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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第十二章『漂流ロックバンドと雪山に集う精鋭たち』

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二十七曲目『光属性の神殿』

 神殿跡から昇降機に乗って本部に戻ってくると、そこには見覚えのある男が立っているのに気付く。


「あれ? ベリオさん?」


 ドルストバーン山脈の麓にある村に置いてきたベリオさんだった。 俺が声をかけると、ベリオさんはジロっと俺を睨んでくる。


「ベリオさん? じゃねぇ。いつまで経っても戻ってこないから、死んだかと思っていたぞ」

「あぁ、すいません。色々あったんで……」

「フンッ、そのようだな。話は迎えに来たユニオンメンバーから聞いている。案内して貰って機竜艇でここまで来てやったんだ、感謝しろよ?」


 ぶっきらぼうな言い方だけど、どうやら俺たちのことを心配していたみたいだ。

 素直じゃないベリオさんに思わず笑みがこぼれつつお礼を言っていると、話を聞いていたシリウスさんが目を輝かせながら割り込んできた。


「少しいいですか? 今、機竜艇と言いましたか?」

「む? 誰だ、お前は?」

「私はユニオンを取り仕切っているシリウスと申します。それより、機竜艇と言いましたよね? あの、機竜艇で間違いないですか?」


 自己紹介もほどほどにズズイッと詰め寄るシリウスさんに、ベリオさんは圧倒されつつ頷いて返す。

 すると、シリウスさんは嬉しそうにベリオさんの手をギュッと握り締めた。


「まだ機竜艇が現存し、しかも飛ぶことが出来るなんて! 是非とも機竜艇を見せてはくれませんか!?」

「……見たところエルフ族、しかもかなり長生きしているようだな。いいだろう、外に置いてあるから、好きに見るといい」

「ありがとうございます!」


 ベリオさんの許可を得たシリウスさんは、スキップしながら外へと向かっていく。

 置いてかれた俺たちは呆然としていると、ウォレスが呟いた。


「……ヘイ、この石板どうすんだ? 重いんだけど」

「とりあえず、機竜艇まで運ぶか」


 やれやれとため息を吐きながら俺とウォレスで石板を運び、シリウスさんを追う。

 外に出ると停泊していた機竜艇の周りをうろちょろとしながら、はしゃぎ回っているシリウスさんの姿。


「おぉ! おぉぉ! 懐かしき機竜艇! この時代まで残っているとは! しかも現役! 素晴らしい!」

「あのぉ、シリウスさん? この石板どうしますか?」


 懐かしんでいるシリウスさんに声をかけると、我に返ったのか恥ずかしそうに咳払いする。


「いやはや、申し訳ありません。まさかこの目で機竜艇をまた見ることが出来るとは思ってもなかったので、ついつい」

「たしか機竜艇って、何百年前の物だよね? それを知ってるシリウスさんって、何歳なの?」


 やよいが首を傾げながら呟く。たしかに機竜艇が作られたのは何百年も昔だ。

 それを実際に見たことがあるって言うなら、シリウスさんはいったい何百歳なんだろう?

