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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
間奏『漂流ロックバンドの異世界日常!』

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間奏『キュウちゃんの大冒険その1』

今回の主役は、キュウちゃん!

可愛い可愛い、Realizeのマスコットキャラクターのキュウちゃんの大冒険!

全3話構成でお送りします!


この話は三人称ですので、ご注意を。

 まだ空が薄暗い、夜明け前。

 とある宿の一室で、布団がモゾモゾと動き出す。


「……くあぁぁ」


 布団から顔を出したのは、一匹の白い小狐モンスターだ。

 雪のように白いモフモフとした毛、フリフリと動く尻尾。小柄な体をプルプルと震わせて欠伸をすると、額に吐いている楕円型の蒼い宝石がキラリと光る。

 キュウちゃん、という名のモンスターはクシクシと後ろ足で顔を掻くと、チラッと一緒のベッドで寝ていた人物に目を向けた。

 そこには小さな寝息を立てて眠る黒髪の少女、やよい。

 キュウちゃんの名付け親にして、ロックバンド<Realize>の女子高生ギタリストだ。

 キュウちゃんは寝ているやよいの顔に近づくと、ペチペチと頬を前足で叩く。やよいは顔をしかめて身じろぎすると、ゆっくりと瞼を開けた。


「んん……キュウ、ちゃん?」

「きゅきゅ!」


 寝ぼけながら目の前にいるキュウちゃんの名を呼ぶと、キュウちゃんは急かすように鳴き声を上げる。

 やよいは起き上がりグッと体を伸ばしてから、キュウちゃんの頭を撫でた。


「おはよ、キュウちゃん」

「きゅ!」

「はいはい、分かったって。今ご飯にしようね?」


 ピョンピョンと跳ねるキュウちゃんが何を欲しているのか分かったやよいは、クスクスと笑う。

 キュウちゃんの朝は、やよいを起こすことから始まるのだった。


「お、やよい。今日は早いな」


 身支度を整えたやよいと一緒に部屋から出ると、赤い髪をした男が笑いながら声をかけてくる。

 やよいはその男に対して、ムッとした表情を浮かべた。


「何それ? あたしがいつも寝坊してるみたいじゃん」

「事実だろ? どうせキュウちゃんに起こして貰ったんじゃないのか?」

「……ち、違うし」


 からかうように言ってくる男に、やよいは目を逸らしながらそっぽを向く。その姿を見て、男は吹き出したように笑い出していた。

 男の名はタケル、Realizeのボーカリストだ。生乾きの赤い髪を見ると、やよいが起きる前から稽古をしていたんだろう。

 タケルはやよいの頭にいるキュウちゃんに気付くと、笑みを浮かべて手を振った。


「キュウちゃんもおはよ。やよいを起こしてくれてありがとな」

「きゅきゅ!」


 タケルにお礼を言われたキュウちゃんは、自慢げに胸を張る。

 やよいは何も言い返せずに頬を膨らませながら、不貞腐れていた。

 

