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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第十五章『くだらない戦争に音楽を』

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十三曲目『突破』

 耳鳴りが、酷い。

 まるで水の中に入っているみたいに聞こえてくる音がぼやけ、細く高い音がずっと耳の中で響いていた。

 そんな世界の中で、俺の名前を必死に呼ぶ声が聞こえる。


「タケル! タケル、しっかりして!」


 この声は、やよいか?

 俺を呼んでいるのが誰なのか分かった途端、意識が浮上していった。

 霞む視界の中で、涙目のやよいの顔と黒い雲で覆われた空が見える。


「や、よい……?」

「よかった、目を覚ました!」


 どうやら俺は倒れていて、やよいに膝枕をされているみたいだ。

 どうしてこうなっているのか、そもそも俺はなんで倒れているのかが分からずに、鈍くなってる思考でどうにか思い出す。

 そしてふと、地面に倒れているケンさんの姿とモンスターと戦うリフの姿が見えて__ようやく、我に返った。


「け、ケンさん!? うぐ……!?」

「ちょっと、無理しないで!」


 すぐに起き上がろうとして、ビキビキと体が悲鳴を上げる。

 すると、やよいが俺の体を支えて起こしてから、どうなったのかを説明してくれた。


「ここから先の地面に、闇属性の魔力で出来た地雷が埋まってるみたい。それにタケルたちは巻き込まれたんだよ」

「地雷……そうか、あの爆発は地雷だったのか」


 ミリアが警告してくれたけど間に合わず、ケンさんは地雷を踏み抜いてしまったらしい。

 その爆発によってケンさんは気を失い、背中に乗っていた俺とリフ、サクヤは吹き飛ばされたみたいだ。

 痛む体に鞭を打って立ち上がると、サクヤが駆け寄ってきた。


「……無事?」

「あぁ、どうにかな。サクヤは?」

「……直前で飛び降りたから、問題なし」


 そう言ってサクヤは親指を立てる。爆発に巻き込まれる直前に危険を察知して飛び降りたみたいで、怪我一つないみたいだ。

 すると、モンスターと戦っていたウォレスと真紅郎も俺のところへ走ってくる。


「ヘイ、タケル! 死んでねぇな!?」

「無事でよかったよ。それより、聞いてるよね?」


 ウォレスは俺が無事なのを確認してホッと胸を撫でおろし、真紅郎は険しい表情で城下町の方向を睨んでいた。

 真紅郎に聞かれた俺は、静かに頷いて返す。


「地雷が仕掛けられてるみたいだな」

「うん、そうみたい。このまま先に進むのは、ちょっと厳しいね」


 ここから先は、闇属性の魔力で出来た地雷が至るところに仕掛けられている。

 そうなると、ケンタウロス族たちに乗ったまま先に進むことは出来ないな。

 頭を悩ませていると、気を失っていたケンさんが目を覚ました。


「う、ぐ……何事、だ?」

「ケンさん! 大丈夫か!?」


 ゆっくり体を起こすケンさんを支えると、ケンさんは周囲を見渡してから苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「そうか、罠にかかったのか。すまん、タケル」

