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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第一章『ロックバンド、異世界に渡る』

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三十八曲目『激闘』

「さて、と。これで本当に四対一になった訳だが……どうするよ、タケル? 四人で俺と戦うか?」


 そう言ってロイドさんは、ニヤリと笑みを浮かべる。例え俺たち四人と戦うことになっても、余裕だと言わんばかりに。

 チラッとウォレス、真紅郎、やよいを見やる。ウォレスと真紅郎はアシッドとの戦いで疲弊しているし、やよいはロイドさんと戦うのは厳しいだろう。

 だったら、答えは一つ。俺が一人で戦い__勝つしかない。


「そんなことしませんよ。それに__ここでロイドさんに勝てないようじゃ、勇者失格ですから」

「はんっ。言うじゃねぇか、若造。でかい口を叩いたんだ……手足の五、六本は覚悟しろよ?」

「……手足はそんなにありませんよ」


 軽口の応酬は、ここまでだ。

 額から流れる冷や汗を腕で拭い、剣を握りしめてロイドさんを見据える。対してロイドさんは手に持っていた細長い木箱を開き、中から何かを取り出した。


「__え?」


 思わず、頓狂な声を上げてしまった。

 ロイドさんが木箱から取り出した物、魔闘大会に優勝して王様から手渡された物は__俺が持っているのと同じ、柄の先にマイク(・・・)が取り付けられた剣だったからだ。


「何で、それを……?」


 声を震わせて問いかけると、ロイドさんはその剣を大事そうに撫でていた。


「俺も最初は驚いた。お前があいつ(・・・)と同じ魔装を、この剣を作り上げるとは……運命、って奴なのかもしれねぇな」


 懐かしむように遠い目をしていたロイドさんは、一度瞼を閉じる。再び開かれたその目は、ギラリと俺を睨んだ。


「ま、そんなことはどうでもいい。じゃ、やるか」


 まるでいつも通り稽古を始めるように、ロイドさんは剣を構える。だけど、今から始まる戦いは稽古なんかじゃない。

 命を賭けた__真剣勝負だ。


「ふぅぅ……」


 長く細く息を吐いて、集中力を高める。

 月明かりに照らされた広場に、一陣の風が吹き抜けた。


「__はぁぁぁ!」

「__おらぁぁぁ!」


 開始の合図もなしに俺たちは同時に動き出し、広場の中央で剣と剣がぶつかり合った。

 甲高い金属音を皮切りに、剣戟を交わしていく。力も速度も技量もロイドさんが上だ。勝つには手を出し続けるしかない。


「<アレグロ><ブレス><クレッシェンド!>」


 魔法で速度を上げ、ブレスで徐々に威力を上げていくクレッシェンドを接続する。

 二撃、三撃と攻撃を重ねていくが軽々と剣で防がれ、威力が上がっていっても結果は変わらなかった。


「<我放つは鬼神の一撃>__<フレイム・スフィア>」


 攻撃を防ぎながらロイドさんは詠唱し、左手を俺に向けるとそこから球体型の炎の塊を撃ち出してくる。

 詠唱を始めた時点で避けようとしたが本気のロイドさんの詠唱は速く、紙一重だった。

 顔の横をギリギリに炎の塊が通り過ぎ、髪の毛が焦げた臭いを感じながら横薙ぎに剣を振ろうとする。


「__遅ぇぞ」


 俺が剣を振る前に、ロイドさんは右回し蹴りの態勢に入っていた。

 鞭のようにしなる右足が、俺の右わき腹を捉える。


「ぐほっ!?」


 重く、鋭く、速い蹴りに息が詰まり、嘔吐感がせり上がってくる。一瞬だけ意識が飛びかけたが、歯を食いしばり耐えた。

 だけど、その一瞬の隙をロイドさんが逃すはずがない。


「__ぶっ飛びなぁ!」


 右回し蹴りの後、右足を引っ込めながら軸足になっている左足で跳び上がり、空中で左回し蹴りを放ってきた。

 咄嗟に剣で防ぐもこの蹴りも重く、衝撃で吹き飛ばされてしまう。

 地面を転がり、即座に立ち上がろうとした時に俺の目に飛び込んできたのは__目の前に剣の切っ先が向かってきている光景だった。


「っぶねぇ!?」


 ロイドさんは俺が地面を転がっている間に、着地してすぐに突きを放ってきていた。

 アレグロのおかげで素早さが上がった体はすぐに反応したものの、それでも避けきれずに切っ先が頬を浅く斬り裂く。

 頬に鋭い痛みが走り、血がだらりと流れ出す。

 頭で考えるより先に体を動かして剣を斜めに斬り下ろしたけど、軽い足取りでバックステップして俺の攻撃は避けられてしまった。

 どうにか距離を離すことが出来たけど……あの突きは、明らかに俺を殺そうとしていた。

 冷たい猛禽類のようなロイドさんの目を思い出し、ゾクリと寒気が駆け抜ける。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 まだ戦闘が始まって五分も経ってないというのに、俺の息は絶え絶えだった。

