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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第十五章『くだらない戦争に音楽を』

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二十七曲目『オーバーリミット』

 弾丸のように飛び出したフェイルは、地面を踏み砕きながら高く跳び上がった。

 そして、片手で大剣を振り上げると、落下しながら俺に向かって大剣を振り下ろしてくる。


「グラアァァァァァァァァッ!」

「ぐぅッ!?」


 剣を横にして、振り下ろされた大剣を防ぐ。

 だけど、落下速度に加えて暴走していることでリミッターが外れたのか一段と増した膂力による重い一撃に、膝を着いた。

 衝撃で俺を中心に地面が陥没し、メキメキと亀裂が走っていく。

 ア・カペラで強化している俺ですらキツい一撃を、歯を食いしばって堪えた。


「グルアァッ!」


 その時、俺を押し潰そうとしていた大剣を振り被りながら空中で後方一回転したフェイルが、回った勢いのまま大剣を振り上げてくる。

 予想外の攻撃に反応が出来ず、振り上げられた大剣に剣が強く弾かれた。


「ぐあ……ッ!」


 弾き飛ばされないように剣の柄を握りしめ、体を仰け反らせる。あまりの重さに、腕が痺れた。

 フェイルはスタッと地面に着地すると、片手で握った大剣を肩に担ぎながら、獣のように四足歩行でまた飛び出してくる。

 そして、フェイルはググッと体を捻りながら大剣を弓のように引き絞ると、俺に向かって一気に大剣を突き放ってきた。


「ヤバ__ッ!」


 風を切り裂きながら向かってくる大剣の切っ先に、慌てて側転してその場から逃げる。

 すると、片手で突き放たれた大剣の衝撃が一直線に地面を削りながら、遠くにあった壁にまで届いて風穴を開けた。


「ガアァァァァァッ!」


 突きを避けられたフェイルは雄叫びを上げ、逃げた俺を追うように大剣を薙ぎ払う。

 烈火のような連撃に反撃する隙もなく、バックステップで大剣を躱した。

 

 その瞬間、本能が危険を察知する。


 反射的に頭が地面に着きそうになるぐらいに勢いよく体を仰け反らせると、薙ぎ払われた大剣の軌跡を追うように三日月型の黒い刃が俺の鼻先を掠めるように通り過ぎた。


「危、ねぇッ!?」


 今の三日月型の斬撃は、闇属性の魔力で作られたものだ。

 ただバックステップしただけだったら、今頃俺の首は飛んでいただろう。

 仰け反った体勢から片手でバク転すると、フェイルは薙ぎ払った大剣をグルリと回して片手で肩に担ぎ、姿勢を低くして左手を地面に置きながら俺を睨んでいる。


「カロロロロロ……」


 口角から涎を流して喉を鳴らすその姿は、まさに獣。

 理性などなく、ただ野生の本能の赴くまま暴れるだけの化け物だ。

 体に纏っている闇属性の魔力がゆらゆらと蠢き、胸元に埋め込まれている赤い核がドクンドクンと脈動している。


「どう見ても、あの核が弱点だよな……?」


 闇属性の魔力を増強させ、フェイルを暴走させている諸悪の根源は間違いなくあの赤い核だろう。

 あれを壊せれば、フェイルを倒せるはず。

 だけど、今のフェイルは膂力も速度も増してる上に、暴走して獣のようになっていて、かなり動きが読み辛い。

 あの赤い核を壊すためには、フェイルの暴風のような連撃を避けて懐に飛び込むしか方法がなさそうだ。


「なら、スピード勝負だ」


 ア・カペラを使ってても、今のフェイルの一撃には敵わない。

 唯一、俺がフェイルに勝っているのは、速度だけだ。

 さらにギアを上げて、赤い核に狙いを定めてスピード勝負するしかない。

 ゆっくり深呼吸してから、全神経を研ぎ澄ませる。


「__はあァァァァッ!」


 覚悟を決めて、地面を蹴った。

 紫色の光の尾を引きながら、フェイルに向かって吶喊する。

 フェイルは唸り声を上げると、片手で大剣を振り被って飛び込んできた。


「ギャギャギャアァァァアァァァッ!」


 振り下ろされる大剣を、鋭角にサイドに移動して避ける。 そこからフェイルの懐に飛び込もうとすると、フェイルの体に纏っていた闇属性の魔力が無数の触手になり、俺に襲いかかってきた。


