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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第十五章『くだらない戦争に音楽を』

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二曲目『絶望の始まり』

 全員同時にガーディの声で話すモンスターたちを睨んでいると、クツクツと不気味に笑い出す。


「ククク……ここまでたった五人でやってきたのは褒めてやろう。さすがは私が召喚した勇者たちだ。とはいえ、それは勇気ではなく無謀と呼ぶものだろうがな」


 俺たちRealizeはガーディ__闇属性によって、この異世界に召喚された。

 世界を脅かす<魔族>を討伐する勇者。そう俺たちを騙してた闇属性の本当の目的は使い勝手のいい駒として、そして俺たちの魔力を使った兵器に転用するためだ。

 騙されていたことに気付いた俺たちを、ガーディは殺そうとした。それから、俺たちの旅が始まった。

 全部、こいつが仕組んだこと。全部こいつのせいだ。

 でも、それも今日でおしまいだ。


「お前の目論みは、俺たちが絶対に止める。この異世界も、俺たちの世界も、お前の好きなようにはさせないからな。ガーディ……いや、闇属性!」


 剣の切っ先を向けながらはっきりと言い放つと、目の前にいる全てのモンスターが三日月のように口角を引き上げた。


「ほう。やはり私の正体、そして私の目的にも気付いていたようだな」

「ハンッ、てめぇの目的はオレたちがぶっ壊してやるぜ!」


 拳を手のひらに打ち付けながら声を張るウォレスを、闇属性は嘲笑う。


「ククッ、この圧倒的な兵力差を前に、よくもそんな大口を叩けるものだ。お前たちに勝機などあるはずがないと言うのに」

「んだと、てめぇ……ッ!」

「待って、ウォレス。熱くならないで」


 挑発してきた闇属性にウォレスが動こうとするのを、真紅郎が止める。

 鼻息を荒くしているウォレスの前に立った俺は、闇属性に対して問いかけた。


「お前は世界を、俺たちの世界を巻き込んでまで何をするつもりなんだ?」


 闇属性がこの異世界を滅ぼして、俺たちの世界までも掌握しようとしているのは知っている。だけど、その理由までは分からないままだった。

 すると、闇属性は鼻を鳴らす。


「今から死ぬお前たちに話す必要はない。それでも聞きたいのなら__私がいる城まで来てみろ。そうすれば、褒美として教えてやろう」

「あぁ!? てめぇがここまで来やがれ!」

「ウォレス! 落ち着いてってば!」


 教えるつもりはない、ってことか。

 なら、俺たちがすることはたった一つだけだ。


「だったら首を洗って待ってろ。お前をぶっ飛ばして、俺たちは絶対に元の世界に戻る! お前の思い通りにはさせない!」

「せいぜい足掻くがいい。その大口がいつ閉じるのか、見物させて貰おう」


 余裕そうな言い方に苛立っていると、闇属性は思い出したように話を続けた。


「あぁ、そうだ。お前たちはまるで善戦しているつもりのようだが、今までの戦闘はただの様子見(・・・)に過ぎない。ここからが本番だと言っておこう」