 やよいの独り言が聞こえていたのか、シリウスさんは悪戯げに微笑むと人差し指を口元に添える。


「年の功ってことにしておいて下さい」


 答える気はない、と。

 それより、この石板が問題だ。ずっと持つには重すぎる。


「ヘイ! それよりこれ、どうするんだ?」

「あぁ、そうですね……ひとまず、この機竜艇に乗せといてくれませんか?」

「分かりました」


 シリウスさんの指示通り、俺とウォレスで石板を機竜艇に乗せ込む。とりあえず、船底にある倉庫にでも置いておくか。

 石板を運び終わってから機竜艇の外に戻ると、シリウスさんがユニオンメンバーと話しているのが見えた。


「……それでは、そういうことなのでここは任せましたよ」

「どうかしたんですか?」


 話し終えたシリウスさんに声をかけると、シリウスさんは頬を緩ませながら口を開く。


「今後について話をしていました。それで、キミたちはヴァべナロストに戻るのでしょう?」

「えぇ、まぁ」

「私もついて行こうかと思いまして」

「シリウスさんも?」


 シリウスさんは頷いてから、どうしてついて行くことにしたのか説明し始めた。


「まず、本部にまでマーゼナルの手の者が紛れ込んでいること。つまり、ユニオン内に手引きした者がいるはずです」

「……裏切り者、探さないの?」


 サクヤの問いにシリウスさんは真剣な表情を浮かべる。


「探します。ですが、そこは信頼している一部のユニオンメンバーに任せようと思っています。一番気がかりなのは、ヴァべナロスト……女王のレイラのことです」

「なるほど。マーゼナルが中立組織のユニオンに手を出したということは、敵対しているヴァべナロストにまた侵攻する可能性が高い。そういうことですね?」


 話を聞いた真紅郎が納得したように言うと、シリウスさんはコクリと頷いた。


「さすが真紅郎ですね。その通り。ユニオンにまで手が回っている以上、事態は深刻な状況にあるでしょう。一刻も早くレイラと会談し、協定を結ぶことが先決です」

「裏切り者探しよりも、まずは味方を集めるんですね」

「そうです。ユニオンマスターたちにはそれぞれ担当する国に戻って貰い、準備をして貰っています。アシッドにはマーゼナルの動向を探って貰うのと、友好関係にある国の調査を依頼しました。相手の動きが分からない以上、準備は早急に行うべきだと判断した、という訳です」


 最悪を想定して素早く行動に移す。さすがはユニオンの最高指揮者。

 シリウスさんが俺たちについて行く理由は分かった。


「なら、すぐにでも出発しましょう」

「そうですね。今、ユニオンメンバーに指示を出して出来るだけの物資を運んで貰っています。それが終わり次第、出発です」


 そう言っている間に機竜艇に食料や水をユニオンメンバーたちが運び始めている。

 その間、シリウスさんは神殿についての話を始めた。


「さて、崩れ去ってしまった神殿ですが……おそらく、あの神殿は光属性の(・・・・)神殿でしょう」

「あん? どうして分かるんだ?」


 あの神殿が光属性の属性神を祀った神殿だと断言したシリウスさんに、ウォレスが訝しげに問いかける。

 シリウスさんは顎に手を当てながら、その理由を話し始めた。


「あの石板に書かれた文章を覚えていますか?」

「えっと、初めに光があった。そこから生まれたのは闇……」


 真紅郎が石板に書かれていた内容を言うと、シリウスさんは「そこです」と人差し指を立てる。


「初めに光があった、という最初の言葉。光と闇の関係性を示していますが、光のことが最初に書かれていますよね? これが闇属性の神殿だった場合は、闇が先に出てくると思いませんか?」


