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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第八章『漂流ロックバンドと空を駆ける船』

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一曲目『ムールブルク公国』

 ダークエルフ族の集落があった<ケラス霊峰>を抜けた先にある、<サーベルジ渓谷>という広大な谷が広がるところに建国された国。

 それが俺たちがたどり着いた、風の国と呼ばれるムールブルク公国だ。

 切り立った崖を切り崩して建てられた木造の家が立ち並んでいる街並みには人間だけじゃなく、ヒゲを蓄えたずんぐりむっくりとした小柄な種族……<ドワーフ族>も暮らしていた。


「すげぇ……ドワーフもいるんだな、この世界って」


 ファンタジーに出てくる有名な種族を目の当たりにして感動していると、真紅郎が崖の上の方を見上げながら口を開いた。


「この国では、上に暮らしている人ほど位が高いらしいよ?」

「あん? 貴族みたいなもんか? もう貴族はこりごりだぜ?」


 真紅郎の話を聞いて、ウォレスが面倒臭そうにため息を吐く。前に立ち寄った国、<アストラ>では貴族とのいざこざがあったからな。気持ちは分かる。

 そんなウォレスの反応に真紅郎は苦笑いを浮かべた。


「まぁ、公国って言うぐらいだから貴族はいるだろうね」

「ねぇ、真紅郎。公国って、どういう意味? いまいち分かんないんだよね」


 やよいが首を傾げながら問いかけると、真紅郎は小さく咳払いしてから公国について説明し始める。


「公国は貴族統治国家のことだよ。簡単に言えば、貴族が治めている国だね」

「……王様が上なら王国。貴族が上なら公国?」


 サクヤの言ったことに真紅郎は「そんな感じだよ」と笑みを浮かべながら頷いた。

 なるほどな、と思いながら崖の上を見てみると、たしかにそこには俺たちがいる家とは違って小綺麗で大きな屋敷がある。

 まるで貴族が見下しているみたいに思えて顔をしかめていると、サクヤの腹から獣のうめき声のような音が鳴った。


「……それより、お腹空いた」

「そうだな。どこかいい店は……」


 マイペースなサクヤに笑みをこぼしつつ、食事が出来そうな店を探してみる。そこで、俺は古ぼけた木造の酒場に目が止まった。


「真紅郎、あの店はどうだ?」

「酒場……あぁ、そういうことね。うん、いいと思うよ」


 俺が酒場を指さして聞くと、真紅郎は俺の考えを察して賛成する。俺たちがこの国に来た理由……それは<魔族>の情報を集めるためだ。

 この世界を脅かしている魔族は、普通ならありえない無詠唱で魔法を行使する強大な力を持った種族。今まで二回邂逅し、戦っている俺たちはその強さをよく知っている。

 そして、俺たちがその魔族を倒すためにこの異世界に召還された。魔族を倒せば元の世界に帰れるらしいけど……本当かどうかは分からない。

 だからこそ、俺たちは一度魔族について知るべきだ。それにはまず、情報が必要になる。

 そういう理由で、俺は酒場を選んだ。色んな人が訪れる酒場だったら何かしらの情報が掴めるかもしれないし、情報を集めるには持ってこいだろう。

 他のみんなからも反対意見は出なかったので、俺たちは酒場に足を踏み入れた。


「おぉい! こっちに酒だ!」

「早く持ってきてくれ!」


 酒場は多くの客で溢れかえっている。屈強そうな男たちが酒を飲み交わし、ドワーフ族たちが豪快な笑い声を上げながら乾杯していた。

 まるでファンタジー映画のワンシーンのような光景に少し感動していると、慌ただしく接客していた女性店員が俺たちに気づいて声をかけてくる。


「いらっしゃい! 適当に空いてる席に座りな! あとで注文聞きに行くからさ!」

「おい、姉ちゃん! 酒はまだか!?」

「あいよぉ! ちょっと待ってな! 今持ってくよ!」


 両手に酒の入った木のコップを持った女性は、他の男たちに負けないぐらい声を張り上げながら走り回る。