「様子見? あれで?」


 やよいが青ざめた顔で唖然としていると、闇属性は不気味な笑い声を上げる。


「おかしいと思わなかったのか? 私が作り出した闇のモンスターに攻撃が効いている(・・・・・)ことが」

「__そうだ。なんで、ボクたちの攻撃が……闇属性の魔力は、光属性以外の攻撃を無効化するはずなのに」


 闇属性の指摘に、真紅郎が目を見開きながら呟いた。

 そして、悔しげに歯を食いしばりながら闇属性を睨む。


「まさか、最初から手加減(・・・)していた……ッ!」

「正解だ、真紅郎。お前たちがどれほど成長したのか見たくてな、攻撃無効を切っていた。だが、それももう終わりだ」


 肯定する闇属性の声を皮切りに、動きを止めていたモンスターたちが動き出した。

 黒いヘドロの体がメキメキと音を立てながら蠢き、形を変えていく。

 四足歩行の人型だった体が一回り大きくなり、二足歩行になる。

 ただのヘドロだった体が刺々しい頑強そうな鎧姿になり、その手には鋭い槍と大きな盾が装備されていた。

 そして、黒い騎士となったモンスターたちは盾を構え、まるで壁のように隊列を組み始める。


「__ここからが本当の絶望だ。足掻け、矮小な生物たちよ。全てを飲み込み同化する闇の力を、お前たちに味合わせてやろう」


 その言葉を最後に、黒い騎士たちが一糸乱れぬ統率の取れた動きで駆け出し、左手に持った槍を一斉に突き出してきた。


「うわッ!?」


 向かってくる無数の槍を弾きながら、全員同時に後ろに下がる。

 攻撃を外した黒い騎士たちは槍を引き戻し、右手の盾を前に突き出しながら一歩ずつ俺たちに近づいてきた。


「まずいよ、タケル! このまま囲まれたら……ッ!」

「真紅郎はあいつらの動きを止めてくれ! 俺とウォレス、サクヤで囲まれないように動き回るぞ! やよいは真紅郎を守りながら俺たちの援護を頼む!」


 真紅郎と同じことを考えていた俺は、すぐに全員に指示を出す。

 統率が取れたこれだけの数の敵に囲まれれば、最後には全方位から槍で貫かれて死ぬ。

 その前に、とにかく動いて包囲されないようにするしかない。

 俺とウォレス、サクヤが弾かれたように飛び出すのと同時に、真紅郎は弦を弾いて黒い騎士たちに魔力弾を放った。

 だけど、黒い騎士の鎧に着弾した瞬間、爆発することなく鎧の中にズブズブと飲み込まれていく。


「だ、ダメだ! もう攻撃が無効化される!」

「ヘイ! てことは、オレたちのもか!?」

「……捕まっても、終わる」


 予想通りだったのか真紅郎が悔しげに叫ぶと、黒い騎士に攻撃しようとしていたウォレスとサクヤが立ち止まった。

 すると、その隙を狙って黒い騎士の一人がサクヤに向かって槍を突き出す。


「サクヤ! 危ねぇ!」


 そこで、咄嗟にウォレスが動き出し、サクヤを貫こうとしていた槍を両手の魔力刃で防いだ。

 攻撃は防げたけど、槍と接触していた魔力刃が侵食されるように黒く染まっていく。


「ウォレス、魔力刃!」

「うぉぉぉッ!?」


 それに気付いたサクヤが叫ぶと、ウォレスは慌ててドラムスティックに展開していた魔力刃を消した。


「ウォレス、サクヤ! すぐにそこから離れろ!」

 