「ケンさんが謝ることじゃないって。ここまで送ってくれたんだ、それだけでも充分ありがたいよ」

「だが、ここからはどうするのだ?」


 ケンさんが指摘した通り、そこが問題だ。

 地上から城下町に進むのは無理だろう。そうなると空からだけど……。


「機竜艇は……ダメか」


 空を見上げると、上空で機竜艇艦隊がワイバーンの群れと戦っている。

 あの様子じゃ、俺たちを乗せる暇なんてないだろう。

 先に進むアイディアを考えていると、ふと冷たい風が頬を撫でた。


「__よう、赤髪。お困りのようだな」


 そして、後ろから男の声が聞こえる。

 その声が誰なのか分かった俺は、振り返らずに頬を緩ませながら答えた。


「あぁ、非常に困ってる。地面に埋まってる地雷を、誰かがどうにかしてくれると助かるんだけどな」

「ハンッ、地雷か。そんなの、俺にかかれば楽勝だな」


 肩をすくめながら言うと、後ろにいた奴は鼻を鳴らしながら俺を横切って前に出る。

 刀身が僅かに曲がったシャムシールを肩に乗せながら、そいつは不敵に笑って首をコキコキと鳴らした。


「地面に埋まってんなら、その地面ごと凍らせればいいだろ?」


 ボサボサの黒髪をした褐色肌の男は、豹を思わせる琥珀色の瞳を地面に向けると、静かに右足を上げる。


「<我が祈りの糧を喰らう龍神よ、我が戦火を司る軍神よ。今こそ手を取り我が征く道を指し示せ>__<アイス・シャックル>」


 黒豹団のリーダー、アスワドは流れるように詠唱をすると、上げていた右足で思い切り地面を踏みつけた。

 すると、踏み込んだ右足から地面が一気に凍っていき、向かってきた敵を氷像に変えながら広がっていく。

 肌を刺す冷たい空気の中、城下町までの氷の道が出来上がっていた。

 アスワドは鼻を鳴らすと、チラッと俺の方を振り返る。


「どうだ、これならよ?」

「充分だ」


 俺とアスワドは、ニヤリと不敵に笑い合った。

 これなら地雷を踏むことなく、城下町まで行くことが出来る。

 さすがだな、と言葉にしないで賞賛していると、アスワドはだらけた顔になってやよいの方へと近づいた。


「なぁなぁ、やよいたん! どう? どう!? この俺の氷属性魔法で作った道は! 惚れ直した!? 結婚する!?」

「しない。あと、惚れてない。でも、ありがとアスワド」

「んー、辛辣! でもそこがいい!」


 やよいに適当にあしらわれても、アスワドは嬉しそうに天を仰ぐ。

 惚れた弱みって奴か? なんにせよ、これで先に進めるな。


「よし、今しかない! 一気に城下町まで走るぞ!」


 声をかけると、みんなは示し合わしたように頷いて返す。

 そのまま走り出そうとすると、アスワドが鼻を鳴らした。


「てめぇらのことはどうでもいいが、やよいたんが心配だ。仕方ねぇから、俺たち黒豹団が援護してやるよ」


 アスワドが手を挙げると、敵を蹴散らしながら黒いローブ姿の男たちが集まってくる。

 そして、アスワドはシャムシールを構えると、氷属性魔法から逃れた敵たちが向かってくる方向を睨んだ。


「行くぞ、てめぇら! 向かってくる奴は全員、派手にぶちのめせぇぇぇぇぇッ!」

『__おぉぉぉぉぉッ!』


 アスワドの号令に、黒豹団たちが敵に向かって走り出した。

 盗賊団らしく、黒豹団たちは速く軽やかに敵に襲いかかると、ナイフや剣で蹴散らしていく。

 

