六曲目『黒豹の最後の大舞台』
「__ウォォラアァァァァァァァァッ!」
バキバキにへし折れて使い物にならなくなった左腕を揺らしながら、右手に持ったシャムシールを握りしめてムンカムへと走る。
震える足に必死に鞭を打ち、限界を超えている体力を無視するように、怒声を上げた。
対してムンカムは俺に斬られた傷を手で抑えながら、ギリッと歯を鳴らす。
「この寒さは、厄介だなぁ……ッ!」
部屋中に漂う、白い冷気。それは、この場の気温が氷点下以下まで下がっている証拠だ。
その寒さにムンカムの脂肪だらけの肉体は硬くなり、物理攻撃を滑らせる油も凍りついている。
現状、今まで通らなかった俺の攻撃はムンカムに届く。それが分かっているからこそ、ムンカムは思考を巡らせてどう戦うかを考えている様子だった。
だが、そんな暇は与えねぇ。とにかく、攻撃あるのみ。
ムンカムの懐へと飛び込んだ俺は、シャムシールを振り被って右足を前に踏み込んだ。
「オラアァッ!」
「ちぃッ!」
振り下ろしたシャムシールに、今まで受け止めてきたムンカムは舌打ちしながら後ろへと飛び退いて避けた。
とうとう回避行動をするようになったな。だが、その速度は寒さのせいで今までより遅い。
「シィッ!」
短く息を吐き、下がったムンカムを追いかけながら振り下ろしたシャムシールを斜め右上に向かって振り上げる。
ムンカムは避け切れず、でっぷりとした腹の脂肪に斜めの傷が刻まれた。
「ぐぅッ! このぉッ!」
血を噴き出しながらムンカムは太い右腕を振り上げ、俺に向かって叩きつけてくる。
すぐに右に転がりながらムンカムの攻撃を避け、その隙にシャムシールを__ッ!?
「ぐッ、あ……ッ!」
「ガアァァァァッ!」
ビキッ、と右足の筋肉に痛みが迸った。
その痛みに思わず動きを止めると、ムンカムは地面に叩きつけた右腕を薙ぎ払ってくる。
避けられない。シャムシールを盾にしてムンカムの腕を防ぐも、足に力が入らずにそのまま吹き飛ばされてしまった。
「が、ぐぅッ!」
床を跳ねるように吹き飛んだ俺は、壁に叩きつけられる前にシャムシールを床に突き立てて速度を落とす。
ギャリギャリと音を立てながらどうにか速度を落としてから、ムンカムの方に目を向ける。
そして、驚愕に目を見開いた。
「フゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……」
ムンカムは俺を追うことなく、その場で立ち尽くしている。
そして、息を長く吐きながら体から蒸気を上げていた。
「あの野郎……ッ!」
ムンカムは全身の筋肉を小刻みに振動させ、体温を上げている。
しかも、その振動の速度は高速で、急激に上がった体温で体の油が発熱してうっすらと赤くなっていた。
赤熱した体に蒸気を纏わせたムンカムは、ニタリと口角を歪ませる。
「これで、寒くないなぁ」
「やってくれるな。でもなぁ……ッ!」
今のムンカムなら、氷点下以下にまで下げたこの部屋の寒さを感じないだろう。
敵ながらやるな、と内心で舌を巻きつつ、練り上げた魔力を一気に解放する。
「__その程度で克服出来るほど、甘くねぇぞぉッ!」
爆発的に俺の体から噴き出した魔力は、冷気となって部屋一面に広がっていく。
パキパキと足元から床が凍っていき、天井からは氷柱が伸びていった。
同時に、俺の口から白い吐息が漏れ、体がカタカタと震え始めている。
「そろ、そろ、ヤベェな」
氷属性魔法の使い手の俺でも、この寒さは無視出来なくなってきた。
早く勝負を決めないと、俺自身も凍りついてしまう。
だが、それ以上にムンカムは寒さを感じている。その証拠に、体が赤熱するほど体を小刻みに振動させているムンカムでも、徐々にその熱が失われていっていた。