 このままだと二人が闇属性に同化される。俺の指示に二人は即座に動き、黒い騎士たちから距離を取った。 

 闇属性が言っていた通り、今までは俺たちの成長を見定めるために攻撃の無効化を切っていたらしい。

 実質、攻撃出来るのは光属性が使える俺しかいない。


「俺が道を作る! みんなは後ろから……」

「ヘイ、タケル! この数相手にお前一人だけなんて、無謀だろ!?」

「でも、それしか方法がないだろ!」


 呼び止めるウォレスの声を振り切り、光属性の魔力を引き出す__その前に、やよいが一歩前に出た。


「や、やよい!?」

「タケル、みんな。ちょっと下がってて」


 驚く俺を無視して、やよいは真剣な眼差しで近づいてくる黒い騎士たちを見据えている。

 そして、斧を思い切り振り被り、ゆっくりと深呼吸した。


「あいつらに攻撃が効かないなら……足場を(・・・)崩してやる!」


 そう言って、やよいは跳び上がる。

 思い切り振り被った斧を全体重を乗せて振り下ろし、声を張り上げた。


「<フォルテッシモ><ディストーション!>」


 一撃超強化(フォルテッシモ)を使い、地面に深々と斧を突き立てる。

 そして、地割れを引き起こしながら超強化された音の衝撃が地面を駆け抜け、黒い騎士の集団の足場を崩した。

 地面が大きく揺れ動き、黒い騎士たちがバランスを崩して倒れる。割られた地面に足を取られ、身動きが取れなくなっている。

 やよいの作戦が成功し、黒い騎士たちの統率が崩れた。


「ナイス、やよい!」


 見事な作戦に、やよいに向かって親指を立てる。

 だけど、やよいは地面に突き立てた斧を引き抜くと、その場でグルリと回った。


「まだまだぁぁぁ!」


 怒号を響き渡らせ、やよいは右足を軸に左足を軽く上げる。

 体幹の捻りと共に上げていた左足を前に出し、遠心力を使って斧を横に振り抜いた。


「__<ディストーション!>」


 まるで野球のバッティングフォームのように綺麗なスイングで斧を薙ぎ払いながら、ディストーションを使う。

 歪んだギターの音と共に、音の衝撃波が波状に広がっていった。

 音の衝撃波はバランスを崩している黒い騎士たちを襲い、ダメージはなくても吹き飛ばすことには成功している。

 やよいは振り抜いた斧を地面に突き立てると、鼻を鳴らした。


「あんまりあたしたちを舐めないでよね」

「ハッハッハ! 痺れるぜ、やよい!」


 やよいの活躍に、ウォレスが豪快に笑いながら親指を立てる。

 まさかディストーションを地面じゃなくて振り抜く形で使うなんて、と目を丸くして驚く。

 だけど、これで道が出来た。


「チャンスだ! 行くぞ!」


 やよいが作ってくれた道を、一気に駆け抜ける。

 黒い騎士たちはバラバラに吹き飛ばされ、まだ隊列が組めていない。

 この隙に城まで行こう__そう思っていた。


「__タケル!」


 そこで、後ろを走っていた真紅郎が叫んだ。

 同時に、ゾクッと寒気が走り抜ける。

 本能に従ってしゃがみ込むように上体を下げると、その上を鋭い風切り音が通り過ぎた。


「な、なんだ!?」


 慌てて下がると、その正体を視認する。

 そこにいたのは、黒い騎士たちとは別の存在。

 機械のように無感情な能面、虚な瞳。鍛えられた肉体に黒い甲冑を纏った__人間(・・)

 その姿には見覚えがあった。それは、俺たちがマーゼナル王国に忍び込んだ時のこと。

 地下水道を抜けた先にあった、地下研究施設。そこに並んでいた培養カプセルな物に入っていた__。


「こいつら、<闇の兵士>だ……ッ!」


 マーゼナル王国で密かに行われていた、<強化兵士計画>。

 致死量を超える闇属性の魔力を注ぎ込むことで兵士を無理やり強化するという、非人道的な研究によって生まれた闇の兵士。

 その一人が目の前に現れ、手に持っていた剣で攻撃してきたようだ。


「ただでさえ黒い騎士もいるってのに……」


 闇の兵士たちはどこから現れたのか、その数をどんどん増やしていく。

 その数はざっと見て__千人以上。

 万を超える黒い騎士となったモンスターに加えて、強化された闇の兵士千人以上。

 気付くと黒い騎士たちは陣形を整え、俺たちを囲み始めていた。

 

「この闇の兵士、黒い騎士よりも間違いなく強いぞ」

「ヘイヘイ、こいつはキツイぜ?」

「この状況はボクたちに不利すぎるよ」

「……殴れる分、まだ兵士の方がマシ?」

「でも、強さは黒い騎士よりも上でしょ? 結局、厳しいのは変わらないって」

「きゅきゅ……」


 背中合わせになって固まった俺たちは、取り囲む黒い騎士と闇の兵士を睨む。

 俺だけじゃなく、全員の額からは冷や汗が流れていた。

 俺たちがいる場所は、城下町から数百メートル離れたところ。城までまだ遠い。


「__気を引き締めろよ、みんな」

 

 ゴクリと息を呑んだ瞬間、黒い騎士と闇の兵士が動き出した。

 ここを乗り切らないと、全滅だ。

 どうにか自分を鼓舞して、剣の柄を握りしめる。


「__行くぞぉぉぉぉッ!」


 俺の叫びを合図に、絶望的な戦闘が始まった。



 

 

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