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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第十二章『漂流ロックバンドと雪山に集う精鋭たち』

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二十六曲目『白と黒の正体』

「……酷い有様ですね。今もなお、謎が残っている歴史的価値がある神殿だと言うのに」


 倒壊した神殿を見て、シリウスさんが悲しげに眉を下げながら呟く。

 どの属性神を祀っていた神殿なのかも分からないまま、太古の昔から存在していた貴重な神殿は瓦礫の山と化してしまった。

 深い深いため息を吐くシリウスさんを横目に、俺たちは瓦礫を運ぶ。

 神殿の謎に繋がる物が残っていればシリウスさんの悲しみも少しは晴れるかもしれないと思って瓦礫運んでいるけど、正直この惨状を見るに気休めにしかならないだろう。

 俺とウォレス、サクヤで瓦礫をどかしていると、顎に手を当てながら考え事をしていた真紅郎がボソッと呟いた。


「あの男、もう一つの使命って言ってた。それがこの神殿の破壊だとして、ガーディは他に何を命じたんだろう……?」


 真紅郎の独り言が聞こえ、俺も考える。

 たしかにあの仮面の男は「もう一つの使命を果たすことが出来そうです!」と叫んでいた。

 その使命が神殿の破壊、でももう一つ(・・・・)ってことは他の使命も果たしているってことになる。

 すると、シリウスさんが険しい表情を浮かべながら口を開いた。


「恐らくですが、資料室でしょう。あそこには貴重な文献、古文書などが多くありましたから。あの資料室で一番貴重な二冊はどうにか確保しましたが、火事によって他の本や資料は全て焼けてしまいました……」


 最初に仮面の男が襲撃してきた場所、資料室。

 資料室は仮面の男の放火によって貴重な二冊__シリウスさんが俺たちに見せてくれた属性因果や神格化などの古い記述がある本以外は、全て灰になった。

 そういえばあいつ、資料室を燃やした時に「本来の目的を果たさせて貰う!」って言ってたな。

 ガーディが命じた使命が資料室を燃やすこと、もう一つの使命が神殿を破壊することってことか?

 推測の域を出ないけど、筋としては通る。


「でもどうしてガーディはそんなことを?」


 それがガーディが命じたことだと考えても、その意図までは分からなかった。

 資料室や神殿にガーディにとって邪魔な何かがあった? じゃあ、それってなんなんだ?

 古い文献、謎を残した神殿、忘れ去られた属性神……そのどこかに、ガーディが恐る何かがあったって言うのか?


「分かんないな……うぉ!?」


 後頭部を掻きながらため息を吐いていると、ガラッと足元の瓦礫が崩れた。

 突然のことに驚きながら、咄嗟に飛び退いてどうにか着地する。


「ちょっと、タケル? 気を付けてね?」

「あ、あぁ」


 遠くから見ていたやよいが、まだ眠ったままのキュウちゃんを撫でながら声をかけてきた。

 油断してたからビックリした。深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、作業を再開しようとすると__。


