二十四曲目『ラストライブ』
__割れんばかりの拍手と歓声が、音の壁になって体中にぶつかってくる。
「アンコール! アンコール! アンコール!」
薄暗い舞台袖で忙しそうに走り回るスタッフたちを横目に、俺はみんなの顔を見渡した。
「戻って、きたな」
過去最多の観客動員数を記録したライブ。一通りの曲目を終えて舞台袖に戻ってきた時間に、俺たちは戻ってきた。
聞こえてくるアンコールは、あの時と同じ。周りにいるスタッフも、同じだ。
「……そう、だね。本当に、戻ってきたんだ」
真紅郎が感慨深そうに呟く。
「ハッハッハ! ようやく、戻れたんだな……」
元気よく笑っていたウォレスも、しみじみと呟いた。
「もう、会えないんだね」
やよいは異世界のみんなを、サクヤを思いながらポツリと呟く。
俺たちがあの世界に戻ることは、きっと永遠にないだろう。
分かっていたとはいえ、寂しさが胸に去来する。
「Realizeの皆さん! そろそろお願いします!」
そこに、スタッフの一人が慌しく声をかけてから、走り去っていった。
会場に待たせている観客たちは、もう我慢の限界なんだろう。
これ以上待たせる訳には、いかないよな?
「__みんな、準備はいい?」
笑みを浮かべながら、やよいが声をかけてくる。
そう、それは……俺たちが異世界に召喚される前、ステージに上がる前に言っていたことだ。
それが分かった俺たちは、示し合わせたように笑う。
「よっしゃあ! やるぞ、お前ら!」
熱くなった心のままに叫ぶ。
そして、俺が手を差し出すと、やよい、真紅郎、ウォレスが順番に手を乗せてくる。
__ふとそこに、サクヤの手も重なった気がした。
俺は思い切り息を吸い、気合いを入れて声を張り上げる。
「__Realize! 俺たち最高!」
「__イェアァァァァァァッ!」
舞台袖から勢いよくステージに飛び出すと、待ってましたと言わんばかりに爆発するように歓声が上がった。
歓声を一身に受けた俺は、笑いが堪えきれずにいた。
上がったテンションそのままに勢いよくマイクを握りしめ、観客に向かって叫ぶ__ことは、しなかった。
俺は盛り上がっている観客たちに向かって、手を伸ばす。
察したのか騒がしかった会場は徐々に静まり返っていき、最後には無音になった。
それを確認してから俺は、静かにマイクに向かって話し始める。
「アンコールありがとう。本当に、ありがとう」
俺の声が反響し、会場にいる全員に届いていく。
その間に、やよいたちは楽器を構えて待っていた。
魔装じゃない、普通の楽器に少しだけ違和感を覚えているようだったけど、すぐに懐かしそうに楽器を撫でている。
「今から俺たちRealizeの新曲をやります。けど、この曲は今までとは違う__ロックバラード。そして、大事な思い出の曲です」
ザワザワと観客たちが困惑している。
今までの俺たちは、ロックらしい激しい楽曲ばかりだった。
でも、今の俺たちは旅を通じて、色んなジャンルの曲に挑戦してきた。
そして、今からやる曲は__ロックバラード。
世界中の人たちに届き、繋がれた……大事な一曲。
静かに深呼吸してから、囁くように観客たちに伝える。
「聴いて下さい__<ホワイト・リアリスト>」
曲名を告げる。
始まりは、やよい。
歪んだ、落ち着いたテンポのギターソロが響き渡る。
透明感と儚さを感じさせるギターソロに、ウォレスのドラムと真紅郎のベースが混じった。
紡がれる演奏。本当ならそこにサクヤのピアノが演奏をさらに彩るけど__。
「__あの日ひとひらの 花が流れた 水面を揺らす 白い流れ星」
絞り出すような声で、歌い出す。
サビから始まる歌詞に、想いを込めて。
「僕はささやいた 『あと少しだよ』 明日は会える いつかの明日」
最後をビブラートを効かせ、震えた声が広がっていく。
スローテンポのウォレスのドラムが、徐々に盛り上げるように強く叩かれる。
合わせるように真紅郎のベースが弾き鳴らされ、逆にやよいのギターは気持ちを抑えるように小さく、儚さを表現させていた。
