十曲目『今後の方針と新たな兆し』
キュウちゃんを取り戻して、次の日。
今のところルオが何か俺たちに報復する気配はない。だけど、いつどうなるか分からないから早いところこの国から出ないといけないんだけど……。
「それなんだけど、ちょっと待ってくれないか?」
俺は部屋にRealizeのみんなを集めてから、この国から出るのを待って欲しいとお願いする。
それを聞いたみんなは首を傾げ、真紅郎が手を挙げながら口火を切った。
「タケル、状況が分かってる上で待って欲しいってことだよね?」
「あぁ。ルオが報復してくるかもしれないし、魔族を追わなきゃいけないことも分かってる」
「ヘイ、ならどうしてだ?」
不思議そうに問いかけてくるウォレスに、俺は一度深呼吸してから理由を話し始める。
ベリオさんの夢のこと……機竜艇について。
話し終えると突然ウォレスは勢いよく立ち上がった。
「んだよそれ……最高じゃねぇか! 空を駆ける船? 男として、心躍るぜ!」
ベリオさんの夢に感動したウォレスは、興奮を抑えきれないのか鼻息荒く俺に詰め寄ってくる。
「ヘイ、タケル! そんな面白そうなこと隠してたのか……ズルいぞ!?」
「いや、別に隠してた訳じゃ……」
「ともかく! オレは手伝うぜ! そのベリオって奴に会わせろ!」
ウォレスはこの国に残ることに賛成のようだ。他のみんなはまだ悩んでいるのか、唸っている。
「ボクとしては、この国に残ることはデメリットが多いと思う。でもボクだってその機竜艇、かなり興味深いね」
「てことは?」
「うん、ボクも手伝いたい」
現実的に考えれば、この国に残るのは反対のようだけど、真紅郎も機竜艇に興味があるのか賛成してくれた。
あとは、やよいとサクヤだけど……。
「……機竜艇、乗ってみたい」
「あたしは別に興味ないけど男連中は乗り気みたいだし、仕方ないからいいよ」
サクヤは快く、やよいは賛成数が多いから折れる形で賛成してくれた。よし、これで決まりだな。
「じゃあ、ベリオさんの夢を……機竜艇の復活を手伝うってことで!」
「ハッハッハ! テンション上がってきたぜ! さっそくベリオって奴のところに行くぞ!」
「あ、ちょっと待って」
すぐにでもベリオさんの工房に向かおうとするウォレスを、真紅郎は呼び止めた。
顔をしかめた真紅郎は腕組みしながら片手を顎に置いて口を開く。
「魔族のこと、どうするか決めておかない? どこにいるのか分からないし、竜魔像だって盗まれた可能性が高いんだよね? 目的は分からないけど、あまり悠長にしている時間はないと思う」
真紅郎の言う通り、この国にあった竜魔像は魔族が盗んだ可能性が高い。魔族が竜魔像を集めて何をしようとしているのか分からない以上、早く話を聞かないといけないのはたしかだ。
この国にまだ魔族がいたとしても、もし戦うこと
になったら……今の俺たちでも勝てるかどうかは微妙なところだ。
それほどまでに魔族の実力は強大。今まで戦った魔族との戦闘だって、ギリギリだった。
情報も実力も、俺たちには足りない。そこに時間もないとなると、ここで足を止めるのはあまりよくないだろう。
「ベリオさんを手伝いながら、情報収集は続けるしかないな」
「戦いたくないけど、戦わなきゃいけないかもしれないんだよね……」
「ハッハッハ! なら、鍛えねぇとな!」
心配そうに顔を俯かせるやよいに、ウォレスは笑いながら胸をドンッと叩く。今の俺たちじゃ勝てるか分からない以上、強くならないといけないよな。
魔族の情報収集をしつつ、ベリオさんを手伝い、修行もする。やることは多そうだ。
「あ、そうだ……」
そこでふと、俺はあることを思い出した。
上手くいくかは分からない。魔族との戦いに間に合うかも分からない。でも、もしかしたら……短期
間で強くなれる方法が手に入る可能性がある。
そのためには、ベリオさんに会わないといけないな。
俺たちはとりあえず方針を決め、ベリオさんの工房に向かった。
「お邪魔しまーす!」
ベリオさんの工房に着いた俺たちは、立て付けの悪い扉を開け放って声をかける。
すると、そこには箒を持って掃除をしているボルクの姿があった。
「あれ、タケル兄さん? 何か用事?」
「よう、ボルク。ベリオさんに俺の仲間を紹介したくてな。それと、色々と話をしたいんだ」
「親方に? まぁ、いいや。初めまして、オレはボルク! 親方の弟子だ!」
「……お前を弟子にしたつもりはない」
