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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第九章『漂流ロックバンドと哀哭のドラゴン』

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四曲目『黒豹団の成り立ち』

 何かが怒り狂っているかのような嵐が吹き荒れている。暴風が吼え、豪雨が打ち付け、雷が轟いている中、機竜艇は嵐を突き進んでいった。

 グラグラと揺れる機竜艇をベリオさんは舵輪を握りしめてどうにか船体を安定させ、ボルクも忙しそうに計器を確認しながら出力を操作している。

 そして、俺たちはと言うと、甲板に出て<魔装>を構えていた。


「ヘイ、タケル! また来たぜ!?」


 ウォレスが指さした方向を見ると、まるで逃げるように群をなしてこちらに向かってくるモンスター。俺たちの世界でも有名な空想上の生物、<グリフォン>だった。

 まるで空を走るかのようにライオンのような足を動かし、背中に生えた立派な両翼を羽ばたかせて飛んでくるグリフォン。その鷲の顔には何かに怯えるように、必死な形相を浮かべていた。

 俺、ウォレス、真紅郎は腰に命綱を巻きながら、向かってくるグリフォンの群を迎え撃つ。

 

「ーー<ストローク!>」


 ウォレスは魔装……二本のドラムスティックを思い切り振り上げ、目の前に展開していた紫色の魔法陣に打ち付けた。

 すると、魔法陣から音の衝撃波が放たれ、機竜艇にぶつかりそうになっていたグリフォンを弾き飛ばす。


「ーー<スラップ!>」


 真紅郎はベース型の銃を構えると弦を指で強く弾き、ベースのネック部分にある銃口から圧縮された紫色の魔力弾を放った。

 魔力弾が直撃したグリフォンは悲鳴を上げながら落下していく。


「ーー<レイ・スラッシュ!>」


 俺は柄の先にマイクが取り付けてある細身の両刃剣を居合いのように構え、剣身に魔力を集めて一体化させた。

 そして、剣を横に薙ぎ払って魔力を込めた一撃を近づいてきたグリフォンに叩き込む。

 翼を斬り裂かれたグリフォンはグルグルと錐揉み回転しながら甲板に落下し、転がっていった。


「ちょっとタケル! こっちにやらないでよ!」


 しまった、と思って振り返ると、やよいが怒りながら赤いギター型の斧を振り上げ、甲板を転がっていたグリフォンを機竜艇から落とす。

 プンプンと頬を膨らませているやよいに「すまん!」と軽く謝りつつ、すぐに剣を構え直した。


「それにしても、数が多いな!」


 吹き付けてくる雨に濡れ、悪態を吐きながら剣を振り上げて向かってくるグリフォンを吹き飛ばす。

 村を出発して二日。災禍の竜がいるであろう東の方角……嵐の中心に向かっていると、まるで何かから逃げるようにモンスターの群が移動している様子が多く見られるようになっていた。

 俺たちの進行方向とは真逆に飛んでくるモンスターに、高速で移動している機竜艇は回避することが出来ない。もちろん、その程度で機竜艇が壊れるほどではないけど……それでも何か不具合が出る可能性はゼロじゃない。

 そういう訳で、俺たちはモンスターの群が現れた時はこうやって嵐の中でも甲板に出て、機竜艇にぶつからないように迎撃する仕事をしていた。


「やっぱりこの先にいるんだろうね!」


 雨で濡れた目を腕で拭いながら、魔力弾を放つ真紅郎。モンスターが逃げているのは、間違いなく災禍の竜からだろう。

 そして、モンスターは俺たちが向かっている先……嵐の中心部から離れるように移動している。つまりあの嵐の中心部に、奴がいるんだ。

 徐々に災禍の竜との戦いが近づいている。そう思うと自然に柄を握る手に力が入り、不安や恐怖を振り払うように剣を振った。

 そうこうしている内に、グリフォンの群はいなくなる。周りを見渡しても他にモンスターの姿はないようだし、ようやく落ち着いたな。


「ハッハッハ! 十五匹は倒したな! オレが一番だろ!」

「数なんてどうでもいいよ……はぁ、疲れた」

「みんなお疲れ様! 風邪引くからすぐに体拭いて、お風呂に入って!」

「……はい、これ」


 濡れた髪をかき上げながら自慢げに笑うウォレスと、疲れ切っている真紅郎に続いて俺も機竜艇の中に入る。

 俺たちを出迎えたサクヤとやよい。サクヤに身体を拭く布を渡されながら、やよいに急かされて風呂場に向かおうとすると……壁に寄りかかって座り、目を閉じているアスワドを見つけた。