 言われてみればそうかもしれない。だけど、それだけで断定するのは……と、言おうとするとその前にシリウスさんは話を続けた。


「それに加えて、タケル。あなたが一番の理由です」

「俺ですか?」

「えぇ。石板が発光したのは、タケルの光属性の魔力に反応したからでしょう。闇属性の魔力に反応するなら、自爆した襲撃者の魔力によってすでに起きているはずですから」


 自爆した襲撃者。あれは黒い魔力__闇属性の魔力を暴発させたことで起きていた。

 そうか、闇属性の魔力に反応するならその時に起きてるはずだよな。

 納得していると、シリウスさんは話を纏める。


「以上のことから、あの神殿が祀っていたのは光属性の属性神と判断しました」

「おい、話は終わりか? もう荷物は運び終わってるぞ。いつまで話をしてるつもりだ?」


 俺たちが神殿について話をしていると、ベリオさんが声をかけてきた。どうやら話している間に荷運びが終わっていたみたいだ。


「あぁ、すいません。つい話が長くなってしまいました。では、早速乗りましょう」


 シリウスさんに促され、俺たちは機竜艇に乗り込む。

 機竜艇の内部に入ると、シリウスさんは興味深そうに機関部や計器を観察していた。


「これは、現代の技術がかなり使われていますね。私が知っている機竜艇の性能を遥かに凌駕する技術……非常に素晴らしい」

「フンッ、褒めても何も出ねぇぞ」


 感心したように呟くシリウスさんに、ベリオさんは鼻を鳴らしながらそっぽを向く。ストレートに褒められて照れているみたいだ。

 だけど、シリウスさんの賛辞の言葉は続く。


「本心ですよ。この技術を有する人材……是非ともユニオンに欲しいぐらいです」

「勧誘してぇなら、まずは機竜艇(こいつ)の本領を見てからにしてくれ。それから、考えてやらんでもねぇ」

「そうさせて貰います」


 サラッと勧誘するシリウスさんにベリオさんは不敵に笑いながら返していた。

 そして、操舵室に入るとそこにいたボルクが振り返りながら声をかけてくる。


「あ! おかえり親方! それにタケル兄さんたちも! って、あれ? あんたは誰?」

「それは後にしろ。それより、準備は出来てるな?」

「もちろん! 機関部も寒冷地用に整備したし、凍りそうになっていた翼も補修したぜ!」

「フンッ、ならいい。すぐに出発するぞ! 総員発進準備!」


 ボルクの言葉にベリオさんは鼻を鳴らしてから、舵輪を握って号令を出した。

 ボルクはパチンパチンとスイッチを入れ、発進の準備を進めていく。


「いつでもいいよ、親方!」

「__機竜艇、機動!」


 ベリオさんがレバーを引くと、心臓部がうなり声を響かせながら動き出し、船内に張り巡らされたパイプに魔力が伝わっていった。

 そして、操舵室の中央に置いてあるいくつもの輪が重なった天球儀型の羅針盤が動き、映像が投影される。

 それを見たシリウスさんは目を丸くして驚いていた。


「す、素晴らしい……こ、この羅針盤も作ったというのですか……ッ!」

「へへ! それを作ったのはオレだよ! 凄いだろ? それは」

「おい、ボルク! よそ見してるんじゃねぇ! 計器に問題ないか報告しろ!」


 自分が作った羅針盤について自慢げに話そうとしたボルクを、ベリオさんは一喝する。

 ビクリと肩を震わせたボルクは、慌てて計器を確認し始めた。 

「ま、魔力充填完了! 計器問題なし!」

「よし、ウォレス! 両翼展開!」

「ハッハッハ! 任せろぉぉぉッ!」


 ベリオさんの指示にウォレスはハンドルをグルグルと回すと、機竜艇の大きな両翼が重い音を立てながらゆっくりと広がっていった。

 全体に魔力が巡り、後部のジェットから魔力が噴き出ていく。

 発進の準備が整い、ベリオさんは俺たち全員に号令を出した。


「目的地はヴァべナロスト王国! 機竜艇、発し__」

「ちょ、ちょっと待って親方!?」


 だけどその前に、計器を確認していたボルクが叫ぶ。

 計器の針は狂ったように激しく動き、明らかに異常が起きていた。


「どうした、ボルク!?」

「どこかから異常なまでの魔力が発生してる! このまま出発したら、爆発しかねないよ!」

「チィッ! すぐに発生源を探れ!」

「わ、分かった!」


 ボルクは慌てて羅針盤を動かし、機竜艇全体が映るように変えて異常が起きている場所を調べる。

 そして、その場所を特定した。


「__船底の倉庫! そこから魔力が発生してる!」

「まさか、また襲撃者が入り込んだのか!?」


 もしかしたら、まだマーゼナルの奴が張り込んだのかもしれない。

 俺たちは魔装を展開しながら弾かれるように操舵室から飛び出し、異常な魔力が発生している船底の倉庫に向かって走り出した。




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