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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第二章『ロックバンド、セルト大森林でライブをする』

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五曲目『エルフ族の集落』

「あ、あの! 助けて頂いて、本当にありがとうございます!」


 気絶していた少年は目を覚ますと、すぐに頭を下げてお礼を言ってきた。

 少年は勢いよく頭を上げると目をキラキラとさせながら話を続ける。


「僕は<エルフ族>のリフと言います! お二人には本当に感謝しています!」


 少年……リフは自身のことを、エルフ族と名乗る。

 耳が尖っていたからもしかして、と思ってたけど本当にエルフ族だったようだ。

 それから何度も何度も頭を下げ、お礼を言い続けるリフに苦笑しながら声をかける。


「えっと、リフだったな? そんなに頭下げなくても……別に大したことしてないし」

「いえ! あなた方は僕の命の恩人! 何度お礼してもしたりないぐらいです!」

「大げさだなぁ……」


 これは何を言っても聞きそうにないな。仕方ないから気が済むまで放っておこう。

 と、それよりもまだ名乗ってなかったな。


「えっと、俺はタケル。こっちはやよいだ。よろしくな、リフ」

「はい! タケル様にやよい様ですね!」

「ちょ、様付けはやめてくれないか?」

「無理です!」


 きっぱりと断られた。様付けとか気恥ずかしいんだけど……。

 どう対応していいのか分からずに困っていると、やよいが話に入ってきた。


「ねぇ、リフ。ちょっと聞きたいんだけど、あたしたち以外に人間を見なかった?」

「いえ、見てませんね。そもそもこの森に入ってくる人間なんて、ここ二十年(・・・・・)はいませんでしたから」

「に、二十年……」


 さらっとリフは言ってるけど、やっぱりエルフ族だ。見た目は十歳ぐらいだけど、実年齢は多分俺たちよりも上だろう。

 それにしても、見てないのか。真紅郎たちの情報が聞けると思ってたんだけどな。

 俺とやよいが残念そうにしているのに気付いたのか、リフは「あ!」と声を上げた。


「もしかしたら他の仲間なら知ってるかもしれません! よろしければ僕たちの集落に来ませんか?」

「え? いいのか?」

「はい、勿論です! それに、助けて頂いたお礼もしたいですので!」

「助かるけど……」

「でしたら決まりです! ご案内します!」


 とんとん拍子にエルフ族の集落に招待された俺たちは、他に手がかりもないからお言葉に甘えることにした。

 リフは「こっちです!」と軽い足取りで前を歩いていく。地図も何もないのに、どうして集落の場所が分かるんだ?