「あの野郎……サボりやがって」


 こっちは忙しく働いていたというのに、何も手伝おうとしないアスワドに一言文句を言ってやろうと近寄る。


「おい、ボサ頭。お前も働けよ」


 アスワドの前で腕組みしながら声をかけると、アスワドは片目を開いて俺を睨んでから欠伸をした。


「うるせぇな……俺は今、眠いんだよ。邪魔すんな」

「だったら部屋で寝ろよ」

「どこで寝ようが俺の勝手だろうが」


 面倒臭そうに返事をしてから、またアスワドは目を閉じる。やる気のないアスワドに呆れてため息を吐いた。

 ここ最近……というより、村から出てからアスワドの様子がおかしい。いつもしている口喧嘩も減り、こうやって寝ているかぼんやりしていることが多くなっていた。

 どうにも調子が狂うな、と思いながらアスワドの隣で壁に寄りかかり、ボーッと窓の外を眺める。

 それから数分の間を空けてから、俺は口を開いた。


「なぁ、アスワド。お前はなんで盗賊なんてやってるんだ?」


 ふと、ずっと気になっていたことを聞いてみる。

 するとアスワドはチラッと俺を見てから、鼻を鳴らして答えた。


「ハンッ、なんだいきなり。んなこと聞いてどうするんだよ?」

「別に、ちょっと気になっただけだ」

「……んな大層な理由なんてねぇよ。生きるために盗みをしてる、ただそれだけだ」


 適当にあしらうように話すアスワド。嘘を吐いているようには見えないけど、なんとなく本心まで話しているようには思えなかった。

 生きるために、金のために盗みを働く。それが盗賊だ。

 だけど、だったらどうして……。


「じゃあどうしてあの時、村の住人に過剰な量の宝石を渡したんだ?」


 俺が言っているのは、二日前に立ち寄った名もなき村でのこと。

 食糧調達のためにアスワドは村の住人から野菜を貰う代価として、結構な量の宝石を渡していた。

 金のために盗みを働く盗賊が、野菜を貰う代価でそれだけの量を渡すのはあまりにもおかしい。しかも、全部アスワドが立て替えていた。

 ずっと心の中で引っかかっていたことを聞くと、アスワドは遠くを見つめながら面倒臭そうにため息を吐いた。


「てめぇはあの村を見て、どう思った?」

「どう思ったって、小さい村だな……ぐらいだけど」

「そうだよな、小さい村だ……」


 それがどうしたのか、と首を傾げているとアスワドは静かに語り出す。


「あの村は生活に困ってはないだろうが、裕福でもねぇ。見方によっては貧しいとも言える、そうだろ?」

「まぁ……そうだな」


 あの村の住人は決して裕福とは言えない生活を送っていた。もちろん、それでも生活に困っている様子はなかったけど、貧しい暮らしと言われれば否定も出来ない。


「俺たち黒豹団の奴らは、全員が貧しい家庭や孤児ばかりだ。もちろん、俺もな。食うもんもねぇ、住むところもねぇ……そんな奴らの集まりだ」


 アスワドは肩を竦めながら黒豹団について話す。

 貧しく、家族もなく、食うに困り、住むところもない。そんな奴らを集め、結成したのが……盗賊グループ黒豹団だったのか。

 そして、その上に立つアスワドもまた、孤児だったようだ。

 

「そんな掃き溜めのような奴らがまともな職に就けるはずもねぇ。だから、俺たちは生きるために盗みを働くことを決めた。盗むのは金持ち、それも不正に金を巻き上げたり、貧しい奴らから金を搾り取っているようなクソみてぇな貴族とかを相手に、だ」

「そうなのか? てっきり見境なくかと思ってた」


 黒豹団は性根が腐った貴族とか金持ちを相手に盗みを働いてたらしい。正直、意外だった。

 素直に答えるとアスワドは鼻を鳴らす。


「ハンッ、俺たちはこれでも誇りを持って盗みをしてるんでね。そこらの下品な盗賊共と一緒にすんじゃねぇよ。ま、やってることは大して変わらねぇけどな」


 自嘲するように笑ったアスワドは立ち上がると、後頭部をガシガシと掻きながら窓の外を眺める。


「世の中、平等なんてことはありえねぇ。でもな、地面這い回って頑張って生きてる奴に何もねぇのは許せねぇ。だから俺は盗んだ金品を自分たちだけじゃなく

、同じような境遇の奴にばら撒いた。最初は一人でやってたが、その内に一人、また一人と増えてった。そうして、俺たちは盗賊団を作り上げた」

「それが、黒豹団か」


 盗みをしていることは悪いことなのは間違いない。だけどアスワドはただ自分のためだけじゃなく、同じ境遇……貧窮している人や孤児に盗んだ金品をばら撒いていた。

 その行いはただの盗賊じゃなくーー義賊。黒豹団は盗賊グループじゃなくて義賊の集まりだったのか。


「まぁ、だからと言って俺たちがやってることを正当化するつもりはねぇ。やってることは犯罪だからな。だが、それで救われる奴もいる。その日の飯ぐらいは食うことが出来る。腹が膨れりゃ、少しは前向いて生きれるだろ」


 全てを救うことは出来ない。それでも、腹が満たされれば生きる活力が湧く。そのあとは自分次第。

 黒豹団が……アスワドがやってやれるのは生きる活力を与えること。だけど、それで救われる

命があるなら……一概に悪とは言えないんじゃないか?