「ぐッ、たしかにこの寒さは厳しいなぁ。でも、短時間ならいつもの速度で動ける」
凍りついていく床を踏み砕いたムンカムは、体勢を低くして離れた場所にいる俺を睨みつける。
間違いねぇ。ムンカムは俺に向かって突進してくるつもりだ。
すると、ムンカムはすぐには動かず、俺をジッと見つめたまま口を開く。
「お前はどれだけ痛めつけても動く。腕が折れても、足が折れても動くだろう。だから、一撃でお前を食うことにする。本当なら、あの女から食いたかったが……もう、いい」
そして、ムンカムはガチンガチンと歯を噛んで音を立てると、獣のように手を床につけて構えた。
「俺の最大速度で突進し、そのままお前を喰らう。それで、もう終わりだ」
最大速度、か。今までの比じゃないほど、その速度は速いだろうな。
その速度で向かってきながら俺を喰らうと、ムンカムは宣言してきた。
今の俺じゃあ、ムンカムの速度に対応出来ねぇ。避けるのは不可能だ。
どうするか。その答えは、自然と簡単に出た。
「……じゃあ、しょうがねぇよなぁ」
自分のことながら、バカな答えだ。
思わず笑みが溢れた俺は、チラッとへし折れて使い物にならなくなった左腕に目を向ける。
「すぅぅ、ふぅぅぅ」
ゆっくりと深呼吸して神経を研ぎ澄ませた。
そして、練り上げた魔力を左腕に集めていくと、パキパキと音を立てて凍り始める。
「さぁて、行くか」
準備は整った。
ゆらりと前に出て、四つん這いに構えているムンカムへと歩み寄る。
右手に持ったシャムシールを凍り始めている左腕の方へと回し、左足に力を込めた。
「来いよ、ムンカム」
「行くぞ、アスワド」
距離はそれなりに離れているが、ムンカムならほぼ一瞬で詰めてくるだろう。
間合いを見極め、向かってくる速度を計算し、合わせる。
張り詰めていく空気の中、天井から生えた氷柱が折れて地面へと落下した。
そして、落ちた氷柱が砕ける音を合図に、同時に飛び出す。
「__オラアァァアァァアァァァァッ!」
「__ガアァァァアァァアァァァァッ!」
俺とムンカムの獣のような雄叫びが響き渡った。
ムンカムは両手と両足で地面を砕きながら、一直線に飛び込む。
対して俺は左足で地面を蹴り、腰を半回転させながら左腕の方に回したシャムシールを薙ぎ払った。
刹那。俺とムンカムは部屋の中央ですれ違う。
シャムシールを振り抜いた体勢の俺と、地面を滑りながら止まったムンカムは背中合わせに立ち尽くした。
「……ぐッ!」
静寂を打ち破ったのは、ムンカムのうめき声。
背中越しだが、分かる。ムンカムの腹に横一文字の傷が刻まれ、そこからボタボタと血が滴っているだろう。
すれ違い様に俺が薙ぎ払ったシャムシールが、見事ムンカムの腹を斬り裂いた結果だ。
充分な手応えを感じた俺は、ニヤリと笑い__。
「が、あ……ッ!」
ガクッと膝が折れ、シャムシールを床に落とした。
大量の血が滴り落ち、赤色の池が凍りついた床に広がっていく。
両膝をついた俺は、左肩を強く掴みながら血が出ている箇所に目を向けた。
そこには、あるはずの左腕がなくなっていた。
「__あ、兄貴ィィィィィィィィィッ!」
シエンの悲痛な叫びが、遠くに聞こえる。
まるで脳が殴りつけられているかのような鈍い頭痛が襲い、失った左腕の傷口からダグダグと血が流れていく。
震える体で振り向くと、同時にムンカムが俺の方へと振り返った。
「__食えたのは、左腕だけかぁ」
モゴモゴと俺の左腕を咥えたまま、ムンカムが呟く。
横一文字に斬られた腹を手で抑えたムンカムは、咥えていた俺の左腕をボリボリと音を立てて噛み砕き、ゴクリと飲み込んだ。
「やっぱり、男の肉は硬いなぁ。さて、と。左腕を失ったんだ、もう戦えないだろう?」
