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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第十五章『くだらない戦争に音楽を』

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十六曲目『考察、実行、絶望』

 放った魔力弾は、一つ。これは、相手の出方を見極める様子見の攻撃だ。

 銃口から真っ直ぐにノレッジに向かっていった魔力弾は、また同じように宙に浮かんでいた鏡が動いて、ノレッジを守る。

 そして、鏡に当たった魔力弾は爆発することなく、反射してボクの方へ戻ってきた。


「ふッ!」


 短く息を吐き、最小限の動きで魔力弾を避ける。

 放った時の弾速と、反射した魔力弾の弾速は違っていた。明らかに反射した時の方が速くなっている。

 避けた魔力弾は床に着弾し、爆発。その威力はボクが想定している物よりも大きい。

 さらに、ノレッジは紅茶を飲んだままの体勢。腕や指を動かしたり、視線を向けている様子もない。

 高速で思考を巡らせてたどり着いた一つの答えを、ノレッジに向かって言い放つ。


「その鏡、自動で防御するみたいですね。しかも、スピードや威力を倍にして反射している」

「またまたご明察。一回でそこまで見破るとは、異世界の住人だからでしょうか? それとも、キミの頭がいいから?」


 ノレッジはボクの導き出した答えを、少し意外そうにしながら肯定した。嘘も吐いていない。

 つまり、知られても関係ないってことだね。

 すぐにまた思考をフル回転させ、どうやってあの無数の鏡を突破してノレッジを倒すのか考える。


「鏡は自動で動くけど、任意で動かすことも出来るはずだ。右手を動かして自分で操作した時よりも、自動で動いた時の方が遅い。それでも、充分動きが速いから不意打ちしても防がれる。普通の魔力弾の威力じゃ、あの鏡は破れない」


 ブツブツと呟きながら考えをまとめていると、ノレッジはニヤニヤと興味深そうに笑っていた。

 こうして立ち止まっていても、ノレッジからは攻撃する気配が感じられない。本当にその場から動かないでいるみたいだ。

 それならそれで、好都合だね。考える時間をボクに与えたこと、後悔するといいよ。


「とりあえず、試しに……<スラップ!>」


 弦を叩くように指で弾いて、高密度に圧縮された魔力弾を放つ。

 鏡はまた自動的に動き、一直線に向かっていく魔力弾からノレッジを守った。

 そして、予想通りスラップを使った魔力弾でも鏡を壊すことが出来ず、反射される。


 だけど、予想外のことが起きた。


 魔力弾は右斜め上に反射して別の鏡にぶつかると、また跳ね返って今度は上からボクに向かってくる。

 しかもその速度は、かなり速かった。


「うわッ!?」


 慌ててその場から飛び退くと、魔力弾は床を砕きながら爆発する。

 スピード、弾速共におよそ二倍ぐらい強化されていた。


「なるほど、ね」


 冷や汗を腕で拭いながら、砕かれた床を見つめて呟く。

 今の一連の流れから、確信したことがある。


「反射すればするほど、威力も速度も倍になって跳ね返す。それが、その鏡の能力」

「素晴らしい! ご明察ですよ、真紅郎! 頭の回転、観察力と洞察力、その全てが高水準ですね! 本当にもったいない……どうです? 戦いなんて愚かなことはやめて、私の助手になってみませんか?」


