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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第十章『漂流ロックバンドと魔族の女王』

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十六曲目『パワーアンプの完成』

 ヴァベナロスト王国での初ライブが成功して二日後。俺はストラに呼ばれて研究所を訪れ、魔臓器の診断をして貰っていた。

 魔鉱石で出来た棒、魔力測定器を握ると俺の魔力に反応して光を放つ。前は淡くて不安定だったけど、今は光が安定していた。

 それを見たストラは顎に手を置きながら何度も頷く。


「フムフム、順調に安定してきてるネ。ミリア」

「はい。タケル様の体に流れている魔力も滞りなく巡回しています」


 ストラに声をかけられたミリアは俺の頭に手を乗せながら魔力の流れを感じ取り、優しく笑いかけてきた。

 どうやら俺の魔臓器は回復してきているみたいだ。ホッと一安心していると、ストラは俺の顔を覗き込みながらギョロリとした目で睨んでくる。


「だ、け、ど。決して完治している訳ではないから、無理は禁物だヨ? また前みたいに……」

「わ、分かってるって! もうバカな真似はしないから!」


 思わず仰け反りながら首をブンブンと横に振って答えた。前に強引に魔力を練ろうとして倒れてからストラに何度も何度も注意され、耳にタコが出来そうだ。

 ゲンナリしていると、ミリアは俺の頭に手を置いたまま何か考え事をしていた。


「ミリア? どうかしたか?」


 不思議そうに首を傾げているミリアに、声をかける。すると、ミリアは眉を潜めながら口を開いた。


「その……以前、タケル様に話しましたよね? タケル様の体を巡っている魔力の中に見えた気がした、白い魔力のことです」

「あぁ、あれか。それが何?」


 夜の植物園でミリアと話していたことを思い出す。たしかに、ミリアは俺の体に音属性の魔力以外の魔力が見えた気がしたと話していた。

 それがどうしたのか聞くと、ミリアはうなりながら確かめるように俺の頭を撫で回す。


「その白い魔力が、前よりも強くなっている気がするんですよね……見え辛いのには変わりないのですが、紫色の魔力にほんの少しだけ」

「__白?」


 話を聞いていたストラは腕組みしながら考え事を始め、興味深そうに俺の目を覗き込んできた。

 あまりの近さに少し離れると、ストラはニヤリと楽しげに笑みを深める。


「ホウホウ? タケルは音属性だけかと思っていたけど、他の属性があるのかナ? それは初耳だヨ?」

「えっと、私の見間違いかもしれないと思って……」

「フムフム、なるほどネ。音属性以外の属性、しかも白? それは間違いなく既存の属性とは違うもの! 興味深い! 非常に興味深いネ! じっくり調べたいネ!」


 白色の魔力。他の五属性には当て嵌まらない未知の属性に研究者としての琴線に触れたのか、ストラは口角を引き上げながら俺に近づいてきた。

 その圧力にたじろいでいると、ストラはスッと離れてため息を吐く。


「と、普通なら調べたいところだけど……人を待たせているからまた今度だネ」

「人? 誰が待ってるんだ?」

「__俺だ」


 ストラと話していると訓練場に通じている扉が開かれ、そこからベリオさんが顔を出した。待ち疲れたのか腕組みして不機嫌そうに鼻を鳴らしたベリオさんは、ストラをジロっと睨む。


