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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第十五章『くだらない戦争に音楽を』

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『やよい』


 __あたしにとって、学校なんてものは大嫌いな場所だった。


 多分だけど、あたしは世間一般の女の子とはズレていたんだと思う。周りの子が好きだって言っているものが、理解出来なかった。

 でも、それでよかった。あたしは、あたしが好きなものを素直に好きだと言いたい。周りに合わせて、好きなものじゃなかったり興味がないものを好きだとは言いたくなかった。


 だからなんだろう。あたしが、イジメられていたのは。


 最初は仲間外れにされて、無視されることから始まった。

 次に、陰口を言われるようになった。

 徐々にエスカレートしていき、物を隠されるようになった。


 陰湿なイジメは最後には、暴力に変わった。


 あたし一人に対して、相手は五人。主犯格は女子のトップカーストにいる、今時の女の子。

 どうやら事の発端は、自分が好きだった男子があたしに告白してフラれたことだったらしい。

 誰とも絡まず、輪の外にいるあたしが、その男子をフったことが生意気で気に食わない……というなんともしょうもない理由だった。


 だから、あたしはその女子にやり返した。


 襟首を掴んで壁に押し付け、金色に染めた傷んだ髪に流行りの化粧をした顔の女子を睨みつけながら、これ以上やるつもりなら二度と鏡が見えないようにしてやろうか、と脅してやった。