「邪魔、だ……ッ!」


 鋭く尖った無数の触手を、フェイルの周りを走り回りながら避けていく。

 無数の触手は地面を貫きながら、俺を追いかけてきた。

 俺の動きを先読みして襲ってきた触手を剣で振り払うと、フェイルが大剣を薙ぎ払おうとしているのが見えた。


「しぃッ!」


 触手を剣で払いながら、腰を捻って大剣を振り被っているフェイルに向かって走る。

 金属のように硬い無数の触手を掻い潜り、フェイルが大剣を薙ぎ払うよりも早く目の前まで躍り出た。

 そして、大剣を薙ぎ払ってくる瞬間、ジャンプしてフェイルを跳び越える。


「ガアァァァァァァアァァァァッ!」


 いきなり姿を消した俺に、フェイルは大剣を止めた。

 俺が後ろで着地したのと同時に、フェイルはすぐに振り返りながら大剣を振り被る。

 だけど、もう遅い。


「はあぁぁぁぁッ!」


 大剣を振り被ってて無防備になっている胸元に、剣を突き放った。

 一直線に胸に埋め込まれている赤い核に切っ先を向かわせると、フェイルは歯を剥き出しにして笑みを浮かべる。


「なッ!?」


 赤い核を貫かれる前に、フェイルは左手で剣を掴んで止めてきた。

 狙いに気付いていたのか、それとも野生の直感か。

 手のひらに食い込んだ剣の刃で血を流しながら、フェイルはそのまま握った剣を俺ごと持ち上げた。


「グルアアァァァッ!」

「う、おぉ……ッ!?」


 そして、フェイルは左腕を振り回して、力任せに俺を投げ飛ばす。

 勢いよく投げられた俺は錐揉み回転しながら、どうにか受け身を取って地面を転がった。


「ぐッ、うぉッ!?」


 起き上がろうとした俺に、無数の触手が襲いかかってくる。

 慌てて地面を転がって避けながら、フェイルから距離を取った。


「ちくしょう、千載一遇のチャンスだったのに」


 あの突きが決まっていれば、赤い核を壊すことが出来たのにな。

 舌打ちしながら立ち上がると、闇属性の魔力がフェイルを守るように激しく蠢いていた。

 俺の狙いが、完全にバレたな。


「それでも、ここで俺が折れる訳にはいかない……ッ!」


 狙いがバレていようと、俺がやることは変わらない。

 あの赤い核を壊して、フェイルを解放する。

 俺の意思に反応して、体から白が混じった紫色の魔力が噴き出した。


「邪魔なのは、あの触手だ。あれは光属性で浄化する。あとは、もっと力がいるな」


 そう呟きながら、俺は腰元のパワーアンプに手をかけてつまみをいじる。

 その瞬間、俺の体から噴き出していた魔力が、暴走寸前まで大きくなった。


「ぐ、う……が……ッ!」


 パワーアンプで調節していた魔力を、わざと調節しないで全開にする。

 体にかかる負担は強くなるけど……その分、今まで以上にア・カペラが強化された。

 ここまでしないと、今のフェイルに太刀打ち出来ない。


「い、く、ぞ……ッ!」


 ビキビキと筋肉が悲鳴を上げ、骨が軋み始めている。

 身体中に電気のような痛みが駆け抜け、血管が切れそうになっていた。

 それでも、やるしかない。長くは持たないから、速攻で決める。


「__ぜあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 声を張り上げて根性で痛みを我慢し、一気に地面を蹴って走り出す。

