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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第十五章『くだらない戦争に音楽を』

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七曲目『激しさを増す空中戦』

「四番艦が被弾! 左翼消滅! 飛行不能!」


 光線によって左翼を消滅させられた機竜艇の四番艦は、黒煙を噴き出しながらゆっくりと地上に向かって落ちていく、

 そして、四番艦はそのまま地面に墜落し、敵を薙ぎ倒しながら停止した。


「ちぃッ! 隊列を組み直せ! また来るぞ!」


 そこで、ベリオさんが全艦に指示を出す。

 旗艦の機竜艇を後方に、残りの三隻が前に出て左右に並んだ。

 すると、城の前方に展開されていた黒い魔法陣がググッと上を向き、そこからまた黒い光線が放たれる。

 黒い光線は空へ向かって伸びていくと、上空で弾けた。


「__上空から無数の魔力反応! 緊急回避!」


 弾けた瞬間、ミリアが声を上げる。

 すぐに機竜艇艦隊は船体を斜めにしながらその場から離れ、空から降り注いだ雨のような黒い魔力弾を避けた。

 だけど、地上にいる味方陣営に無数の魔力弾が襲い、爆音と共に味方たちが吹き飛ばされている。

 そして、避けきれなかった魔力弾が俺たちが乗っている機竜艇に直撃した。


「くぅッ!? ひ、被害は!?」

「問題なし! だけど、威力が高すぎる!」


 被弾した機竜艇がグラグラと揺れ動き、ボルクが被害状況を報告する。

 機竜艇の装甲はそう簡単には打ち破れないだろうけど、あまり被弾すると流石に墜落しそうだ。

 地上にいる味方たちも雨のように降り注いでくる魔力弾を避けながら戦うのは、無理がある。

 俺はすぐに、やよいの方に目を向けた。


「やよい!」

「うん、分かった!」


 やよいを呼ぶとすぐに察したのか、やよいがギターを俺に投げ渡してくる。

 ギターをキャッチしてから、やよいとすれ違って立ち位置を変えた。

 やよいはマイクを握ると、鋭い目つきで城の方を睨む。


「これ以上は、やらせない__<Angraecum>」


 やよいが曲名を告げてから、俺はギターの弦を静かに弾き鳴らす。

 サクヤの静かに奏でるピアノサウンドと、アコースティックギターの切なさを感じさせる音色が合わさり、イントロが始まった。

 いつもの激しいドラムも大人しく、色気のあるベースラインが混じり合う。

 そして、やよいはゆっくりと息を吸ってから、歌い始めた。


「陽だまりのような 温もりを 残してキミは 旅立つの? 果てしなく遠い 世界に向かって キミは一人きり 羽を残して」


 やよいの優しい歌声が、戦場に広がっていく。

 すると、俺たちの足元に紫色の魔法陣が展開された。


「自由を求める 翼できっと キミは旅に出る ボクを 置き去って」


 紫色の魔法陣からふわりと、シャボン玉のような光が漂い始める。

 シャボン玉はそのままゆっくりと上空へ浮かび上がると、魔力で出来た巨大な五枚の花弁を持つ__アングレカムの花が現れた。

 巨大な花弁は俺たちと、地上にいる味方たちを守るように広がっていき、降り注ぐ魔力弾を防ぐ。

 やよいが親友のシランのために作った曲、<Angraecum>。

 そのライブ魔法での効果は、対軍防御魔法だ。


「出逢ったことは 忘れないよ 願いは遥か キミの元へと」


 サビに入り、魔力弾を防いでいた花がヒラリと散った。

 五枚の花弁が静かに弾け、また新たな花弁が増えていく。

 その一枚一枚がアングレカムの花になり、味方陣営の上空で盾になった。


「出逢ったことは 忘れないよ 歌に祈りを キミまで届け」


 これで地上にいる味方たちは空からの攻撃を気にしなくていい。

 あとは、と俺は城の方を睨む。

 そこでは魔法陣に魔力が集まっていき、バチバチと黒い紫電を迸らせていた。


「魔力増大を確認! 来ます!」

「やよい!」


 魔力を感知したミリアの声に、俺はやよいを呼ぶ。

 やよいは力強く頷くと、機竜艇の前方に巨大なアングレカムの花を出現させた。

