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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第十三章『漂流ロックバンドと世界の真実』

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四曲目『発動条件』

 前後にいる謎のモンスターは黒いヘドロの腕を伸ばし、鞭のようにしならせながら同時に俺たちに攻撃してくる。

 俺と真紅郎はすぐにしゃがみ込んで攻撃を避け、また背中合わせになって武器を構えた。


「どうする、真紅郎! こいつらに斬撃は効かなそうだ!」

「ボクの魔力弾も効果なさそうなんだよね……とにかく、攻撃を避けながら反撃のチャンスを見つけよう」

「分かった……危なッ!?」


 真紅郎と相談していると、謎のモンスターは伸ばした腕を振り下ろしてくる。

 俺たちはその場から離れて攻撃を避けたけど、分断されてしまった。


「真紅郎! そっちは任せた!」


 真紅郎に声をかけてから、目の前にいる謎のモンスターに集中する。

 頷いた真紅郎はベースを構え、もう片方の謎のモンスターに魔力弾を放ち始めた。


「さて、どうするかな……」


 剣を構えたまま、謎のモンスターの動向を窺う。

 ウネウネと黒いヘドロの体を蠢かせながら、謎のモンスターは赤い瞳を細めて俺を嘲笑っていた。

 こいつ相手に斬撃は効かない。もしかしたらまた増える可能性だってあるから、下手に攻撃は出来ないな。

 かと言ってこのまま後手に回っていたら、いつかやられる。


「見た感じスライムに似たモンスター、だよな? だったらどこかに核があるはず」


 黒いヘドロが人型になっている謎のモンスターは、多分だけどスライムと同じだろう。

 なら、核となる部分がある。狙うならそこだ。

 斬撃が無理なら、貫くしか方法はない。剣を左腰に置いて、切っ先を謎のモンスターに向ける。


「<アレグロ!>」


 その体勢のまま敏捷強化(アレグロ)を使い、一気に飛び出した。

 同時に謎のモンスターは近づけさせないとばかりに両腕を伸ばすとブンッと振り回し、俺に攻撃してくる。

 右から薙ぎ払ってくる腕を姿勢を低くすることで避け、左からの攻撃はジャンプすることで躱した。

 そして、着地と同時に地面を蹴り抜き、弾丸のように懐へと飛び込む。


「__喰らえ!」


 短く息を吐きながら、真っ直ぐに剣を突き放った。

 狙う場所は、謎のモンスターの体の中心__胸元。

 そこに核があるかは分からないけど、人なら心臓がある場所だ。可能性としては低くないはず。

 鋭く放った突きは謎のモンスターを貫く。手応えは……ない。


「違ったか……うぉッ!?」


 予想が外れて舌打ちすると、謎のモンスターは黒いヘドロを蠢かせて爆発するように広がろうとしていた。

 どうにか反応出来た俺はすぐに謎のモンスターから剣を抜いて、バックステップで離れる。

 俺が離れると謎のモンスターは体の広げて、俺を飲み込もうとしていた。


「危ねぇ……あと一歩遅かったら、完全に飲み込まれてたぞ」


 距離を取ってからホッと胸を撫で下ろす。

 離れれば腕を伸ばしての攻撃、近づけば黒いヘドロを広げて飲み込む。一瞬たりとも油断出来ないな。

 すると、後ろの方で真紅郎が弦を弾いて魔力弾を放つ音が聞こえる。チラッと振り返ると、真紅郎が放った魔力弾をもう一体の謎のモンスターは体で受け止め、吸い込んでいた。

 そのまま真紅郎は距離を取り、また俺と背中合わせになる。


「どう、タケル?」

「難しいな。そっちは?」

「厳しいね」


 言葉短く状況を報告し合う。俺と真紅郎だと、この謎のモンスターを相手にするには相性が悪そうだ。

 

「タケル、あのモンスターって……」

「あぁ。あれは神域を侵食する闇属性の塊みたいなモンスターだろうな」

「神域……この世界のこと? そっか、ここには神様がいるんだね?」

「音属性の属性神がな。会ったら絶対驚くぞ?」


 音属性の属性神がアスカ・イチジョウと聞いたら、誰もが驚くだろうな。

 真紅郎はクスッと小さく笑うと、謎のモンスターをキッと睨みつける。


「それは楽しみだね。でも、その前にこいつらをどうにかしないと……相手が闇属性なら、タケルの光属性を使えば倒せるんじゃない?」

「まぁ、そうなんだけどな……」


 真紅郎の言葉に、俺は顔をしかめる。

 相手が闇属性なら、間違いなく俺の中に眠っている光属性が有効だ。

 だけど、問題がある。


「自由自在に使いこなせれば、な」


 そう。俺はまだ、光属性を使いこなすことが出来なかった。

 光属性は音属性と違って、扱いが難しい。俺が使いたいと思った時に使えるようなものじゃなく、何か条件を満たさないと覚醒しないのが難点だった。

 そして、その条件がまだ分かっていない。だから、今の俺には任意で引き出すことが出来なかった。


「でも、光属性じゃないと倒せない……どうにかして使えるようにならないと」


 光属性の発動条件を考える。

 俺の宿敵、フェイルと戦った時。光属性はフェイルが使った闇属性に反応するように覚醒していた。

 その時は制御が出来ずに途中で使えなくなったけど……使いこなせなくても、引き出すことは出来たはずだ。

 でも、目の前にいる謎のモンスターも闇属性なのに、俺の中に眠る光属性は引き出せない。ただ闇属性と相対するだけじゃダメってことか?

