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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第二章『ロックバンド、セルト大森林でライブをする』

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二曲目『命がけダイブ』

 セルト大森林。

 その名の通り深い森が広がっているこの場所は、日没にはまだ早いのに日の光を遮る木々のせいで薄暗かった。

 いや、薄暗いはずだった。


「森の中で炎を吐き出すなよぉぉぉ!?」


 後ろから追いかけてくるワイバーンが吐いた炎のせいで木々は燃え、明るくなっていた。

 走りながら思わずワイバーンに文句を言うと、咆哮で答えてくる。


「も、森が燃えてもお構いなしって感じだね」

「ハッハッハ! モンスターにそんなのは関係ねぇんだろうな!」


 走りながら真紅郎とウォレスが声をかけてくる。やよいは喋る気力がないのか、無言で走り続けていた。

 それにしても、このままじゃまずい。

 ロイドさんたちとの戦い、王国からの追っ手を追い払うのに使ったライブ魔法、そこから夜通し走っていた俺たちには__魔力も体力も限界だった。

 戦うことも出来ず、ひたすらあのワイバーンが諦めるまで逃げるしかないけど……諦めてくれる様子はない。


「クソッ、どうする……」


 悪態を吐きながらこの状況を打破する作戦を考えるけど、パッとは思いつかない。

 そうしている間にもワイバーンとの距離は縮まっていく。これじゃジリ貧だ。


「やるしか、ないのか……ッ!」


 体力も魔力もほとんど残ってないけど、こうなったら仕方がない。戦うしかないか。

 だけどそもそもワイバーンを倒せるほどの実力は俺たちにないから、追い払うか隙を見て逃げるしか出来ない。

 それでも、今の状況をどうにかするにはそれしかない!


「ウォレス! 戦う元気はあるか!?」

「ハッハッハ! ギリギリあるぜ!」

「真紅郎は!?」

「あ、あまり動けるほどの体力はないけど、サポートぐらいなら出来るよ!」

「よし! 俺とウォレスで前衛、真紅郎は俺たちのサポートと中距離からの攻撃! 追い払うか隙を見て逃げるぞ!」


 ウォレスと真紅郎に指示を出すと、やよいが息を荒くしながら声をかけてくる。


「た、タケル! あたしとサクヤは!?」

「やよいは、サクヤを連れて逃げろ!」

「は、はぁ!?」


 俺の作戦にやよいが噛みついてきた。


「ふざけないでよ! タケルたちだけに戦わせるなんて、ありえないから! 戦うなら全員一緒でしょ!?」

「バカ! お前の武器は斧だろ!? どうやって戦うって言うんだ!」

「だから何!? あたしも前衛で戦えばいいでしょ!」

「死ぬかもしれないんだぞ!」

「それはタケルたちも同じでしょ!」


 走りながら言い争っているとワイバーンが炎を吐き出したのが見え、咄嗟にやよいの腕を掴んで炎から逃れる。

 炎は俺たちを分断するように伸びていき__俺とやよいの二人、真紅郎とウォレス、サクヤの三人に分けられてしまった。


「くっ……真紅郎!」

「分かった!」


 真紅郎は何も言わなくても分かったのか、そのままウォレスとサクヤと一緒に走る。俺はやよいと一緒に真紅郎たちと離れるように走り出した。

 二手に別れてワイバーンを撒こうとしたけど、ワイバーンは真紅郎たちには目もくれずに俺たちを追いかけてきた。


「少しは迷えよ!? やっぱり俺の防具服がドラゴンの素材を使ってるからなのか!?」

「ちょ、タケル! 一人で走れるから!」


 やよいに言われて手を引きながら走っていたことに気付き、手を離す。

 遠くの方で真紅郎たちが俺たちの方に向かってこようとしているのが見え、俺は叫んだ。


「__いいからお前らは逃げろ! こっちはどうにかする!」


 真紅郎たちは少し迷っている様子だったけど、すぐに頷いて離れていった。


「ど、どうにかするってどうするの!?」

「ちょっと待て! 今、考えてる!」


 やよいに急かされながら、必死に考える。

 この状況じゃドラゴンと戦うのは無謀だ。かと言ってこのまま逃げきれるはずもない。

 どうするか、とふと周りを見渡して、ある作戦を思いついた。

 

