十六曲目『リグレット』
キャンプファイヤーを背に、俺たちは定位置に立つ。
何が始まるのか、と期待しているケンタウロス族やセントール族の視線を受けながら、剣を地面に突き刺した。
マイクを口元に持って行き、ポンポンと叩く。音はしっかりと入ってる。大丈夫そうだな。
「あー、あー……」
声を出して喉の調子を確かめる。こっちも大丈夫そうだ。
チラッと他のみんなに目を向けると、頷いて答えてくれた。
よし__じゃあ始めようか。
「__ハロー、ケンタウロス族とセントール族の皆様! 今から俺たちRealizeがライブを、音楽って奴を教えていくぜ!」
ビリビリとマイクを通した俺の声が響く。突然のことに目を丸くさせているケンタウロス族たちに向かって、ニッと笑みを浮かべた。
「最後まで聴いていってくれ! 行くぜ__<リグレット>!」
俺が曲名を告げると一瞬、静寂に包まれる。
そして、ウォレスはスゥッと息を吸うと、目の前に展開していた魔法陣……バスドラムを響かせた。
ドンッ、ドンッ、と断続的に力強いバスドラムの音が響く。戦いが始まる前の、陣太鼓のように。
そのドラムに合わせるように、やよいの歪んだギターの音が静かに入っていく。続けて真紅郎の地を這うようなベースも混ざり、イントロが始まった。
最初は驚いていたケンタウロス族が、徐々に音に入り込んでいるのが見て分かった。
そりゃ、そうだ。この曲は戦士が戦場に立ち向かっていくような、そういうイメージで作った曲なんだからな。
さぁ、イントロが終わる。ゆっくりと息を吸い、マイクに向かって歌い始めた。
「君の懺悔が聴こえた気がした 遠く離れたこの地で 君の懺悔はチャペルに響く 戦場の僕の背を押した」
静かに、低く、落ち着いた歌声でAメロを歌い上げる。
今から戦場に向かう戦士のように、緊迫感を感じさせるように。
「大切なものを守りたい 祈りを武器に 僕は抗う 未来が明るいと信じて 世界を相手に 僕は戦う」
Bメロに入り、ウォレスの腹に響いてくるドラムの音と、真紅郎のベースが合わさった重低音が曲に熱を帯びさせていった。
そして、やよいが弦を弾き鳴らし、一気にサビに入っていく。俺のテンションも上がっていき、マイクに叩きつけるようにサビを歌う。
「後悔は望んでいない 僕も 君も この世界も 辛辣な言葉も受け入れる 僕は 一人で 君の分まで」
何もかも受け入れ、背負う戦士のように。戦場を駆ける孤独な戦士のように、歌う。ブレスを挟み、続きを歌い上げる。
「そんな思いで 誰かを守れる そんな気がした どうか 君だけでも 上を向いてて欲しい」
サビが終わり、観客の方に目を向ける。
高ぶったケンタウロス族たちはドラムの音に合わせて手を振り上げ、セントール族たちは胸の前で手を組み、真っ直ぐに俺たちを見つめている。
子供も、大人も、この集落にいる全ての人が曲に、音楽にのめり込んでいた。最前列にいるサクヤも、その頭の上に乗っているキュウちゃんもそうだ。
俺たちの音楽はエルフ族だけじゃなく、ケンタウロス族やセントール族にも届いたんだ。嬉しくて思わず笑みがこぼれた。
そこから二番も歌い上げ、最後のサビも終わるとウォレスのドラムだけが残る。
陣太鼓のようなドラムが静かにフェードアウトしていき、演奏が終わった。
「__ありがとうございました」
肩で息をしながら、ケンタウロス族たちに向かって頭を下げる。すると、拍手が巻き起こった。
ケンタウロス族の雄叫びのような歓声と、セントール族の黄色い歓声。子供たちも蹄を鳴らしながらその場でジャンプし、興奮を伝えてくる。
結果は上々。ケンタウロス族にも音楽は受け入れて貰えて喜んでいると、ケンさんが俺たちに近寄ってきた。
「タケル殿、感謝する。素晴らしかった。おんがく……初めての文化だが、感動した」
「ははっ、そう言ってくれると嬉しい
よ」
「__我は、決めたぞ」
何を、と聞く前にケンさんはケンタウロス族たちに顔を向け、右手を振り上げた。
「__ケンタウロス族たちよ! 誇り高き戦士たちよ! 我は……ケンさんは心に決めた! 何があろうとも、我はこの者たちの力になると!」
ケンさんの宣言に、ケンタウロス族は立ち上がった。ギラギラとした戦士の目をケンさんに向け、拳を握りしめる。
「我はこの者たちの聴かせてくれた、おんがくに心が震えた! 同士たちはどうだ!」
ケンさんの呼びかけに「おうっ!」と声を合わせ、蹄で地面を踏む。
一糸乱れないその動作に、ゾクッと体が震えた。
「我は……我らケンタウロス族はどんな時でもタケル殿の助けになろう。またいつでも集落に来てくれ。我らはいつでも歓迎する」
胸に拳を当て、頭を下げながらケンさんは俺たちに向かって言う。誇り高き戦士にそんなことを言われたら、心強いな。
「あぁ、ありがとうな」
「ククッ、また礼を言われたな。礼を言うのは我らの方だと言うのに……」
ニッと笑みを浮かべるケンさんと笑い合う。音楽を通じて、本当の意味で仲良くなれた気がした。
さて、と。もう一曲と言いたいところだけど……。
「そろそろ帰らないとなぁ」
空はすっかり暗くなり、夜を迎えていた。今から森を通ってエルフ族の集落に帰るのは、難しいかな?
