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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第九章『漂流ロックバンドと哀哭のドラゴン』

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プロローグ『嵐の前の静けさ』

 むかしむかしあるところに、いっぴきのちいさなドラゴンがいました。


 そのドラゴンはおだやかで、やさしいドラゴンでした。


 だけど、そのドラゴンにはともだちがいません。かぞくもいません。ずっとひとりぼっちでした。


 それは、そのドラゴンがまっしろなからだをしていたからです。


 ゆきのようにしろいそのからだは、ほかのドラゴンとはちがうものでした。


 そのせいでドラゴンはいじめられ、なかまはずれにされてしまったのです。


 でも、ドラゴンはおこりませんでした。


 やさしいやさしいドラゴンは、くらいどうくつでくらすことにしました。


 くらいどうくつで、たったのいっぴきでくらすドラゴン。


 ふと、ドラゴンはおもいました。


 どうしてぼくは、みんなとちがうんだろう?



 海を渡るように空を駆ける船ーー<機竜艇>。その姿はまさに竜のように大きな両翼で風に乗り、悠々と空を渡っている。

 機竜艇の大きな甲板に出た俺は、グッと背筋を伸ばす。空は快晴、穏やかな風が頬を撫で、気持ちがよかった。


「ハッハッハ! ヘイ、すげぇぞタケル! こんなの初体験ファストエクスペリエンスだ! フゥゥゥ!」


 俺の名前を呼びながら甲板の柵に掴まって興奮しているのは、ウォレス。

 俺たちロックバンド<Realize>のドラム担当で、金髪に彫りの深い顔立ちをした体格のいい外国人だ。

 船が空を飛ぶという、元の世界では考えられない経験にテンションが上がっているウォレスに、苦笑しながら声をかける。


「落ちるなよ、ウォレス!」

「そうだよ、ウォレス! 危ないから戻ってきて!」


 俺と一緒にウォレスを窘めたのは、真紅郎。ベース担当で見た目は女の子だけど歴とした男だ。

 ウォレスを注意してから、真紅郎は深刻そうな表情で顎に手を当てながら考え事を始める。


「それにしても、妙だね。ここ二日、どこも被害を受けている様子はない。あまりにも平和過ぎる……」

「まぁ、いいじゃん! 平和なのはいいことだよ!」


 真紅郎の独り言に答えたのは、やよいだった。

 Realizeの紅一点、女子高生ギタリストのやよいは、風に靡く綺麗な黒髪を手で抑えながら笑みをこぼす。

 たしかに、平和なことはいいことだ。だけど、俺も真紅郎の疑問と同じことを考えていた。


 俺たちの目的ーー世界を滅ぼす生きた災害、<災禍の竜>。俺たちは災禍の竜を止めるために、機竜艇に乗って追いかけている。


 でも、災禍の竜が飛んでいった方角を追ってもどこも被害を受けていない。それどころか、平和そのものだ。

 世界を滅ぼす凶悪なモンスターが、何もしない?それはあまりにも違和感がある。


「……みんな、ベリオが呼んでる」

「きゅー!」


 そんなことを考えていると甲板に出てきた一人の少年、サクヤが俺たちに声をかけてきた。

 この異世界に来てからメンバーに加入した、キーボード担当のダークエルフ族の少年サクヤ。

 白髪に褐色の肌、眠そうな目と表情があまり変わらないのが特徴のサクヤの頭には、一匹のモンスターが乗っていた。

 白いモフモフとした毛並み、額に付いている蒼い楕円型の宝石。フワフワとした尻尾を揺れ動かしている子狐型のモンスター、キュウちゃんだ。

 一人と一匹の声に集まった俺たちは、首を傾げる。


「ベリオさんが? どうしたんだ?」


 ベリオ、というのはこの機竜艇の船長のこと。ドワーフ族と人間とのハーフで、世界一と名高い職人だ。

 そのベリオさんがどうして俺たちを呼んでいるのか疑問に思っていると、甲板に出てきた一人の男がサクヤの代わりに答えた。


「いいから早くベリオのおやっさんとこに来い、赤髪!」


 赤髪、というのは俺のことだ。

 Realizeのボーカル担当、タケル。ちゃんと名前があるのに、こいつは赤髪としか呼ばない。

 そんな腹が立つ気にくわない男の名は、アスワド。ボサボサの黒髪と琥珀色の黄色い瞳をした男で、盗賊グループ<黒豹団>のリーダーだ。

 アスワドの言い方にイラッとした俺は、睨みながら鼻を鳴らす。


「言われなくても今から行くっての」

「遅いつってんだよ、ボケ。あ、やよいたんはゆっくり行こうか? なんなら俺と一緒に行く!?」


 俺との対応とは正反対に、アスワドがやよいに声をかけていた。

 こいつが気にくわない理由は、やよいのストーカーだということが大きい。

 前にライブをした時から、アスワドはやよいのファン……というより、厄介なストーカーと化していた。