 稽古とは違う、本当の命を賭けた戦いに身体的だけじゃなく、精神的にも疲労が溜まっている。

 気付けば魔法の効力は解け、重りを乗せたように一気に倦怠感が襲ってきた。 


「おいおい、どうした? もう終わりなのか?」


 がっかりだと言わんばかりに鼻を鳴らしながら、挑発してくるロイドさん。その挑発に答えられるほどの余力は、俺にはなかった。

 汗と頬から流れる血が混ざり合い、ポタポタと地面に滴っていく。蹴られた腹部は鈍い痛みが残っている。

 でも、まだ動ける。戦える。次はもっと速く攻撃を__と、その考えを遮るようにロイドさんは詠唱を始めていた。


「<我放つは軍神の一撃>__<ウィンド・スラッシュ>」


 気付いた時には詠唱は終わっていて、ロイドさんは左手を軽く横に振る。すると、俺の顔を突風が通り過ぎた。


「__え?」


 あまりの速さに呆気に取られていると、左首から鋭い痛みが走る。手で触ってみるとだらりと血の感触。頬にはいつの間にか、一本の傷が付けられていた。

 そこでようやく、ロイドさんが何をしたのかが分かった。今のは風の刃を撃ち出す魔法だけど、俺が知っている物とは違っている。

 目で追えないほどの速度で、風の刃の形すら見えないのは__初めてだった。


「今のはワザと外してやったんだ、感謝しろよ? ちなみに忘れてないよな……俺は火と風の属性が使えることを。俺の風属性魔法は速力に特化させている。こっからバンバン使っていくから気合い入れろよ。さもないと__死ぬぞ?」


 そう言うと、ロイドさんは詠唱を始める。あの速度の魔法がどんどん来るのか?

 まずい。まずい、まずいまずい__ッ!

 全身のあらゆる感覚器官が、警鐘を鳴らしている。あの魔法に俺の目は追いきれない。このままだと俺の体はバラバラに斬り裂かれ、五、六本はあり得ないけど四肢がなくなる可能性が本当にある。

 やるしかない。一度試してその危険性から多用しないと決めていた魔法を、使う覚悟を決める。


「<アレグロ>」


 最初にアレグロで敏捷性を強化。


「<ブレス>」


 ブレスで接続し、追加で魔法を使う。


「<スピリトーゾ!>」


 スピリトーゾで更にアレグロを強化させる。

 ここからが本番だ。アレグロを使えば俺の体は素早く動くことが出来るけど、それは手足だけに限らない。

 体の動きを四割に、残りの魔力で強化させるのは__目。正確には、動体視力(・・・・)だ。

 俺が魔法を唱え終わるのと同時に、ロイドさんは風の刃を撃ち出してきた。さっきと違うのは、今の俺には向かってくる魔法の形がくっきり見えているということ__ッ!


「はぁぁぁぁぁぁぁ!」


 気合いと共に剣を振るっていく。数は三つ。右上斜めから振り下ろし一つ、返す刃で横に薙ぎ払い二つ、右下から振り上げて三つ。

 続いて、四つ追加で向かってくる。独楽のように背中を向けながら回転して斬り払い一気に二つ、三つ目は薄肌一枚を掠らせるように首を傾けて避け、最後は前に走り出しながら剣で突き抜く。

 突いた姿勢のまま、ロイドさんに向かって走っていく。その間にも風の刃が放たれ、その攻撃を躱し、斬って、防ぎながら前に前に突き進む。

 ようやく剣が届く距離まで詰め寄り、速度を落とさずに斬りかかった。


「__てあぁぁぁぁ!」


 振り下ろした剣は、ロイドさんの剣に阻まれる。

 防いだ状態でロイドさんは前蹴りで俺の顎を狙ってくるけど__その動きも、俺には見えていた。

 軽く上体を反らすことで前蹴りを避け、同時にロイドさんの右わき腹を狙って剣を薙ぎ払う。

 当たる、と思っていたのにロイドさんは前蹴りを放った反動でその場で高く跳び、後方宙返りで避けて見せた。

 俺の剣は空中にいるロイドさんの髪を掠めるだけで終わる。だけど、それで終わるつもりはない。

 狙うのは着地。ロイドさんが地面に足を着いたのと同時に剣の切っ先を突き出す。


「うぉ!?」


 ロイドさんには顔を上げたのと同時に、目の前に剣の切っ先が向けられている光景が見えていたはずだ。

 それでもさすがはロイドさんと言うべきか、首を傾けて躱されてしまった。

 いや、躱し切れていない。俺の剣はロイドさんの頬を浅く斬り裂くことが出来ていた。ようやく、傷を負わせることが出来た。このまま追撃を、と動きだそうとした瞬間、両目に痛みが走る。


「__ぐっ!?」


 突然の痛みに動きが止まり、目を手で覆う。その間に大きくバックステップしたロイドさんは距離を取っていた。

 ズキズキと痛む目を我慢して瞼を開くと、両頬に何かが流れているのを感じる。それは、両目から流れる__血涙だった。

 動体視力の強化は代償は大きく、長時間強化していると目に激痛が走り、連続使用が出来ない。

 下手をすると失明する恐れがある、と真紅郎に脅されてしまったぐらいだ。

 でも、ここで使わないとロイドさんの攻撃に対応出来ない。そう判断して使ったけど……これ以上は無理そうだ。

 距離を取ったロイドさんは頬に流れる血を腕で拭うと、俺の姿を見てニヤリと笑みを浮かべる。


「こんな隠し玉があったとはな……油断しちまったぜ。だが、その様子だと連続で使うことは出来なさそうだな。んで、これで終わりか?」


 本当ならこれで終わりにしたかったけど、そう甘くはないか。

 まだ安定して使えないし、使った後が大変だけど……もう一枚、カードを切るしかない。

 負けたら終わりなんだ。ここでやらないで、いつやるって言うんだ?


「__<ア・カペラ>」


 深呼吸をしてから俺は、その魔法の名を言い放った。

 

 


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