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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第一章『ロックバンド、異世界に渡る』

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四十二曲目『夜明け前』

 もうすぐ夜明けが近くなってきている。

 まだ薄暗い城下町を人目に付かないように気をつけながら走り抜け、一気に正門まで向かっていた。

 今のところ追っ手は来ていない。だけど、いつ来てもおかしくないはずだ。

 戦いで疲労した体に鞭を打ちながら、止まることなく走り続ける。早く、早くと焦る心を必死に押さえて足を動かしていると、正門が見えてきた。

 あと少し、と思ったところで真紅郎は「ちょっと待って」と俺たちを呼び止める。


「どうした、真紅郎? 急がないと追っ手が……」

「慌てないで、タケル。正門には必ず兵士がいるはずだよ。このまま無策で飛び出しても、すぐ捕まっちゃう。ボクたちが逃げようとしてることはバレてるんだから、捕まえるように命令されてると思うよ」


 冷静に考えてみたら、たしかにそうだ。

 城下町の外に出るためには、絶対に正門を通らなきゃいけない。だったら、そこで俺たちを捕まえようとするのは子供でも分かることだ。


「だったら、どうする?」

「……まずは正門の様子を見てみよう」


 真紅郎の提案に乗り、物陰に隠れながら正門の様子を観察する。

 正門は閉じられ、その前には十数人ほどの兵士が警戒するようにキョロキョロと周囲を見渡していた。

 あの人数なら頑張れば無力化させることは出来るけど、閉じられた正門を開けるのは難しい。それに、兵士はあれだけじゃないはずだ。倒してもキリがないだろう。

 どうしたらいいんだ、と歯噛みしていると正門に近づく人影に気付いた。その人は、俺たちがよく知っている__意外な人だった。


「お勤めご苦労様ぁ。こんな夜中によく働くねぇ」


 あ、アシッド!?

 俺たちは顔を見合わせて驚いた。あのあと帰るようなことを言っていたはずなのに、どうしてそのアシッドがここに?

 予想外の展開に混乱していると、正門の前に立っている兵士たちはアシッドに声をかける。


「あなたはたしか、ユニオンメンバーの……どうされました?」

「いやねぇ、ちょっとばかしお仕事が入っちゃったんだよぉ。まったく、こんな夜中に働かせるとか、勘弁して欲しいよねぇ」


 へらへらと笑いながら面倒臭そうにため息を吐くアシッドに、兵士たちは同意するように乾いた笑い声を上げる。


「んでもって、そのお仕事で今から外に出ないといけないんだよぉ。だから正門を開けてくれないかなぁ?」


 肩を竦めながら言うアシッドに、兵士は困ったように眉を潜めた。


「い、今はちょっと……」

「ん? 何か問題発生かなぁ? どうしたのぉ?」

「……王の命令により、ある者たちを捕らえないといけないのです。そこで、逃がさないように正門を開けるなとお達しが」

「あぁ、もしかしてタケルたちのことかなぁ? 話しはちょっとだけ聞いてるよぉ。でも、困ったなぁ……俺の今回のお仕事、急ぎなんだよねぇ。しかも、かなり大事なお仕事でさぁ」


