りを警戒して歩く。

 キュウちゃんの案内でたどり着いた場所は……。


「って、またここかよ」


 領域の境界線を流れる川があるところだった。ここ、気に入ってるのか?

 何か嫌な予感がするな、と思った瞬間……その予感はすぐに的中してしまった。


「__む? そこにいるのはタケル殿たち……と、軟弱種族」


 川の向こう側にはケンさんと、数人のケンタウロス族がいた。

 ケンさんは俺たちに気付き、同時にエルフ族がいることにも気付いて顔をしかめる。

 そこでリフはケンタウロス族から守るように俺たちの前に立った。


 そして、今に至る。


「タケル殿、こっちに来い。また我らにおんがくを聴かせてくれ」

「ダメですよ? タケルさんたちは僕たちの集落でおんがくをするんですから」

「__そこの軟弱種族の小童。貴様は口を閉じておけ」

「__図体だけの野蛮種族が話しかけないでくれませんか?」


 ケンさんとリフが睨み合い、口喧嘩を始めた。

 バチバチと音がしそうなほど両者は視線を合わせている。


「ふん、魔法しか使えない軟弱者がいい度胸をしているな」

「魔法も使えない脳味噌筋肉種族が偉そうですね?」


 皮肉の応酬。今にも戦争が始まりそうな雰囲気に慌てて間に入る。


「ま、待てって! 喧嘩するなよ!」

「そうだよ! 争うのは禁止!」


 俺とやよいが喧嘩を止めようとすると、ケンさんは鼻で笑った。


「ふん、大丈夫だ。これは争いではない。貧弱で軟弱なエルフ族を軽くあしらっているだけのこと。そもそも、戦えば争いではなく__ただの蹂躙になるだろうからな」

「ははっ、脳味噌まで筋肉だと短絡的な思考になるし、現実が見えなくなるんですね? 可哀想に」

「__貴様、我らを哀れむか」

「__どっちかと言えば、呆れ果ててますよ」


 ビシッと空気が凍り付く。

 ケンタウロス族は静かに武器を構え、エルフ族はすぐにでも詠唱が始められるように魔力を放出し始めた。

 一触即発。これは、かなりマズい!


「ヘイ! こんなところで戦っても仕方ねぇだろ!」

「そうだよ。両方とも落ち着いて」

「……お腹、空いた」


 さすがにマズいと感じたのか、ウォレスと真紅郎も割り込んできた。サクヤは……いつも通りだな。


「いいからどっちも落ち着けって!」

「我らは冷静だ」

「落ち着いてますよ」

「どこかだよ!? だったら武器を下ろせ、魔力を抑えろ!」


 俺がそう言うとケンタウロス族とエルフ族は渋々武器を下ろし、魔力を抑える。

 だけど、何かあればすぐにでも戦おうとする雰囲気は消えなかった。


「……タケル殿たちに免じて、今回は許してやろう」

「……タケルさんたちの優しさで命拾いしましたね」


 まだ口喧嘩を続けるのかよ。さすがにイラついてきた。

 ケンさんは趣向を変えて俺に声をかけてくる。


「タケル殿。今夜も我らの集落でらいぶをしてくれないか? 我らはまたあの感動を味わいたいのだ」

「残念ですが、今夜は僕たちの集落でらいぶをするんです。だから、そっちには行きませんよ?」


 俺の変わりにリフが答えると、ケンさんはピキッと額に青筋を浮かばせた。


「……決めるのはタケル殿だ」

「そうですね。まぁ、答えは分かり切ってますけど」

「どうするんだ、タケル殿? どちらで、らいぶをするんだ?」

「どうするんですか、タケルさん? どっちで、らいぶするんですか?」


 両者が俺に決めさせようと聞いてくる。

 そこで、とうとう俺の堪忍袋は切れた。


「__あぁ、もう! うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 空に向かって大声で叫ぶ。いい加減、我慢の限界だった。


「音楽の前に敵も味方もない! そんなことでいちいち争うな!」


 はっきりと言い放ってやると、ケンタウロス族もエルフ族も呆気に取られていた。

 やよいは「とうとうキレちゃった」とやれやれと首を横に振り、ウォレスはゲラゲラと大笑いし、真紅郎は困ったように頬を掻く。


「ライブはどっちの集落でもやらない! 今日はもう帰る!」


 これ以上狩りをする気にもなれないし、帰ろう。

 怒りが収まらないままエルフ族の集落に向かって歩き出した。

 ケンタウロス族は何も言わずに森の中に消え、エルフ族は恐る恐る俺の後に続く。

 まったく、どうにかして仲良く出来ないかな?

 そんなことを考えながら、俺たちは集落に戻っていった。


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