 そして、城から一段と大きな黒い光線が放たれる。

 真っ直ぐに伸びてくる光線と、アングレカムの花が衝突し、拮抗した。


「う、ぐ……ッ!」


 ビリビリと襲ってくる衝撃に、やよいは苦悶の表情を浮かべる。

 アングレカムの盾に阻まれた黒い光線が、バチバチと激しく発光しながら機竜艇を押し込もうとしていた。

 だけど、やよいは負けたりしない。


「あたしと、シランの絆を__ナメるなぁぁぁぁッ!」


 やよいの怒声と共に、アングレカムの盾に魔力が注ぎ込まれる。

 そして、とうとうビームを弾き飛ばした。

 光線を打ち終えた城の魔法陣が、また魔力を集め始める。

 そこで、ミリアが声を張り上げた。


「このまま突っ込みます! 盾はそのままで! 旗艦を戦闘に縦に並んで下さい!」


 ミリアの指示に俺たちが乗っている機竜艇を戦闘に、残りの三隻が縦一列に並ぶ。

 アングレカムの盾を展開したまま、俺たちは城に向かって突っ込んだ。

 城の魔法陣から今度は光線が連射され、防ぐアングレカムの花弁に徐々に穴が空いていく。

 それでも、破られることはない。やよいとシランの絆を表すように、この盾は堅牢で敗れるはずがない。


「やよい! チェンジ!」


 そこで、俺は動き出した。

 やよいにギターを返してから、マイクの前に立つ。

 柄からマイクを取り外した俺は、振り返りながらドラムを叩いているウォレスに向かって投げ渡した。


「カモン、ウォレス!」

「ハッハッハ! Got your back!」


 そう言ってウォレスはドラムスティックを上へ投げ、飛んできたマイクを掴み取る。

 ニヤリを不敵に笑ったウォレスは、大きく息を吸い込んだ。


「To be continued……I’ve been waiting for long time(続けよう……待っていたぜ、この時を)」


 低い声で言葉を紡いだウォレスは俺にマイクを投げ返し、クルクルと回って落ちてきたドラムスティックを見ないで掴む。

 そして、クラッシュシンバルを思い切り叩きつけた。

 さっきまでの静かな演奏は爆発したように激しい演奏に切り替わり、ウォレスの雄叫びのようなドラムにギターとベース、キーボードの音色が追従する。

 縦ノリのガンガンと激しいロックな演奏に呼応されるように、俺はマイクに向かって歌声を叩きつけた。


「打ち上げろ! 夜空に咲く花 満開の花を 約束だ! 世界を彩るこの夜空だけ」


 次の曲は、<Fireworks>。アングレカムの盾を展開したまま演奏が始まると、機竜艇の真上に紫色の魔法陣が展開された。

 魔法陣に俺たちの魔力が集まっていき、徐々に回転していく。


「儚く 散る 火花はまるで夏の蛍 か弱く 光る 力強いその生命」


 狙いは今もなお光線を連射している、城の魔法陣。

 どんどん回転していく魔法陣に、巨大な魔力の塊が作り上げられていった。


「この汚い世界は ホントは綺麗なんだと 信じてる だから俺は仮初でも 構わない 見せてやる」


 人差し指を城に向け、口角を上げて笑う。

 サビに入る直前で俺は、突き出していた人差し指を銃のように構え、引き金を引いた。


「This world is beautiful!」


 魔法陣から爆音と共に、紫色の巨大な魔力の塊が放たれる。

 魔力の塊は城の前方に展開されていた魔法陣に直撃し、ビリビリと大気を震わせた。

 

「Fireworks! 俺たちがそうさ Fireworks! でっかい花火 Fireworks! 世界を彩れ 一瞬でもいい 俺たちは生きてる この世界は 最期は優しい 一瞬だけ咲き誇る 夢花火」


 <Fireworks>の効果は、花火のような魔力の塊を撃ち放つ、高威力殲滅魔力砲撃。

 そのまま魔力の塊を撃ちまくり、相手も光線を連射してきた。

 魔力の塊と光線がぶつかり合い、交錯する。だけど、こっちにはまだアングレカムの盾が残っている。

 魔力の塊を連続で発射しながら、アングレカムの盾で防ぎつつそのまま突進していった。

 サビが終わると、ウォレスがドラムを叩きまくる。

 激しいドラムストロークに合わせて、機竜艇の上に展開されていた魔法陣にどんどん魔力が集まっていき、巨大な魔力の塊になっていった。


「__ぶっ飛べ(ブラストオフ)