「白い影が 僕の前に 静かに降り立った あぁ 今なんだ 君の言葉 いつも僕に 現実を押し付ける 今 行くよ」
Aメロに入り、俺は訴えかけるように歌詞を紡ぐ。
想いを歌声に、祈りを込めて、静かに大きく歌い上げる。
階段を上がるように、少しずつテンションを上げながら、演奏と歌詞はBメロに入った。
「流れに揺られながら 悶え続ける 欲しかったのは違う 本当の明日」
ギターとベースの音が止まり、ドラムだけが響く。
一音ずつ強く叩かれたドラムを合図に、サビに入る__。
「あの日ひとひらの 花が流れた 水面を揺らす 白い流れ星 僕はささやいた 『また会えるよ』 僕は歩いた 君への旅路__」
掠れ、絞り出すように、声を震わせる。
魂を揺らし、感情を発露させるように、歌詞を歌い上げた。
二番のイントロが一番の時よりも強く、エモーショナルに響いていく。
「寒い冬も 暑い夏も 現実はここにある もう 見えるの? 教えてくれた 一つの果実 君はどこにいるのか 今は 僕はいる」
二番のAメロが終わり、演奏はさらに力強く、透明感を醸し出したまま続いていった。
観客たちは歓声を上げることなく、ただただ俺たちの演奏に聴き入っている。
「夕映に凪が そっと差し込んだ 静かに澄んだ 心の湖 それは確かに僕の 中身を写した 写真のような 空模様」
感情をさらに出しながら、Bメロが終わった。
今度は間を空けずに、そのままサビに入る。
「白い花が 散り始める ゆらりゆらりと 心が騒いだ 君はここに いたんだね 僕の心の 白い現実主義者__ッ!」
深く、深くビブラートを効かせ、息が続く限り長く、長く歌う。
俺の歌声に続くようにギターが、ベースが、ドラムが演奏を盛り上げていった。
そして、Cメロ。演奏は転調し、儚さから芯のある力強さを感じさせるものになっていく__。
__ピアノの音と、共に。
俺たちは目を見開き、辺りを見渡した。
だけど、そこに俺たちが知っている姿はない。
それでも、その音だけは間違いない。聞き間違えるはずがない。
__サクヤ。
サクヤのピアノが、俺たちの演奏を彩っていた。
観客たちもどこからか聞こえるピアノの音に、困惑している。
俺たちも困惑していたけど……演奏は止めない。
分かっていたからだ。
__サクヤ、一緒にやろう。
これが、最後の演奏だと。
「あの日ひとひらの 花が流れた 水面を揺らす 白い流れ星 僕はささやいた 『あと少しだよ』 明日は会える いつかの明日」
感情のままに、魂の赴くままに、Cメロを歌い上げた。
あとは、ラストのサビを残すのみ。
__最後のサビを、歌うのみ。
涙を流しながら、やよいがギターを奏でる。
ウォレスも涙を流しながら、ドラムを叩く手を止めない。
真紅郎は笑いながら涙を流し、ベースの弦を指で弾いた。
俺も涙を流しながら、真っ直ぐに__異世界でピアノを弾いているサクヤを見つめながら、歌う。
「__白い壁が今 僕の目の前に 静かに聳える 越えられる壁」
俺の声に、サクヤの歌声が重なる。
サクヤも俺と同じように、異世界で歌ってるみたいだ。
別れた時よりも、成長した姿。
堂々と胸を張って歌う、サクヤの姿。
あぁ、終わっちゃう。
ずっと、ずっとこのまま演奏を続けてたい。
この曲が終われば……もうサクヤと演奏することは、二度とない。
これは、奇跡の時間だ。
世界を救った俺たちへの、誰かからのプレゼントだ。
最高の贈り物だ__だからこそ、終わらせないと。
__奇跡を噛みしめながら、最後の歌詞を__。
「僕は今行くよ 君の目の前に 君を誘おう」
__楽しかったよ、タケル。みんな。
__あぁ。俺たちも、楽しかったよ。
「__白い現実へ」
歌い上げる。
演奏も徐々に静かに、終わりを告げていく。
俺は、遠ざかっていくサクヤに向かって拳を突き出す。
「__ありがとう」
歓声が爆発した。
拍手が俺たちを包み込んだ。
最高の音楽に、みんな歓喜している。
今までで一番の、最高の盛り上がりをしている会場で。
俺たちは静かに、涙を流すのだった。
次回、最終回。




