十九曲目『白熱の地上戦』
「ーーグルゥオォォォォォォォォッ!」
最初の攻撃は災禍の竜。大きく仰け反ってから勢いよく吐き出されたのは、巨大な火球だった。
炎の尾を引きながら向かってくる火球に、前を走っていた俺とレイド、サクヤを追い抜いたレンカが手を広げる。
「やらせないわよ!」
そう言って渦を巻いた風の盾が五枚展開されると、火球を防いで霧散した。
その隙に俺は真っ直ぐに災禍の竜へと向かっていき、右にサクヤ、左にレイドが挟み込むように走っていく。
防がれたことに舌打ちした災禍の竜は、次は空から雷を落としてきた。雨のように落ちてくる雷に俺たちは走る速度を落とさないまま駆け抜けていく。
「ここは任せて……ッ!」
「……気にせず走れ!」
そこで、真紅郎とヴァイクが立ち止まると落ちてくる雷に銃口を向けた。
真紅郎はベースを構えるとボディ部分にあるコントロールノブをいじってから、スリーフィンガーで弦を速弾きする。
ベースのネック部分にある銃口から放たれた十個の紫色の魔力弾は、コントロールノブをいじったことにより軌道を変えながら雷を撃ち抜いた。
次にヴァイクは二丁の拳銃の引き金を同時に引くと、銃口から炎の槍と風の刃を射出する。そのまま撃ち終わった銃を体に巻き付けてあるホルスターに仕舞い、すぐに違う銃を引き抜いて即座に撃ち放った。
真紅郎とヴァイクが雷を撃ち落としている中、俺たちはどんどん災禍の竜との距離を縮めていく。
「カロロロロ……ッ!」
業を煮やした災禍の竜は地面を踏み抜き、鋭利な柱を地面から生やしながら俺たちに向かって襲わせた。
「タケルたちの邪魔はさせない! <ディストーション!>」
「ハッハッハ! 進み続けろ! <ストローク!>」
向かってくる岩の柱に、やよいは勢いよく斧型のギターを地面に向かって振り下ろす。同時に、ウォレスは目の前に展開した紫色の魔法陣に向かってスティックを叩き込んだ。
やよいは地面を砕きながら音の衝撃波を伝え、ウォレスは魔法陣から音の衝撃波を放つ。
二人が放った音の衝撃波は地面から生えて進む岩の柱を打ち砕き、破片が舞い散った。
俺とレイドは剣で、サクヤは拳で破片を払いながら更に前へと走る。
あと少しで接敵する所で、災禍の竜はグルリとコマのようにその場で回ると、太い大木のような尻尾で薙ぎ払ってきた。
「纏めて片づけるつもりか……ッ!」
「……任せて」
迫り来る尻尾を避けることは難しい。そう判断した俺が魔法を使って身体能力を上げてから剣で防ごうとすると、その前にサクヤが一人で向かってくる尻尾に走り出した。
「……受け止めるだけじゃなく、受け流すように」
そう呟きながらサクヤは立ち止まると、襲いかかる尻尾に向かって両手を広げる。
「ーー<グリッサンド!>」
サクヤが使ったのは固有魔法。広げた両手に紫色の魔力で出来た盾が展開されると、尻尾が盾に直撃した。
このままだとサクヤは衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされるだろう。だけど、サクヤは地面を踏み砕きながら歯を食いしばり、尻尾に対して受け止めるんじゃなく、受け流し始めた。
すると、盾から音が聞こえる。それはピアノの鍵盤を端から端に向かって指を滑らせたような音。
<グリッサンド>と呼ばれるピアノ奏法の一つ。流れるような音と共に災禍の竜の尻尾の軌道が逸れ、サクヤの頭上スレスレを通り過ぎて受け流されていった。
「…….受け流すので、精一杯……ッ!」
「ナイス、サクヤ!」
綺麗に受け流された災禍の竜は目を見開きながら驚き、体勢を崩す。その隙を狙ってサクヤの脇をすり抜けた俺とレイドは、とうとう災禍の竜の懐へと潜り込んだ。
「<アレグロ><ブレス><フォルテッシモ!>」
すぐに俺は音属性魔法の敏捷強化と、ブレスで魔法を繋げて一撃超強化を詠唱する。
魔法の効果で体が浮き上がるように軽くなったの感じながら、災禍の竜の足を踏み台にして跳んだ。
「ーーテアァァァァァァッ!」
災禍の竜の頭上まで跳んだ俺は、剣を振り上げて災禍の竜の脳天を狙う。俺に気づいた災禍の竜が体勢を立て直しながら俺に向かって口を大きく開き、噛みつこうと首を伸ばしてきた。
「ふんッ!」
そこで、災禍の竜の足下にいたレイドが気合いと共に剣を足に向かって薙ぎ払う。災禍の竜のスネにレイドの一撃が直撃し、重い音が響き渡った。
斬り裂くことは出来なかったけど、重い一撃をスネに受けた災禍の竜はさすがに痛かったのか口を大きく広げたまま悲鳴を上げる。