 俺が走った軌道を追うように、紫電を纏った白と紫が混じった魔力がバチバチと地面を迸った。


「カロロロロロッ!」


 喉を鳴らしながらフェイルは左手を向けると、無数の黒い触手が雨のように降り注いでくる。

 俺を取り囲むように上下左右から襲いかかってくる無数の触手を、剣で振り払いながら駆け抜けた。

 光属性が混じった紫色の魔力が、闇属性で出来た触手を浄化していく。

 

「__あぁあぁぁあぁぁぁッ!」


 怒声を上げ、目で追えないほどの速度で剣を振り回しながら、前に。

 払い切れなかった触手が頬を掠め、血を噴き出させながら、前に。

 足を止めずに、愚直に、フェイルを目指して前に進み続けた。


「もっと、だ、もっと、強く__速くッ!」


 さらに噴き出した魔力の推進力、湧き上がる光属性の魔力の力、気力も体力__全てを剣に乗せて、前に足を踏み込んだ。

 加速させた剣の速度に無数の触手は徐々にその数を減らし、最後に振り払った剣は完全に触手を掻き消した。


「ここ、だぁぁぁぁぁッ!」


 ギチギチと足の筋肉を膨れ上がらせ、爆発させるようにフェイルの懐に飛び込む。

 そのまま剣を振り被ると、フェイルも片手で大剣を振り被っていた。


「__ガアァァァアァァァッ!」

「__てやあぁぁぁぁぁぁッ!」


 同時に振り下ろされた剣と大剣が、轟音を響かせながらせめぎ合う。

 フェイルの膂力に押されそうになるけど、魔力の調節を止めて全開にしている今の俺なら、押し負けることはない__ッ!


