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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第七章『漂流ロックバンドと霊峰の絆』

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二十九曲目『祭りの続き』

 魔族、レンカとの戦いから三日が経った。

 集落や住人には被害はなかったけど、戦いによって傷ついた戦士たちは多い。死者は出なかったけど、誰もが大小の差はあれど負傷している。

 その中でも酷いのが、デルトだった。

 右腕の複雑骨折、体中の裂傷。特に酷いのは腹部と左拳の火傷。常人なら寝たきりで治療しないといけないほどの怪我だけど……。


「そこ! まだ残ってるぞ!」


 デルトはスケルトンの残骸が至るところに散らばり、激しい戦闘により荒れたしまった集落周りの修復作業の指揮を執っていた。

 全身を包帯で巻かれ、片手に松葉杖を突きながら作業をしているダークエルフ族たちに向かって元気に大声を上げるデルト。ちなみに、この松葉杖は俺たちの手作りだ。

 本当なら静養していないといけないんだけど、デルト曰く「動いていないと体が鈍る! 多少痛いが、問題ない!」とのこと。

 いや、多少どころじゃないんだけど……本人がいいならそれでいいか。


「……タケル。終わったよ」


 作業をしているダークエルフ族を眺めていると、サクヤが声をかけてくる。デルトよりは少なくても、サクヤもまた包帯だらけだ。

 魔族……レンカとの戦いはサクヤの限界を越えるほどの激しい戦闘で、サクヤは戦いのあと二日もずっと眠っていた。

 起きてからは二日分の食事を取り戻すぐらい、用意されたご飯にがっついていたけど。しかも、綺麗に平らげてた。

 まぁ、よく食べることはいいことだ。特に日常生活に支障もなさそうだし、無事で何より。

 そして、サクヤは起きてすぐにある作業をしていた。それが今、ようやく終わったらしい。

 

「んじゃ、行くか」


 サクヤに一声かけてから、一緒に歩き出す。向かった先はデルトの家の裏……ニルちゃんの寝床だ。


「あ、来た! タケル遅い!」


 家の裏では俺とサクヤを除いたRealize全員が揃っていた。

 腰に手を置きながらプンプンと怒っているやよいに苦笑いを浮かべつつ、ニルちゃんの寝床に目を向ける。


 そこには大きく盛り上がった土と、木で出来た十字架が刺さっていた。


 俺たちは十字架の前に並び、目を閉じて手を合わせる。

 これは、レンカとの戦いで唯一犠牲となってしまった……ニルちゃんのお墓だ。

 このお墓の下にはニルちゃんが眠っている。過ごしてきた時間は短くても、大事な仲間だ。


「……ゆっくり眠って」


 俺たちの中で一番ニルちゃんと一緒にいたサクヤは、静かに微笑みながらニルちゃんに別れを告げる。

 サクヤからはニルちゃんが死んだことを受け止め、悲しくても前を向いて生きようとする強い意志を感じた。また一つ大人になった気がして、思わず笑みがこぼれる。


「ん? あれ、キリじゃないか?」


 そこでふと、木の陰から俺たちを見つめているキリに気づいた。サクヤもそっちに目を向けると、慌てた様子でキリが去っていく。


「……キリ?」


 逃げるように去っていたキリに、サクヤは首を傾げる。

 サクヤが目を覚ましてから、キリはサクヤを避けているようだった。多分だけど、サクヤに罪悪感を感じてるんだろう。

 キリの父親……この集落の族長、モーランは幼いサクヤを王国に売った。例えそれが集落を守るためでも、同族を売ったことには変わりない。しかも、その時にラピスさんが殺されたことまで集落の住人に隠していた。

 住人たちは話し合った結果、モーランはをの集落から追放処分にすると決まったんだけど、その前にモーランは殺されるとでも思ったのか姿を消してどこかに行ってしまっている。