 活気溢れる店内に圧倒されながら、俺たちは空いている席に座った。すると、やよいは鼻を抑えながらうんざりとした表情を浮かべる。


「うぇ、酒臭いし、汗臭い……」

「ハッハッハ! オレはこういうの好きだぜ!」


 やよいは店内に密集している男たちの臭いにテンションが下がり、逆にウォレスはテンションが上がって楽しそうにしていた。

 まったく正反対の二人の反応に苦笑いしていると、さっきの女性店員が俺たちに近づいてくる。


「こんな酒場にあんたたちみたいな人が来るのは珍しいね! で、注文は決まってるかい?」

「酒以外の飲み物とがっつりとした料理をお願いします。大食らいがいるんで、大盛りで」


 他の男たちに比べるとウォレスですら華奢に見える俺たちを見て、女性店員は物珍しそうにしていた。

 この店に何があるか分からないからとりあえず適当に頼みつつ、サクヤを指さして大盛りにして貰うように頼む。

 すると、女性店員は目を丸くしてからカラカラと笑い出した。


「あっはは! そうかいそうかい! それなら、この店自慢の肉料理にするといいさ!」

「……早めに、お願い」

「あいよ! ちょっと待ってな!」


 グリュルル、と腹の虫を鳴らすサクヤに女性店員は満面の笑みを浮かべると、店の奥に向かっていく。

 さて、料理が来るまでの間にこれからどうするか話し合うか。まずは……この街に入る前の、門番についてだ。


「なぁ、みんな。ちょっと聞いて欲しいんだけど……」


 そう前置きしてから、俺は門番について話す。

 キュウちゃんが威嚇した時に様子のおかしかった門番から黒いもやが逃げ出すように飛び出たことを話すと、真紅郎は深刻そうな表情で顎に手を当てて考え込んだ。


「……それって、シランの時と同じ奴?」


 黒いもや、と聞いてやよいが俯きながら恐る恐る聞いてくる。

 <転移症候群>と呼ばれる病気にかかっていた、やよいのこの異世界に来て初めての友達で……病気により命を落とした少女、シラン。

 俺とサクヤだけに見えていたシランを蝕んでいた黒いもやと、門番から抜け出した黒いもやは確実に同じものだ。

 サクヤも同意見なのか小さく頷くと、考えが纏まったのか真紅郎が口を開いた。


「謎の黒いもやと、様子のおかしかった門番。これは、何かありそうだね」

「こいつは警戒(コーション)した方がよさそうだな」


 真紅郎の言葉に腕組みしながらウォレスが眉をひそめる。黒いもやの正体は分からないけど、たしかに警戒は必要だな。

 魔族のこと、そして黒いもやのこと。俺たちがこの国で調べるのは、その二つになりそうだ。

 そんなことを話していると、酒場の扉が音を立てて勢いよく開かれた。びっくりして扉の方に目を向けてみると、そこには一人の少年が肩で息をしながら店内を見渡している。

 汚れたオーバーオールにタンクトップ姿で、キャスケット帽を被ったくせっ毛の栗色の髪の少年は、店内の一角をギロッと睨みながらずんずんと足を進めた。


「おい! そこのお前ら!」


 少年は酒を飲んでいたドワーフ族とがたいのいい人間の男たちがいるテーブルに向かって、まだ幼さの残る声で怒鳴る。

 すると、頬を赤らめていたドワーフ族の男が眉を上げて少年の方に顔を向けた。


「あぁん? なんだ、ボル坊じゃねぇか。俺たちに何か用か?」

「何か用だって? ふざけやがって! あぁ、そうだよ! お前らに用事がある!」


 ボル坊、と呼ばれた少年はギリッと歯を食いしばりながらドワーフ族の男に掴みかかろうとして……その前に同じテーブルにいた男に肩を掴まれる。


「おっと、待てよ坊主。いきなりやってきて喧嘩売ってくるたぁ、いい度胸してるじゃねぇか」

「くっ、離せよ! 汚ねぇ手でオレに触んな!」

「あぁ? んだとこのガキ!」


 少年の物言いにカチンと来た男は、少年を突き飛ばした。床を転がった少年はすぐに立ち上がると悔しげに拳を握りしめる。

 そこで、ドワーフ族の男は呆れたように肩を竦めた。


「おいおい、どうしたってんだボル坊。ここは楽しい酒の席だぞ?」

「うるせぇ! お前、さっき親方のことを侮辱しやがったろ!? 聞いてたぞ!」


 少年が怒っている理由を聞いたドワーフ族は、弾けるように派手に笑い出す。


