間奏『キュウちゃんの大冒険その2』
キュウちゃんの大冒険、第2話です!
「さぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 今回の目玉商品はこのドラゴン! 世にも珍しい<ニーロンフォーレル>の子供だ!」
キュウちゃんは家の影に隠れながら、ドラゴンを連れて行った男を偵察していた。
男は道行く人に声を張り上げながら、客寄せしている。
そして、その後ろには頑丈そうな鉄の檻に入れられたドラゴンの姿があった。
「他にも珍しいモンスターがいるぞ! さぁさぁ、見ていってくれ!」
男の後ろには、大きな布で出来た露天。その中にはいくつもの鉄の檻が置いてあり、その中にはドラゴンの他にもモンスターの子供が怯えている。
どうやら男は、モンスターを売る商売人のようだ。
危険なモンスターは子供の時からしっかりと躾をして育てれば、ペットとして飼うことが出来る。それが珍しいモンスターなら、高額で取引されるほどだ。
その中でもあのドラゴン__ニーロンフォーレルと呼ばれる危険なワイバーンの子供は、かなりの高額商品になるだろう。
だけど、モンスターを飼うなんて趣味は金持ちぐらいしかいない。誰もが物珍しさに冷やかすだけで、買うことはなかった。
「……ちっ、やっぱりダメか。これはもう少し、都の方に行かねぇと売れそうにねぇな」
男は舌打ちしながら、ガシガシと頭を掻く。この港町では、モンスターを買えるような金持ちはいないようだ。
そして、男は面倒臭そうにドラゴンが入った檻を露天の中に適当に投げ入れ、近くにいたもう一人の男に声をかける。
「おい、ロン! もう店じまいだ! 俺は今から飯食ってくるから、盗まれねぇように見張っとけ!」
「分かりやした、ガイムの旦那!」
ガイムと呼ばれた男は、イライラしながら露天から離れた。
見張りの細身の男、ロンはガイムがいなくなるとやれやれとため息を吐く。
「俺だってまだ飯食ってないってのに……本当、ガイムの旦那は人使いが荒いぜ」
ブツブツと愚痴を言いながら、ロンは露天の中に入っていった。
それを見たキュウちゃんは、コソコソと露天に近づく。
「きゅ……」
チラッと露天の中を見やると、ロンは欠伸をしながらイスに腰掛けていた。
キュウちゃんはキョロキョロと露天の中を見渡し、ドラゴンがいる檻を見つける。
足音を立てないように檻に近づいたキュウちゃんに気付き、ドラゴンが目を見開いた。
「きゅ、きゅるる!?」
「あぁ? なんだ?」
思わず声を上げてしまったドラゴンに、ロンが近づく。
キュウちゃんは慌てて身を隠すと、ロンは檻をのぞき込んでドラゴンを確認した。
「脅かせやがって。それにしても、お前も不運だよな。生まれたばかりだってのに、巣を見つけたガイムの旦那に攫われちまってよ。同情するぜ」
ロンは檻の隙間から指を入れると、ドラゴンは牙を剥いて威嚇する。
「ははは、そんなに怒るなよ。ま、いくら抵抗してもこの檻から出られないし、お前についた首輪も外れねぇ。この鍵がねぇとな」
そう言ってロンは、ドラゴンに見せびらかせるように鍵の束を鳴らした。
あの鍵の束の中に、ドラゴンを閉じこめている檻と首輪の鍵があるようだ。
ロンは欠伸をすると檻から離れ、イスにどっかりと背を預ける。
「ふわぁぁ……昨日は飲み過ぎたな……少し、寝るかぁ……」
ゆっくりと深呼吸して目を閉じたロンは、あっという間に眠りについた。
イビキをかいて寝ているロンを確認したキュウちゃんが、こっそりと顔を出す。
「きゅー……」
キュウちゃんが見ている先は、ロンのポケットから少し見えている鍵の束。あれを使えば、ドラゴンを檻から助け出せるかもしれない。
気合いを入れるように鼻を鳴らしたキュウちゃんは、行動を開始した。