「……ん? なんだ?」


 ふと、崩れた瓦礫の下から光が漏れているのを見つける。

 首を傾げながら近づくと、その瓦礫の隙間から漏れ出している光が強くなった気がした。


「おーい、みんな! この下に何かありそうだ! 手伝ってくれ!」

「おぉ! 何か見つけたのか!?」

「……今行く」

「あ、うん。ボクも手伝うよ」


 俺の呼びかけにウォレスとサクヤ、そしてずっと思考を巡らせていた真紅郎が瓦礫の山を登る。

 四人で瓦礫をどかしていくと、光っている場所が露わになっていった。


「ん? ヘイ、これって」


 大きい瓦礫を投げ飛ばしたウォレスが、訝しげに下を覗き込む。


 __そこにあったのは、石像が置かれた祭壇だった。


 俺たちは急いで瓦礫を撤去すると、背中から生えた翼で自分を包み込んでいる女性の石像が祀られた祭壇が、傷一つなく残されている。


「おい、嘘だろ? どうして残ってるんだ?」


 仮面の男が自爆したことで吹き飛ばされたと思っていたのに、祭壇だけは元の姿のまま瓦礫の下に残されていた。

 目を丸くして驚いていると、落ち込んでいたシリウスさんが一気に明るくなる。


「お、おぉ! さ、祭壇が残っているとは! 奇跡です!」

「いや、奇跡って言うか……おかしくないですか?」

「いいえ、奇跡です! 理由はどうあれ、この神殿で一番貴重な物が残っていたことを喜ぶべきですよ!」


 明らかに違和感しかない現状なのに、シリウスさんは気にした様子もなく興奮していた。

 まぁ、残っているのに変わりないし、別にいいか。

 瓦礫を撤去し終えた俺たちは、祭壇の前に集まる。


「さて、と。どうしてこれが無事だったのかは分かんないけど、ガーディが壊そうとしていたぐらいだから何かあるのは間違いないよな?」

「うん、ボクもそう思う。ここには、ガーディにとって残っていると困る何かがあるはずだよ」


 俺の言葉に真紅郎が頷きながら同意した。

 すると、ウォレスは豪快な笑い声を上げて指の骨をボキボキと鳴らす。


「ハッハッハ! なら、宝探し(トレジャーハント)するか! どんな(トレジャー)が眠ってるのか、楽しみだぜ!」

「……美味しい物、とか?」

「サクヤにとって宝は食べ物なのか……」


 ワクワクと子供のように目を輝かせるウォレス。宝イコール食べ物と考えているサクヤにツッコミつつ、俺たちは祭壇の周りを調べ始めた。


「みんな、頑張ってねー」


 やよいはキュウちゃんを抱いたまま俺たちを応援する。宝探しにあまり興味がないんだろう。

 シリウスさんを含めた男五人で色々と調べていると、ウォレスが声を上げた。


「ヘイ! ヘイ! ここ! ここに何か切れ込みがあるぜ!?」

「マジで!? どこだ!」


 祭壇の裏を調べていたウォレスの声に、俺たちはすぐに駆け寄る。

 ウォレスが指差したのは、祭壇の裏の地面。そこにたしかに、切れ込みのような物があった。


「隠し階段か?」

「可能性はありますね。ですが、何度もこの辺りを調べましたが、こんな切れ込みはなかったはずですね……」


 地面に切れ込みってことは、隠し階段の類があるんだろう。だけど、何年もこの祭壇を調べていたシリウスさんが今まで見逃していたとは思えない。


「多分ですけど、さっきの爆発の影響じゃないですか?」

「なるほど、それはありそうですね」


 真紅郎の予想にシリウスさんが何度も頷いて納得する。

 とにかく、調べてみよう。切り込みに指を入れて、持ち上げる__。


「重ッ!?」

「ヘイ、どいてなタケル」


 重くて持ち上げられないでいると、不敵な笑みを浮かべたウォレスが俺の代わりに切り込みに手をかけた。

 そして、ムンッと鼻息を鳴らして上腕の筋肉が盛り上がる。


「どぉぉぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 気合いの叫びと共に、切り込みが入っていた地面が一気に持ち上がった。

 長方形の蓋のようになっていた地面の先には、下に伸びる階段がある。やっぱり隠し階段だったみたいだ。

 薄く暗く、埃が舞っている階段を俺たち五人はゆっくりと降りていく。階段は深くまで続いていて、明らかに何かある雰囲気を醸し出していた。

 ようやく階段を降り切ると、そこには広い空間が広がっている。


 そこには、一枚の大きな石板が鎮座していた。


「なんだ、これ? 何か書いてるな」


 文章が刻まれている石板をシリウスさんは真剣な表情で目で追いながら、顎に手を当てる。


「ふむふむ、これは……古代文字の類ではありませんね。読めなくはないですが、文字が抜けています。おそらく、意図的に」


 そう言うと、シリウスさんはその石板に刻まれた文章を読み上げてくれた。


「初めに、光があった。死、司る、二柱は、取り世を、常闇は何もない、生まれない、裏は同じもの……」

「あぁん? 意味が分からねぇな?」


 文字が抜け落ちてるせいで、いまいち文章の意味が分からない。

 すると、シリウスさんは石板を指で撫でながら口を開いた。


「この石板自体はおそらく私が生まれる前……この神殿が作られたであろう数千年前の物でしょう。特殊な技法、魔力を込めて作られているおかげでこの石板は今も形が残っているようです。言語は私たちが用いているものと変わらないですが、この状態では何を伝えたいのか分かりませんね」