「ガッハハハハハ! ボル坊、んなことで怒ってたのか? まったく、そんなんだからボル坊呼ばわりされるんだ!」

「親方って、もしかしてさっき話してた頭のおかしいドワーフ族のことか! ハハハハハッ!」


 ゲラゲラと笑う男たちに少年は肩を震わせる。よく見てみると、話を聞いていた他のドワーフ族も笑いを堪えていた。


「ボル坊! いい加減、あいつから離れた方がいいぞ? あいつは狂ってやがるからな!」

「そうだぜ坊主! あり得ない夢物語ばっかり言ってるらしいじゃねぇか! 騙されてんだよ、お前はよ!」


 嘲笑され続けていた少年は、怒りに顔を赤く染めながらギロリと睨みつける。


「また、親方をバカにしたな……ッ! 親方は狂ってねぇ! 夢物語でも、騙されてもねぇ!」


 声を張り上げた少年にドワーフ族の男は深いため息を吐いた。


「あのな、ボル坊。悪いことは言わねぇ、あいつとは縁を切れ。あいつの言っていることは全部、空想だ」


 少年を諭すように静かにドワーフ族の男は語る。すると、周りにいたドワーフ族も少年に同情するような視線を向けて口を開いた。


「そうだぜ、ボル坊。ベリオの野郎は頭がおかしい」

「あぁ。鍛冶の技術はこの国で一番だってことは認めるけどよ、あれは駄目だ。救いようのねぇバカだ」

「あるかも分からねぇ伝説を信じ切ってやがる。狂ってるとしか思えねぇぜ」


 ドワーフ族たちは親方……ベリオという人物を頭がおかしいと、狂ってると評価する。

 少年はそのベリオという親方のことを信じているんだろう。尊敬しているんだろう。

 そんな人をバカにされ続け、とうとう少年はぶち切れた。


「ーーうるせぇんだよ! 親方をバカにすんじゃねぇ!」


 怒号を上げて少年は走り出し、ドワーフ族の男に殴りかかる。だけどその前に男にまた取り押さえられてしまった。


「離せ! この野郎!」

「あいだ!? てめぇ!」


 少年に腕を噛みつかれた男は、振り払うように少年を投げ飛ばす。床に倒れ伏した少年を、男は鋭い視線で見下しながら噛まれた腕を抑えた。


「このガキィ……少し、痛い目見なきゃいけねぇみたいだな……ッ!」


 噛みつかれたことで激怒した男は、腰からナイフを抜く。怒っているからといって、それはやりすぎだ。

 反射的に椅子から立ち上がると、真紅郎がやれやれと首を横に振る。


「タケル。ほどほどにね?」


 その言葉に返事することなく走り出した。

 少年に向かってナイフを振り下ろそうとする男の前に踊り出て、勢いのまま前蹴りでナイフを蹴り上げる。

 いきなりのことで反応出来なかった男の手からナイフが離れ、クルクルと宙を舞った。

 少年を守るように立った俺は、男を睨みながら落ちてくるナイフをノールックで掴み取り……刃先を男に向ける。


「子供相手にこれはやりすぎじゃないか?」

「な、なんだ、てめぇ!」


 動揺しながら男は俺に殴りかかってきた。突き出された拳を軽く避け、男の目の前にナイフを突き出す。

 ビタリ、と男の顔の前でナイフを止めると、男は小さく悲鳴を上げながら尻餅を着いた。


「ここは食事と酒を楽しむところだ。酒に酔うのもいいけど……あんまり、周りに迷惑かけない方がいいぞ?」


 笑みを浮かべたままナイフを手放し、落ちたナイフが床に突き刺さる。男はカタカタと体を震わせ、顔を青ざめさせながら慌てた様子で店の外に逃げていった。

 取り残されたドワーフ族の男もこっそりと店を出たのを確認してから、ゆっくりと息を吐く。


「……大丈夫か?」

「え? あ、うん。あり、がと……」


 呆然と俺を見上げている少年に手を貸して立ち上がらせると、少年は目をパチクリさせながらお礼を言ってきた。

 気にするな、と笑みを浮かべていると……後ろから肩を掴まれる。

 振り返るとそこには、ヒクヒクと頬を引きつらせながら笑う女性店員がいた。


「……その、すいませんでした?」


 笑顔だけど明らかに怒っている女性店員に謝ると、外に向かって親指を向けられる。

 ですよね、とやりすぎたことを反省しながら、俺はおずおずと店から出るのだった。


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