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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
最終章『漂流ロックバンドの異世界ライブ!』

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二十一曲目『真のライブ魔法』


 __あの日ひとひらの 花が流れた 水面を揺らす 白い流れ星


 歌が、聞こえる。音楽が聞こえる。

 その歌声は俺じゃない。この声は……。


「やよい?」


 そうだ。やよいの歌声だ。

 ささやくように優しく、芯が通ったやよいの歌声が、どこからか響いてきた。


 __僕はささやいた 「あと少しだよ」


 やよいの歌声に、普段とは違って落ち着いたウォレスの低音の歌声が。さらに、中性的な真紅郎の歌声が重なっていく。


 __明日は会える いつかの明日


 最後にサクヤの歌声が混じり、四人の歌声が綺麗なハーモニーとなって戦場に響いていった。

 四人が紡いだ歌は、その曲は。まだ世に出ていない、俺たちRealizeの曲。

 あの日、この異世界に来る前にやっていたライブで初披露する予定だった、新曲。


 __<ホワイト・リアリスト>だ。


「……ッ!?」


 突然響いてきた四人の歌声に、闇属性は戸惑ったようにキョロキョロと辺りを見渡している。

 だけど、この場には誰もいない。


「みんな……」


 この城のどこかにいるみんなが、Realizeのメンバーが、どこかで歌っている。

 どうしてその歌声が聴こえるのかは俺も分からないけど、自然と体に力が戻ってきた。

 片手にマイクを、そして折れた剣を握りしめて立ち上がる。

 そうしている間にも、歌声は続いていた。


 __白い影が 僕の前に 静かに降り立った あぁ 今なんだ


 ホワイト・リアリストのAメロの歌詞が紡がれる。

 だけど、その歌声にはRealizeの四人以外の声が混じっていた。


「これは……ミリア?」


 ヴァベナロスト王国の王女、ミリアの歌声だ。

 いや、ミリアだけじゃない。そこから一人、また一人と聞き覚えのある声が重なっていく。

 ヴァベナロスト王国の女王、レイラさん。

 各支部のユニオンマスターの人たち。

 エルフ族、ケンタウロス族、ダークエルフ族。

 今も城の外で戦っている人たち、全員(・・)が歌っていた。


「どうして、まだこの曲は、誰にも聴かせてないのに」


 ホワイト・リアリストは元の世界でも、この異世界でも披露したことがない曲だ。

 それなのに、まるで知ってるかのように戦場にいる全ての人たちが歌っている。


 __君の言葉 いつも僕に 現実(リアル)を押し付ける 今 行くよ


 Aメロの歌詞が終わり、Bメロに入っていく。

 歌声はズレることなく、綺麗に揃っていた。


 __流れに揺られながら 悶え続ける 欲しかったのは違う 本当の明日


 Bメロに入ると、その歌声がまた一人増えた。

 誰の歌声かは、分からない。だけどその数は歌詞が一言ずつ紡がれる度に、どんどん増えていく。

 それは戦場にいる人たちじゃない……世界中から(・・・・・)響いていた。


「世界中の人たちが、歌ってる……俺たちの曲を、知らないはずの曲を……?」


 俺の声を拾ったマイクから、波紋のように声が広がった。

 その波紋はRealizeの四人に届き、そこからまた波紋が広がる。

 四人の波紋が、今度は城の外で戦っている人たちに。そして、無数の波紋が世界中に届いていった。


 俺の声が、想いが__世界中に広がっていくのを、魂が感じていた。


 __あの日ひとひらの 花が流れた 水面を揺らす 白い流れ星


「あぁ__そっか」


 Bメロが終わり、サビに入る。

 そこで自然と、理解した。

 ようやく、俺の頭の中でパズルのピースが、最後の一つがピタリとハマった気がした。

 それは、光属性のことだ。


「光属性の、本当の力__本来の(・・・)使い方」


 俺はずっと、光属性は『破魔の力』と『自分のイメージした通りに魔法を放てる』魔法だと思っていた。

 実際、闇属性は黒い魔力を自由自在に操っていた。だから、俺もそれを真似て光属性を操っていた。

 だけど、ガーディに憑依していた時の闇属性はそれを否定し、本来の使い方ではないとはっきりと言っていた。


 そして、俺はようやくその勘違いに気付いた。


 __僕はささやいた 「また会えるよ」 僕は歩いた 君への旅路


「光属性の本当の力は__<同調(・・)>なのか」


 サビが終わるのと同時に、俺は光属性の真実にたどり着く。


 それは、同調だ。


 俺と相手の波長を合わせ、同じにする。シンクロさせるとも言っていい。

 力や魔法とぶつかり合う時に、力や魔法を完全に同じに合わせることでそれを対消滅させる。

 それが、光属性の特性(・・)だ。


 そして、その特性を使うことで今から俺がしようとしていることこそが__光属性の本来の使い方。


「__寒い冬も 暑い夏も 現実(リアル)はここにある もう 見えるの?」


 マイクに向かって、訴えかけるように歌声を紡ぐ。

 マイクを通した俺の声が波紋のように広がり、そこにRealizeの四人、城の外で戦っている人たち__世界中の人たちと、合わさった。

 闇属性は突然歌い出した俺を警戒しつつ、一歩後ろに退いた。

 歌声に光属性を合わせ、音属性で増幅し、マイクを通すことで広げる。

 そうして俺の歌声と世界中の歌声が同調したことにより、俺は歌っている全ての人と繋がった(・・・・)