 大事な仲間に手出しさせる訳にはいかない。すぐに間に入ってやよいを守る。


「近寄るな変態ボサ髪! ここから落ちろ!」

「あぁ!? んだとクソ赤髪! てめぇが落ちろ!」


 俺とアスワドが取っ組み合って口喧嘩していると、他のみんなは慣れた様子で無視して機竜艇の中に入っていった。

 機竜艇に乗ってから、三日。その間ずっと俺とアスワドは小競り合いばかりしているせいで、みんなからしたら見慣れた光景になっているようだ。

 急いでみんなを追いかけて機竜艇の中に入る。そのままベリオさんがいる操舵室に入ると、一人の少年が声をかけてきた。


「あ、来た! タケル兄さん、遅いですよ!」

「悪い、ボルク」


 少年の名は、ボルク。ベリオさんの弟子で、職人見習いだ。

 この機竜艇では計器類の確認や管理を行う、機関長のような役割を担っている。

 ボルクに軽く謝っていると、舵輪の前に立っていた大柄な男、ベリオさんが鼻を鳴らした。


「フンッ、ようやく来たか。話し合いをするから、集まれ」


 言葉少なく集合をかけるベリオさん。操舵室に置いてある木のながテーブルに俺たちRealize五人と一匹、アスワド、ボルクが集まると、ベリオさんが地図を広げた。


「俺たちが追っている災禍の竜だが、間違いなくこの方角に向かっているだろう」


 そう言って指さしたのは、地図の東の方角。巨大な山岳地帯が広がっていた。

 すると、サクヤが手を挙げて口を開く。


「……どうして、分かるの?」

「フンッ。地上のモンスターの動きを見張らせていたが、明らかにおかしい。まるで何かに怯えているかのように、この方角から離れようとしていたんだ」


 災禍の竜の存在を察して、逃げ出したんだろう。生きた災害と呼ばれるほどの、凶悪な伝説のモンスターだからな。

 モンスターの動きを見るに、今向かっている方角に災禍の竜がいることは間違いないと豪語するベリオさん。その説明に誰もが納得していた。


「だが、どうして災禍の竜がこの辺りに向かってのかは分からん。何もないはずなのにな」

「何もない? それってどういうこと?」


 腕組みしながら訝しげに言うベリオさんに、やよいが首を傾げる。

 ベリオさんは深いため息を吐きながら、語り出した。


「この辺り一帯は地図を見て分かるだろうが、山岳地帯。その先は前人未踏の地だ」


 そう言って地図を指さすと、たしかに山岳地帯の先は地図に描かれていない。そのことに真紅郎が眉をひそめた。


「誰も踏み入れてない? それはどうしてですか?」

「俺も知らん。噂ではその山岳地帯には凶悪なモンスターがいるとか、人を迷わせるだとか、そもそも険しすぎて誰も進もうと思わないだとか……まぁ、色々あるんだろう」

 

 ベリオさんの説明を聞いても真紅郎はあまり納得していない様子だ。だけど、今考えても分かる訳じゃない。

 それよりも大事なことは、災禍の竜だ。


「とにかく、災禍の竜はこの方角のどこかにいるのは間違いない。このまま真っ直ぐに向かう」


 全員が頷くと、ベリオさんは操舵室に置いてあった羅針盤をセットした。

 そして、ベリオさんは舵輪を握りしめて伝声管を使って機竜艇にいる全船員に号令を出す。


「これより最大船速に入る。もうすぐ嵐が来るからな、一気に突っ切るぞ。全員、気を緩めるな!」


 ベリオさんの号令に船員たちは忙しなく動き出した。機竜艇にいる船員はアスワドの仲間、黒豹団たちだ。

 俺たちも手伝いたいところだけど、ベリオさんに「いざっていう時のために体力を温存しろ。この船の最大戦力はお前たちだからな」と言われ、大人しくしているしかない。

 機竜艇が慌ただしくなる中、真紅郎が口を開いた。


「ねぇ、みんな。災禍の竜との戦いに備えて、作戦会議をしない?」

「ハッハッハ! そうだな、いつ戦いになるか分からない! 今のうちに会議(ミーティング)だ!」


 そうだな、今から作戦を立てた方がいいだろう。

 俺たちは他の船員の邪魔にならないよう、弾薬庫で会議をすることにした。

 ふと、俺は窓から見える快晴の空を眺める。


「……嵐、か」


 穏やかそうに見えるけど、嵐が来るらしい。今の光景は嵐が来る前に静けさなんだろう。

 それは、俺たちのことを暗示しているように思えた。

 今は嵐の前に静けさ。そして、これから嵐……災禍の竜との戦いが始まろうとしている。

 来る戦いのことを思い、ブルリと身体が震えた。

 それは恐怖からなのか、それとも武者震いなのか。


「タケル! 早く!」


 やよいの呼びかけに、我に返る。今はとにかく、作戦を練ることに集中しよう。

 俺は急いで弾薬庫に向かい、みんなで作戦会議を始めた。



本日より9章が始まります!

今回は災禍の竜との決戦!熱い展開となっております!


またお付き合い願います。

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