「おりゃあぁぁぁッ!」


 渾身の力を込めて剣を振り抜き、フェイルの大剣を押し返す。

 仰け反ったフェイルに俺は腰を捻って弓のように剣を引き絞り、胸に埋め込まれている赤い核に向かって突き放とうとした。


「カロロロロロロロッ!」


 だけどその時、フェイルは左手に闇属性の魔力を渦を巻くように纏わせると、魔力で出来た大きな黒い爪を作り出す。

 そして、鋭い五本の爪を振り上げて突き放った俺の剣を弾いてきた。

 強い衝撃を受けて思わず剣を手放してしまい、剣はグルグルと回転しながら上に飛んでいく。


「ま、だ、まだぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 剣がないなら、拳だ。

 地面を踏み砕きながら左足を前に出した俺は、右拳を思い切り振り被った。

 拳の魔力を纏わせ、腰を捻りながら一気に右拳でフェイルの胸を殴りつける。


「ゴ、オッ!?」


 サクヤが使うレイ・ブローとは比べ物にならないほど、粗雑に魔力を纏わせた拳の一撃。

 それでも、威力は充分だった。

 メキメキと胸に埋め込まれている赤い核に突き刺さった拳に、フェイルが血を吐きながら後ずさる。


「ガ、アァァァァァッ!」


 フェイルは雄叫びを上げると、俺に向かって左腕に纏わせた黒い爪を薙ぎ払ってきた。

 横から襲ってくる黒い爪をしゃがみながら避け、同時に右足でフェイルの足を払う。


「ガッ!?」


 足払いされたフェイルが体勢を崩し、たたらを踏んだ。

 その隙に立ち上がりながら、グルグルと回りながら落ちてくる剣の柄を逆手で掴み、下から右斜め上に向かって振り上げる。

 だけど、剣はフェイルの黒い爪に防がれ、ギャリギャリと音を立てながら振り抜いた。


「たあぁッ!」


 振り抜いた剣を手首を返して順手で握り、今度は右斜め上から下に振り下ろす。

 咄嗟にフェイルはまた黒い爪で防ぐも、体勢を崩されている状態で堪えることが出来ずに振り下ろした剣に負けて前のめりになった。


「うらぁッ!」

「ゴフッ!?」


 ギュッと右足を踏み込み、左拳を振り上げてフェイルの胸に打ち込む。

 鈍い打撃音と共に左拳は赤い核に深々と突き刺さり、フェイルは体をくの字に曲げて足を浮かせた。

 その時、ピシッと音を立てて赤い核にヒビが入る。


「ゴ、ガ、ア、ギャギャギャアァァァァァァッ!」


 フェイルは苦悶の表情を浮かべると、空に向かって雄叫びを上げた。

 そして、フェイルの体から爆発するように闇属性の魔力が噴き上がり、その衝撃に吹き飛ばされそうになる。

 闇属性の魔力は黒い渦を巻き、フェイルの体を覆って見えなくなった。

 

「ガ、ギャ、アアァアァァァ……ッ!」


 黒い渦の中で、フェイルのもがき苦しんでいる声が聞こえる。赤い核を傷つかれたダメージが大きいようだ。

 黒い繭のように渦を巻く魔力の奔流を睨みながら、深く腰を落として腰を捻り、剣の切っ先を渦の中にいるフェイルを狙って構える。

 光属性が混じった音属性の魔力を剣身と一体化させてから、声を張り上げた。


「__貫けッ! <レイ・スラッシュ・スラップ!>」


 右足を前に踏み込みながら、一気に剣を突き出す。

 突いた剣から、高密度に圧縮された魔力がまるで一本の槍のように放たれた。

 魔力の槍は黒い渦を貫き、中にいるフェイルの胸元__赤い核を完璧に打ち込まれる。


「ガ、ハァ……ッ!?」


 レイ・スラッシュ・スラップを喰らったフェイルは口から血を吐きながら大剣を手放し、体をくの字に曲げて黒い渦から飛び出した。

 宙を舞ったフェイルの胸元から、パキンッと割れる音が聞こえる。

 そのまま地面を跳ねるように吹き飛ばされたフェイルはゴロゴロと転がり、倒れ伏した。

 同時に、グルグルと回転しながら落下した大剣が、地面に深々と突き刺さる。

 

「はぁ、はぁ……どう、だッ!」


 暴走一歩手前まで噴き上がった魔力によって悲鳴を上げる体の痛みを堪え、肩で息をしながらフェイルを睨みつけた。

 フェイルは体を震わせながら四つん這いに起き上がり、口からボタボタと血を流している。


「ア、アァ、アァァァ……」


 胸に埋め込まれている赤い核に大きな亀裂が走り、そこから泥のような黒い魔力が吹き出して地面に滴っていた。

 もがくように胸を手で抑えながら苦しんでいるフェイルに、俺は剣を向ける。


「今、解放してやるからな……フェイル」


 そう呟くと、フェイルはフラフラと立ち上がり、地面に深々と突き刺さっている大剣に右手を向けた。

 すると、黒い触手が伸びて大剣の柄に巻きつき、地面から大剣を引っこ抜いてフェイルの元へと運ぶ。

 フェイルは大剣を掴むと、歯を剥き出しにしながら威嚇するように喉を鳴らして片手で大剣を肩に担いだ。


「フシュルルルルル……」


 血を流した口角から黒い霧を吐き、理性をなくした赤い双眼を俺に向けてくる。

 ドクンドクンと脈動する赤い核の亀裂から、ボタボタと泥のような黒い魔力が流れていた。

 見るからに、限界だ。いや、もう限界を通り越している。

 そして、俺の体ももう限界を超えていた。


「終わりにしよう」


 だから、早く終わらせる。俺のためにも__フェイルのためにも。

 そう決めた俺は、剣を構えて飛び出した。



 

 

 

 


 

 

 



 

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