 これこそが、光属性の本来の使い方。


 歌声に乗せた俺の考えを、気持ちを、想いを__答えてくれた人たちと共有し、同調させる。


 そして、俺は世界中の人たちと繋がり、想いを共有し__力を、借りる。


 多くの気持ちや想い、願いや祈りを全て受け止めて、背負った。

 それをみんなから借りた力と合わせ、さらに折れた剣に同調させる。


 __教えてくれた 一つの果実 君はどこにいるのか 今 僕はいる


「そうだ。俺の武器は……音楽だ」


 世界中から聞こえる歌声を背に、俺は闇属性へ向き直った。

 闇属性は戸惑いながらも、俺に向かって剣を構える。

 さっきまでの威圧感が、闇属性から感じられない。


 まるで今の闇属性は__道に迷った子供のように見えた。


「勇者だとか、世界を救う英雄だとか……そんなの、本当の俺じゃない」


 握りしめていたマイクを、剣の柄先に取り付ける。

 半分に折れていた剣身に魔力が__みんなの想いと力が集まり、同調していく。

 体の奥底から力が湧き上がり、魂が震え、自然と笑みがこぼれた。


 __夕映に凪が そっと差し込んだ 静かに澄んだ 心の湖

 __それは確かに僕の 中身を写した 写真のような 空模様


「俺は、ただのボーカルだ。最高のロックバンドRealizeのボーカル担当__タケルだ!」


 俺の叫びに呼応して、剣身と一体化した真っ白な魔力が強く発光する。

 そして、白い魔力で出来た剣をグルリと回して柄にあるマイクを口元に持っていき、ニヤリと笑う。


「__ハロー、闇属性。ハロー、世界中にいる観客たち。もう飽き飽きしてるだろ? こんな長い戦争に!」


 目の前にいる闇属性に、世界中でこの戦いを見守っている人たちに、歌っているみんなに語りかける。


「俺自身も飽き飽きだ! なんでただのボーカルが、こんなに痛い思いをしないといけないんだ! もう限界だ! だから、俺は__ッ!」


 白く発光する剣を構え、足に力を込める。

 真っ直ぐに闇属性を見据え、叫んだ。


「__このくだらない戰争を、終わらせる! 俺の、俺たちの音楽で!」


 そして、足に込めていた力を解放させた。

 一歩、また一歩と加速していく俺を見た闇属性は、焦ったように黒い魔力の触手を伸ばしてくる。


 __白い花が 散り始める ゆらりゆらりと 心が騒いだ

 __君はここに いたんだね 僕の心の 白い現実主義者(ホワイト・リアリスト)


「う、お、おぉぉぉぉおぉぉぉぉッ!」


 襲いかかってきた黒い触手を斬り払いながら、前へ。

 縦横無尽に向かってくる黒い触手を全て斬り捨て、飛んできた黒い魔力弾も斬り飛ばし、止まることなく走り続ける。


 __あの日ひとひらの 花が流れた 水面を揺らす 白い流れ星

 __僕はささやいた 「あと少しだよ」 明日は会える いつかの明日


「あと、少し……ッ!」


