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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第七章『漂流ロックバンドと霊峰の絆』

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十八曲目『失われた記憶』

 誰もいないか何度も確認しながら、森の方に歩いていくモーラン様。その後ろを、俺と真紅郎はこっそりと尾行していく。

 明らかにモーラン様は警戒している。よほど誰にも見られたくないんだろう。

 そして、モーラン様は木々が開けた場所にたどり着くと、必死に周囲を見渡しながら叫んだ。


「マーゼナル王国の者よ! いるのだろう!? どうしてまたこの集落に来た! 誓いはどうしたのだ!?」


 モーラン様はギリッと歯ぎしりしさせながら顔を真っ赤にして、いもしない王国の人間に怒鳴っている。その姿を茂みに隠れながら様子をうかがっていた俺と真紅郎は、目を合わせて頷いた。

 これは、完全にモーラン様と王国は繋がっている。俺たちの疑念は確信に変わった。

 なんの返事もないことにモーラン様は怒りを堪えるように、手に持っていた王国の紋章が描かれた布を握りしめる。


「クッ……ワシを愚弄しているのか! それとも、姿を現せない理由があるのか! どちらにせよ、今後一切の接触をしないという誓いを破ったことに間違いはない! いいか! どんな理由があるにせよ、ワシはもう王国と関わるつもりはないからな!!」


 そう叫ぶとモーラン様は手にしていた布を魔法を使って燃やした。怒鳴りすぎて疲れたのか肩で息をしていたモーラン様は、少しは気が晴れたのか家の方に戻っていく。

 姿が見えなくなるまで見送ってから、俺たちは茂みから出た。


「……やっぱり、だね」

「あぁ。間違いなく、モーラン様は……王国と繋がってる」


 俺と真紅郎の意見が一致する。

 サクヤが王国の実験体になってしまったのは、モーラン様が裏で手を引いていたからだろう。

 どうしてサクヤを王国に引き渡したのか、それは分からない。だけど、そんなことはどうでもいい。


「あいつは、同族を売ったのか……ッ!」


 ふつふつと沸き上がってくる怒りに拳を強く握りしめる。

 同じダークエルフ族のサクヤを、まだ幼かったサクヤをモーラン様……モーランは売ったんだ。

 そのせいでサクヤは辛い実験を強いられるようになった。デルトは大事な息子を奪われた。二人がどれだけ辛かったのか、俺には想像も出来ない。


「ーークソがッ!」

 

 抑えきれない怒りに木を殴りつけると、グラリと揺れて雪がバサバサと落ちた。

 それでも怒りが収まらない俺の肩を、真紅郎が軽く叩く。


「落ち着いて、タケル。今ここで怒っても、何も変わらないよ」

「分かってる! 分かってるけど……」


 ここで俺が怒りのままに暴れても、意味はない。そんなことは分かっている。でも、こうでもしないと気が晴れなかった。

 そこで、俺は真紅郎の顔を見て、ピタリと動きを止める。真紅郎は三日月のように口角を上げて笑いながら、モーランが去っていた方向を鋭く睨んでいた。


「タケル、怒りは正しく(・・・)使わないと。あいつはボクたちの大事な仲間に手を出してたんだ。その報いを受けなきゃいけない……自分がしでかしたことを後悔するぐらい、効果的に(・・・・)ね」