 どうやら正解みたいだ。

 ノレッジはカップを丸テーブルに置くと、パチパチと拍手しながら助手にならないかと勧誘してきた。

 だけど、ボクの答えは一つだ。


「断る。ボクはRealizeのベーシストだ。あなたのような人に付き合っているほど、暇じゃない」


 はっきりと断ると、ノレッジは残念そうに首を横に振る。


「そうですか。頭はいいようですが、現実が見えていませんね。分かりますでしょう? キミでは、私には勝てない」


 ノレッジはそう言って、呆れたように肩をすくめた。

 たしかに、今の段階ではあの鏡を突破してノレッジを倒すビジョンが見えていない。

 自動でも手動でも操作可能で、壊すことが出来ず、反射すればするほど倍になって跳ね返す、鉄壁の守り。

 側から見れば、絶望的だろう。だけど__。


「今までボクたちは、どんなに絶望的な状況でも諦めなかった。だから、ボクたちは今もこうして生きているし、音楽も出来る。諦めなければ、必ず活路は開ける」


 そうやってボクたちは、この異世界で戦ってきた。

 どんな絶望的な状況でも、ボクたちは諦めない。諦めることはない。

 考えろ。思考を巡らせ、あらゆる策を練り、勝利を掴み取れ。


「まずは色々と試すのみ……ッ!」


 だけど、考えているだけじゃ何も始まらない。

 まずは実行して試し、戦いながら勝つための方程式を組み立てる。

 銃口をノレッジに向け、ベースのボディにある三つのコントロールノブをいじってから、スリーフィンガーによる速弾きで魔力弾を連続で放った。

 コントロールノブをいじって弾道を変えた魔力弾はそれぞれ左右に二つずつ、真っ直ぐに二つ、上から弧を描くように二つ、合計八つをノレッジに襲わせる。

 対してノレッジはため息を漏らすと、向かってくる魔力弾を見ることなくカップを口元に持っていっていた。


「何をしようとも、無駄ですよ」


 ノレッジがそう言うと、宙を浮かんでいた鏡が自動的に動き出す。

 左右の四つの魔力弾には、二枚の鏡が。真っ直ぐに向かっていく二つの魔力弾と、上から弧を描いて襲いかかる二つの魔力弾には、それぞれ一枚の鏡が防いだ。

 合計四枚の鏡に阻まれた八つの魔力弾は反射し、また別の鏡にぶつかって跳ね返る。

 ピンポン球のように何枚もの鏡に何度も跳ね返った八つの魔力弾が、弾速と威力を上げて一気にボクに向かってきた。


「くッ!」


 すぐに駆け出したボクを追うように、跳ね返った魔力弾が床に着弾していく。

 何度も跳ね返った魔力弾の威力は段違いに上がっていて、衝撃と爆風が背中を襲ってきた。

 まるで、マシンガンのような弾道ミサイル。走りながら思考を巡らせていると、最後の一発が足元に着弾した。


「ぐあッ!?」


 爆風に足を取られ、ゴロゴロと床を転がる。

 右足が焼けるように熱いけど、まだ動ける。すぐに立ち上がり、ノレッジを睨みつけた。


「鏡は無傷、数は八枚、今の攻防で動いたのは四枚。通常の魔力弾では傷一つ付かず、スラップでも壊れることはない。壊すことは諦めよう。自動で動くのは四枚が限度? いや、その可能性は低い。あの程度の攻撃なら四枚で充分だと判断したからと考えるのが妥当。八つ程度じゃ、魔力弾を跳ね返す角度や軌道の計算を狂わせることは出来ない」