 思考を巡らせていると、謎のモンスターたちは前後からまた攻撃してきた。


「タケル!」 

「ちくしょう! 考える暇も与えないつもりかよ!」


 槍のように一直線に伸びてきた腕を、俺と真紅郎は横に飛んで避ける。

 二体の謎のモンスターの腕が交錯すると、いきなり方向を変えて真紅郎へと向かっていった。


「うわッ!?」

「真紅郎!? この……ッ!」


 二本の黒いヘドロの腕は横っ飛びしていた真紅郎の両腕に巻きつき、拘束する。

 両腕を掴まれて動けなくなった真紅郎を助けようとすると、二体の謎のモンスターは邪魔をするようにもう片方の腕を伸ばしてきた。

 伸びてきた腕の側面に剣を当てて、ギャリギャリと音を立てながら攻撃をいなす。だけど、その衝撃で俺の体は後ろへと吹き飛ばされてしまった。


「くっ……邪魔するな!」


 足で地面を滑りながら腕を弾いて真紅郎の方へと走ろうとすると、謎のモンスターは黒いヘドロを壁のように広げる。

 徹底的に邪魔するつもりか。悪態を吐きながら壁となった黒いヘドロを斬っても、すぐに再生する。

 その間に、黒いヘドロに両腕を拘束された真紅郎は苦悶の表情を浮かべていた。


「う、ぐ……うあぁぁぁぁぁッ!」


 両腕に巻きついていた黒いヘドロがギリギリと締め付け、皮膚を焼く嫌な音が響く。

 侵食するように皮膚を焼かれている真紅郎が、悲痛の叫び声を上げていた。


「真紅郎! クソ、どけよ……ッ!」


 何度も剣を振って黒いヘドロの壁を斬るけど効果がなく、すぐに再生される。

 このままだと真紅郎がやられる。大事な仲間が闇属性に侵食されてしまう。

 ギリッと歯を鳴らし、剣の柄を砕かんばかりに握り締めた。


「何やってんだよ__俺ッ!」


 仲間のピンチなのに、俺は何をやってるんだ。

 大事な仲間が苦しめられているのに、何も出来ない俺が嫌になる。

 胸元を力一杯掴み、俺の中に眠っている光属性の魔力に向かって__叫んだ。


「こういう時に目覚めないで、いつ目覚めるって言うんだ! お前は俺の魔力だろ! だったら__ッ!」


 使いこなせない? 制御出来ない?

 甘えるな。いつまで寝てるつもりだ。


「__いい加減、言う事を聞け!」


 俺の魂の叫びに、心臓がドクンと跳ねた。

 後頭部の近くにある魔力を練る器官、<魔臓器>が反応する。

 ドクン、ドクンと鼓動の音と共に、眠り続けていた光属性が動き出しているのを感じた。

 ギリッと拳を握り締め、目の前にいる邪魔な黒い壁を睨みつける。


「さっきから邪魔なんだよ……ッ!」


 思い切り拳を振り被り、全体重を乗せて黒い壁に向かって叩きつけた。


「__どけよ、この野郎ぉぉぉぉッ!」


 拳が黒い壁に触れた瞬間、俺の中に眠っていた光属性の魔力が体から噴き出てきた。

 そして、光属性を纏った拳が黒い壁を弾き飛ばす。

 そのまま俺は走り出し、真紅郎の両腕を拘束している二本の黒い腕を掴んだ。


「真紅郎から離れろぉぉぉッ!」


 ブチブチと音を立てながら、黒い腕を引き千切る。

 腕を引き千切られた謎のモンスターたちは声にならない悲鳴を上げていた。

 真紅郎の両腕を拘束していた黒いヘドロが霧散し、真紅郎は力なく両膝を着く。


「真紅郎! 大丈夫か!」


 慌てて真紅郎に駆け寄ると、真紅郎は荒く呼吸しながら頬を緩ませた。


「う、うん、大丈夫……ありがと、タケル」


 お礼を言う真紅郎だけど、拘束されていた両腕に痛々しい黒い火傷の跡が残っている。

 侵食するように広がり始めている火傷の痕を見た俺は、すぐに真紅郎の両腕を掴んだ。

 すると、俺の体に纏っていた光属性の魔力が真紅郎の両腕に広がっていき、黒い火傷がゆっくりと霧散していく。


「え? あれ? 痛くない……」


 目を丸くした真紅郎は、確認するように両腕を軽く振る。

 どうやら光属性が真紅郎の体を侵食しようとしていた闇属性を祓ったみたいだ。


「よかった。さて、真紅郎! 反撃開始だ!」

「うん!」


 真紅郎を助けることに成功した俺は、片腕ずつを引き千切られて苦しんでいる二体の謎のモンスターに目を向ける。

 今の俺は光属性が使えるようになっている。これなら、あいつらを倒すことが出来るはずだ。

 回復した真紅郎は力強く頷くと、俺の隣に立ってベースを構えた。


 さぁ__覚悟しろよ、闇属性。


 俺が剣を構えると、謎のモンスター二体はウネウネと黒いヘドロを蠢かせて千切られた腕を再生している。

 俺と真紅郎は目配せで合図をしてから、同時に走り出した。




 

 

今年最後の投稿です!


また来年もよろしくお願いします!

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