そして、俺はそのまま災禍の竜の脳天に剣を振り下ろした。
「グルフゥッ!?」
俺の一撃に災禍の竜は無理矢理口を閉ざされ、頭を垂れる。堅い甲殻に阻まれたけど、打撃として脳に衝撃を受けた災禍の竜はグラリとよろめいた。
地面に向かって落下しながら、俺は剣を腰元に置いて居合いのように構える。剣身に紫色の魔力を集中させ、一体化させたのと同時に地面に着地した。
「<レイ・スラッシュ・三重奏!>」
地面を蹴って剣を薙ぎ払い、音属性を纏った一撃を災禍の竜の無防備になっている腹部に叩き込む。
三重に打ち抜く音の衝撃に、災禍の竜はたたらを踏んだ。
「グルゥアァァァッ!」
だけど、俺の猛攻に災禍の竜は怯むことなく反撃してくる。大きく翼を羽ばたかせると、巻き起こった暴風に俺は軽々と吹き飛ばされてしまった。
しかも、その暴風には風の刃が混ざっている。吹き飛ばされ、宙を舞っている俺に風の刃が斬り裂こうと襲いかかってきた。
「タケル、危ない!」
そのまま風の刃に斬り裂かれそうになる所を、真紅郎が弦を速弾きして放った魔力弾が助ける。
軌道を変え、上下左右から弧を描いて飛来した魔力弾は風の刃を相殺させた。
どうにか地面に足を着けてゴロゴロと転がりながら受け身を取ると、俺と入れ替わるようにサクヤが災禍の竜へ走っていく。
「<レイ・ブロー・二分音符!>」
両拳に紫色の魔力を纏わせ、ボクシングのワンツーのように左右の拳を災禍の竜の足に叩き込むサクヤ。
連続で音の衝撃を受けた足はガクッと膝が折れ、また災禍の竜はバランスを崩した。
その隙を狙ってヴァイクとレンカは引き金を引き、炎の槍と風の刃が災禍の竜の体に着弾する。
「ゴアァァァァァァァァァァッ!」
そして、災禍の竜は鬱陶しいと言わんばかりに咆哮すると、音の衝撃波がサクヤを巻き込んで俺たちにまで襲ってきた。
ビリビリと大気を震わせながら放たれた衝撃波に、俺たちは為すすべもなく吹き飛ぶ。
「<ブリザード・ファフナー!>」
すると、遊撃として災禍の竜の周りを走っていたアスワドが氷属性魔法を唱えた。
氷で出来た巨大な龍は長い体をくねらせながら災禍の竜へと襲いかかる。氷の牙を剥き出しにして突き立てようとする氷の龍に、災禍の竜は両腕を広げて受け止めると、そのまま力づくに地面へと叩きつけた。
「ガァァァァァァァッ!」
そして、地面をのたうち回る氷の龍の顔面に向かって右足を振り上げ、思い切り踏みつける。
すると、そこから炎の壁がせり上がり、業火に包まれた氷の龍は水蒸気を上げて蒸発していく。ビキビキと体にヒビが入っていく氷の龍に、災禍の竜はそのまま足で踏み砕くと氷の破片を舞い散らせながら霧散した。
災禍の竜は雄叫びを上げ、翼を広げて氷の破片を吹き飛ばす。圧倒的な力の前に、アスワドは舌打ちした。
「チッ、勝ったつもりかよ……おい、赤髪! 次は俺も突っ込む!」
「分かった!」
遊撃していたアスワドも加わり、俺とレイド、サクヤ、アスワドの四人でまた災禍の竜へ走っていく。
だけど災禍の竜はこれ以上近づけたくないのか、また咆哮して俺たちに向かって音の衝撃波を放ってきた。
剣を突き立ててどうにか堪える。でも、このままだと先に進めそうにない。
「これは……使うしかないか?」
そう呟きながら、俺は腰に着けていた手のひらサイズの金色の小さな箱に手を添えた。
これはベリオさんが俺のために作ってくれた、簡単に言えば強化アイテム。ただこれはまだ試作段階で、一度使えば壊れる代物。
だけど、これを使えば災禍の竜とも互角に戦えるはずだ。使うタイミングを考えないといけないけど……ここで使うべきか悩む。
すると、レイドが俺をチラッと見てから声をかけてきた。
「タケル。何か手があるんだな?」
「……一応な。だけどどこまで保つか分からない。でも、使えばきっと、災禍の竜と互角に渡り合えるはずだ」
「そうか……ならば、その隙を私が作ろう」
そう言ってレイドは俺の前に立つと、剣を構える。
「全力で援護する。例え私がやられようとも、貴殿は気にせず戦え」
「……分かった」
レイドの覚悟を感じた俺は、黙って従うことにした。
使うタイミングは、災禍の竜の懐に潜り込んだ時。この強化アイテムを使い、同時に俺の固有魔法<ア・カペラ>を使って、一気に勝負を決めよう。
俺たちは合図せずに同時に走り出す。愚直だろうと、これしか戦う方法がないからな。
そこを、近づかせたくない災禍の竜がまた咆哮。音の衝撃波を放ってくる。
向かってくる音の衝撃波に怯むことなく、俺たちは立ち向かうのだった。




