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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第二章『ロックバンド、セルト大森林でライブをする』

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七曲目『エルフとダークエルフ』

 ウォレスらしき悲鳴を聞いた俺とやよいは、すぐにユグドさんの家から飛び出して声がした方に向かう。

 そこはこの集落に暮らすエルフ族が集まる、集会場のようなところだった。

 バタバタと慌ただしく入ってきた俺たちに驚いているエルフに謝りつつ、ウォレスがいるであろう部屋に入る。

 そして、そこで俺たちを待ち受けていた光景は……。


「ヘイ! ヘェェイ!? オレを食っても美味しくねぇって! 筋肉ばっかりで堅いから歯が折れちまうぞ!? ポッキリいくぜ? いや、ほんとマジで!」


 両手足を縛られ、まるで豚の丸焼きのように火に焼かれそうになっているのを必死に暴れて邪魔しているウォレスの姿があった。

 その近くに同じように両手足を縛られ、床の上に放置されている真紅郎とサクヤもいる。

 そんな光景を見て呆気に取られていると、騒いでいたウォレスが俺たちに気付いたようだ。


「お、おぉぉ! そこにいるのはタケルとやよいじゃねぇか! 生きてたんだな! そいつはよかったぜ! んでもって助けて(ヘルプ)!」

「……何をやってんだ、お前は」


 どうしてこんなことになっているのか分からず、思わずため息が漏れる。とりあえず、話は助けてから聞くことにしよう。


「あの、そいつら俺たちの仲間なんで、解放してやってくれませんか?」


 ウォレスを丸焼きにしようとしているエルフの男性を説得し、どうにか解放されたウォレスたち……いや、正確にはウォレスと真紅郎だ。何故かエルフたちはサクヤだけ縛ったままにしている。


「えっと、そいつも俺たちの仲間なんですけど」

「このダークエルフはダメだ。こいつは我らを攻撃してきた」

「……真紅郎、説明してくれ」


 頑なにサクヤを解放しないエルフが言ったことを真紅郎に声をかけると、真紅郎は苦笑しながらことの始まりを説明し始めた。


「ボクたちがタケルたちと離ればなれになったあと、森の中をさまよっている時に物音が聞こえたんだ。もしかしたらモンスターかもしれないって警戒してたんだけど……サクヤが先走って攻撃しちゃって、それがエルフ族だったんだ。で、勘違いだったからって許して貰えそうだったんだけど、どうやらエルフ族とダークエルフ族って仲が悪いみたいで……」

「はぁ……なるほどな」


 勘違いなら誰でもあることだから許して貰えそうだったけど、攻撃したのが犬猿の仲であるダークエルフだったのが問題だった訳か。

 それで捕縛されて丸焼きにされそうになった、ってことね。

 先に攻撃したのはサクヤだし、全面的にこっちが悪いとは思うけど……サクヤは俺たちの仲間だ。理由はどうあれ、殺させる訳にはいかないな。


「何事じゃ?」


 どうやって説得しようかと悩んでいる時、部屋にユグドさんが入ってきた。ユグドさんは俺たちの顔を順番に見やると、サクヤを見て表情を堅くさせる。


「どうしてここに__ダークエルフがいるのだ?」


 その瞬間、空気が凍るのを感じた。

 ユグドさんから感じられる雰囲気がガラリと変わり、優しそうなお爺さんから一転して威圧感のある強者の風格を醸し出す。

 これはマズい。急いで事情を説明するために口を開いた。


「こ、こいつらは俺たちの仲間で、ダークエルフの子……サクヤも同じです!」

「……仲間? このダークエルフもか?」

「はい! そ、それでユグドさん! サクヤも解放してくれませんか? エルフ族を攻撃したことは、俺からも謝りますから!」


 必死に嘆願すると、ユグドさんはジッと俺の目を真っ直ぐに見つめる。心の奥底まで見透かすような視線に目を反らしたくなったけど、グッと堪えて見つめ返す。

 そして、ユグドさんは目を閉じて息を吐くと、威圧的な雰囲気を霧散させた。


「我らの恩人、タケル殿がそこまで言うのなら……ワシも折れよう。ほれ、そういうことじゃからそのダークエルフの縄も解くのじゃ」


 ユグドさんに言われ、サクヤの縄が解かれる。

 よかった、と安心感から深く胸をなで下ろす。ただ者じゃないとは思ってたけど、ユグドさんって何者なんだ?


「ホッホッホ。ワシはただの年老いたエルフじゃよ」


 ……はいはい、そうですね。また心を読んできたよ。なんか、もう慣れちゃったな。

 とにかく、どうにかサクヤも助けることが出来て一安心だ。ボーッと天井を見つめているサクヤの頭をポンッと叩いて声をかける。


「よかったな、サクヤ。ほら、ユグドさんたちに謝ろうぜ?」

「……お腹、空いた」

「まだ言ってんのかよ!?」


 本当にこいつはマイペースな奴だな……自分が死にそうだったってこと分かってるのか?

 仕方なくサクヤの頭を無理矢理下げさせ、俺も一緒に謝る。


「本当に俺の仲間がすいませんでした」

「……でした」

「ホッホッホ、いいんじゃよ。勘違いだったんじゃろ? それに我らに怪我はなかったからのう。じゃが、もしも怪我を負わせていたら……」


 ユグドさんはそれ以上何も言わずに、目で「分かってるだろうな?」と訴えてきた。

 ゾクリと背筋が凍りながらもう一度深く頭を下げる。この人……もとい、このエルフは怒らせたらマジでヤバいと改めて思った。


「それよりもそろそろ夜になる。夕餉にしようではないか。ほれ、お前たち。準備に取りかかるのじゃ」


 話はこれで終わりだ、とユグドさんがエルフたちに指示を出す。エルフたちはサクヤをジロッと睨みながら慌ただしく食事の準備を始めた。

 ここにいると邪魔になりそうだし、そろそろ俺たちも部屋から出ることにした。




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