 サクヤとデルトに謝りもしないで、モーランはいなくなった。そのことにキリは申し訳なく思っているんだろう。サクヤはキリに対して全く気にしてないのに。

 キリがどうして自分を避けるのか分からず、どこかしょんぼりとしているサクヤの頭に手を乗せる。


「すぐにでも今まで通りになるって。そんなに気にすんなよ」

「……別に。気にしてないし」


 図星だったのかサクヤはプイッとそっぽを向いた。

 すると、ウォレスがサクヤの背中をバシバシと叩きながら大笑いする。


「ハッハッハ! それよりも、今日のライブの話をしようぜ!」

「そうだね。竜神祭の続きをしないと」


 俺たちは昨日やる予定だった竜神祭をもう一度やり直そうとデルトに提案していた。せっかく練習したのに披露しないのはもったいない、と。

 デルトはもちろん他の住民も賛成してくれたから、今日の夜に竜神祭……ライブをすることになった。


「あたし、<パラダイム・シフト>以外もやりたいんだけど。何やる?」

「お、いいな! 今日は朝までライブしようぜ!」

「朝まではさすがに無理だよ。サクヤだって病み上がりなんだから、無茶させちゃダメでしょ」

「……ぼくは、やれる」

「きゅー! きゅきゅ!」


 やよいが他の曲もやりたいと言うと、テンションが上がったウォレス。

 そんなウォレスをやれやれと窘めた真紅郎だけど、サクヤはやる気満々で頭の上に乗っているキュウちゃんまで賛成するように鳴き声を上げていた。

 俺も話に入ろうとした時、松葉杖を突いたデルトがやってきて声をかけてくる。


「ここにいたのか! 探したぞ!」

「……お父さん、どうしたの?」


 サクヤがデルトをお父さんと呼ぶと、デルトは感極まったようにプルプルと体を震わせながら顔を手で覆う。


「お父さん……いい響きだ……もっと、もっと言ってくれ、オリン!」

「……いいから。なんの用?」


 お父さんと呼ばれることが嬉しいのか、もっと言うようにせがむデルトをため息を吐きながら無視するサクヤ。

 我に返ったデルトは気を取り直すように咳払いする。


「実はな、あの魔族……レンカ、と言ったか? そいつが逃げていった方向が分かったんだ」

「え? どうやって?」

「魔力の残滓を追ってみたんだ。そうしたら……あいつは、東の方角に向かっていたぞ」


 どうやって分かったのかと思ったけど、デルトは自分の目を指さしながら笑みを浮かべて答える。そう言えば、デルトは魔力の流れを見ることが出来たな。

 納得していると、真紅郎が顎に手を当てながら考え込んでいた。


「東……もしかしたら、そっちの方に魔族が暮らしているところがあるのかもね」

「ハッハッハ! どうする、乗り込むか!?」

「えぇ……あたし、イヤなんだけど。絶対戦いになるじゃん」


 真紅郎の予想だと、ここから東の方に魔族がいる可能性がある。乗り込もうとするウォレスを、やよいが辟易とした顔で嫌がっていた。

 やよいの言う通り、戦いになると思う。俺たちは元々、魔族を倒すためにこの異世界に召還されている

から、魔族としても俺たちの存在は邪魔でしかないはず。

 だけど、レンカが言うには俺たちのことは把握しているものの、どうこうしようとはしていないみたいだ。それよりも重要なことがあるみたいだし、俺たちに構っている暇はないんだろう。