最初は首を傾げていたボルクがみんなに自己紹介すると、ノソッと工房からベリオさんが現れた。
ボルクは「うげ……」とベリオさんに聞かれたと知って気まずそうに頬を掻く。そんなボルクに鼻を鳴らしたベリオさんは、ジロッと俺たちを見つめてきた。
「タケルの仲間か。俺はベリオ……職人だ」
「ヘイ、あんたがベリオか! オレはウォレス! 聞いたぜ、あんたの夢! オレはあんたの夢の手伝いがしてぇ!」
夢、と聞いたベリオさんは眉をピクリと動かし、俺をギロッと睨みつけてくる。
「タケル。話したのか?」
「うっ……ごめん、話しちゃった。で、でも、みんなベリオさんの夢を手伝いたいんだよ!」
あまり周りに話して欲しくなかったのか、不機嫌そうにしているベリオさんに慌てて弁明する。
すると、ベリオさんはため息を吐いて鼻を鳴らした。
「フンッ、まぁいい」
「親方、よかったじゃん! こんなに手伝ってくれる人がいるなんて、今までなかったし! これなら機竜艇復活もすぐだって!」
ベリオさん以上にボルクがピョンピョンと跳ねながら喜ぶ。今までのことを考えると、一緒に夢を追ってくれる人がいることが嬉しくて仕方ないんだろう。
そんなボルクにベリオさんはゴツンと拳骨を落とす。
「いってぇ!? な、何するんだよ、親方!?」
「やかましい。そう簡単に復活出来る訳がないだろ」
ベリオさんはガシガシと後頭部を掻きながらそっぽを向く。
「……手伝うのは構わん。だが、邪魔だけはするな」
「はぁ……まったく、親方は素直じゃないなぁ。素直に喜べばいいのに」
「ボル坊」
「ひっ! な、なんでもない!」
ぶっきらぼうに言い放つベリオさんに呆れたように首を横に振るボルク。だけど、低く唸るような声で呼ばれてビクリと肩を震わせながら素早くベリオさんから離れた。
拳を握りしめながら逃げたボルクに舌打ちしたベリオさんは、腕組みして俺たちをジロッと見つめる。
「今のところ、手伝って貰うことはない。何かあったらその時はこき使ってやる」
「ハッハッハ! いいぜ! なんでも言ってくれ!」
「フンッ……いい度胸だ」
自信満々に胸を張るウォレスに、ベリオさんは僅かに口角を上げて笑みを浮かべた。どうやらウォレスは気に入られたみたいだな。
と、そうだ。俺はさっき思いついたことをベリオさんに話す。
「ベリオさん。前に話してた何か作ってくれる件なんだけど……」
「思いついたのか?」
「あぁ。ベリオさん……俺がもっと強くなれる武器を作って欲しい」
俺が思いついたこと、それは魔族と互角に戦えるような武器を作って貰うことだった。
武器だけですぐに強くなれるなんて、単純だと思う。でも、ベリオさんなら作れるんじゃないかと思っていた。
話を聞いたベリオさんは、眉を潜める。
「もっと強くなれる武器、だと? タケル、勘違いしてるようだから言っておく。武器ってのは、戦うための道具だ。強くなるための道具じゃない。それに、お前は魔装を持っているだろう?」
「あー、武器ってのは剣とかじゃなくて、こう……強化アイテム的な、底上げしてくれるようなのが欲しいんだ」
俺の武器は魔装……剣だ。それを手放すつもりはない。
俺が欲しいのは言わば、強化アイテム。今の俺の力を底上げする道具が欲しかった。
ベリオさんは腕組みしながら考えを巡らせる。
「ふむ……底上げする道具、か。お前のまいく、とやらみたいな物ってことだな?」
「そうそう! ベリオさんは音楽のこと知らないだろうから、そこは俺たちが案を出すよ!」
ベリオさんは俺のフワッとしたお願いをしっかりと理解してくれた。そして、一度頷くとニヤリと笑みを浮かべる。
「いいだろう。ならばまずは、そのおんがくとやらを俺に教えろ。あと、お前の魔装を預けろ。色々と調べる必要がある」
「分かった! 真紅郎、手伝ってくれ!」
「え? いいけど……」
「ハッハッハ! なんか楽しそうじゃねぇか! オレも話に入れろ!」
「……ぼくも」
「タケル、何をするつもりなの?」
強化アイテムについての話し合いに真紅郎を巻き込むと、話を聞いたウォレスやサクヤ、やよいも話に入ってきた。
どうせなら全員で色んな案を出していこう。
そこから俺たちはベリオさんに音楽について教え始める。もしもこれで強化アイテムが出来上がれば……魔族とも互角以上に戦えるかもしれない。
もちろん、修行もしっかりとやろう。元の実力を上げないことには、出来上がっても意味がないからな。
そんな期待を胸に、俺たちは夕方になるまで話し合いを続けるのだった。