 少なくとも、俺は悪と断ずることは出来ない。


「お前、実はいい奴だったんだな」

「……はぁ? 気持ち悪ぃこと言ってんじゃねぇよ。俺がいい奴だぁ? ハンッ、んな訳ねぇだろ。俺はただの悪党だっつの。変な勘違いすんな、ボケ」


 うげ、と舌を出しながら気持ち悪そうに悪態を吐くアスワド。

 つまり、アスワドがあの村で過剰に宝石を渡していたのはあの住人……いや、あの村に支援するためだったんだな。

 だけどアスワドに言っても否定するだろう。違うと一蹴してくるだろう。

 なら俺は、もうこの話をすることはない。今まで通り、気にくわない奴として接するだけだ。

 ま、ちょっとばかり見直したけど。

 ニヤニヤと笑っているとアスワドは舌打ちしながら背中を向ける。すると、奥の方から悲鳴が聞こえてきた。


「あ、兄貴ぃ! 兄貴ぃぃぃぃ! た、助けてくれッスぅぅぅぅぅ!?」


 今の声は、シエンか?

 助けを呼ぶシエンに俺とアスワドが声がした方に向かうと、そこには小さい鳥に追いかけ回されているシエンの姿があった。

 あのモンスターはグリフォンの群が向かってくる前に迎撃した、<クロウシーフ>と呼ばれる黒いカラス型のモンスター、その子供だった。

 クロウシーフはバサバサと小さな翼を羽ばたかせながら、シエンの口元を隠している布をクチバシで引っ張っている。


「や、やめるッスぅ! そ、それだけは、それだけはお願いだからや、やめ、やめてぇぇぇぇぇ!?」


 シエンは涙目になりながら盗られそうになっている口布を引っ張り合っていた。

 その様子を見たアスワドは呆れたようにため息を吐きながら、サッと近づいてクロウシーフを捕まえる。


「おらよ。ったく、しっかりしろよ」

「はぁ、はぁ……あ、ありがとッス、兄貴ぃ……」


 バタバタと暴れるクロウシーフを掴むアスワドにお

礼を言いながら、シエンは緩んだ口布を結び直していた。

 そう言えば、ずっと気になっていたことがある。


「なぁ、シエン。どうしてお前はそこまでして顔を隠したいんだ?」


 出会った時から今まで、シエンは絶対に素顔を見せようとしなかった。俺たちだけじゃなく、仲間の黒豹団の奴らにも絶対に。

 軽く聞いてみると、シエンはギクリと肩を震わせていた。


「い、いやぁ、その、えっとぉ……」


 凄く困ったようにしどろもどろになっているシエン。軽い調子で聞いたけど、あんまり聞かなかった方がよかったのか?

 わたわたとしているシエンにアスワドは額に手を当てながらやれやれと首を横に振る。


「……バカかてめぇは。盗賊なんだから顔隠して当然だろ」

「そ、そうッス! 盗賊ッスから!」


 アスワドに乗っかるように身を乗り出しながら答えるシエン。

 何か誤魔化しているようにも見えるけど……まぁ、いいか。そこまで聞きたかった訳じゃないし。


「へぇ、そうなんだ。アスワドは見たことあるのか?」

「……いや、ねぇよ。別にどうでもいいからな」


 アスワドも見たことがないのか。仲間にまで徹底して隠すなんて、盗賊は大変なんだな。

 その割には他の黒豹団は隠してないけど……。


「んなことどうでもいいだろ。で、こいつどうする? 殺すか?」


 そう言って捕まえていたクロウシーフの子供を睨むアスワド。殺気を感じたのかプルプルと震えるクロウシーフをシエンはジッと見つめる。


「……兄貴ぃ」

「はぁ。勝手にしろ」


 何か言いたげにしているシエンにアスワドは察したのか、クロウシーフを手放した。

 解放されたクロウシーフはパタパタと羽ばたきながらシエンの肩に乗る。

 クロウシーフを優しく撫でながら、シエンは小さく笑った。


「お前はこれから黒豹団の一員としてしっかり働くッスよ?」


 その言葉にクロウシーフは小さく鳴いて答える。どうやらペットにするようだ。

 いいのか、とアスワドを見ると鼻を鳴らした。


「クロウシーフってのは盗みが得意なモンスターだからな。盗賊にはお誂え向きだろ」


 そもそもカラスってのは光り物を集める習性がある。このクロウシーフも同じように人の物を盗む困ったモンスターとして有名だ。

 アスワドが許したんなら、それでいいか。


「名前を付けるッス! そうッスねぇ……ネロにするッス!」


 やよいとは違ってネーミングセンスはよさそうだな。

 ネロと名付けられたクロウシーフは嬉しそうに飛び回ると、シエンの頭に巻いているバンダナを咥えて引っ張り始めた。


「ちょ、ちょちょちょ、これもダメッス! ダメだってばぁぁぁ!?」


 これは、躾が大変そうだな。

 微笑ましい光景を眺めながら、俺は小さく笑みをこぼすのだった。


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