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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第六章『漂流ロックバンドと祭り上げられし亡国の聖女』

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二十四曲目『三陣営の作戦会議』

 星屑の討手の本拠地に向かうと、そこは物々しい雰囲気が漂っていた。

 濃紺のローブを身に纏った男たちが、錆び付いた斧やボロボロの剣を片手に集まっている。誰もが命を捨てる覚悟を感じさせる表情を浮かべていた。

 着々と戦いの準備が行われていることに顔をしかめつつ、俺は本拠地に足を踏み入れて会議室に向かう。そこでは堅い表情で地図を眺めながら腕組みしているタイラーと、幹部たち。そして、ウォレスが立っていた。


「タケルか。丁度いい、今から作戦の概要を話す。お前も参加しろ」


 俺に気づいたタイラーがギロリと鋭い視線を送りながら口を開く。

 集まりの中に俺も入ると、タイラーは全員を見渡してから話し始めた。


「これから始まるのは最後の戦い。勝っても負けても、最後になるだろう。貴族を討ち取り俺たちがこの国を取り戻すか、俺たちが淘汰されるか……二つに一つだ。お前たち、覚悟はいいか?」


 タイラーの言葉に幹部たちは無言で力強く頷く。死ぬことも恐れず、目的のために自らの命を差し出す覚悟が出来ているようだ。

 出来るなら、誰も死なずに終わって欲しい。いや、そうしてみせる。

 そのために、俺はここにいるんだから。

 全員が覚悟を決めているのを確認したタイラーは、ラクーンに向かって目配せする。すると、ラクーンはコホンと咳払いしてから作戦の概要を語り始めた。


「作戦決行は夜明けと共に行います。タイラー率いる強襲組と、浚われたシンシアさんと子供たち救出組の二手に分かれます。強襲組の目的は最高指導者ゼイエル・ジーヴァの首、並びに攪乱です。攪乱している隙に救出組が密かに動きます」

「ちょっと待ってくれ!」


 ラクーンの作戦を聞いて、俺が口を挟む。全員の視線が俺に向けられる中、俺は貴族側の作戦を伝えた。


「その作戦、貴族側にバレてる。あいつらは五百人近くの私兵を集め、星屑の討手の襲撃を迎え撃とうとし

てるんだ」

「何? どうして作戦が……」


 俺の話を聞いてタイラーは顔をしかめる。どこで作戦が漏れたかは分からないけど、このまま夜明けと共に襲撃したら……確実に殲滅される。

 続けてゼイエルさんが言っていた新たな指導者について話そうとした時、ラクーンは顎に手をやりながら小さく笑みをこぼした。


「いえ、問題ありません。作戦が漏れているのは私の策略ですよ」

「どういうことだ?」

「貴族側に漏れている情報は、私が操作したんです。私たちが襲撃する場所とは違う場所をわざと漏らしました。なので、貴族側が集めた兵力はそちらに向かうはず。私たちはその穴をついて襲撃するんです」

「なるほど……だが、ラクーン。その話し、俺は聞いてないぞ?」

「申し訳ありません、報告が遅れました。この作戦を話す時に言おうと思っていたのですが……」


 貴族がどうして星屑の討手の作戦を把握していたのか、これで分かった。ラクーンの策略だったんだな。ということは、新たな指導者のこともラクーンが流したのか? 

 そのことを話そうと思ったけど、ラクーンがジロッと俺を見つめて視線で止めてきた。これ以上は邪魔になりかねないし、ここは黙っておこう。


「続けます。先ほども申したように、貴族には偽の情報を漏らしました。私たちは私兵が集められているところとは別のところから攻め入ります。気づかれ、私兵がこちらに向かってくる前にゼイエル・ジーヴァの首を取る。同時に、人質を使われる前に救出する。これが、作戦の概要です」

「ご苦労、ラクーン」


 ラクーンは「いえいえ」と言いながら下がる。タイラーは深呼吸してから殺意と恨みが込められた眼差しでテーブルに思い切り拳を打ち付けた。


「やるぞ、お前ら! 長く続いていた我らと貴族の争いを終わらせ、このアストラを取り戻す! 我らを苦しめていた貴族共の首筋に剣を突き立て、今までの所業をその血を持って償わせる!」