「遅いぞ、ストラ」

「イヤイヤ、申し訳ない。こっちはもういいから、今日の本題に入るとしようネ」

「本題?」


 魔臓器の診断以外に何かあるのか? そんな話は聞いてないんだけど……。

 疑問に思っていると、ベリオさんがニヤリと笑いながら俺にある物を差し出してくる。


「これがようやく完成したんだ」

「これって……!」


 それは、金色の小さな箱。ベリオさんが作ってくれた俺専用の強化アイテムの<パワーアンプ>だった。

 試作品だったパワーアンプは災禍の竜との戦いで壊れてしまったけど、どうやらベリオさんはこの国に来てから完成させたようだ。

 目を輝かせながら完成したパワーアンプを見つめていると、ベリオさんが訓練場の方を顎でしゃくる。


「今日の診断次第でパワーアンプの試運転をするつもりだったんだ」

「ソウソウ、まぁ全力を出さなければ使っても問題ないだろうネ。無理は禁物だから、短時間のみ許すヨ」

「そっか! なら、早速使おう!」


 ストラからの許可も得られ、俺ははしゃぎながら訓練場に出た。

 ウキウキとしながら、俺はようやくアクセサリー形態に戻すことが出来た魔装を展開し、右手に剣を握る。

 そして、左手に持ったパワーアンプのつまみに指をかけた。


「くれぐれも無理はダメですからねー?」

「分かってるって!」


 心配そうに声をかけてくるミリアに返事をしてからつまみを回すと、パワーアンプから甲高い金属音が鳴り響いた。

 それを確認してから、ゆっくりと深呼吸をして__魔法を使う。


「__<ア・カペラ>」


 俺の固有魔法。膨大な魔力消費と極限まで体を酷使する諸刃の刃で、俺の切り札。

 ア・カペラを使った瞬間、体から紫色の魔力が吹き出し強化が施される。

 すると、パワーアンプが暴力的な魔力を安定させ、凝縮するように体に魔力が纏っていった。


「……うん、いい感じ!」


 パワーアンプのおかげで魔力の消費量が抑えられ、魔臓器への負担も減っている。全力ではないけど、充分に強化されていた。

 少し飛び跳ねながら調子を確かめ、剣を構える。


「よし__行くぞ!」


 気合を入れてから、俺は訓練場に立っているカカシ目がけて飛び出した。強化された足が地面を踏み砕き、紫色の光の尾を引きながら駆け抜ける。

 一瞬にしてカカシの目の前に躍り出た俺は、勢いのまま剣を薙ぎ払った。


「__テアァッ!」


 俺の一撃でカカシの体が横一文字に斬り裂かれ、返す刃で振り上げた剣がカカシを真っ二つになる。

 十字に斬り裂いたカカシを通り過ぎ、その後ろに控えていたもう一体のカカシに突撃していく。

 走りながら剣身に魔力を纏わせ、一体化させた俺は、居合のように剣を振り抜いた。


「__<レイ・スラッシュ!>」


 魔力を込めた俺の剣を受けたカカシが、軽々と吹き飛んで地面を転がる。

 それから俺は災禍の竜と戦った時のようにジグザグに走り回り、走った軌道の通りに紫色の光を残しながら、一気に全てのカカシを斬り払った。


「__はい、終了! これ以上はダメだヨ!」


 そこで、ストラがストップをかける。

 地面を滑りながら急ブレーキした俺は、ア・カペラを解いて息を吐いた。

 パワーアンプに異常はなく、壊れる様子もない。すると、俺の動きを眺めていたベリオさんが腕組みしながら満足げに鼻を鳴らした。


「フンッ、問題ないな」

「あぁ! 完璧だよベリオさん!」

「当たり前だ。俺が作ったんだからな」


 照れ隠しなのかそっぽを向くベリオさんに、ストラはニヤニヤと笑いながら口を開く。


「イヤイヤ、素晴らしいネ。さすがはあの伝説の職人、ザメ・ドルディールの子孫! その技術力はこの国の職人よりも上だネ!」

「……フンッ」


 褒めちぎってくるストラにベリオさんはとうとう背中を向けた。

 それでも、ストラの話は止まらない。


「ザメは職人だけでなく、研究者としても超一流だったんだヨ! 薬学、医学、植物学、魔法研究学、建築学……全ての学問において他の追随を許さない! 『全ての学問には通じるものがあり、そのどれもが繋がっている」という名言まで残されているぐらいだヨ!」