 ウォレスはそう呟くと、一段と強くスティックをドラムに叩きつける。

 それが引き金になり、魔法陣から巨大な魔力の塊が轟音を響かせながら放たれた。

 連続で放たれた光線が当たってもびくともせずに、魔力の塊はそのまま真っ直ぐに向かっていく。

 そして、爆音と共に城の前方に展開されていた魔法陣を巻き込みながら、花火のように激しい火花を散らして爆発した。


「よっしゃあぁぁぁッ!」


 城の魔法陣が霧散し、それを見たウォレスがガッツポーズする。

 機竜艇は右に旋回しながら城から離れ、陣形を整えた。

 地上では少しずつ味方陣営が敵陣営を押し込み、進軍している。


「タケル様! 上空の敵はあらかた片付けましたので、そろそろ地上に!」

「分かった!」


 ミリアの言う通り、上空にいた敵はほとんどいない。これなら、機竜艇艦隊に任せても大丈夫そうだ。

 俺たちを乗せた機竜艇は旋回しながら地上に向かって降りていき、徐々に地上が近づいてくる。

 このまま飛び降りて__そう考えていた、その時。


「……まだ」


 サクヤがボソッと呟いた。

 そして、その言葉通り、まだ俺たちは地上に降りられそうにない。


 敵陣営の後方で、また黒い魔力が噴き上がる。

 