コソコソと忍び足でロンに近づく。だけど、小柄なキュウちゃんには、ロンのポケットに入っている鍵の束には届きそうにない。
どうしたものかと首を傾げるキュウちゃんに、ロンの近くにあった檻から鳴き声が聞こえた。
「しゅるる……」
そこにいたのは、光沢のある黒い皮の蛇。<ブラックサーペント>と呼ばれる蛇型のモンスターだった。
だけど、綺麗な光沢のある黒い皮にはいくつもの傷があり、見たところ歳を取っている老体のブラックサーペントだ。
「きゅー?」
「しゅるるるる」
檻に近づいたキュウちゃんが声をかけると、ブラックサーペントは優しげな声で返す。
縦に裂けた瞳孔をしている黄色い目は攻撃的な意思を感じず、まるで孫を見るお爺ちゃんのように優しいものだった。
ブラックサーペントはドラゴンのいる方に目を向けてから、チラッとロンのポケットを見る。
「しゅるる……」
そして、ブラックサーペントはゆっくりと体をうねらせ、狭い檻の隙間から尻尾を出した。
音を立てないように動かした尻尾で器用に鍵の束を巻き取ると、静かにポケットから抜く。
「きゅー……!」
キュウちゃんは尊敬した眼差しで、ブラックサーペントを見つめていた。
ブラックサーペントは、そのまま長い体をくねらせながら鍵の束をドラゴンの檻の前に置く。
「しゅるる」
「きゅきゅ!」
一仕事終えたブラックサーペントが「行きなさい」とばかりに顔をクイッと動かすと、キュウちゃんは頭を下げてからドラゴンの檻の前に駆け寄った。
「きゅるる……」
「きゅ! きゅきゅ!」
心配そうにしているドラゴンに胸を張るキュウちゃんは、鍵の束をチャリチャリと鳴らして動かす。
この数ある鍵の中で一つだけが、ドラゴンを閉じこめている鍵だ。でも、それがどれなのかは分からない。
「きゅー……」
顔をしかめたキュウちゃんは、とりあえず数打ちゃ当たるとばかりに鍵を檻の鍵穴に差し込んだ。
まず一つ目。鍵の大きさが違う。
次に二つ目。鍵が回らない。
三つ目。鍵が小さすぎる。
「きゅー……ッ!」
ただでさえキュウちゃんの前足で鍵を差し込むのも難しいのに、正しい鍵が見つからずにキュウちゃんはイライラし始めていた。
その時、四つ目の鍵が綺麗に差し込まれ、抵抗なく回りそうだった。
「きゅー!」
ようやく正しい鍵が見つかり、喜ぶキュウちゃん。そのまま鍵を回して檻を開けようとした瞬間__。
「おいおい、何やってんだぁ?」
いつの間にか戻っていたガイムが、キュウちゃんの後ろにいた。
驚いて振り返るキュウちゃんを、ガイムは捕まえる。
「きゅー! きゅー!」
「おぉ? なんだこのモンスター。初めて見るな……こいつはいい、高く売れそうだ」
暴れるキュウちゃんを下卑た笑みで見つめるガイムは、チラッとキュウちゃんの腹……よりも下を見ていた。
「こいつ、メスか」
「__ッ!? きゅうぅぅぅぅぅぅ!?」
見られてしまったキュウちゃんは、恥ずかしそうに一層暴れ出す。
だけどキュウちゃんの抵抗むなしくガイムはドラゴンを閉じこめている檻の扉を開くと、その中にキュウちゃんを押し込んで鍵を閉めた。
「ガッハハハ! 今日の俺は運がいいな! 都に行けばこの二匹は高値で売れる! これで借金も返せそうだぜ! おい、ロン! 何を寝てる!」
「……んえ? あ、ガイムの旦那!? すいやせん、寝てました!?」
「ったく……まぁ、いい。早いところ都に行くぞ! 店を畳め!」
「へ、へい!」
わたわたと動き出すロン。ガイムはこれから手に入るだろう大金を思い浮かべて、ニヤニヤと笑っている。
キュウちゃんは忌々しげに、檻の中でガイムを睨んでいると……。
「__大変だぁぁぁぁぁぁ! モンスターの襲撃だぁぁぁぁぁぁ!?」
露天の外から鬼気迫る叫び声と共に、けたたましい咆哮が聞こえてきた。