 ブツブツと呟きながら、考察を繰り返す。

 ノレッジを守る鏡の数は、八枚。その内、自動で動いたのは四枚だけだった。

 八つの魔力弾をお手玉のように反射していた鏡は、跳ね返す度に少しずつ動いていた。ぶつかり合わずにどう反射すればいいのか、自動で緻密に計算しているんだろう。

 その計算をどう狂わせるか、それが勝つために必要なことの一つだ。

 すると、ノレッジは鼻を鳴らして頰杖を着く。


「どうですか、いい加減諦めて頂けますか?」

「冗談。ここからが本番ですよ」

「そうですか、諦めが悪いですね。頭がいいと思っていましたが、勘違いだったようです」


 ノレッジはため息を吐いて、やれやれと呆れている。

 まだ一撃も直撃していないんだ、諦めるのは全然早すぎるよ。


「もっと数を増やす……でも、跳ね返された時のリスクが大きい」


 八つでダメなら、それ以上に魔力弾を放つ。そうしたいところだけど、その全てを反射されれば……避けるのは難しいだろう。

 敏捷強化(アレグロ)を使っても、避け切れるかどうか。タケルのア・カペラぐらいの速度があれば回避は簡単だろうけど、ボクには使えない。


「ない物ねだりしても、意味がない」


 数で押して、それで鏡の計算が狂って一発でも突破すれば御の字。そのレベルの無謀とも言える、策と呼べないような杜撰な作戦だ。

 それでも、今出来る最適解がそれしかない。

 ゆっくりと深呼吸して覚悟を決めてから、静かに口を開いた。


「__<アレグロ>」


 敏捷強化(アレグロ)を使うと、体から紫色の魔力が噴き出てくる。

 同時に、コントロールノブをいじってからスリーフィンガーによる速弾きで魔力弾を連射した。

 放った魔力弾は、合計で十三。弾速、弾道を変えた魔力弾は縦横無尽に動きながら、ノレッジに向かって飛んでいく。

 すると、すぐに鏡が反応して動き出した。

 十三の魔力弾は全て八枚の鏡によって防がれ、跳ね返される。跳ね返った魔力弾は別の鏡に当たって反射され、またピンポン球のように繰り返し跳ね回っていた。

 そして、跳ね返って弾速と威力を上げた魔力弾が、ボクに向かってくる。それを見た瞬間、ボクは走り出した。


「やっぱり八枚全部、自動で動くことが出来る__っとと!」


 紫色の光の尾を引きながら、部屋中を走り回って魔力弾を避ける。

 的を絞らせないようにジグザグに蛇行して走ると、追いかけるように二つ、三つと跳ね返った魔力弾が襲ってきた。


「くッ、走るボクを追うように、鏡が動いていて魔力弾を、反射させている……移動する対象に反応? 何に……魔力? それとも熱源、ぐぅッ!?」


 また足元に魔力弾が着弾したけど、すぐに受け身を取って走るのを再開する。

 思考を止めるな、足も止めるな。避けながら考えろ、検証と考察を続けながら走れ。


「逃げ回っているだけじゃ、ダメだ……前に出る!」


 このまま逃げているだけだと、いずれ捕捉される。だったら、前に出て近づく。

 すぐに方向転換して、あえて跳ね返ってくる魔力弾に向かって駆け出した。

 鏡はボクの動きに反応して、繰り返し反射していた魔力弾を襲わせてくる。


「ふッ!」


 走りながら向かってくる魔力弾に銃口を向け、弦を弾いた。

 銃口から放たれた魔力弾と跳ね返ってきた魔力弾がぶつかり合い……ボクが放った魔力弾が貫かれ、そのまま向かってくる。


「ダメ、か!」


 上体を低くして、魔力弾を避けた。頭上スレスレを通り過ぎた魔力弾が、ボクの髪を焦がす。

 焦げ臭い臭いを感じながら、恐怖を押し殺して前に向かって走った。


「う、ぐ……<ソステヌート><スピリトーゾ!>」


 アレグロが切れそうになったから、ソステヌートを使って効果を持続させる。続けて、スピリトーゾで強化させた。

 強化されたアレグロの力をフルに使い、床を踏み砕きながら一気に速度を上げる。

 その間にも魔力弾が跳ね返り、ボクを襲ってきた。


「近づいて、も、鏡の計算は狂わない、なら、もっと増やせば、どうだ!」