 シリウスさんが言うように石板からはほんのりと魔力を感じる。

 だけどそこに刻まれた文章は虫食いで、すぐに解読するのは難しそうだ。


「この石板はどうするんですか?」


 真紅郎の問いにシリウスさんは肩をすくめた。


「可能なら、この場から持ち出したいですね。また襲撃を受けたら、今度こそこの石板や上の祭壇も破壊されてしまうでしょう。奇跡的に無事だった歴史的財産を壊される訳にはいきません。この石板の文章もここで解読するより本部でしたいですから」

「なら、運ぶか。ウォレス、手伝ってくれ」

「おう! 任せろ!」


 ここで解読するより落ち着いたところでやった方が捗るだろう。

 俺とウォレスは石板を運ぼうと二人がかりで持ち上げようとすると__突然、石板が発光し始めた。


「うわ!? な、なんだ!? う、ウォレス何かやったのか!?」

「お、おいおい! オレはまだ何もしてねぇぞ!? ただ持ち上げようとしただけだ!」


 慌てて俺たちは石板から離れる。

 石板の光がどんどん強くなっていき、薄暗い空間を眩く照らして行った。

 その光は、魔力。そして俺はその魔力に覚えがある。


 これは__俺の中に眠っている白い魔力と同じだ。


 光が徐々に弱まっていくと、石板に刻まれた文章からジジジッと熱されたような音が聞こえてきた。

 すると、文章の虫食いだった箇所に文字が浮かび上がってくる。

 光が完全に消えると虫食いだった箇所に文字が刻まれ、一つの文章として読めるようになっていた。


「こ、これなら読めますよ! えぇっと……」


 興奮した面持ちでシリウスさんが文章を読み上げる。


 __初めに光があった。<そこから生まれたのは闇>。<生と>死を司る二柱は<手を>取り世を<導く>。常闇は何もない<ところからは>生まれない。<表と>裏は同じもの。<白き光と黒き闇は因果で繋がる>。


 石板にはそう、刻まれていた。


「光と闇。生と死。表と裏。相反する二つ__因果で繋がれた、白と黒」


 文章を読み終えたシリウスさんが、ブツブツと何か呟いている。

 そして、俺をジッと見つめてきた。


「タケル。この文章が意味する光と闇……これは恐らくですが、キミに関係することでしょう」

「俺に?」


 突然名指しにされて首を傾げると、シリウスさんは石板に手を置きながら説明し始める。


「ここに刻まれていた光と闇について。表と裏、生と死……相反する二つ、因果で繋がれた白と黒。何か覚えはありませんか?」

「それって__属性因果、ですか?」


 シリウスさんが言いたいことを察した真紅郎が、目を丸くしながら答えた。

 シリウスさんは深く頷き、話を続ける。


「属性因果……基本となる五属性のどれとも繋がっていない、図式の中心に描かれていた白と黒の魔力。それこそが、この石板に刻まれた文章が指していることでしょう。そして、白い魔力と黒い魔力と言えば」

「__俺の白い魔力と、フェイルの黒い魔力」


 ずっと謎だった白い魔力。対するフェイルの黒い魔力。

 それらはまさに、この石板が指している光と闇。因果で繋がれた、相反する二つの魔力のこと。

 つまり、それは__。


「俺の中に眠っている白い魔力は__<光属性>」

「そうです。対する黒い魔力は__<闇属性>。決して逃れることが出来ない因果で繋がれた、光と闇。それこそが、キミの中にある白い魔力の正体であり、敵が持つ黒い魔力の名前でしょう」


 光属性と、闇属性。

 自分の中でその名前は、自然としっくりきた。

 全てを飲み込む闇と、闇を祓う光。相反するも、同じ魔力。コインの表と裏のような、切っても切り離せない因果で繋がれた二つの属性。


「と言っても、まだ仮説ですが」

「いや、間違いないと思います」


 あくまで仮説と言うシリウスさんに、俺はゆっくりと首を振った。

 俺の心が、魂がその仮説は正しいと叫んでいる気がする。


 白い魔力、光属性。俺はそれを使いこなし、自分の物にしないといけない。

 黒い魔力、闇属性に打ち勝つために。


 そう覚悟を決めていると、魔力を感じなくなった石板を見つめたシリウスさんは頬を緩ませた。


「とりあえず、この石板を上に運びましょう。歴史的価値はもちろんですが、状況打破に繋がる何かがまだ隠されているかもしれません」


 シリウスさんに言われ、俺とウォレスで石板を運び出す。

 そのまま俺たちは本部に戻っていった。



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