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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第二章『ロックバンド、セルト大森林でライブをする』

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四曲目『追われる少年』

「__なぁ、なんで怒ってるんだ?」

「……怒ってないし」


 怒ってるじゃん。

 やよいと森の中を歩きながら、何故か(・・・)痛む右頬を撫でつつため息を吐く。

 ワイバーンから逃げるために川に飛び込んだ俺は、気付いたらやよいに助けられて川辺で目を覚ました。

 川に落ちてからの記憶は曖昧で、一度目を覚ましてやよいを探していた気がするんだけど……もしかしたら夢を見ていたのかもしれない。

 そして、目を覚ましてからというもの、やよいは顔を赤く染めながらずっと不機嫌だった。どうしてなのか聞いても絶対に教えてくれないし……意味が分からない。

 と、それよりもはぐれてしまった真紅郎たちを探さないと。


「どこにいるんだ……?」


 森の中……セルト大森林は真紅郎が地図で見せてくれた通り、かなり広大な森だ。その森で真紅郎たちを探し出すのは、至難の業だろう。

 それに空はすっかりと夕暮れ色に染まり、もうすぐ夜になる。真紅郎たちは心配だけど、暗くなる前にそろそろ野営の準備をしないといけないな。


「なぁ、やよい」

「……何?」


 そう思ってやよいに声をかけようとすると、不機嫌オーラをまき散らしながら睨まれてしまった。思わず「いえ、なんでもないです」と返答してしまう。どうしろって言うんだよ。

 仕方なく真紅郎たちを探す作業を続ける。宛もないけど、それしか今の俺に出来ることはない。


「どうしたもんかな……」


 呟きながら辺りを見渡す。

 こんな森の中に人がいるはずもなく、それどころか今のところモンスターの姿も見当たらなかった。まぁ、モンスターがいないことはいいことだけど。

 だけど早いとこ真紅郎たちと合流してこの森から抜け出さないとな。こんなところまで追っ手が来るとは思えないけど、早めにヤークト商業国に行きたい。

 それに、あのワイバーンがまたいつ襲ってくるか分からない。王国からの追っ手から逃げつつワイバーンからも逃げないといけないなんて……運が悪いにもほどがあるな。


「……ねぇ、タケル。何か聞こえない?」


 ふと立ち止まったやよいが、俺に声をかけてくる。

 俺も立ち止まって耳を澄ませてみると、たしかに何か音が聞こえた。


「聞こえるな。あっちの方か?」


 音のする方に向かってみると、徐々に音が近くなってきた。

 いや、むしろ音の方から近づいてきている。それに気付いた瞬間、俺は魔装を展開して右手に剣を構えた。

 ガサガサと茂みを進む音が近くなる。姿勢を低くし、何が来ても対処出来るように集中。

 空いている左手でやよいを後ろに来るように指示する……けど、やよいは無視して魔装である斧型ギターを握りながら、俺の隣に並んで構えていた。

 こんな時に、と文句を言おうとしてすぐにやめる。そんな問答をしている暇はない。

 音は一気に大きくなり、目の前にある茂みから何かが飛び出してきた。


「__う、うわぁぁぁぁぁ!?」


 飛び出してきたのは、少年だった。

 木の枝や葉っぱが付いた金髪のおかっぱ頭。小柄な体躯を包む薄汚れた布の服。手にはナイフを持ったその少年の耳は……尖っていた(・・・・・)


