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二十三曲目『魔闘大会当日』

 魔闘大会、当日。

 城下町はいつもよりも騒がしく、大通りを歩く人たちは倍以上に増え、出店も多くてまさにお祭り騒ぎになっている。

 俺たちは人混みに紛れながら、魔闘大会の会場である闘技場に向かっていた。


「あぁ、緊張する……」


 大舞台で多くの観衆のいる前で戦うなんて、ライブとはまた違った緊張感があるな。

 何とか緊張を抑えようと深呼吸を繰り返していると、そんな俺を見たやよいが肩を叩いてくる。


「タケル、緊張しすぎ。そんなんじゃ一回戦負けるよ?」

「ハッハッハ! そうだぜ、タケル! 情けねぇぞ! 男ならドンッと胸張っていかねぇとな!」

「……ウォレス、足震えてるよ?」


 緊張を隠しきれていないウォレスに、真紅郎は苦笑いする。

 そうこうしている内に闘技場に到着した。俺たちの世界で言う、ローマのコロッセオみたいな円形で石造りをしている。

 ここでライブを出来たら、テンション上がるんだけどな。


「お、来たか。そろそろ開会式が始まるぞ」


 闘技場の入り口前に立っていたロイドさんが、俺たちに気付いて声をかけてきた。

 その隣には、いつもとは違ってやる気に満ち溢れたアシッドがいる。


「やぁ、タケル。今日は正々堂々頑張ろう!」

「明るくてやる気のあるアシッドとか、気持ち悪い……」

「そう言うなって、やよい。俺もそう思うけど」 


 よっぽど長期休暇が欲しかったのか、今日のアシッドはひと味違う。味が違いすぎて食中りしそうだけど。

 ロイドさんはアシッドの姿を見て、額に手を当ててため息を吐く。


「あぁ、こいつのことは気にすんな。俺も正直気味が悪いが、やる気があるのは悪いことじゃないだろ。気味が悪いが」

「二回言ってますよ、ロイドさん」


 俺の指摘に、ロイドさんは咳払いした。


「ゴホン。そんなことより、観客席に行くぞ。早くしねぇと開会式が始まっちまうからな」


 そう言って前を歩くロイドさんの背中を追いかけていく。

 階段を上り、薄暗い道を抜けた先には……闘技場の光景が広がっていた。

 綺麗に馴らされた土が敷かれた、円形の舞台。期待と興奮で彩られた観客たちの熱気で、闘技場の外よりも気温が高く感じる。

 ゴクリ、と無意識に喉が鳴った。


「ハッハッハ……吐きそう」

「あぁぁ、胃が痛い帰りたい出たくない」


 ウォレスと俺が緊張で参っていると、やよいは呆れたように肩を竦めながら真紅郎に声をかける。


「この二人、大丈夫なの?」

「あはは……分かんない」


 胃の痛みを堪えていると、ざわついていた観客が徐々に静かになっていく。

 舞台の方を見ると一人の男性が立っていた。

 男性は咳払いをすると、大きく息を吸い込んだ。


「__これより! 第三十二回、魔闘大会を開催する!」


 舞台から遠く離れた観客席まで、その大声は届いてきた。マイクなしでその声量は素直に感心する。

 魔闘大会が始まり、観客のボルテージが一気に上がると、男性はタイミングを見計らってまた大声を上げた。


「__出場する選手は控え室に! そこで試合の組み合わせを発表する!」

「いよいよ始まるな……」

「くぅぅぅ! テンション上がってきたぜぇぇ!」


 観客のボルテージに呼応するようにテンションが最高潮に達したウォレスを横目に、深呼吸をする。

 ここまで来たら、緊張していられない。今日のところはウォレスを見習って、楽しむぐらいの気持ちの方がいいな。

 そう思うと胃痛はすっかり治り、緊張で高鳴っていた鼓動は高揚感に変わっていた。


「二人とも、頑張ってね。ボクたちはここから応援してるよ」 

「怪我だけはしないでよ? 特にウォレス」

「ハッハッハ! し、心配すんなよ二人とも! サクッと優勝をもぎ取ってきてやるぜ!」

「あぁ。やれるだけ、やってみる」


 真紅郎とやよいの激励に、ウォレスと俺は笑顔で返事をする。

 優勝出来るとは思ってないけど、せっかく応援してくれる二人がいるんだからベストを尽くそう。


「よし。行くぞタケル、ウォレス」

「はい!」

「おう!」


 ロイドさんを追って観客席から離れ、階段を下りる。控え室はどうやら一階にあるようだ。

 薄暗い通路を歩いていくと外の賑やかさが遠くなっていき、俺たちの靴音だけが響いていく。