 噴き上がった魔力は形を変え、巨大な四足歩行のドラゴンへと変貌した。

 しかも、その数は五体。それを視認した機竜艇はすぐに急上昇し、上空へと舞い戻る。


「くッ……申し訳ありません、まだ皆さんを降ろせそうにありません」


 悔しそうにミリアが呟くと、五体のドラゴンだけじゃなく新たに無数のワイバーンが現れ、機竜艇に向かってきていた。

 旋回しながら全力で逃げる機竜艇の背後を、ワイバーンの群れが追いかけていく。


「ちぃッ! 後ろをつかれた! 振り切れねぇ!」


 伝声管からベリオさんが苛立たしげに舌打ちする声が聞こえてきた。

 あの数のワイバーンから逃げるのは至難の業だ。

 だったら、俺たちがどうにかするしかない。


「ワイバーンたち、あと地上にいる五体のドラゴンもどうにかしないとな……だったら、バンバンライブ魔法をやっていくしかない」


 そう判断した俺は、すぐにみんなの方に目を向けた。


「テンポ上げるぞ! <パラダイム・シフト>、<流花夢走>、<花鳥風月>!」


 俺の指示に全員が力強く頷いて返し、演奏が始まる。

 まずは、<パラダイム・シフト>だ。

 激しい演奏が、サクヤの切なさを感じさせる滑らかなピアノサウンドによって切り替わり、リズム隊の二人の演奏が加わる。

 力強くも細やかなドラムが刻むビート、どっしりとしたクールなベースライン。

 そこに、やよいの落ち着いた雰囲気のギターサウンドが混じり合い、グルーヴが生まれていた。

 イントロに肩を揺らしながら、俺はみんなに手で合図する。すると、俺の意図を正確に察した全員が、スローテンポの演奏から軽快なジャズのリズムに変化させた。

 踊るように、流れるように、劇的に変化した演奏に合わせて、サビから(・・・・)歌い始める。


「Utopiaすら 霞んで見える その旅路 この先はまるで 蜃気楼のよう 掴めない 僕は変えてやる 自分で見つける 命の意味」


 ラストのサビから入った<パラダイム・シフト>の効果によって、機竜艇を追いかけていたワイバーンの群れの速度が、ガクッと遅くなる。

 対軍用デバフ効果、敵と認識している者の動きを遅くさせるライブ魔法だ。

 それはワイバーンの群れだけじゃなく、地上にいる敵も同様に遅くさせた。

 格段に遅くなったワイバーンの群れに、機竜艇艦隊は急旋回しながら左右に分かれ、群れに船側を向ける。


「全艦隊、一斉砲撃!」


 そして、ミリアの号令で船側の砲台から、砲弾を撃ち始めた。

 ついでに俺たちも紫色の魔力の塊を放ち、動きが遅くなっているワイバーンの群れは直撃を受けて墜落していく。


「それが僕だけの 僕のための パラダイム・シフト」


 腹の奥底から搾り出すようにビブラートをかけたロングトーンで歌い上げ、演奏が終わる。

 徐々にフェードアウトしていく演奏を聴きながら、大きく息を吸い込んだ。


「斬り裂け 未来を覆う 雲を この魂は 大空を駆ける 流れる 流星のように 永久に」


 声を張り上げてサビを歌うと、フェードアウトしていった演奏が息を吹き返したように激烈に再開される。

 俺のシャウト、ウォレスの荒々しいドラム、真紅郎の地を這うベース、やよいの歪んだギター、サクヤの疾走感のあるキーボード。

 その全てが合わさって始まった<流花夢走>によって、機竜艇の周りに無数の紫色の魔法陣が展開された。

 イントロが終わると一瞬の間を空け、そのままラストのサビに入る。


「狂い咲け 未来で会える 花よ 君がいる場所 そこに咲いている 何処かに いるはずの 君へ 斬り裂け 未来を覆う 雲を」


 激しさをそのままにラストのサビを歌うと、展開していた魔法陣から魔力の刃が放たれた。

 対軍殲滅魔法の無数の刃が、墜落していたワイバーンの群れを斬り裂いていく。


「この魂は 大空を駆ける 流れる 流星のように 永久へ」


 輪切りにされたワイバーンは黒い魔力になって霧散し、そのまま魔力刃が地上にいる敵にも襲いかかる。

 一体の巨大な四足歩行のドラゴンは身体中に傷を刻まれ、地響きを起こしながら倒れ伏した。

 そこを、地上にいる味方たちが攻撃し、トドメの一撃を受けて霧散する。


「夢から 醒めてまた僕は 何処へ?」


 激しい演奏が穏やかになり、最後のフレーズを歌い上げた。

 これで上空の敵は片付けた。あとは、地上にいる残りの四体のドラゴンだ。 ドラゴンは魔力刃で傷つきながらも、進軍している。大きな四肢を振り上げ、近づいてきた味方たちを踏み潰し、風圧で吹き飛ばしていた。

 あのままだと攻撃するのは難しい。だから、攻撃しやすいように幻惑(・・)させる。

 静かな演奏そのままに、次の曲に入った。


「花よ 鳥よ 雄弁に咲き乱れ 大空を舞う」


 ゆったりとしたピアノサウンドの横ノリのリズムに合わせて、語りかけるように歌い上げる。

 ビブラートを効かせたロングトーンが響き終わるのと同時に、力強いギターサウンドがかき鳴らされた。

 跳ねるのようなピアノ、疾走感のあるドラムストローク、スリーフィンガーによるベースの速弾き。

 サビから始まった<花鳥風月>によって、機竜艇からヒラヒラと紫色の花弁が舞い踊った。


「今はまだ 咲かない 大輪 今はまだ 孵らない 未来」


 空から舞う降りてくる無数の花弁が、敵陣営に降り注ぐ。

 すると、敵たちは動きを止め、見当違いの方向に攻撃し始めた。

 ドラゴンたちも酩酊したように足取りがおぼつかなくなり、フラフラしている。

 舞い散る花弁に音が反響し、花弁が視界を惑わせる__対軍幻惑魔法。 

 それが、<花鳥風月>のライブ魔法での効果だ。


「風よ 月よ 颯爽と駆け抜け 夜空を照らす 今はまだ 飛べない 翼 今はまだ 晴れない 暗雲」


 俺たちの力で幻惑している敵を、味方陣営が攻撃して倒していく。


「__好機だ! 全軍突撃! タケルたちに遅れを取るな!」


 そこで、地上にいるレイドが俺たちにも聞こえるほどの大声で指示を出した。 味方たちは雄叫びを上げながら進軍し、敵を薙ぎ倒していく。

 だけど、巨大なドラゴン相手に苦戦している様子だ。

 

「ミリア! 地上に近づいてくれ! 地上にいるみんなを援護する!」

「分かりました! 旗艦は地上へ、残りの三隻は上空で残りの敵を!」


 俺の呼びかけに答えたミリアの指示で、俺たちを乗せた機竜艇が地上に向かって降下していく。

 俺たちによって幻惑されているドラゴンに機竜艇が近づいていき、俺はニヤリと笑みを浮かべた。


「まだまだ続くぜ、俺たちのメドレーライブは……」


 そう言って俺はマイクを握りしめ、声を張り上げる。


「ここから後半戦だ! どんどん行くぜ! <君は僕の風になる>」


 急降下していく機竜艇で、俺は次の曲を告げた。



 

 

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