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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第九章『漂流ロックバンドと哀哭のドラゴン』

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九曲目『開花する才能』

 薄暗い曇り空の下、鬱蒼とした森の中に甲高い金属がぶつかり合う音が響く。

 ビリビリと腕に痺れが走りながら、俺はタンッと地面を蹴って距離を取った。荒くなった呼吸を落ち着かせながら剣を構え、相対しているレイドに目を向ける。

 と言っても、俺の視界は真っ暗だ。その理由は……目に布を巻いてる(・・・・・・・・)から。


「慣れてきたな。もっと音を聞き、感覚を研ぎ澄ませろ」

「無茶言うなぁ……これでもギリギリなんだけど」


 どうして目隠しをしているのかと言うと、レイドからの提案からだった。

 ボルクが羅針盤の作成に取りかかって、二日。その間、俺たちはレイドたち魔族と連携が取れるよう、チーム分けをして特訓している。

 そこで、レイドは俺との模擬戦であることに気づいた。それは、俺が目に頼りすぎている(・・・・・・・・・)ことだ。


「タケル、貴殿は相手の動きを見定めるのに無意識に足や身体の動きの全てを目で追っている。それは悪いことではないが、格下やある程度実力が同じ相手には充分でもそれ以上……超一流の剣士相手には通じない」

「じゃあどうすればいいんだ?」

「目隠しをして戦え。目だけではなく、耳で音を聞き、空気を肌で感じるんだ。五感の全てを使い、相手の動きを読め。それが出来れば……貴殿はもっと強くなれる」


 初日にレイドは俺との模擬戦で、俺がもう一段階強くなれるための方法を提案してきた。

 正直、まるで漫画のような修行法だと半信半疑だったけど、やってみるとたしかにかなり神経と感覚を研ぎ澄ませれば相手の動きが少しずつ分かってくる。

 レイドやロイドさんクラスの武人になるには、これぐらい出来るのが当然らしい。その領域に俺は、一歩踏み入れることが出来た。

 とはいえ、やってることは滅茶苦茶だ。常時これが出来る超一流は、本当に化け物だと身に染みて分かった。


「よし、休憩だ。次はやよい、貴殿がかかってくるといい」


 レイドの言葉に俺は目隠しを外す。極限まで集中していたせいで汗だくになりながら、糸が切れたように地面にへたり込んだ。


「あぁ、きっつ……」


 グデッと脱力しながら空を見上げれば、曇天の空が広がっている。今は昼頃なのに、薄暗く感じた。

 そうやって休んでいると、重い金属音が響いてくる。レイドと模擬戦を始めたやよいが、斧を振り下ろしてレイドの剣とぶつかり合った音だ。

 地面を震わせるその膂力にレイドは歯を食いしばりながら、やよいの斧を受け流す。体勢を崩しそうになったやよいは、どうにか足を前に出して堪えつつグルリとその場でコマのように回った。


「てあぁぁぁぁッ!」


 そのまま身体を半回転させながら、振り下ろしていた斧を斜め下から振り上げる。仰け反ることで避けたレイドに、斧は空を切る。


「まだまだぁぁ!」


 だけど、やよいは斧を振り上げた勢いのままさらに背中を向けるように一回転し、流れるように斧を薙ぎ払った。

 怒濤の連続攻撃にレイドはニヤリと笑みを浮かべる。


「いいぞ! 一撃での威力も大事だが、避けられれば隙が生まれる! 小柄な体格を活かし、流れるように攻撃しろ!」


 やよいもレイドとの模擬戦を繰り返し、前よりも格段に強くなっていた。レイドの指摘はかなり的確で分かりやすい。感覚派のやよいや俺にも理解しやすく、俺たちはメキメキと実力が伸びていくのを感じていた。