 すいすいと迷うことなく森の中を歩いていくリフを頑張って追いかけていくと、ふと立ち止まったリフが振り返る。


「ようこそ! ここが僕たち、エルフ族の集落です!」


 リフは両手を広げ、自慢げに俺たちを歓迎してくれた。

 見上げるほど大きく太い幹に作られたツリーハウス。木と木の間には縄梯子がかけられ、それを伝って歩く金髪で耳の尖った種族__エルフ族。

 中央にある広場にはまだ小さな子供のエルフ族が走り回る、平和そうな集落だった。


「す、すごぉぉぉぉい!」


 やよいは目を輝かせながらツリーハウスを見て興奮している。俺も声には出してないけど、かなり感動していた。

 ツリーハウスなんて日本じゃまずお目にかかれないし、ましてやそこで暮らすなんて夢みたいな話だ。

 俺たちの世界でいうエルフのイメージそのままで、民族衣装的なローブを身に纏った美男美女たちが森の中で暮らしている。まさにファンタジーな光景に心が震えた。


「どうですか、僕たちの集落は? お気に召しましたか?」


 笑みを浮かべながら問いかけてくるリフに、俺たちは満面の笑みを浮かべて答える。


「最高! いいところだな!」

「うん、いい。あたし、ここに暮らしたい……」

「えへへ……そう言って頂けると嬉しいです。あ、族長を呼んでくるので、お二方はここでお待ち下さい!」


 集落を褒められて照れたリフは頬を掻いてから、この集落の族長を呼びにこの場を去っていった。

 取り残され、手持ちぶたさになっていると広場にいたエルフ族の子供が遠巻きにこちらを見ているのに気付く。見慣れない人間を警戒しているのか、ジッとこっちを見ている。

 笑みを浮かべて手を振ってみると、蜘蛛の子を散らしたように走り去っていった……と、思ったら木の影に隠れてまだ俺たちを見つめていた。

 警戒しながらも好奇心が抑えきれないんだろう。可愛らしいその姿に思わず笑みがこぼれる。


「……ロリコン」

「おいこら」


 やよいがボソッと呟いた不名誉な称号にジロッと睨んでやると、やよいはクスクスと笑っていた。誰がロリコンだ、まったく。

 失礼なことを言うやよいにため息を吐いていると、ふと広場の中央にある物に目が止まった。


「あれって……」


 それは、ユニオンにもあった物。翼を畳んだドラゴンの石像__<竜魔像>だ。

 近づいてみると、たしかにユニオンにあった竜魔像と同じ物。まるで生きてるかのような存在感を放つ石像を見つめていると、「ホッホッホ」と年老いた男性の笑い声がした。


「それを知っておるようじゃな」

「あなたは……?」


 声がした方に目を向けてみると、そこにいたのは一人の老人。

 白に近い色が落ちた金髪を後ろで束ね、シワだらけの穏やかそうな表情をくしゃりとさせながら笑う腰が曲がった老人が口を開く。


「ワシの名はユグド。この集落の族長じゃ。この度は我が同族の命を助けて頂いたようで……一族の長として礼を言わせて欲しい」

「い、いえ、そんな大したことはしてないです。それより、どうしてここに竜魔像があるんですか?」


 そう聞くと、ユグドさんは手に持っていた木の杖をつきながら竜魔像に近寄り、遠い目をしながら答える。


「この竜魔像は、我々エルフ族が大昔から悪用(・・)されないように守り継いでいる物じゃ」

「悪用、ですか?」

「さよう。この竜魔像は大変危険な代物__国一つを滅ぼすことも可能な兵器(・・)じゃ」

「__え?」


 へ、兵器? 国一つを滅ぼせる?

 なんだ、それ……そんなの、初めて聞いたぞ?


「ま、待って下さい! これは魔法の属性を調べる道具じゃないんですか?」

「む? あぁ、そうじゃった。人間には竜魔像の本当の使い方(・・・・・・)は知られてなかったのう。たしかに、自身の属性を調べることも出来るが……本来は危険な兵器なんじゃよ」


 マジかよ。そんな危険な物がユニオンにあっただなんて。

 って、これって俺たち人間が知っちゃいけない情報だったんじゃないのか?

 恐る恐るユグドさんに目を向けてみると、何かを言う前にユグドさんは「ホッホッホ」と笑って答えた。


「別にお主たちならそれを知ったとしても誰かに言ったり、悪用したりしないじゃろう?」

「え? まぁ、しないですけど……」

「ホッホ。これでも長く生きているからの、人を見る目はあるつもりじゃ。お主たちはそんなことをするような者には見えんわい」

 

 年の功、って奴なのか。ユグドさんは俺たちを信じているようだった。実際するつもりもないし、頭の片隅に置いておくぐらいにしておこう。

 そんなことを話していると、遠くの方からリフが走ってきた。


「はぁ、はぁ……ぞ、族長、探しましたよ!」

「おぉ、リフ。遅かったのう」

「お、遅かったって……あ、族長。このお二方は……」

「お主を助けたタケル殿とやよい殿じゃろう? 知っておるよ」


 あ、あれ? リフの口振りだとユグドさんには俺たちの名前も、リフを助けたことも話していないようだ。なのにどうして知ってるんだ?


「ホッホッホ。森と共に生き、森の声に耳を傾ければ、森は色んなことを教えてくれるんじゃよ」


 ……さっきから思ってたんだけど、ユグドさんってもしかして心が読めるんじゃないのか?


「ホッホ、読んでおらんぞぉ」


 やっぱり読んでるじゃん! どうにも掴めない老人だな……。


「まぁまぁ、それより立ち話もなんじゃ、ワシの家に来るといい。ほれ、行くぞリフ」

「はい。タケル様、やよい様、こちらにどうぞ!」


 ユグドさんとリフに連れられ、俺たちは家に案内されることになった。


 


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