勝利を確信したのか、ニタリとムンカムは笑う。
大量に血液を失い、ボーッとし始めた思考を必死に繋ぎ止めながら、俺は鼻を鳴らした。
「腹壊しても、知らねぇぞ……?」
「フンッ、左腕を食われてもまだそんな口が聞けるのかぁ。でも、もう終わりだ」
「あ、兄貴! ダメだ、兄貴! 兄貴ッ!」
そう言ってムンカムはトドメを刺そうと俺に歩み寄ってくる。
するとそこで、離れていたシエンが大粒の涙を流しながら俺に駆け寄ろうとした。
「来るな、シエン……ッ!」
声を絞り出して、シエンを呼び止める。
慌てて動きを止めたシエンは、それでも近づこうとしてくるのを目で止めた。
「あ、兄貴、なんで……」
「言った、だろ、待ってろ、って。お前は、そこにいろ……」
「で、でも、でもぉ……ッ!」
顔を手で覆いながら泣き崩れるシエン。
そうだ、それでいい。お前は、そこにいればいいんだ。
ニヤリと口角を上げた俺は、ムンカムを睨みながら言い放つ。
「__そこなら、巻き込まずに済むからな」
そして、ムンカムはピタッと足を止めた。
「あ、あぁ? な、なな、なんだぁ?」
ムンカムは困惑しながら、両腕で腹を抑える。
赤熱していた体はすっかりと元の色に戻り、立ち上がっていた蒸気がなくなっていた。
すると、ムンカムの腹からギュルルルルルと音が鳴り響く。
「お、おおおお、お前、ななななな、何をしたたた?」
声を震わせ、呂律が回らなくなりながらムンカムが俺に問いかける。
それに対して俺は、ゆっくりと立ち上がりながら答えた。
「言っただろ、腹壊しても知らねぇぞってよ」
「ま、ままま、まさか、おまま、お前、なな、何か、しし、仕込んだ、のか?」
「ご名答。俺が黙って左腕を差し出すと思ったのか?」
左肩を抑えていた右手を伸ばし、人差し指をムンカムの腹に向ける。
「いくらこの部屋を冷やそうと、その脂肪の鎧はそう簡単には凍らねぇ。だったら、中から凍らせればいい」
へし折られて動かなくなった左腕は、もう使い物にならねぇ。だから、俺はワザと左腕をムンカムに喰わせた。
氷属性の魔力を集めた、左腕を。
「これで、お前はどんだけ体を振動させても、熱を上げられねぇ」
「そ、そそ、そのため、だ、だけに、ひ、左腕を?」
「何言ってやがる。これは、ただの前準備だ」
そうだ。俺がムンカムに左腕を喰わせたのも、体の内側から凍らせたことも……この部屋を冷やし続けたのも、魔力を練り続けたのも。
全部、最後の一撃のための前準備だ。
床に広がっていた血の池が、音を立てて凍っていく。
「俺はずっと、この時を待っていた」
失った左腕の傷口が凍りつき、大量に滴っていた血が止まる。
「これでようやく、お前を倒すことが出来る」
体をガタガタと震わせて動きを止めているムンカムへと、歩み寄る。
俺が一歩踏み出すと、足元から氷が広がっていった。
「お前は、三つの罪を犯した」
話す度に白い吐息が口から漏れ、真っ白な冷気が俺から漂う。
「一つ。やよいたんを食おうとしたこと」
床に広がった氷がムンカムへと届き、足元から凍りついていく。
「二つ。シエンが隠そうとしてきたことを明かしたこと」
どうにか氷から抜け出そうとするムンカムだが、抵抗虚しく徐々に膝下まで凍りついていく。
そして、俺はムンカムの目の前で止まり、ギロリと睨みながら見上げる。
「三つ。大事な部下を、泣かしたことだ」
チラッと涙を流しながらへたり込んでいるシエンを見てから、頬を緩ませた。
「シエン、そこでしっかり見てろよ__俺の最期を」
「え? 兄貴……?」
唖然としているシエンから目を逸らし、下半身全部が凍りついたムンカムに向き直る。
「さぁて、ムンカム。終わらせるぜ?」
「ま、ままま、待て、やめ……」
やめろ、だと?