 そんなに幅広く学んでいたのか。そういえばベリオさんも鍛治だけじゃなく、色んなことを知ってるし、興味を持っていたな。

 先祖のザメ・ドルディールと同じで、ベリオさんも幅広い知識から多くの物を作ってきたんだろう。

 ストラは興奮しながら鼻息荒く語るのをやめない。


「私もその言葉に感銘を受け、多くのことを学んだものだヨ! 今の私がいるのは、ザメ・ドルディールがいたからだネ! その子孫であるベリオの技術も素晴らしい! 柔軟で誰も思いつかないような発想! それを形に出来る確かな技術力! そして情熱! イヤイヤ、素晴らしいという言葉しか出てこないネ!」

「……おい、ストラ」

「あと、機竜艇! まさか、生きている内に幻の空飛ぶ船が見られるとは思ってなかったヨ! この国に昔から住んでいるご老人方も涙を流すぐらい、機竜艇の存在は多くの人が知っている! それが空を飛んでいる姿! 鉄の巨大な塊が竜のように悠々と空を駆ける! その構造の全てを知りたいネ!」

「もういい、やめろストラ。やめてくれ……」


 怒涛の勢いで褒めちぎってくるストラに、耐えきれなくなったのかベリオさんは顔を手で覆いながら止めようとする。だけど、ストラの口は止まらなかった。

 二人の姿を見て苦笑いを浮かべていると、ミリアが近づいてくる。


「タケル様、魔臓器の調子はどうですか?」

「痛みもないし、大丈夫そうだ」

「それはよかったです。それで、あの……白い魔力は感じられましたか?」


 白い魔力、か。

 ア・カペラを使った時、紫色の魔力だけで白い魔力は感じていない。今も魔臓器に集中したけど、何もない気がする。

 本当にあるのか、と疑いそうになったけど、ミリアが嘘を言うはずがない。感じられないだけで、俺の体には間違いなく白色の魔力が隠れているだろう。


「どうすれば引き出せると思う?」

「そうですね……」


 ミリアは頭を捻りながら考え、一つの提案をしてきた。


「恐らくですが、白い魔力はタケル様の魔臓器……音属性の魔力の奥底に眠っているんでしょう。それが災禍の竜との戦いで限界まで魔力を引き出したことにより目覚めかけている、と思います。だから、また白い魔力を刺激すれば……」

「顔を出すかもしれない、ってことか」

「ですが、魔臓器が損傷するような強い刺激はかなり危険です。あまり無理をすると、今度は魔臓器が使えなくなる可能性もあります」


 そうなると、謎の白色の魔力は今は放って置いた方がよさそうだな。せっかく治りかけているのに、また逆戻りになるのは避けたいし。

 まぁ、別に白色の魔力が使えなくても問題ない。今は魔臓器が完治するのを待とう。

 ミリアと話していると、とうとう我慢の限界が来たのかベリオさんがストラの頭に拳骨を落としたのが見えた。

 痛そうにうずくまっているストラに苦笑いを浮かべつつ、声をかける。


「大丈夫か、ストラ?」

「うぐぐ……だ、大丈夫だヨ。それより、タケル!」


 いきなり立ち上がったストラは俺に詰め寄ってきた。

 その勢いに仰反ると、ストラはギョロッとした目を輝かせながら鼻息荒くズンズンと近づいてくる。


「さっきの白い魔力についてだけど、今から解ぼ……調べさせてくれないかナ!?」

「今解剖って言ったよなぁ!?」

「気のせい気のせい。ホラホラ、すぐに研究所に……」

「ダメですよ! タケル様はお疲れなんですから! 今日はこれで終わりです! ほら、行きますよ……ッ!」


 未知の魔力に我を失いかけているストラを止めたミリアは、ズリズリとストラの服を引っ張りながら俺から離れさせる。

 引きずられたストラは抵抗出来ずに俺に向かって手を伸ばしながら、研究所に戻って行った。

 その光景を見た俺は、やれやれとため息を吐く。


「……練兵場に行って、レイドに稽古をつけて貰うか」


 俺は今も研究所で騒いでいるストラを無視して、練兵場に向かうのだった。

 


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