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二十四曲目『ロイドVSアシッド』

 控え室から出た俺とウォレスは出番になるまで、やよいたちがいる観客席に戻ってきた。

 闘技場の中央にある舞台にはロイドさんと……始まる前から真っ白な灰になっている、アシッドが立っている。

 観客たちは今か今かと、戦いの合図を待っていた。


「それにしても初戦がロイドさんなんて、アシッドちょっと可哀そう」


 アシッドに同情の目を向けているやよいが、苦笑いを浮かべながら言う。

 俺もさすがに同情するな。俺が同じ立場だったら、と思うと身震いした。


「まぁ、開始早々降参するって言ったから、いいんじゃないか?」

「それ、大丈夫なの?」

「……大丈夫、というかロイドさんがそれを許すとは思わないな」


 その話をロイドさんは聞いてたからな。さて、どうなることか。

 そんな話をしていると、とうとう試合が始まろうとしていた。


「これより! 魔闘大会一戦目! ロイド対アシッドの試合を始める! 両者、構え!」


 審判に言われロイドさんは剣を構えるが、アシッドは剣をだらりと下ろして構えない。

 アシッドのやる気のない様子に首を傾げていた審判だったけど、それ以上気にせずに数秒の間を空け、叫んだ。


「__試合、開始!!」


 そして、試合が始まったその瞬間、アシッドが手を挙げる。


「この試合、降参しま……」

「させるかぁぁぁぁぁ!!」

「なぁぁぁぁぁ!?」


 開始早々、降参しようとしたアシッドを止めるために一瞬で近づいたロイドさんが、先制攻撃を仕掛ける。

 不意をつかれたアシッドはギリギリで避けるも、ロイドさんは逃がさないと言わんばかりに連続で攻撃していった。


「待って待って!? し、審判! 俺、降参しま……」

「させねぇよ!」


 ロイドさんの攻撃を避けながら何とか審判に降参を宣言しようとするけど、苛烈な連続攻撃に阻まれている。ロイドさん、アシッドに降参させないよう必死だ。

 それにしてもロイドさんの攻撃を避け続けているアシッドを見ると、やっぱり実力はあるんだな。やる気がないだけで。

 

「ちょ、マスター? 俺、もう面倒臭いんで降参したいんですけどぉ?」

「それじゃあ意味がない。俺はお前のその根性を叩き直してやるために、お前を参加させたんだからな」

「うわ、ありがた迷惑なんですけどぉ」

「……俺に勝ったら長期休暇を考えてやってもいいぞ?」

「<我纏うは戦神の鎧>__<ライトニング・ストレングス!>」


 アシッドは呪文を唱えると、雷属性の身体強化魔法__ライトニング・ストレングスを使った。

 長期休暇が貰えると分かったらすぐにやる気を出すとか、現金な奴だな。

 雷を纏ったアシッドの姿が掻き消えると一瞬でロイドさんに肉薄し、剣を振った。だけど、ロイドさんはあのスピードが見えているのか軽々と防ぐ。

 そこから攻守逆転し、アシッドが攻め始めた。

 もはや同時と言っていいほどの速度で左右に剣を振り、また姿が消えたと思ったらロイドさんの後ろに回っている。

 素人じゃ何が起こっているのか分からないスピードのはずだけど、ロイドさんはその全ての攻撃をその場から動かずに防ぎ切っていた。しかも、汗一つ流していない。


「うわ、速っ。アシッドってあんなに強かったんだ」

「でも、ロイドさんは見切ってるね。攻めてはいるけど、決め手にかけてる」


 やよいはアシッドのことを見直しているけど、真紅郎の言う通り両者共に無傷。いや、徐々にアシッドの速度が落ちてきている。

 並の人間なら一瞬で蹴りがつくけど、相手はあのロイドさんだ。ただ速いだけじゃ、傷一つつけられないだろう。


「くっ、やっぱりマスターと戦うのは面倒臭いなぁ……」

「どうした、息が上がってるぞ? 長期休暇はいらないのか?」

「絶対にぃ! 長期休暇はぁ! 貰いますよぉ! <我貫くは戦神の投槍>」


 アシッドが右手を挙げると空中に一本の槍型の雷が現出し、ロイドさんに狙いを定めて投げつけるように右手を振るう。


「__<ライトニング・スピア!>」


 そして、雷の槍が紫電を走らせながら一直線に向かっていく。

 目の前に向かってきている槍に対し、ロイドさんは防ぐ……ことはせずに、むしろ前に足を踏み出していた。


「<我纏うは鬼神の鎧>__<ファイア・ボルテージ>」


 雷の槍を最小限の動きで避けたロイドさんは、すらすらと流れるように詠唱を終わらせ、自身の体に炎を纏わせた。

 蹴り足から爆発するように炎が上がると、アシッドに向かって一気に近づいていく。

 アシッドは面倒臭そうに舌打ちをすると、迎撃体勢に入っていた。


「<我落とすは戦神の怒り>__<ライトニング・フォール!>」


 アシッドが放ったのはライトニング・フォールと言う、上から雷を落とす魔法だ。

 この攻撃を避ける暇はないはず。

 当たる、と思った瞬間__ロイドさんがニヤリと笑ったのが見えた。


「__ふんッ!」


 そもそも避けるという選択肢がなかったのか落ちてくる雷に向かって気合いと共に剣を振り、驚くことに雷を斬って捨てた。

 つまりロイドさんは本物じゃないにしても、ほぼ同じような速度で落ちてくる雷と同等の速度で剣を振ったことになる。 

 これにはアシッドも驚いたのか、目を見開いていた。


「ご、強引すぎますってマスターぁ!?」

「うるせぇ死ねぇ!」

「ちょ、根性叩き直すどころか殺しに来てるぅ!?」


 ファイア・ボルテージの効果でスピードだけじゃなくて筋力も上がっている攻撃に、アシッドは手も足も出ていない。

 というかロイドさん、魔法の効果なのか日頃の鬱憤晴らしなのかは分かんないけど、頭に血が上ってるな。

 何とかしのいでいるアシッドだけど、これじゃあいつ負けてもおかしくない。ここからどうするのか、と期待しているとアシッドが動き出した。


「<我放つは戦神の一撃>」


 攻撃を防ぎながら詠唱を終わらせたアシッドは、右手をロイドさんに向ける。


「__<ライトニング・ショック!>」


 右手から放たれた雷は、前にオークの戦いの時に見たよりもかなり弱くなっていた。いや、弱くしたのか。

 咄嗟に剣で防いだロイドさんは、光によって目が眩んでいる。目潰しがアシッドの目的だったんだ。


「くっ! 小癪な! どこに行った!」


 ブルブルと首を振ったロイドさんは、姿を消したアシッドを探している。アシッドがどこにいるのか……それは、観客席にいる俺には見えていた。


「審判。俺、降参しまぁす」


 アシッドは隙をついて超スピードで審判の近くに行くと、降参宣言をしていた。ロイドさんは呆気に取られて、アシッドを見つめている。


「アシッドの降参により、勝者! ロイド!」


 そして、初戦が終わり勝ったのはロイドさんだ。

 結果は同じだけど、アシッドからすれば試合に負けて勝負に勝った形になる。試合が始まる前から決めていた降参が出来たんだから。


「あ、アシッドぉぉぉぉぉぉ!」


 魔闘大会の記念すべき初戦は、ロイドさんの怒鳴り声で終わりを告げた。




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