 タイラーの宣言に幹部たちの野太い怒号が響き渡る。今までの恨み、苦しまされてきた怒り、死んでいった同胞への悲しみが込められた雄叫びが、全身にビリビリと伝わってきた。

 そんな中、俺とウォレスは顔を俯かせる。心が締め付けられるような悲しい覚悟を見て、俺たちは何も出来ない。止めることが出来ない。

 殺意に満ちた部屋の中で一人、他の連中とは違う反応を見せていた人物がいた。

 ラクーンはただ一人雄叫びを上げず、静かにニヤリと頬を緩ませている。その姿はまるで、この状況を楽しんでいるような……。


「今から振り分けを行う! ラクーン、他の奴らを集めろ!」


 タイラーの指示に我に返った。今はラクーンのことを気にしてる暇はない。

 忙しく動き始めた星屑の討手たちの中、ウォレスが俺の耳元に顔を寄せてきた。


「シンシアとガキ共はオレに任せろ。それまで頼んだぜ」

「分かった」


 ウォレスがシンシアたちを助けている間に、俺たちは血が流れないように動く。両陣営を止める作戦はまだ思いついてないけど、もう考えてる時間もない。出たとこ勝負だ。

 俺は星屑の討手の本拠地から出て、貴族街に向かう。これから真紅郎が貴族側の作戦会議に出るから、そこに俺も参加しよう。貴族側の作戦も把握しておかないとな。

 と、その前に一つやることがある。俺は貴族街に向かう道中で井戸に走った。

 誰もいないことを確認してから、俺は井戸の中に入る。


「よっと……おーい、ジジイ。いるかぁ?」

「なんじゃ?」

「うわぁ!?」


 井戸に降り立ってからジジイを呼ぶと、背後から声がした。

 びっくりしながら振り返ると、薄暗いところからヌッとジジイが現れる。ジジイは俺の反応を見て顎髭を撫でながらカラカラと笑っていた。


「驚かせるなよ、ジジイ……」

「ホッホッホ。勝手に驚いたのはそっちじゃろうが。それで、何用じゃ?」

「……とうとう、戦いが始まる」


 ジジイは俺の言葉に笑顔を消して真剣な表情を浮かべる。そして「そうか……」と呟きながら悲しそうに俯いた。


「始まってしまうのか……どれだけの犠牲が生まれるか」

「俺たちがどうにかする。少しでも血が流れないように」


 俺の覚悟を聞いたジジイは驚いたように目を丸くさせると、嬉しそうに頬を緩ませる。


「頼んだぞ。ワシにはどうすることも出来んからのぅ……」

「ジジイは争いに巻き込まれないように隠れといてくれ」

「……すまんのぅ」


 申し訳なさそうにしているジジイに気にするなと笑って返してから、俺は井戸から出ようとした。

 だけど、その前にまだ言ってなかったことがある。


「言い辛いんだけど……シンシアが貴族に捕らわれたんだ」

「なん、じゃと……ッ!」


 言うべきか迷ったけど、ジジイはシンシアを世話していたことがあるみたいだし、言った方がいいだろう。

 そう判断して伝えると、ジジイは愕然として力なく膝を着いて肩を震わせながら顔を手で覆った。


「そんな……また、なのか……また、私は失うのか……」

「ちょ、ジジイ! 心配するなって! 必ず助け出すから!」


 取り乱しているジジイの肩に手を置いて絶対に助け出すと約束すると、ジジイはギリッと悔しそうに歯を食いしばり、ゆっくりと頷いた。

 やっぱり伝えるべきじゃなかったか? いや、でもいずれ知ることになるんだ、正直に話した方がいいだろう。

 それより、もう時間がない。早くしないと貴族側の会議に遅れる。

 