するとケンさんは顎に手を当てて考え込む。
「むぅ。是非ここに泊まってくれ、と言いたいところだが……我らは木の下で寝ている。人間には厳しいだろうな」
考えが纏まったのか、ケンさんは頷いた。
「よし。我らケンタウロス族が送っていこう。軟弱種族のところにタケル殿を帰すのは、正直あまりいい気はしないが……あそこの方が過ごしやすいだろう」
「え? いいの?」
ケンさんの提案にやよいが嬉しそうに返事をする。
「あぁ。だが、送っていくのは我らの領域……あの川までだ。そこから先は我らは行けないからな」
「いや、そこまででも嬉しいよ。ありがと!」
「礼には及ばん。これぐらいのことはさせてくれ」
そしてケンさんはタウさん、ロスさんの他に二人のケンタウロス族を呼ぶ。
「さぁ、乗るがいい」
そう言うとケンさんたちは四肢を曲げ、俺たちが乗りやすいように姿勢を低くさせた。
「え? 乗っていいのか?」
俺がそう聞くと、ケンさんはニヤリと口角を上げて笑う。
「もちろんだ。我らケンタウロス族は、心を許した者にしか背に乗せない。タケル殿たちは乗る資格がある」
「しゃあ! オレ、ケンタウロスの背中に乗ってみたかったんだ!」
我先に、とウォレスがタウさんの背中に乗る。タウさんが立ち上がると、ウォレスはテンションが上がったのか雄叫びを上げた。
「フゥゥゥゥ! 最高だぜ!」
「もう、ウォレスは……あの、お願いします」
はしゃぎまくってるウォレスに苦笑する真紅郎は、お辞儀をしてからケンタウロス族の背中に乗る。
「……お願い、します」
真紅郎に習うようにボソッと呟いてから、サクヤもケンタウロス族の背中に乗る。どことなく、嬉しそうに見えた。
「じゃあ、お願い! ロスさん!」
「あぁ。しっかり掴まっておけ」
「きゅー!」
ロスさんの背中に乗ったやよいとキュウちゃん。てことは、俺はケンさんだな。
「ケンさん、乗るぞ?」
「ククッ。振り落とされないようにな」
ケンさんの背中に乗ると、グワッと視界が高くなった。これは、たしかにテンションが上がるな。
蹄を鳴らしながら川がある方に体を向けたケンさんは、俺たちに言い放った。
「行くぞ! 振り落とされないようにしっかりと掴まっておけ!」
そして、ケンさんは前足を振り上げた。いきなりで驚いたけどすぐにケンさんの体を手で掴み、落とされないように耐える。
そのままケンさんは森の中を走り出した。ビュンビュンと風景が通り過ぎていき、蹄の音が森中に響く。
後ろにいるウォレスの「フゥゥゥゥゥゥ!」という雄叫びを聞きながら森を走り抜け、あっという間に境界線の川にたどり着いた。
「着いたぞ」
ケンさんたちは姿勢を低くさせ、俺たちは背中から降りた。
さて、ここからは俺たちだけでエルフ族の集落に戻らないとな……と考えていると、川の向こう側に何かが動いたのが見えた。
そこにいたのは、エルフ族たちだった。
川を挟み、ケンさんたちとエルフ族たちが視線を交わす。数秒ほど静かな睨み合いは続き、ケンさんはふと俺たちに声をかけた。
「迎えが来ているようだ。我らはここで戻ろう」
「え? あ、うん。ありがとな、ケンさん」
「ではな。いつでも我らの集落に来るといい」
それだけ言い残すと、ケンさんは森の中に消えていった。
俺たちは川を渡り、エルフ族たちと合流する。
「……タケルさん、大丈夫でしたか?」
「問題ないよ。さて、戻ろうか」
心配そうなエルフ族に何事もないように声をかけ、エルフ族の集落に戻った。