やめる訳、ねぇだろうが。
ゆっくりと息を吸い、白い吐息と共に吐き出す。
そして、囁くように静かに、言葉を紡いだ。
「__<我が祈りの糧を喰らう龍神よ、我が戦火を司る軍神よ>」
「た、たた、たのむ、や、ややや、やめて、くれれ……ッ!」
限界まで練り上げた魔力が、暴風のように吹き荒れる。
俺とムンカムを覆うように極寒の冷気が荒れ狂い、猛吹雪となって部屋の温度が急激に下がっていった。
「__<背を向けし両者に贄を捧ぐ。其は全てを凍てつかせる祭壇なり>」
「あ、が……あ、あぁ……」
視界が白く染まり、床からまるで花のように氷柱が生えていく。
首まで凍ったムンカムは、もう声すら出なくなっていった。
そして、俺の足も凍り始めていく。
大量の魔力を喰らい尽くし、相手だけじゃなく自分自身すらも凍る危険性がある__氷属性魔法の禁術。
全てを凍てつかせる極寒の嵐。罪を犯した者を断罪する、氷結の魔宴。
「__<ブリザード・サバト>」
詠唱を終えると、俺とムンカムを中心に渦を巻いていた暴風雪が、一気に加速していった。
足元を凍らせて咲いた氷の花はどんどん大きくなり、誰をも逃さない凍獄の檻と化す。
制御出来ない大魔法に、俺の足は膝まで凍りついてった。
「……覚悟の上だ」
最初から分かっていた。今の俺の実力じゃあ、この魔法は扱いきれない。
だが、それを知った上で使った。そうでないとムンカムを倒せないと察したから。
決死の覚悟で使った最期の魔法だ。
「__喰らい尽くせるもんなら、やってみやがれ」
ムンカム。暴食のお前でも喰らい尽くせないほどの氷雪の嵐だ。
遠慮するな。腹一杯、死ぬまで喰らえ。
そして、ムンカムはとうとう顔まで凍りつき、絶望の表情を浮かべた氷像へと成り果てる。
内側からも外側からも完全に凍りついたムンカムは、その魂までも凍りつき__凍獄の底へと堕ちていった。
その姿をしっかりと見届けた俺は、凍っていく自分の足を見つめる。
「……さて、と。俺もそろそろ、潮時か」
パキパキと容赦なく凍っていく足を見てから、静かに天井を見上げた。
「やよいたん、無事ならいいけど。まぁ、大丈夫か。俺が惚れた女だからな」
ククッと笑みをこぼしながら、呟く。
やよいたんのことだから、誰が相手でも根性で乗り切るだろう。
ただ可愛いだけじゃねぇ、心も強い女だからこそ、俺はこんなにも惚れ込んでいるんだ。
「やよいたんを泣かせたら化けて出てやるからな。あとは任せた……タケル」
この世で一番気に食わない赤髪、タケルに後のことを託して、ゆっくりと目を閉じる。
このまま俺は、ムンカムと同じように氷像となり、凍獄の底へと堕ちるだろう。
黒豹団として盗みを働いてきた、俺の罪を償う時だ。
どうせロクでもない死に方をする予定だったんだ、誰かを守るために死ぬなら上等だろう。
静かに沈んでいく意識の中で、俺は最期の心残りを思い浮かべていた。
「シエン、悪い。黒豹団のこと、頼んだぜ」
泣き虫で弱っちぃが、ずる賢さと知識量は誰よりも上のシエンなら、黒豹団の奴らを上手く纏められるはずだ。
女であることを隠して男として黒豹団に入る、思い切りと根性もある。
だから、大丈夫。いきなりで悪いが、黒豹団のことを任せたぞシエン__。
「__兄貴ィィィィィィッ!」
と、思っているとシエンの叫び声が聞こえてきた。
思わず目を開けると、そこには吹き荒れる暴風雪の中を突き進んで近づいてくるシエンの姿。