「やよい! 周りの木を斬り倒してくれ!」

「__分かった! <フォルテ>!」


 俺の呼びかけにすぐに答えたやよいはアクセサリーになっている<魔装>を展開し、斧型の赤いエレキギターを手に持つと一撃強化の<音属性魔法>を使ってから、思い切り振り被った。


「せやぁぁぁぁ!」


 怒声とともに振り回された斧は、周りの木を斬り払った。斬られた四本の木々は俺たちとワイバーンの間に倒れ込み、行く手を阻む。

 突然倒れてきた木々にワイバーンは少し足を止めると、その場で一回転して長く太い尻尾で薙ぎ払った。


「ナイス! 今の内に逃げるぞ!」


 俺の作戦通りに事が進み、これで少しだけ時間が稼げた。

 今の内に出来るだけ離れようと、やよいと一緒に森の中を走り抜ける。


「あ、あたしでもこれぐらいは出来るんだから!」

「悪かったよ! でもあいつと戦うのはなしだ!」


 自慢げに話してくるやよいを窘めると、やよいは面白くなさそうに俺を睨んできた。


「あたしだって戦える!」

「あいつ相手は危ないだろ!」

「そんなの知ってる! あたしはみんなの中で一番弱い……だけど……」


 やよいの声は徐々に弱くなり、つり上がっていた目は悲しげなものに変わっていた。


「あたし、そんなに頼りない、かな?」

「ち、違う! そんなことない! でも、俺は……」


 今にも泣きそうな表情で言われ、すぐに否定した。

 やよいが頼りないなんて思ったことは一度もない。むしろ、いつも助けられてるぐらいだ。

 だけど、俺は……。


「__グルォォォォォォォ!」


 話を遮るようにワイバーンが雄叫びを上げ、スピードを速めてきた。とりあえず今は逃げ切ることを考えよう。話はその後だ。

 足場の悪い森の中を走っていると、視界の先に光が漏れだしていた。どうやら森を抜けられそうだ。

 光が射し込む先に向かって走っていくと、徐々に森が開けてきている。そして、とうとう森を抜けた。


「__え?」


 __抜けた先は、崖だった。

 その崖はかなり深く、その下には川が流れている。これ以上進むことは出来ない。かと言って、戻ろうにもワイバーンが迫ってきている。

 逃げ道が、ない。絶望的な状況に思考が止まってしまった。


「た、タケル!」


 やよいの呼びかけに我に返ると、ワイバーンがすぐそこまで近づいてきている。

 このままだとやられる……仕方ないッ!


「__南無三!」

「え? た、タケル? ま、まさか……ッ!?」


 覚悟を決めた俺は、やよいの手を掴む。最初は戸惑っていたやよいは、すぐに俺の考えていることが分かったのか青ざめていた。

 やよいが何か言う前に、俺は一歩踏み出す。


 そして、俺はやよいと一緒に崖から飛び降りた。


「え、えぇぇぇえぇぇぇぇぇぇ!?」


 やよいの絶叫を聞きながら、川に向かって落下していく。

 めちゃくちゃ怖い。自分でもバカなことをしているという自覚はある。

 だけど、今はこれしか助かる道はない。


「__<レント!>」


 俺は落下しながら、物体の速度を低下させる魔法を自分にかける。少しだけ、落下速度は下がった。


「<ブレス><スピリトーゾ!>」


 ブレスで魔法を接続させ、魔法の効果を強化するスピリトーゾをかける。一段と落下速度は下がったけど、まだ速い。

 だけどこれ以上魔法は使えない。魔力が底をついてしまった。

 川に落ちるまでもう時間はない。落下しながらやよいの手を引き、抱きしめる。


「なっ!? た、タケル!?」


 驚いているやよいを無視して、背中を川に向ける。少しでも、やよいを守れるように。

 そして、背中に強い衝撃が走るのと同時に俺たちは川に落水した。

 衝撃で息が強制的に吐き出され、俺の中の酸素が泡となって消えていく。

 口の中に水が入り、息が出来ない。


 そして、俺の意識は遠のいていき……真っ暗になった。



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