 そして、ロイドさんはある部屋の前に立つとその扉をゆっくりと開いた。

 広い控え室には、五人の選手が集まっている。

 一人はアシッド。俺たちを見つけると爽やかな笑みを浮かべて手を振っている。うん、やっぱり気持ち悪い。

 二人目は、ユニオンメンバーの人だ。たしか若手のホープだった気がする。実力者には変わりないな。

 三人目は……なんだあれ? ゴテゴテとした派手な鎧に、無駄に宝石が散りばめられた豪華な両手剣を背中に背負った男がいた。

 男は俺たちを見ると、バカにするように鼻で笑ってくる。


「あれは有名な、貴族のバカ息子だ。金遣いが荒く、性格も傲慢。女遊びも酷いときたもんだ。ま、あいつと戦う奴は運がいいだろう。実力はこの中で、一番雑魚だからな」


 ロイドさんがその男について説明してくれた。勝つのは簡単だけど、後々面倒ごとがありそうだ。

 次は、フードを目深に被った男……というより、少年か?

 フードで顔が見えないけど、真紅郎ぐらいの身長だ。華奢な体だし、もしかしたら女の子の可能性もある。

 ま、この大会に出るぐらいだから実力者なんだろう。 

 最後はマーゼナル城の兵士。俺とウォレスを入れて七人で、これから戦うことになるのか。


「集まったようだな。選ばれし勇猛な者たちよ」


 控え室に現れたのは、なんと王様だった。

 突然現れた王様に選手たちは驚き、慌てて片膝を着いて頭を下げる。俺たちもそれに倣って頭を下げると、王様は「頭を上げろ」と言い放った。


「数多くの戦士の中でも選りすぐりの八人(・・)が集まったこと、非常に喜ばしく思っている。今大会も前回以上の盛り上がりを期待しているぞ」


 ん? 今、八人って言った? 俺とウォレスを入れても、七人のはずなのに……。

 王様はそれだけ言うと控え室から出ていき、入れ替わるように舞台で魔闘大会の開会宣言をしていた男性が入ってきた。


「これより組み合わせを発表する。ここにいる八人の勝ち上がり方式だ」


 つまりトーナメント制ってことだな。というか、やっぱり八人って言ってる。

 もしかして、とロイドさんを見るとニヤリと笑みを浮かべていた。


「言っていなかったな。俺もこの大会に出るんだよ」

「えぇ!?」


 まさかと思ったけど、本当にロイドさんまで出るのか。これは優勝は難しくなったな。

 すると、話を聞きつけたアシッドが顔を引きつかせながら近づいてきた。


「俺、聞いてないんですけどぉ?」

「言ってないからな。言ったらお前、出ないだろ?」

「くそぉ……最初から優勝させるつもりなかったのかぁ……はぁ、やる気なくなってきたなぁ」


 あんなに明るくてやる気に満ち溢れていたアシッドが、いつも通りに戻っていた。まぁ、優勝出来る可能性がかなり低くなったんだから仕方ないか。

 そうこうしている内に、組み合わせの発表が始まろうとしていた。


「では発表する! 一戦目!」

「いやぁ、マスターが出るとはねぇ。マスターと当たる人は災難というか、可哀想だねぇ」

「__ロイド対アシッド!」


 アシッドが崩れ落ちた。

 一戦目からロイドさんと当たるとか、さすがにアシッドに同情するな。

 絶望しているアシッドを無視して、組み合わせが発表されていく。

 二戦目はウォレスとバカ貴族で、三戦目が俺とユニオンメンバーの人か。ウォレスと戦うのは、決勝戦になるな。


「ハッハッハ! 決勝で会おうぜ、タケル!」

「お前、決勝に上がるならロイドさんを倒さなきゃいけないぞ?」

「ハッハッハ……来年の決勝のことだぜ」

「負けること前提かよ」


 やっぱりロイドさんが優勝候補なのは、間違いないな。

 そんなロイドさんと初戦で当たるアシッドを見ると、まだ絶望していた。


「アシッド、大丈夫か?」

「……開幕早々降参するから大丈夫だよぉ。はぁ、長期休暇……」


 魔闘大会の記念すべき初戦でいきなり降参とか、ブーイングの嵐が起きそうだな。

 そこで、ふと気付いた。

 その言葉を聞いたロイドさんが、ギラリと音が聞こえそうなぐらいに目を光らせているのを。これは一戦目から荒れそうだなぁ。

 内心、アシッドに合掌しつつ出番が来るまで準備をすることにした。



  


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