「う、ぐ……絶対に、死なせない。絶対にぃッ!」
黒いローブが凍り、おぼつかない足取りで、シエンは俺へと近寄る。
涙すらも凍り始め、綺麗な長い金髪を振り乱しながら、シエンは俺に向かって叫んだ。
「私は、外の世界に行きたかった! そんな私のワガママを、あなたは叶えてくれた! 私が女だと知ってても、あなたは私を盗み出してくれたッ!」
蒼い瞳を真っ直ぐに俺に向け、歯を食いしばりながら前へ。
「私は、まだあなたに恩返し出来てないッ! だから、勝手に死なないでよッ!」
「し、えん……」
そして、とうとうシエンは俺の元へとたどり着いた。
絶対に離さないとばかりに俺の服を掴み、抱きしめてくる。
「それに! それに私は……私は、あなたのことが__ッ!」
俺の体に回されたシエンの腕から、じんわりと熱を感じた。
まるで雪が溶けた後の山に降り注ぐ、陽の光のような暖かさ。
すると、俺の足を凍らせていた氷にヒビが入り、崩れ始める。
シエンは俺を抱きしめたまま、渾身の力で引っ張った。
「アァァァァァァァァアァァァァッ!」
必死の形相で叫んだシエンは、氷を砕いて俺をその場から引っ張り上げ、勢いよく飛び退く。
バキバキと音を立てて氷から解放された俺は、シエンに抱きしめられたまま地面を転がった。
同時に、俺が使っていた魔法が静かに霧散していく。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
呼吸を荒げながら、それでもシエンは俺から手を離さなかった。
震える唇で、シエンに声をかける。
「し、えん……お、まえ……」
「この、バカ兄貴!」
シエンは俺を抱きしめたまま、声を張り上げる。
シエンの目からポロポロと流れる涙が俺の頬に滴り、そこから氷が溶けていった。
「死んでどうするッスか! 兄貴がいないと、黒豹団は成り立たないッス!」
泣き叫ぶように俺を叱ったシエンは、流れる涙をそのままにして優しく俺の頬を撫でる。
「だから……もう、死のうとしちゃダメッスよ?」
全てを包み込むような暖かな目で、シエンは頬を緩ませて微笑んだ。
その笑顔を見た俺は、鼻を鳴らす。
「ハンッ、シエンのくせに生意気だな……分かったよ、約束する」
仕方ねぇから、誓ってやるよ。
もう、勝手に死のうとしねぇってよ。
その言葉にシエンは満足げに頷くと、今にも泣きそうな目で俺の足を見つめた。
「でも、兄貴……足が……それに、左腕も」
俺も自分の足を見てみると、右足がなくなっている。
多分、引っ張り上げた時に右足だけは完全に凍りついて砕けたんだろう。
左腕と右足をなくした俺だが、別に悲しくもなんともなかった。
「まぁ、仕方ねぇだろ。死んでなければ、どうにでもなる」
シエンのおかげで、命だけは繋ぎ止めることが出来た。なら、それでいい。
そう言うとシエンは今にも泣きそうな顔になり、すぐに泣くのを堪えて笑みを浮かべた。
「そうッスね。生きてれば、どうにでもなるッス」
「そういうことだ」
二人で笑い合ってから、俺はゆっくりと息を吐く。
これで、俺の戦いは終わりだ。この状態じゃあ、やよいたんを助けに行くことも出来ねぇ。
「やよいたんと、ついでに世界も頼んだぜ……赤髪」
どこかで戦っているだろう赤髪に向かって呟いてから、疲れた俺は静かに意識を手放すのだった。
これにて、アスワド戦は終了です。
次回からは、サクヤの戦いに入ります。