「おい、ケンタウロス族の旦那! 大丈夫かよ!?」

「とりあえず俺たちが支えるから、安全なところに行くぞ! まぁ、どこも安全とは言えねぇけどよ!」

「ケンさん、我らも手伝う」

「ぐ……すまん」


 黒豹団の二人と、ここまで俺たちを運んでくれたケンタウロス族たちが、動けずにいるケンさんを支えながらこの場から離れていった。

 そこで、ケンさんはチラッと俺たちの方を申し訳なさそうに見てくる。


「すまぬが、頼んだぞ。我らが英雄たちよ……」

「あぁ! ありがとう、ケンさん!」

「みんなもありがとう! 助かったよ!」

「ハッハッハ! サンキュー、ケンタウロス族たち! あとはオレたちに任せておけ!」

「無理をしないで! ここまで本当にありがとう!」

「……ありがと」

「きゅきゅー!」


 運ばれていくケンさんにお礼を言うと、俺に続けてみんなもケンタウロス族たちにお礼を言った。

 そして、俺たちは改めて城下町の方へ目を向ける。


「__行くぞ!」


 周りの敵は黒豹団たちに任せて、俺たちは氷で出来た道を駆け抜けた。

 城下町まで、残り約二百メートル。

 高い壁で囲まれ、見上げるほど大きな鉄の門が目と鼻の先だ。

 だけど、俺たちを行かせないと敵の軍勢がかなり多く、相手している黒豹団たちも苦戦していた。


「__ムンッ!」


 横から襲ってきた敵に対して、大柄でスキンヘッドの男は両腕に装備していた大きな盾で行手を阻み、そのまま弾き飛ばす。

 スキンヘッドの男__黒豹団の幹部、ロクは気合を入れるように両腕の盾を打ち鳴らした。


「……ここからは、おでが、行かせない」

「ハッハッハ! サンキューロク!」


 言葉少なく呟いたロクの背中を、ウォレスがすれ違い様に叩いてニヤリと笑う。

 ロクは振り返らずに片腕を上げて返事をして、そのまま敵を盾で殴り飛ばした。


「ったく、弓兵の俺っちがどうして前線に出てるのかなぁ……」


 灰色の髪をした軽薄そうな男は、やれやれとため息を吐きながら弓を構える。

 そして、鋭い視線を敵に向けると、一息で弓矢を五本放った。

 放たれた五本の弓矢は風に乗って軌道を変え、一気に五体のモンスターを射抜く。

 矢継ぎ早に弓矢を放った男__黒豹団の幹部、アランは口角を歪ませて呟いた。


「ま、これもお仕事だから仕方ないね」

「ありがとう、アラン!」

「う……あ、あははー、道中お気をつけてー」


 真紅郎がお礼を言うと、アランは苦笑いを浮かべて手をヒラヒラと振って見送る。

 前に真紅郎を女性だと勘違いしたアランは、それはもうこっ酷く真紅郎にやられたからな。その時のことをまだ引きずってて、苦手意識を持ってるみたいだ。

 幹部の二人の援護を受けながら、俺たちは真っ直ぐに走る。


「てぇぇぇい!」


 頭に黒いバンダナを巻き、口元を隠すように黒い布を巻き付けている中性的な少年が、敵に向かって液体が入った小瓶を投げつけた。

 小瓶がぶつかると、ネバネバとした白い餅のような物体が広がり、敵を巻き込んでその場に動けなくする。

 その光景を見た少年__黒豹団の幹部、シエンは自慢げに胸を張った。


「ふふん! どうッスか、オレ特製のモチモチ液は! あっはははー!」

「おい、シエン。しゃがめ」

「へ? ヒィッ!?」


 高笑いしていたシエンに、アスワドは走り寄りながら声をかける。

 呆気に取られていたシエンはアスワドがシャムシールを振り被るのを見て、慌ててしゃがみ込んだ。

 その頭上をシャムシールが通り過ぎ、襲いかかってきたモンスターを斬り捨てる。


「あ、危なかったッス……ありがと、兄貴ぃッ!」

「ったく、油断してんじゃねぇよ」


 涙目になっているシエンに、アスワドは呆れながらその頭をペシっと叩いた。

 ちょっと心配だけど、アスワドがいるなら大丈夫だろう。

 そんなこんなで、城下町まで残り約百メートルのところまで来れた。

 あと少しだ、と思っていると__アスワドの叫び声が響く。


「おい、赤髪! てめぇも油断してんじゃねぇ!」

「は? うぉッ!?」


 どういうことだ、と俺が言う前に上から暴風が襲いかかってきた。

 思わず足を止めて見上げると、そこには__。


「まだ邪魔するのかよ……ッ!」


 黒いヘドロで構成された、災禍の竜に似た黒いドラゴンが俺たちの行手を阻んだ。

 血のように赤い双眼が俺たちを睨み、大きな翼を羽ばたかせながら俺たちを襲うと向かってくる。

 だけどその前に、青白色の影が黒いドラゴンにぶつかった。


「キュルォォォォォォッ!」

「グルォォォォォォォッ!」


 それは、セレスタイトだ。

 セレスタイトは黒いドラゴンの長い首に噛み付くと、グルリと空中で回転しながら投げ飛ばす。

 地面に落下した黒いドラゴンは敵を巻き込みながらどうにか起き上がると、セレスタイトに威嚇するように咆哮した。

 負けじと咆哮で返したセレスタイトは、翼を大きく羽ばたかせて黒いドラゴンに飛びかかる。


「キュルォォッ!」

「グルゥッ!?」


 二体のドラゴンは空中でぶつかり合い、同時に長い尻尾を薙ぎ払った。

 二本の尻尾が衝突すると、鈍い音と共に衝撃波が巻き起こる。


「グル、ウゥ……ッ!?」

「キュルォォォォォッ!」


 二体の尻尾の打ち合いは、セレスタイトに軍配が上がった。

 怯んだ黒いドラゴンの懐に飛び込んだセレスタイトは、両腕で黒いドラゴンの肩を掴む。

 そして、空中で巴投げするように後方に回転すると、そのまま黒いドラゴンを投げ捨てた。


「グルアァッ!?」


 投げられた黒いドラゴンは勢いよく城下町の門に背中からぶつかり、その衝撃で扉が開け放たれる。

 城下町の方へと転がった黒いドラゴンが悶えていると、セレスタイトは大きく息を吸い込んだ。


「__キュルォォォォォォォォンッ!」


 雄叫びと共に、セレスタイトは地面に悶えている黒いドラゴンに向かって、青白色のブレスを放つ。

 黒いドラゴンは声にならない叫び声を上げながらブレスに飲み込まれれ、そのまま霧散していった。

 セレスタイトはフンッと鼻息を荒くさせると、チラッと走る俺たちの方に顔を向ける。


「キュルゥッ!」

「うぉッ!?」


 そして、俺たちの方へと飛んでくると地上スレスレを飛びながら並び、乗れと言わんばかりに顎をしゃくった。

 すぐに俺たちが背中に乗り込むと、セレスタイトは翼を羽ばたかせて加速し、そのまま開け放たれた城下町に飛び込んだ。


「よっしゃあッ! ようやく突破だ!」


 ようやく、俺たちは城下町へと入ることが出来た。

 セレスタイトは地上に降り立ち、俺たちを降ろしてから追いかけてくる敵に向かっていく。


「キュルッ!」


 行け。そう言っている気がした。

 セレスタイトに見送られた俺たちは、誰一人いない無人の城下町の大通りを見据える。

 あとは、城に__闇属性がいる場所に行くだけだ。


「みんな、ありがとう……ッ!」


 戦場では今もなお、みんなが戦っている。

 少しでも被害が少なくなるように、早く闇属性を倒さないとな。

 俺たちは戦場に背中を向けて、走り出した。



  

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