 本当なら魔族とは関わりたくない。戦うのもごめんだ。でも……。


「……行かない訳にはいかないだろうな」


 俺の考えとしては、魔族が暮らしているところに向かうべきだと思っている。

 理由としては、俺たちは魔族に関して知らないことが多すぎるからだ。

 世界の認識としては、魔族はこの世界を脅かす危険な存在。そして、俺たちは魔族を倒さないと元の世界に戻れないと言われている。

 でも、それはマーゼナル国王……俺たちを騙して利用しようとしているガーディの言葉だ。信憑性は皆無。本当かどうか判断出来ない。

 だからこそ、俺たちは魔族のことを知るべきだ。戦うにしても、情報がないことには始まらない。

 そう説明すると、やよいは渋々ながら頷いた。


「そういうことなら……分かった」

「もちろん、危険だと判断したらすぐに逃げるぞ。命は大事にしないとな」

「うん、そうだね。ボクもそう思う。ボクたちは、知るべきだ」

「ハッハッハ! 戦うことになっても、勝てばいいだろ!? オレたちなら問題ねぇ(ノープロブレム)!」

「……短絡的。でも、賛成。向かってきたら、ぶん殴る」


 これで俺たちの方針が決まったな。

 俺たちの次の目的地は……魔族が暮らしているところ。つまり、東の方角だ。

 それから俺たちは話し合いを続け、夜になった。

 広場には松明が灯され、この集落に暮らす全ての住人たちと俺たちは竜魔像の前に集まる。

 すると、竜神祭を始める前に、話があるとキリが竜魔像の前に立った。緊張しているのか、深呼吸をしたキリは真剣な表情で口を開く。


「竜神祭を始める前に、皆さんに言わなければならないこと……謝ることがあります」


 そう前置きをしてから、キリは深々と頭を下げた。


「前族長、私の父モーランがしでかしたこと、娘である私から皆さんに謝らせて下さい。本当に、申し訳ありませんでした」


 いなくなったモーランの代わりにキリが謝ったことに、住人たちは戸惑っている。キリは何も悪くないけど、自分の父親がしたことだからと謝ったキリは勢いよく頭を上げて、胸を張った。


「今ここで、宣言します! 私、キリは族長の立場を継ぎ、新たな族長となることを! 私はまだ幼く、未熟です! なので、私が立派な族長になるまで、皆さんの助けが必要です! だから、皆さん! 私を支えて下さい! お願いします!」


 自分が次の族長になると宣言したキリは、謝罪ではなくお願いとしてまた頭を下げる。

 罪を犯した前族長の娘を、住人たちが認めるのかどうか。そのことが不安なのか、キリの手がプルプルと震えている。

 だけど、それはいらない心配だった。


「新たな族長に万歳!」

「キリちゃん、頑張って! みんな応援するから!」

「そうだぞ族長! いくらでも支えてやる!」


 住人たちは全員、キリが族長になることを賛成してくれていた。

 心優しい暖かな声援に、キリは目を丸くさせて……涙を流す。


「あ、ありがとう、ございます……ッ! 必ず、立派な族長としてこの集落を引っ張っていきます! 幸せで、平和な、最高の集落にしてみせます!」


 何度も頭を下げて感謝していたキリはサクヤの方に目を向け、優しく微笑んだ。サクヤは頬を緩ませて、親指を立てる。


「……頑張れ、キリ」


 周りの声援にかき消されるほど、小さな声で応援するサクヤ。でも、キリには聞こえていたみたいだ。

 キリは嬉しそうに頷き、涙を拭ってから拳を空に向かって突き上げる。


「湿っぽい話はもうおしまい! みんな、竜神祭を始めるよぉぉぉ!」


 この場にいる全員が雄叫びを上げ、祭りが始まった。

 俺たちはそれぞれ魔装を構え、演奏の準備をする。竜魔像の前ではスケルトンとの戦いで傷つき、包帯を巻いている戦士たちが並んでいた。

 静まり返る広場に、サクヤのピアノの音色が静かに響いていく。そこからウォレスのドラム、真紅郎のベースが入っていき、最後にやよいのギターが混ざり、<パラダイム・シフト>の演奏が始まった。

 リズムに合わせて戦士たちが動き出す。一糸乱れぬその動きは、華麗で流麗だった。

 俺の歌声がマイクを通して集落中に広がっていく。住人たちは踊りに目を奪われ、演奏に聴き入り、ゆらゆらと肩を揺らす。

 拳を突き出し、右足を振り上げる戦士たち。その動きは、練習した時以上に洗練されていた。

 竜神様に捧げる踊りとしては、最高なんじゃないか? 歌いながら笑みをこぼし、楽しい時間をみんなで共有していく。

 そして、静かに演奏が終わると拍手喝采が俺たちと、戦士たちに向けられた。


「大成功だな」


 歌い終わって肩で息をしながら、Realizeのみんなに笑いかける。全員満足そうだけど、まだやりたりないって感じの顔をしていた。

 分かってるよ。まだまだ、続けようぜ!


「ーーハロー! ダークエルフ族の皆様! 最高の踊りのあとは、最高のライブなんてどうだ!?」


 突然、俺が声を張り上げたことに驚くダークエルフ族たち。だけど、すぐに今から始まることを察したのか、俺たちの前に集まると手を振り上げて盛り上がり始めた。

 いいね、ノリがよくて最高だ!


「じゃあ、期待に応えてやらせて貰うぜ! まずはそうだな……<宿した魂と背中に生えた翼>だ!」


 曲名を告げ、演奏が始まる。

 それから祭りは、夜遅くまで続き……次の日、みんな寝坊した。

 


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