 歌声はCメロを紡ぎ、ラストのサビに入ろうとしていた。

 曲が終わりに向かっていくのに合わせて、魔力で出来た剣身がさらに光り輝く。


「タケル!」

「頑張れ、タケル!」

「あと少しだ!」

「決めろ! 終わらせてくれ!」


 世界中にいる人たちの声が、聞こえた。


「タケルさん! 頑張って!」

「タケル、気合いで乗り切れ!」


 城の外で戦っている人たちの声が聞こえる。


「タケル! やっちまえ!」

「タケル! 頑張って!」

「この戦いに、終止符を打ってくれ!」


 この場にいるロイドさん、アスカさん、ガーディの声が聞こえる。


「タケル! お願い、その子を……助けてあげてッ!」


 キュウちゃんの声が聞こえる。


「赤髪……やっちまえ」


 アスワドの絞り出したような声が聞こえる。

 すると、真っ白に染まった魔力の剣に、青色が混じった。


 __白い壁が今 僕の目の前に 静かに聳える(そびえる) 超えられる壁


「おぉぉりゃあァァァァァァッ!」


 ラストのサビに入った瞬間、最後の触手を斬り捨てる。

 ようやく、闇属性の目の前までたどり着いた。

 闇属性は剣に黒い魔力を集め、一歩前に踏み出す。

 極限まで研ぎ澄ませた集中力が、世界を遅くさせた。

 

「タケル!」


 その時、サクヤの声が聞こえた。

 白と青が混じった魔力に、橙色が混じる。

 

「ヘイ、タケル!」


 ウォレスの声が聞こえる。

 今度は魔力に黄色が混じった。


「タケル!」


 真紅郎の声が聞こえる。

 そこから魔力に藍色、紫、緑とどんどん色が合わさっていく。

 闇属性の黒い剣と俺の様々な色に染まった剣がぶつかり、拮抗する。

 地面がひび割れ、大気が悲鳴を上げる中、歯を食いしばって堪えた。


「__タケル!」


 その声と同時に、魔力に最後の色__赤色が混じる。

 七色に染まった魔力の剣が、闇属性の黒い魔力を押し返した。

 砕け散る黒い魔力が舞い散る中、腰を拗らせながら剣を振る。


「__頑張れ!」


 やよいの声が背中を押す。

 地面を砕きながら強く足を踏み込み、全身の力を使って七色に染まる剣を、振り抜いた__ッ!


「<レイ・スラッシュ>__」


 これが、俺に出来る最強の技。

 俺と世界中のみんなで放つ最後の__真のライブ魔法(・・・・・・・)

 このくだない戰争を終わらせる告げる__福音。


「__<ゴスペル!>」


 レイ・スラッシュ・ゴスペル。

 七色の魔力で出来た剣が闇属性の体を斬り裂き、声にならない断末魔が響く。


 __僕は今行くよ 君の目の前に 君を誘おう 白い現実へ


 そして、最後の歌詞が紡がれるのと同時に。

 俺と闇属性は虹色の光に包まれ、視界が真っ白に染まった。


 


 

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