 そうしたら、その女子は泣き出した。ボロボロと泣いて、化粧を涙で崩しながら、謝ってきた。

 それからは、あたしへのイジメはなくなった。

 清々した。ようやく自由になれた気がした。これで普通の学生生活を送れると思った。


 だけど、それは思い違いだった。


 あたしの周りには誰も近づかなくなり、遠巻きにあたしを見るだけ。

 話しかけても怯えられ、腫れ物のように扱われる。

 クラスに友達はいない、遊ぶような友達もいない、たった一人だけになった。


 そこで気付いた__学校には、あたしの居場所なんてないって。


 自覚した途端、教室にいるのが息苦しかった。閉塞感しか感じられなかった。

 カゴに閉じ込められた鳥の気持ちが分かった気がした。

 次第に学校に行くのが面倒になって、休むようになった。

 街をブラブラして、一人でカラオケに行ったり、夜遅くまで出歩いて補導されそうにもなった。

 それでも、あたしは学校に行かずに迷子のようにふらついていた。自由を求めて、あたしの居場所を求めて、目的もなく。


 そして、あたしは音楽に出会った。


 夜の駅前で一人の女性が、アコギを片手に路上ライブをしていた。力強いメロディ、透き通るような歌声、歌詞に込められた想い。

 その全てに、あたしの心は掴まれた。

 ギターの、音楽の魅力に取り憑かれ、すぐにギターを買った。一人で必死に練習して、弦を押さえる指を切っても、上手くいかなくても、ただただ練習をし続けた。

 少しずつ上手くなって、路上ライブをしていく内に分かった。


 あたしは、このために生きてきたんだって。


 普通の女の子のように友達と遊んだり、学校の行事を楽しんだり、テスト前に一夜漬けで勉強したり__恋をしたり。

 そういう普通のことは、あたしには出来ない。

 友達も、青春も、恋愛も、あたしには必要ない。ただ、音楽さえあればいい。そう思っていた。


 そして、あたしは真紅郎とウォレスと一緒に、Realizeを結成した。


 ライブをして、観客にあたしたちの音楽をぶつけて、楽しさも辛さも共有した。

 楽しかった。一人でする音楽よりも、仲間と一緒にやる音楽がこんなに楽しいなんて思ってもなかった。


 そんなある時、あたしは一人の年上の男性と出会った。


 それは、真紅郎とウォレスの三人でカラオケに行った時のこと。

 お手洗いから出た時、あたしはどこかの部屋から歌声が聴こえてきた。

 防音の扉の向こうで僅かに聴こえてきた、歌声。その歌声を聴いた瞬間、雷が落ちたような衝撃を受けた。

 なんて繊細で力強く、芯のある遠くまで届くぐらい通る声をしているんだろう。

 ドキドキと心臓がうるさくて、興奮で体が震えた。

 あたしは衝動のまま、歌声が聴こえた部屋の扉を開け放った。


 そこにいたのは、この時は黒髪だった大学生のタケルだった。


 タケルは突然入ってきたあたしを、目を丸くして見つめていた。

 当然だ。誰が見てもあたしがしていることは、礼儀知らずの常識知らずな行動だ。今でもなんて恥ずかしいことを、と思う。

 でも、後悔はしていない。その時も、今でも……こうするのが、正しかったってはっきりと言えるから。


「__ねぇ! あたしたちとバンドを組まない!?」


 これがいわゆる、運命の出会いって奴なんだと思う。

 あたしたちの夢、メジャーデビューして満席の大きなステージで、みんなにあたしたちの音楽を聴いて貰うこと。

 そのためには、タケルが必要だと思った。あの歌声をあたしたちの演奏でさらにいいものにする、それがあたしたちの夢を叶えるのに必須だと思った。

 タケルはあたしたちの夢を聞いて、笑っていた。


「あぁ__最高だな、それ」


 嬉しそうに、楽しそうに、タケルは笑いながらRealizeに加入してくれた。

 こうして、あたしたちRealizeは四人になった。

 ウォレスのバカっぷりに呆れたり、あたしよりも女の子らしい真紅郎に嫉妬したり、誰かが困っているとすぐに助けに行くような猪突猛進のタケルに、頭を抱える時もあった。

 でも、楽しかった。ようやくあたしの居場所が、自由が手に入った。

 あたしは絶対に手放したくない。大事で、大好きな仲間と一緒に、どこまでも行くと決めた。

 異世界に来てからも、その気持ちは変わってない。ずっとこのまま、あたしたちは変わらずに突き進む。


 そう、思ってた。


「か、髪を赤く染めるのか? 俺が? えぇ……似合わない気がするんだけど」


 次の日には、タケルはあたしが言った通り髪を赤く染めていた。


「お、やよい! 聞いてくれよ、ウォレスの奴がさぁ」


 あたしの顔を見ると笑いながら声をかけてきた。


「真紅郎って、本当に見た目は女の子だよな。むしろ女の子よりも女の子らしいというか……痛ッ!? ちょっ、やよい! なんで殴るんだよ!?」


 なんかよく分からないけどムカついて殴っても、タケルは笑っていた。


「やよい、ここのフレーズなんだけど……どうすればいいと思う?」


 あたしと同じで音楽が大好きで、歳の差なんて関係なくタケルはあたしに質問してきた。


「お、その髪いいな! 似合ってるぞ!」


 一人の女の子として、女の子扱いしてくれた。


「困ってる人を見捨てたら、俺の中の何かを捨てるような気がして。そうすると俺の歌声が、俺たちの音楽が死んじゃう気がするんです」


 異世界に召喚されるなんてありえないことが起きても、タケルは変わらなかった。


「やよいはどんな想いで曲を作りたい? シランに対して、どんな想いを届けたい?」


 あたしが迷ってどうすればいいのか分からなくなった時、タケルは優しくあたしを導いてくれた。


「__悪い、遅くなって」


 あたしが殺さそうになった時、タケルは助けてくれた。

 ううん、その時だけじゃない。

 タケルはずっと、あたしを守ってくれていた。元の世界にいた時も、異世界に来た時も。


 ねぇ、タケル。どうして、タケルはあたしを助けてくれるの?

 なんで、あたしを守ってくれるの?

 仲間だから? 年上だから? 妹のように思ってるから?


 それとも……。


「やよい!」


 名前を呼ばれると、心臓がトクンって跳ねる。

 子供のように無邪気な笑顔を見ると、顔が熱くなる。

 タケルが女の人と一緒にいると、無性にイライラする。

 ミリアがタケルのことが好きだと知って、なんでか分からないけど嫌だった。

 タケルがミリアをフったと知って、なんでか分からないけど安心した。


 これって、もしかして___?


「いやいやいや、そんなまさか。ありえないでしょ」


 思い違いだ。勘違いだ。

 だってあたしは、普通の女の子じゃない。

 友達も、青春も……恋愛も。あたしには興味がない、縁のない話だ。

 だから、これは違う。あれだ、年上に憧れるようなものだ。絶対に違う。違うったら、違う。


「ん? どうした、やよい?」


 やめて。あたしの名前を呼ばないで(もっとよんで)

 笑いかけないで(もっとわらって)

 優しくしないで(もっとあたしをみて)


 __タケルのバーカ。





ここからは、やよいの一人称になります。

ご了承下さい。

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