「って、に、人間!? どうしてこんなところに!?」


 少年は俺たちを見るなり、目を丸くして驚いていた。

 呆気に取られていた俺は少年に声をかけようとして、少年が飛び出してきた茂みの方からまたガサガサとした音と獣のうなり声が聞こえ、すぐに剣を構え直す。


「ひ、ひぃ!? まだ追ってきてる!?」

「そこの少年! 俺たちの後ろに来い!」

「は、はいぃぃぃ!」


 少年はわたわたと慌てながら俺たちの後ろに回ると、茂みから黒い影が姿を見せる。

 薄暗い森の中に溶け込む、黒みがかった焦げ茶色の毛。グルル、とうなり声を上げながら鋭い牙が生え揃った口から涎を流した、四足歩行のそれは__。


「__<ワーグ>か!」


 大型犬サイズの狼型モンスター、ワーグが茂みから現れた。その数は四体。どうやら少年はこのワーグたちから逃げてきたらしい。

 ワーグたちは俺たちの姿を視認すると、一定の距離を取りながら姿勢を低くして警戒していた。

 ワーグはずる賢く、知能が高いモンスターと聞いている。

 いつも群で行動し、弱い獲物を罠にはめて充分にいたぶってから狩るという、悪辣なモンスターだと教えて貰った。

 この少年をいたぶろうとしていた矢先に現れた俺たちをすぐに襲わずに警戒してることから、知能が高いっていうのは本当みたいだな。


「やよいはその少年を守りながらサポート。俺が前に出る」

「……分かった」


 ワーグたちから視線を外さないままやよいに言うと、渋々とだけど従ってくれた。剣の切っ先をワーグに向け、静かに息を吐いて集中する。


「……ガウ」

「ガウ!」


 俺には分からないけど、何かを話しているワーグたちはじりじりと俺を取り囲むように動き出す。左右に一体ずつ、正面に二体と分散されてしまった。


「ウオォンッ!」

「__ッ!?」


 どこから来てもいいように集中していると、いきなり左にいたワーグが吠えた。突然のことでそっちに目を向けると、右にいるワーグが襲いかかってくる。

 __陽動か!?


「ちっ! <アレグロ!>」


 完全に陽動に釣られてしまったことに舌打ちしつつ、素早さ上昇の魔法を使う。

 フワッと体が軽くなったのを感じながら、すぐに右から襲ってきたワーグの牙を剣で防いだ。

 剣に噛みついたワーグはそのまま離そうとしない。まずい、と思った瞬間に正面から二体のワーグが向かってきている。


「クソッ、離せ!」


 ふりほどこうとしてもワーグは剣を離そうとしなかった。その間にも正面からワーグが鋭い牙を剥きながら飛びかかろうとしている。


「<フォルテ!>」


 そこで後ろから、やよいの声が聞こえた。

 やよいは一撃強化の魔法を唱えると斧を振り上げる。


「__てあぁぁぁぁぁぁ!」


 そして、そのまま地面に斧を振り下ろした。

 爆発したような大きな音と衝撃がビリビリと森中に響き渡る。それに驚いたのか、噛みついていたワーグが剣から離れた。


「ナイス、やよい!」


 すぐにその場で一回転し、遠心力を使って勢いよく剣を横に薙ぎ払う。その一振りはワーグの首を一刀両断した。

 そのまま俺の左側にいたワーグに一足跳びで近づく。地面を揺らす程の衝撃と、自身の仲間の首が飛んだことに驚いていたのか立ち止まったままのワーグに向かって、剣を振り上げた。


「__せいやぁぁぁ!」


 気合いと共に剣を振り下ろす。ワーグは脳天から縦に斬り裂かれ、真っ二つになって倒れ伏した。

 これで、残りは二体。


「ガウガウ!」

「ウォンッ!」


 二体のワーグは何か会話してから動き出し、俺を攪乱するように走り出した。時にフェイントを混ぜつつ、徐々に俺に近寄ってくる。

 それを見た俺は、チラッとやよいに目で合図すると、頷いて返した。


「__ふぅぅぅ」


 深く、ゆっくりと息を吐く。

 剣身に魔力を集中。剣と魔力を一体化させてから居合いのように左腰に剣を構えると、ワーグたちは左右から俺に飛びかかってきた。


「<レント!>」


 そこで、やよいのサポートが入る。

 速度を低下させる魔法を使い、二体のワーグの動きが遅くなった。

 スローモーションになったワーグたちに狙いを定め、俺は剣を横薙ぎに振った。


「__<レイ・スラッシュ>」


 ロイドさん直伝の、俺の必殺技。剣に魔力を纏わせた一撃を放つ。だけど、それはただのレイ・スラッシュじゃない。

 ロイドさんと戦った時に突如として現れた女性の幻影。その時に一緒に使ったあの技__レイ・スラッシュ・協奏曲(コンチェルト)

 今の俺にはあれほどの技は使えない。だけど、俺にとってそれは一つの切っ掛けになっていた。

 纏わせた魔力の色は紫色。その色は、音属性の証。

 それを放つ技の名前は__。


「__<二重奏(デュオ)!>」


 ワーグ二体を同時に斬り払うと、振られた剣に音の衝撃が重なった。

 レイ・スラッシュ・二重奏(デュオ)。その名の通り、最初の一撃に音の衝撃が重なる、レイ・スラッシュの新しいバリエーション。

 その一撃でワーグたちの体は真っ二つになった。


「__よし、成功!」


 上手くいったことに思わずガッツポーズする。

 他にモンスターがいないことを確認してから、やよいと少年の方に顔を向けると……。


「なぁ。どうして少年は気絶してるんだ?」


 助けた少年は目を回しながら気絶していた。

 やよいに問いかけると、気まずそうに頬を掻きながら答える。


「なんか、あたしが斧を振り下ろした時の衝撃に驚いちゃったみたいで……」


 気絶した、と。

 どうにも締まらない終わり方にため息を吐きつつ、気絶した少年を介抱することにした。



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