 もちろん、それは俺たちだけじゃない。


「坊や! 盾は受け止めるだけじゃないわ! 受け流すことも大事よ! 圧倒的な力には対抗するんじゃなく、逸らすこと!」

「……受け流す。こう?」


 サクヤは新しく編み出した自身の固有魔法の練習をレンカとしている。この二日で最初は険悪なムードだった二人も、結構打ち解けていた。

 まぁ、たまに口喧嘩してるけど。


「真紅郎、射撃時に銃身がブレている。それが命取りになる場面もあるぞ。しっかりと銃身を固定しろ。例え激しく動いている時も、だ」

「分かったよ、ヴァイク」


 ヴァイクと真紅郎は銃を構えながら話をしていた。どうもヴァイクは真紅郎と同じく理論派で、馬が合っているらしい。

 ヴァイクに指摘されたことを気を付けながら、真紅郎は弦を弾いて銃口から魔力弾を射出した。

 その目標は……ウォレスだ。


「オウ!? し、真紅郎! まだやるのか!?」

「あと三十分ぐらいお願い! もう少しで感覚が掴

めそうなんだ!」

「ヘイ! そう言ってもう一時間やってるぜ!?」


 真っ直ぐに撃ち出された魔力弾を、ウォレスは慌てて両手のドラムスティックから展開している魔力刃で打ち払う。

 疲弊しているウォレスに向かって、ヴァイクは銃を向けた。


「ウォレス。極限の疲労状態でこそ、動きは無駄が省かれて効率化される。もっと疲れろ。無駄をそぎ落とせ」


 そう言ってレイドは引き金を引いて、銃口から炎の槍を放つ。向かってくる炎の槍をウォレスは辛そうに手足を動かし、対処していた。

 ウォレスの課題は、動きの無駄をなくして効率よく動くこと。

 元々俺とやよいと同じ感覚派のウォレスは、俺たちの中でも特に動きが野性的だ。本能で動き、恵まれた体格で戦うウォレスだけど、ヴァイクの目には無駄が多すぎるらしい。

 もちろん、それがウォレスの長所だ。相手のペースに飲まれず、むしろかき乱す読めない動きは、相手からすれば戦い辛いだろう。

 だからヴァイクはウォレスの長所を消さず、それでいて動きの効率化をさせるためにこうやって的になるよう指示を出していた。


「あっちもキツそうだな……」


 俺も相当だけど、ウォレスの訓練も辛そうだ。ずっと真紅郎とヴァイクの的になり、ほとんど休憩なしで動いてるからな。疲労は相当だろう。その疲労状態がヴァイクの狙いみたいだけど。

 とにかく、この二日の訓練は無駄じゃない。それぞれが二日前よりも実力を上げている。災禍の竜との戦いはもう間近だからな、出来る限り強くならないと。

 そう気合いを入れ直していると、機竜艇の方からボルクの声が聞こえてきた。


「出来たぁぁぁぁぁ! 羅針盤、完成したよぉぉぉぉぉ!」


 どうやら羅針盤が完成したらしい。俺たちはすぐに訓練を切り上げ、機竜艇に戻った。

 俺たち全員が操舵室に入ると、そこにはボルクが誇らしげに腕組みしながら胸を張って出迎えてくれた。


「タケル兄さん! みんな! ようやく出来たんだ! オレが作った羅針盤を見てくれよ!」


 ボルクは頬が痩け、目の下に真っ黒なクマを作りながら満面の笑みを浮かべている。この二日、ボルクは寝食を忘れて作業に没頭していたからな。

 少しは休んだ方がいいだろうけど、テンションが上がりまくっているボルクは聞こうとしないだろうな。

 とりあえず、完成した羅針盤を見てみると……。


「ん? 前とは違って見えるけど、あんまり変わってない……?」


 操舵室の中央に置かれた羅針盤は、前と同じ天球儀型だ。一回り大きくなり、細部は違ってるけど、ほとんど変わっているようには見えない。

 素直に感想を呟くと、ボルクはニヤリと笑みを浮かべた。


「そうだろ? あんまり変わってないように見えるだろ? でも、全然違うんだぜぇ!」

「ほう、なら見せてみろボルク」


 すると、操舵室にベリオさんが入ってくる。ベリオさんは弟子が作り上げた羅針盤をチラッと見てから、ボルクに向かって不敵な笑みを見せていた。

 ベリオさんの登場に少し緊張し始めたボルクは、ゆっくりと深呼吸してから羅針盤に触れる。


「親方。オレたちはこれから、あのモンスター……災禍の竜と戦うだろ?」


 静かに語り出すボルクに、ベリオさんは無言で続きを促す。

 ボルクは噛みしめるように目を閉じてから、真剣な眼差しでベリオさんを見つめた。


「この船は、機竜艇は、親方の夢そのもの。大事な船を、災禍の竜との戦いで沈めたくない。だからオレは、機竜艇を守るためにこの羅針盤を作ったんだ」


 そう言ってボルクはベリオさんに「機竜艇を起動してみて」と頼む。

 ベリオさんは舵輪の前に立つと、レバーを引いて機竜艇を起動した。心臓部から魔力が伝わってくると、羅針盤が動き出す。

 何重にも重なっていた輪の全てが複雑に動いて広がると、中央にある鉱石が光り出した。

 そして、鉱石から放たれた光がレンズに当たると、空中に投影されるように機竜艇本体の映像が映し出された。


「な、なんだこれ!?」


 あまりの光景に目を丸くして驚く。他のみんなも呆然と映し出された映像に目を奪われていた。

 ベリオさんも同じように、目を見開いて驚く。


「く、空間投影ディスプレイ……? と、とんでもない技術だよ、これ」


 真紅郎は目をパチクリさせながら呟いた。

 空間投影ディスプレイ。よくSF映画であるような光景が、科学技術が発展してないこの異世界に現れた。

 それをボルクは一人で、しかも二日で作り上げたのか?