 ゾクリ、と寒気がするぐらい地獄の底から這い出てくるかのような声で呟く真紅郎。真紅郎もかなり頭に来てるんだろう、体からどす黒いオーラを幻視するほどに。

 だけど、俺はそれを止めることはない。俺だって、同じぐらい頭に来てるんだから。

 サクヤと出会った時には、もう実験体として扱われていた。王国の手によって改造された時には、俺たちは出会っていない。

 でも、今はサクヤは俺たちの仲間だ。その仲間が長い間苦しむことになっていた原因がここにいるなら、俺たちは絶対に許さない。


「真紅郎、どう動く?」


 ひた隠しにしていたモーランを悔い改めさせる方法は、俺には考えつかない。真紅郎は顎に手を当てながら考え込む。


「……まずは、情報を集めよう。当時のことを知ってる人に聞き込みだね」

「そうだな。あと、思い出したくないだろうけど、デルトにも聞くか。もしかしたら、ラピスさんの死にもモーランが関わってる可能性が高そうだし」

「うん、間違いなく関わってるだろうね。ラピスさんが死んだ時に、サクヤが行方不明になったみたいだから……」


 モーランがラピスさんを殺した。そして、サクヤを王国に引き渡した。そう考えていいだろう。

 ふざけやがって……絶対に暴いて後悔させてやる。

 とにかく今は感情的にならないように落ち着こう。天を仰ぎながらゆっくりと深呼吸する。


「……ん? なんだ、あれ?」


 ふと、見上げると俺が叩いた木の枝に何かが引っかかっていた。

 その何かは日の光に反射してキラキラと光っている。どうやら俺が木を殴った時に雪が落ちたことで出てきたんだろう。

 気になった俺は木を蹴って跳び上がり、枝に引っかかっていた物を掴み取る。


「これは……首飾りか?」


 枝に引っかかっていたのは、蒼い宝石に草木で編んだ紐でくくりつけてある首飾りだった。紐は古ぼけてボロボロだけど、草木で編んでるとは思えないぐらい頑丈そうだ。

 蒼い宝石をのぞき込んでみると、中心にまるで炎のようなものが揺らめいている。

 どこか心が穏やかになってくる不思議な宝石を見つめていると、真紅郎も首飾りを見つめて首を傾げた。


「その宝石、見たことないね。中で揺らいでるのはなんだろう?」

「少なくとも、異世界特有の奴だよな?」


 こんな宝石、俺たちの世界では存在しないだろう。異世界の宝石だろうけど、それがなんなのかは分からない。

 誰かがなくしたものかもしれないし、一応持っておくか。首飾りをポケットに入れてから、俺たちは集落に戻った。

 道中、俺と真紅郎はモーランが犯した罪をダークエルフ族には話さないことに決める。祭りも近いし、下手に騒動にしない方がいいだろう。少なくとも、今は。

 今回の件は俺たちRealizeで動こう。デルトには過去のことを聞いて、モーランの罪を調べ上げてから話すことにした。

 そして、俺と真紅郎がデルトの家に戻ると、そこにはキリもデルトはいない。丁度いいな。


「……みんな、ちょっと聞いてくれ」


 そう切り出してから、俺はやよいたちに話し始める。

 サクヤが行方不明になり王国の実験体にされた経緯と、ラピスさんの死にモーランが関わってる可能性が高いことを話すと、やよいは目をつり上げて勢いよく立ち上がった。


「何それ!? 酷すぎる!」

「……そいつは許せねぇな」


 ボキボキと手を鳴らし、今にもモーランのところに殴り込みに行きそうなウォレスをどうにか落ち着かせる。

 モーランをボコボコにしたい気持ちは分かるけど、今はその時じゃない。そう説得すると、一応納得したウォレスは舌打ちしてからドガッと椅子にもたれ掛かる。


「で、だ。サクヤ、何か思い出せることはないか? 辛いだろうけど……実験された時のこととか」


 あまり思い出したくはないだろうけど、サクヤに問いかける。

 サクヤは眉を潜めながら必死に思い出そうとして、静かに首を振った。


「……何も。全然覚えてない」

「そうか……」 


 やっぱり覚えてないみたいだ。実験のせいでサクヤは記憶を失っているからな。

 と、考えたところで、ふとした疑問が浮かんだ。サクヤの受けていた実験は<人造英雄計画>……英雄アスカ・イチジョウが使っていた音属性魔法を使えるようにして、第二の英雄を作り出すものだった。

 ふざけた実験だけど、そもそもどうやって音属性魔法を使えるようにしたんだ?

 今までは聞くのを躊躇っていたけど、こうなると実験の内容を知っていた方がいいかもしれない。

 そう思って聞いてみると、サクヤは自分の頭を指さしながら語り出した。


「……魔法を使うには、<魔臓器>って器官がないと出来ない。だから、音属性の魔臓器を人工的に作り出して、移植する。それが、人工英雄計画」

「その魔臓器ってのが、頭にあるのか?」


 サクヤは頷いて肯定する。

 なんて非人道的な実験だ。狂ってるとしか思えない。

 怒りで歯を鳴らすと、実験の内容を知った真紅郎が顔をしかめながら口を開いた。


「脳に直接手を加えたことが原因で、記憶を失ったのかもしれないね?」

「ヘイ、そうなるとサクヤの記憶(リコレクション)は戻らねぇんじゃねぇか?」

「記憶を司っている海馬……大脳辺縁系の一部が実験によって損傷していれば難しいかもしれないね。でも、もしかしたら自己防衛による記憶喪失の可能性もある」


 実験の恐怖による精神的なストレスから自分を守るために、記憶喪失になった。それだったら、何かの切っ掛けで記憶が戻るかもしれない……って、真紅郎は説明した。

 切っ掛けか。この集落に来たことやデルトに会ったとこじゃダメみたいだし、何かあればいいんだけどな。


「きゅー?」

「あ、ちょっとキュウちゃん!」


 すると、キュウちゃんが俺のポケットに顔を突っ込んできた。慌ててキュウちゃんを抱き上げると、その口にはさっき見つけた首飾りを咥えている。


「ダメだってキュウちゃん。それ、誰かの落とし物みたいなんだからさ」

「きゅー……」


 しょんぼりとするキュウちゃんから首飾りを取り上げると、サクヤがいきなり立ち上がった。


「うぉ!? ど、どうしたサクヤ?」


 突然のことに驚いていると、サクヤは目を見開いてその首飾りを見つめている。


 そして、頬に一筋の涙を流した。


「さ、サクヤ……?」


 立ち上がったと思えば泣き出すサクヤに恐る恐る声をかけてみると、サクヤは自分が泣いていることに気づいて目を丸くしていた。


「……ぼく、どうして泣いてるの?」

「ちょっとサクヤ、大丈夫?」


 心配したやよいがサクヤの肩を抱くと、サクヤは止まらない涙を戸惑いながら拭っている。

 この首飾りに何かあるのか?


「サクヤ、これに見覚えがあるのか?」


 首飾りを手渡すと、サクヤは中心で炎のようなものが揺らいでいる蒼い宝石を見つめながら悲しそうな表情を浮かべる。


「……分かんない。でも……」


 サクヤは大事な物を扱うように首飾りを握ると、儚げに笑った。


「……心が、じんわり暖かい」


 この首飾りは、サクヤの記憶のどこかに存在しているんだろうか。

 もしかしたら記憶が戻る切っ掛けになるかもしれない。そう思い、俺は首飾りをサクヤにあげることにした。

 サクヤは首飾りを首にかけると、宝石を優しく撫でる。

 その顔は、迷子になっていた子供が親を見つけたかのような……安心している表情だった。


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