「おはよう、みんな」

「ハッハッハ! グットモーニング!」


 そこでまた一人、タケルたちに声をかけてくる人物。

 栗色の髪をボブカットにした女性……ではなく、男。中性的で柔和な笑みを浮かべている優しそうな男の名は、真紅郎。Realizeのベーシストだ。 

 真紅郎に続いてもう一人、大柄な男が豪快な笑い声を上げながらやってきた。

 短く切りそろえた金髪の彫りの深い顔立ちをした男、ウォレス。Realizeの外国人ドラマーだ。

 そして、最後に声をかけてきたのは……。


「……おはよ」


 眠そうに半開きの瞼を擦りながら挨拶する、白髪褐色肌の少年。

 尖った耳が特徴の、<ダークエルフ族>の少年の名は、サクヤ。Realizeのキーボードで、この異世界(・・・)の住人だ。

 これで、Realizeが全員揃った。

 ロックバンドRealizeは、元はこの世界の人間じゃない。ひょんなことから異世界に召還され、色々あって今はこの世界を漂流しているロックバンド。

 この物語はRealize五人のお話……。


「きゅー!」


 ではなく、Realizeのマスコットキャラクターのキュウちゃんのお話である。


◇◆◇◆


 Realizeは現在、旅の途中で立ち寄ったのは海が間近にある港町。潮風が吹く、活気溢れる街だ。

 この街で一泊したRealize一行は、今日は旅で必要な食料や道具を買い揃えて明日にはこの街を旅立つ。その前に、少し街を見て回ることに決めていた。

 タケルとウォレスは食料の買い出し、真紅郎とやよい、サクヤは旅の道具を買いに街を歩く。

 そして、キュウちゃんは……。


「きゅ! きゅ! きゅー!」


 ご機嫌に鼻歌を歌いながら、小さい足をチョコチョコと動かして一人……一匹で行動していた。

 道行く人に踏まれたり蹴られたりしないように道の端を歩くキュウちゃんに、誰もが目を向けている。

 それもそうだろう。可愛らしいとは言え、キュウちゃんはモンスター。しかも、見たこともないような珍しい姿をしている。

 とはいえ、キュウちゃんが何か悪事を働く訳もなく、そんな力も持っていない。それはぱっと見ただけでも分かるので、誰も危険視していなかった。

 それでも珍しいから注目の的になっているキュウちゃんは、気にした様子もなく港町を自由に歩き回る。


「きゅ! きゅ……きゅ?」


 そんな時、ふとキュウちゃんは足を止めた。

 顔を向けている先は、街の裏通り。薄暗いその道の向こうに何かを見つけたキュウちゃんは、スッと裏通りに足を踏み入れる。


「きゅー?」


 キョロキョロと辺りを見渡しながら、裏通りを進んでいくキュウちゃん。

 鼻をスンスンと鳴らしながら歩くキュウちゃんは、目的のものを見つけたのか小走りで近づいていった。


「きゅきゅ?」


 木箱が積み重ねられた場所で、キュウちゃんは首を傾げる。

 すると、その木箱の隙間から何かが恐る恐る顔を出してきた。


「きゅるー……」


 そこに現れたのは綺麗な蒼い鱗、小さくも立派な双翼、二本の足。長い首をもたげて不安そうにしているその姿はドラゴン__<ワイバーン>と呼ばれるモンスターだ。

 蒼いドラゴンはキュウちゃんを見ながら、プルプルと震えている。綺麗な蒼い鱗は薄汚れ、よく見ると首には鉄で出来た首輪が付けられていた。


「きゅ?」


 キュウちゃんは不思議そうな顔で一歩近づくと、ドラゴンはビクッと体を震わせて木箱の中に隠れる。

 そして、また怯えた様子で木箱から顔を出した。


「きゅきゅ!」

「きゅるー?」


 まるで「大丈夫だから出ておいで」と鳴くキュウちゃんに、ドラゴンは恐る恐る木箱から出てきた。

 すると、ドラゴンはギュルル……と腹を鳴らす。どうやらお腹が空いているようだ。


「きゅるー……」


 今にも泣きそうな顔をするドラゴンに、キュウちゃんは目を閉じて何か考え込む。


「きゅ!」


 そして、何か思いついたのかドラゴンに一声かけてから一目散にその場から走り出した。

 首を傾げているドラゴンはその場で少し待っていると、キュウちゃんが口に赤い果実を咥えて戻ってくる。


「きゅきゅきゅ!」

「きゅるぅ……」


 キュウちゃんは赤い果実をドラゴンの前に置くと、ピョンピョンと跳ねた。どうやらお腹を空かせたドラゴンに、赤い果実を持ってきたらしい。

 目の前にある果実とキュウちゃんを何度か見たドラゴンは、また腹の虫を鳴らした。

 ドラゴンは意を決したように果実をかじる。それから、無我夢中で果実を食べ始めた。

 キュウちゃんは美味しそうに食べるドラゴンを満足げに見つめていると、ドラゴンは申し訳なさそうに半分食べた果実をキュウちゃんの前に置く。


「きゅ?」

「きゅるる!」

「きゅー!」


 どうやらドラゴンは、キュウちゃんにも果実をあげたいようだ。

 キュウちゃんも嬉しそうに果実を食べ、二匹はあっという間に果実を食べ終える。


「きゅるるぅ」

「きゅぅぅ」


 二匹は腹を満たして、ホッと嘆息した。

 キュウちゃんはチラッとドラゴンを見やり、不思議そうに首を傾げる。


「きゅきゅー?」

「きゅるる……」


 そして、何か聞くとドラゴンは顔を俯かせて悲しげに鳴いた。

 まるで、親を探している迷子のようだ。ドラゴンは空を見上げて、涙を流す。家と家の隙間から覗かせる青い空に、一匹の鳥が飛び回っていた。


「クソッ! どこ行きやがった!」


 そこで、裏路地に苛立たしげに声を荒げた男がやってくる。

 その声を聞いた瞬間、ドラゴンはビクリと体を震わせてカタカタと怯え始めていた。


「……ん? そこにいたか!」


 そして、男はドラゴンの姿を見つけるとニヤリと口角を歪ませる。

 逃げだそうとするドラゴンだったが、男はすぐにドラゴンの首を掴んで持ち上げた。


「きゅるー! きゅるるー!」

「手間取らせやがって……もう逃がさねぇぞ!」


 暴れるドラゴンの首を締め上げ、ニタニタと笑う男。

 危険を察したキュウちゃんは、その光景を木箱に隠れながら見ていた。

 苦しそうに暴れていたドラゴンはキュウちゃんの姿を見るとハッとして、途端に大人しくなる。


「あん? なんだ、いきなり大人しくなりやがった……まぁ、いいか。早く戻らねぇと買い手がいなくなっちまうぜ」


 最初こそ訝しげにしていた男だったが、ちょうどいいとばかりにドラゴンを連れて路地裏から立ち去っていく。

 ドラゴンはキュウちゃんが男に見つからないように、逃げるのを諦めたのだ。

 去っていく男とドラゴンを見つめるキュウちゃんは、フルフルと体を震わせる。


「__きゅう!」


 それは、怒りだった。

 何も出来なかったことへの、自分への怒りだ。

 キュウちゃんは気合いを入れ直し、男を追って走り出した。

 




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