 魔力弾を避け、走りながら魔力弾を追加で放つ。放った魔力弾は二十を超え、スレッジに向かっていった。

 だけど、すぐに鏡が反応してその全てを反射し、防がれる。

 数を増やしても、近づいても、鏡は変わらず緻密な計算を狂わせることなく自動的に動いていた。

 だったら、このまま鏡を突破してノレッジの至近距離で魔力弾を喰らわせる。

 そのつもりで足に力を入れた、その時。


「面倒ですね。そろそろ、終わらせましょう」


 ノレッジはそう言うと右手をクイッと動かし、今まで自動で動かしていた鏡を手動(・・)で動かした。

 八枚の鏡はグンッと速度を上げてボクを取り囲むように動くと、放った全ての魔力弾を繰り返し反射して逃げ場を失わせる。

 立ち止まったボクはベースを構えて警戒していると、ノレッジはニタリと口角を上げた。


「さて、もう逃げられませんよ。色々と考えを巡らせて勝ち筋を探していたようですが……これで終わりです」


 ノレッジは右手を挙げ、ボクを見つめる。

 すると、目をパチクリとさせながら首を傾げた。


「えっと、キミの名前はたしか、し、し……まぁいいでしょう。では、さようなら。実験室でまた会いましょう」


 そう言ってノレッジは、号令を出すように右手を下げる。

 その瞬間、ボクを取り囲むように繰り返し反射していた魔力弾が、同時に襲いかかってきた。

 全方向からの攻撃にギリッと歯を食いしばりながら、回避する。


「なッ!?」


 魔力弾を避けると、周りを浮かんでいた鏡が動き出してまた跳ね返してボクの背後を襲ってきた。

 慌てて避けたけど、また跳ね返ってくる。

 全方向、絶え間なく向かってくる魔力弾をどうにか避けるけど、避けきれずに肩を掠めた。

 徐々に避けられなくなり、魔力弾が頬を掠めて血が噴き出る。


「あぐッ!?」


 今度は右腕に着弾した。痛みに顔をしかめると、次は腹部に直撃する。


 それからはもう、避けるどころか動くことすら出来なくなった。


 無数に飛び交う魔力弾がボクの体をピンボールのように何度も弾き飛ばし、倒れることを許さない。

 熱さと痛みに思考がぼやけていく。力が入らなくなり、ベースが床に落ちた。

 それでも、魔力弾は容赦なくボクに襲いかかる。

 爆風に吹き飛ばされた体に魔力弾が直撃して強制的に仰け反られ、背中に着弾した魔力弾が前へ倒れ込ませ、下から迫った魔力弾に顎をかち上げられた。


「が、は……」


 顎への一撃で、脳が揺さぶられる。意識が一瞬、遠のいた。

 だけどすぐに痛みで意識が蘇り、また意識が遠のく。

 それを何度も何度も繰り返され、とうとう膝が折れた。


「あ……」


 だらりと額から血が流れ、視界が赤く染まる。

 そして、そのまま顔から床に倒れ込んだ。

 痛みも熱さも、今は感じられない。意識が薄れ、体が重力で床に押し付けられる。


 一人でも、もう少しやれると、思ってたんだけどなぁ


 心の中であまりの無力さに、自嘲する。

 結局、ボクは自分一人で敵一人倒せないほど、弱かった。

 今まで旅をして強くなったつもりだけど、蓋を開けてみればこの程度。


「ごめ、ん」


 掠れた声で、ボクと同じようにどこかに飛ばされたみんなに謝る。

 薄れゆく意識の中で、みんなの背中が見えた気がした。


「タケ、ル……や、よい……ウォ、レス……サク、ヤ……」


 みんなの背中を、ボクは一歩後ろに下がったところで見つめている。

 すぐそこにいるのに、遠く感じた。

 力が入らなくなった震える手を、みんなの背中に向かって伸ばす。


「は、はは……遠い、なぁ……」


 みんなは眩い光の先へ、歩いている。

 それを、ボクはただ眺めているだけだった。

 

 結局、ボクは何も変わっていない。


 素直で真っ直ぐなみんなとは違って、どこかで無意識にブレーキをかけて一歩前に踏み出せない……臆病者だ。


 そして、その光景を最後に__意識が完全に途切れた。




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