 顎に手を当てて悩んでいるアシッドに、兵士は仕方ないと言わんばかりにため息を吐く。


「ユニオンメンバーの仕事の邪魔をする訳にはいきません。兵士用の出入り口を開けますので、そちらからどうぞ」

「お、いいのぉ? いやぁ、申し訳ないねぇ」


 一人の兵士が正門の横にある兵士が出入りするための小さな扉を開け、アシッドを通そうとする。

 お礼を言いながらその扉を抜けようとした瞬間、アシッドは物陰に向かって指さすと大声で叫んだ。


「あ! 今、あそこにタケルたちがいた!」

「何ッ!? 本当ですか!?」

「俺が見間違う訳がないよぉ! ほら、あそこ!」


 俺たちを見つけたと叫ぶアシッドは物陰……俺たちがいる場所とは、正反対の(・・・・)場所を指さしている。

 王様の命令に従わないといけない兵士たちは、慌てて剣を抜くとその物陰に向かっていった。


「くっ! いない! どこに行った!」

「もたもたしてると逃がしちゃうよぉ! 見つけたのに取り逃がしたとなっちゃ、王様に叱られるよぉ!」

「なっ……お前ら、行くぞ! 急げ!」


 王様に叱られる、という言葉にビクリと怯えた兵士の一人が、何人かの兵士と一緒にアシッドが指さした方向に消えていった。

 そして、アシッドはまた別の方向を指さして、叫ぶ。


「あぁぁぁ! 今、あそこにいた! 間違いないよぉ!」

「い、いつの間に! 絶対に捕まえろ!」


 兵士たちはアシッドが指さした方向に走っていく。正門前に残ったのは、アシッドと一人の兵士だけだ。

 アシッドはポリポリと頬を掻きながら、残った一人に声をかけた。


「キミは行かないのぉ?」

「はい! 私が行ったらここの警備が誰もいなくなるので!」

「おぉ、夜中なのに元気だねぇ。もしかして、新人さん?」

「はい! 昨日兵士になったばかりです! ですが国のため、精一杯働く所存です!」

「凄いねぇ、若いねぇ……あれ? あそこに何かいた気が」

「どこですか!?」


 若い兵士はバッと勢いよく振り返る。背中を向けた兵士におもむろに近づいたアシッドは、右手を挙げた。


「あ、気のせいだったよぉ」

「そうでしたガッ!?」


 そして、兵士の首を後ろからチョップした。

 兵士は糸が切れた人形のように膝を着くと、そのまま地面に倒れ伏す。これで正門にいるのはアシッドだけになった。

 一人になったアシッドは一仕事を終えたようにため息を吐くと、俺たちが隠れている物陰に顔を向け、チョイチョイと手招きした。

 まさかと思ったけど、アシッドは俺たちを逃がすために動いてくれたようだ。周りに誰もいないことを確認してから、俺たちは物陰から出る。


「アシッド、ありがとう」


 お礼を言うと、アシッドは眠そうに欠伸をしていた。

 

「お礼はいいから、早くこっから逃げるといいよぉ。兵士たちがいつ戻ってくるか分かんないしねぇ」

「サンキュー、アシッド! 最高にかっこいい(クール)だぜ!」

「はいはい、ありがとぉ。ほらほら、行った行った。働きすぎたし、早く帰って寝たいんだからさぁ……」


 適当に手を振りながら急かすアシッドに、笑みを浮かべて頷く。


「あぁ。またいつか会った時に、このお礼は必ずする」

「期待して待ってるよぉ。んじゃ、おやすみぃ」


 振り返ることなく手を振り、怠そうに去っていくアシッドの背中を見送ってから、俺たちは兵士用の出入り口を抜ける。

 抜けた先は、草花が生い茂るディアナ高原が広がっていた。どうにか俺たちは、城下町を抜けることが出来た。

 だけど、安心は出来ない。すぐにでもここから離れようと俺たちは走り出した。


「とにかく、城下町が見えなくなるぐらいまで離れよう!」

「あたし、もう、キツい……」

「頑張れ、やよい! 諦めんなよ(ネバーキブアップ)!」

「うるさいよ、ウォレス!」

ごめんなさい(ソーリー)……」


 城下町から逃げてかれこれ一時間ぐらい経ち、俺たちは小高い丘を息を荒くしながら登っていたけど、正直もう体力の限界だ。

 もう少し離れたら休憩しよう。そうみんなに提案することを考えながら、丘を登り終える。

 そして、丘を駆け下りて少し進んだ直後__目の前が爆発した。


「__なっ!?」


 突然のことに俺たちは慌てて足を止め、振り返る。

 すると丘の上に__王様が立っていた。


「お、王様……」


 王様は俺たちを見下しながら、何も言わずに手を挙げる。すると、数え切れないほどの兵士たちが丘の上まで登ってきていた。

 こんな人数の兵士たちが追ってきていたのか気付かないほど、俺たちは疲弊していたのか?


「タケル、やよい、真紅郎、ウォレス……」


 王様が静かに口を開く。能面のような無表情のまま、王様は杖を俺たちに向けた。


「どうして逃げたのだ? 大人しく城に戻るがいい」

「どの口がそんなことを……ッ! あんたは俺たちを殺そうとしてるんだろ!」


 ギリッと歯を食いしばりながら怒鳴ると、王様はやれやれと首を横に振る。


「何を言うかと思えば……私がそんなことをするとでも?」

「お言葉ですが、王様。ボクたちはあなたと姫様の話を聞いてしまいました。あなたはボクたちを殺し、兵器の材料にしようとしていることを」


 一歩前に出た真紅郎が話すと、王様はギロリと視線を鋭くさせた。


「……どこでその話しを聞いたのかは知らないが、それはお前たちの勘違いだ。さぁ、城に帰るぞ。抵抗するのであれば……分かってるな?」


 王様が手を横に振ると、兵士たちは同時に剣を抜き放つ。

 真実を知った俺たちが、大人しく言うことを聞くとは思ってないだろう。明らかに、俺たちを無理矢理捕まえようとしているのが分かった。


「……どうする、タケル?」


 やよいが俺に問いかける。

 どうすればいいのか。どうやってこの人数を相手に逃げきれるのか。

 思考を巡らせている途中、ふと自分が持っているロイドさんから託された剣に目が止まる。

 正確には、柄の先に取り付けられたマイク(・・・)に。


「__ははっ」


 思わず自分の思いついた考えに、笑みがこぼれた。

 だけど、これしかない。

 剣を地面に突き立て、マイクを自分の口元に向ける。


「__やるぞ、みんな」


 俺の考えが伝わったのかみんなが同時に魔装を展開し、それぞれ構える。

 その構え方は武器としてではなく__楽器として(・・・・・)


「一発、かましてやる」


 今の俺には恐怖はなく、高揚感で満ち溢れている。

 俺が、俺たちが今からやろうとしていること。


 それは__ライブ(・・・)だ。


「異世界に来て初めてのライブ__ぶちかましてやろうぜ?」


 俺の言葉に、みんなは笑みを浮かべて頷いた。


 


 

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