「じゃ、俺は行くぞ? ジジイ、気をつけろよ」

「……あぁ」


 顔を俯かせたままギリギリと血が出そうなほど強く拳を握りしめているジジイに後ろ髪を引かれながら、俺は井戸から出て貴族街に向かった。

 隠し通路を抜けて貴族街に入り、屋敷に向かうと私兵たちが集まっている。その数はまた増えていた。誰もが武器を片手にニヤニヤと笑っている。

 舌打ちしたい気分を堪えて会議室に向かうと、そこでは貴族たちが集まり作戦会議が始まっていた。


「む? タケル様ではないか! よくぞ来てくれたた!」

「すいません、遅れました」

「タケル、こっちこっち」


 俺に気づいたゴーシュさんに一言告げてから真紅郎の隣に座る。

 そして、俺が座ったのを確認してからゼイエルさんは口を開いた。


「タケル殿も来たことだ、改めて作戦を話そうではないか。とは言え、やることは単純……襲撃してくる不届き者共を我らの力で圧倒し、制圧する」


 そう言ってゼイエルさんは壁に貼られた地図を指さす。


「情報では奴らは無謀にも正面から攻め入るようだ。だから、あえて門の警備を薄くし、門を開ける。この貴族街の真ん中に位置する広場に包囲網を敷き、広場に誘導して集めた奴らを一網打尽にする」


 その広場が戦いの舞台か。

 だけど、その情報はラクーンが流した偽の作戦。つまり、星屑の討手は正面じゃなくて別のところから攻めるはずだ。

 だけど、ゼイエルさんを含めた貴族たちは広場で淘汰されていく星屑の討手を眺めるようだし……どちらにせよ、広場が戦場になるのは避けられそうにないな。


「兵で制圧も出来るだろうが……奴らに絶望を抱かせるために、タケル殿にはライブ魔法を使って殲滅して欲しい。集めたゴミ共を一掃してくれ」


 ゼイエルさんがニヤリと邪悪な笑みを浮かべながら言ってくる。

 集めた星屑の討手をライブ魔法で殲滅、か。完全に俺たちの力を頼りにしてるみたいだ。

 ついでにライブ魔法の力をその目で見たいんだろう。だけど、一つ問題がある。


「あの、ウォレスはどうするんですか?」


 ライブ魔法は俺たち全員が集まらないと使うことが出来ない。

 ウォレスは星屑の討手側にいるし、どうするつもりなのか聞くと……ゼイエルさんは眉をひそめた。


「どうしてそこでウォレスとやらが出てくるのだ?」

「タケル様、あんな野獣は不要! タケル様がいれば十分ですぞ!」


 ウォレスに恨みがあるゴーシュさんがウォレスなんていらないと叫んだ。ゼイエルさんも意味が分からないとばかりに首を傾げている。

 もしかして、ライブ魔法は全員揃ってないと使えないことを知らないのか?

 真紅郎にチラッと目を向けてみると、真紅郎は顎に手を当てながら何か考え事をしている。

 多分、俺と真紅郎の考えは同じだ。これは、もしかしたら使える(・・・)かもしれない。

 俺はあえて訂正せずに「そうですね」と答えておいた。

 そこからゼイエルさんは作戦を話し続ける。俺は

遊撃、真紅郎は狙撃での援護。やよいとサクヤは貴族の護衛にするみたいだ。

 そして、ある程度星屑の討手を制圧したところで、ライブ魔法でとどめを刺す。それが貴族側の作戦だ。


「もちろん、念には念を入れる。もしもの場合の切り札を用意している……なので、安心して戦って欲しい」

「その切り札とは、なんですか?」


 ゼイエルさんが言う切り札のことを聞いていない真紅郎が問いかけると、ゼイエルさんはニタァと口角を歪ませた。


「それは秘密だ。知っている者は私を含め数人しかいない。だが、これだけは言っておこう……私たちはやろうと思えばいつでも貧民街を制圧出来たのだ、と」


 ゼイエルさんの口振りからして、その切り札を使えば貧民街を制圧することは造作もなかったようだ。

 それほどの切り札を持っているのに、どうして今まで使わなかったんだ? 何かそこに秘密がありそうだけど……ゼイエルさんはその切り札について語ることはなかった。

 これで貴族の作戦会議は終わる。屋敷から出ると、真紅郎がボソッと誰にも聞かれないように小声で俺に声をかけてきた。


「タケル、今からボクたち(・・・・)の作戦会議を始めるよ」


 この日三度目の作戦会議。俺たちRealizeの会議を始めよう。

 貧民街を制圧し完全にアストラを掌握しようとする貴族。

 貴族を追い払い、国を取り戻そうとする星屑の討手。

 そして、犠牲者を出さずにこの戦いを終わらせようと暗躍する俺たち。


 三陣営の戦いが、夜明けと共に幕を開ける。

 


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