「ボルク、これはどういう仕組みだ?」


 ようやく我に返ったベリオさんが聞くと、ボルクは鼻を擦って照れながら説明し始める。


「ただの羅針盤を作るなら半日で出来たんだ。でもこれから先、オレたちは災禍の竜と戦う。その時、ただの羅針盤でいいのかって考えたんだ」


 壊れた羅針盤を元通りにするのは、半日で終わる。だけど、ボルクはそれだけでいいのかという考えに思い至った。

 災禍の竜との戦いで機竜艇が沈めたくない。なら、どうするか?

 その答えが、この空間投影ディスプレイだった。


「戦いの時、機竜艇全体の状況が分かった方がいいだろ? だから、オレは機竜艇本体、周囲の状況、気候全部がすぐに見られるようにしたんだ」


 映し出された映像には、機竜艇本体とその周囲の地形まで表示されている。たしかにこれならどこに何がいるのか、どこか壊れたのか一目瞭然だ。


「機竜艇の心臓部から全体に送られてくる魔力は目に見えない波紋みたいなの、魔力波が広がっている。それを使ってみたんだ。広がった魔力波は物体にぶつかると、跳ね返ってくる。その戻ってきた魔力波を回収して、映像化してみたんだ。戻ってくる時間は一定だから、距離も分かるし大きさや形までくっきり分かるんだぜ?」

「ソナーと同じ原理だね」


 ボルクの説明を聞いて、真紅郎は顎に手を当てながら俺たちでも分かりやすく付け加える。原理はよく分からないけど、なんとなく分かった。


「戻ってきた魔力波を魔鉱石に伝えるようにしたんだ。魔鉱石は魔力を反射する(・・・・)から、送られた魔力波を反射し、親方から貰ったモノクルのレンズに集める」


 説明しながらボルクが指さしたのは、羅針盤の中央に置かれた鉱石、魔鉱石だ。

 たしかに魔鉱石は魔力を反射させる特性を持ち、魔装も同じことが出来る。ボルクの言う魔力波も同じように跳ね返すらしい。


「そして、魔鉱石が跳ね返した魔力波の情報をレンズを通して拡大、あとは霧状になっている魔力を固めて、映像を映し出してる。しかもこれ、触れば動かせるんだ」


 ボルクが映し出された機竜艇に触れると、グルッと角度を変えた。これなら船底も見ることも出来るな。

 真紅郎が言うには、俺たちの世界でも霧……ミストを使って映像を映し、触れることも出来る技術があるらしい。

 その技術をボルクは一人で編み出したのか? これは天才としか言い表せない。

 ボルクは説明し終えると、少し不安そうにベリオさんを見つめる。


「お、親方。どう、かな? ちょっと改造しすぎたけど、使えそう?」


 ベリオさんは顎髭を撫でると懐から煙管を取り出し、火を点けた。

 ゆっくりと煙管を吸って口から紫煙を吐くと、突然豪快に笑い出す。


「ガッハハハハハ! ボルク! やはりお前は俺が見込んだ通りの男だ!」

「お、親方?」

「使えそう? バカを言うな! こんなもん、俺ですら思いつかなかったぞ! それをお前が作るなんてな……ククッ」


 腹を抱えて笑ったベリオさんは、ボルクに近づくと力強く抱きしめた。


「え!? お、親方!?」


 突然抱きしめられ驚くボルクに、ベリオさんは優しく頭を撫でる。


「お前は自慢の弟子だ。俺が出した課題に想像以上に答えた。お前なら一流の職人……いや、俺以上の職人になれる。俺が保証する」


 ベリオさんの真っ直ぐな誉め言葉に、ボルクは呆然としながら涙を流した。

 ずっと弟子にするのを断られ、ようやく弟子として受け入れられ、職人見習いになれたボルク。

 そして、世界一の職人のベリオさんに、自分を越える職人になれると保証された。

 それが嬉しくないはずがない。

 何も言えずに流れる涙を拭いながら何度も頷くボルク。その姿を微笑ましく見ていたベリオさんは、俺たちに向かって声を張り上げた。


「最高の羅針盤が出来上がった! これならあの空域も越えられる! 全員支度しろ! すぐにでも出発するぞ!」


 先に進むための羅針盤は出来上がった。これでようやく、災禍の竜へたどり着ける。

 もはやこの機竜艇の行く道を阻むものはない。どんな荒れた天候でも、ボルクが作り上げた最高の羅針盤が道を示してくれる。

 戦いの時は、間近に迫っていた。


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