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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第六章『漂流ロックバンドと祭り上げられし亡国の聖女』

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二十三曲目『動き出す貴族』

 シンシアと子供たちが誘拐された、次の日。

 俺は宿で真紅郎たちに説明し、貴族街で聞き込みをすることにした。

 だけど、何も情報を得られない。そもそも貴族街に住んでいる人たちは貧民街と関わりたいと思っていないし、興味もない。

 シンシアのことを話しても貴族たちは口を揃えて「知らない」と答えていた。


「ちくしょう……時間がないってのに」


 シンシアと子供たちを奪われ、星屑の討手は完全に火がついてしまっている。もう猶予がない。早くシンシアたちを救い出し、争いを止めないと。

 でも、争いを止めると言っても作戦はまだ思いついていない。血を流すことなく、平和に解決する方法の目処は立っていなかった。

 焦燥感に思わず頭をガシガシと掻くと、真紅郎がポンッと肩に手を置いてくる。


「落ち着いて、タケル。焦っても意味がないよ」

「でも……ッ!」

「ほら、深呼吸して?」


 俺を宥めてくる真紅郎に文句を言おうとしたけど、真紅郎に言っても何も変わらない。とりあえず、俺は言われた通りに深呼吸した。

 そこで、やよいが俺の背中を叩いてくる。結構強めに。


「いった!?」

「しっかりしてよ、タケル!」

「……ぼくも、やる?」

「いや、サクヤ。拳を握るな。それはさすがに痛いじゃすまない」


 気合いを入れてくるやよいに習ってサクヤも俺の背中を叩こうと拳を握る。叩くっていうか、それは殴るだ。

 残念そうにするサクヤに苦笑しつつ、焦りすぎて周りが見えてなかったなと自覚する。

 落ち着け。今はとにかく、動かないと。


「タケル。一度ゼイエルさんに会わない? 何か情報を掴めるかもしれないし」

「……そうだな。もしかしたら、シンシアたちがいる可能性もある。行ってみるか」


 虎穴に入らずんばなんとやら。

 シンシアたちの誘拐に関わってるかもしれないし、ゼイエルさんから情報を集めてみよう。

 俺たちはゼイエルさんがいる屋敷に向かってみると、屋敷はどこか殺気立っていた。明らかに貴族じゃない連中も集まっている。

 その数は、ざっと見て五百人ぐらい。この連中は貴族側が集めた私兵……星屑の討手を制圧するための兵士たちだろう。

 物々しい雰囲気の屋敷に立ち止まっているとそこにゴーシュさんが現れ、俺たちに気づいた途端にニタリと笑みを浮かべて近づいてきた。


「おやおや、タケル様方! どうなされましたかな?」

「あ、ゴーシュさん。俺たち、ゼイエルさんに会いに来たんですけど……」

「ゼイエル殿にですかな? それはそれは……丁度よかった」


 丁度よかった? それはどういう意味だ?

 首を傾げるとゴーシュさんは屋敷にいる私兵たちを見渡しながら楽しそうにニヤリと口角を上げる。


「ご覧の通り、着々と貧民街のゴミ共を殲滅するために兵が集まっていましてな。そこで、タケル様方にも協力を仰ぎたいと思っていたところ……その前にタケル様方が来てくれたのは、僥倖ですなぁ」


 そう言ってゴーシュさんは俺たちを屋敷に招き入れ、ゼイエルさんがいる部屋まで案内した。

 扉をノックすると部屋から「入れ」と低い声が聞こえ、ゴーシュさんは扉を開く。


「ゼイエル殿。タケル様ご一行が来ましたぞ」

「む? そうか……入ってくれ」

「ささ、どうぞどうぞ」


 俺たちが部屋に入ると、正面に座っているゼイエルさんは殺気に満ちた視線を向けてきた。

 怒りや憎しみ、恨みや殺意がごちゃ混ぜになったような黒い眼差しに思わずたじろいでいると、ゼイエルさんは頬を緩ませて笑う。


「よく来てくれた。呼ぶ手間が省けたな……それでタケル殿、何か用事があって来たのだろう?」

「は、はい。実は……」

「だが、その前に私の話を聞いてはくれないか?」


 シンシアと子供たちのことを探ろうとすると、その前にゼイエルさんが話を止めてきた。

 どうしよう、と迷っていると俺の代わりに真紅郎が一歩前に出て対応する。


「えぇ、もちろん。ボクたちの話は後回しで構いません」

「ありがたい。では、そちらに腰掛けてくれ。長い話しになるからな」


 俺たちがソファーに腰掛けると、ゼイエルさんは嘆息してから話をし始めた。


「屋敷の前に集められた兵たちは、もう見ただろう? 私たちは貧民街の奴らを制圧することを決めた」

「そうですか。ボクたちに任して頂いた調査はまだ終わっていませんが……何かあったんですか?」

「あぁ、それについては謝ろう。だが、その通り。奴らは何か動き出そうとしているようでな」


 貴族側が貧民街を制圧する作戦を遅らせるためにまずは俺たちが調査する、って話になっていたけど……どうやら事情が変わったらしい。

 奴ら、っていうのは星屑の討手のことを言ってるんだろう。何か動き出そうとしている、って部分で思わず反応してピクリと肩を動かしてしまった。

 だけど俺の様子を見ていなかったのか、ゼイエルさんは気にせず話を続ける。


「どうやら星屑の討手、とか言ったか? そいつらの動きが活発になってきてな。ある情報では明日の朝に我らの貴族街を襲撃するとのことだ。まったくもって忌々しい……ッ!」


 ゼイエルさんはギリッと歯を食いしばりながらテーブルに拳を打ち付けた。するとすぐにあざ笑うように笑みを浮かべる。


「だが、我らは逆に利用する。奴らを待ち構え、圧倒的な兵力で殲滅することに決めたのだ。しかし、さすがに三千の兵を集めることは間に合いそうにないが……まぁ、それでも圧倒的なのには変わりはない」


 ククッと楽しそうに笑うゼイエルさんに、俺は内心焦っていた。

 近い内に争いが始まるとは思っていたけど、こんなに早くとは思ってなかった。シンシアと子供たちの誘拐は、余程タイラーの逆鱗に触れたみたいだな。

 そこでゼイエルさんは顎髭を撫でながら面倒臭そうにため息を漏らす。


「一つ気がかりなのは、どうやら奴らに新たな指導者が現れたらしい。どんな奴かは知らんが……」

「新たな指導者?」


 ゼイエルさんがこぼした新たな指導者ってところが気になった。そんな話し、一度も聞いてないんだけど……誰なんだ?

 疑問に思っていると真紅郎が顎に手を当てながら「なるほど」と頷く。


「話は理解しました。ボクたちに何か手伝えることはありますか?」


 ゼイエルさんはその言葉を待っていたとばかりにまるで悪魔のような笑顔を浮かべた。


「我らと共に戦い、奴らを排除してくれ。貴殿らの力を見せつけ、奴らに絶望を味あわせろ。見事奴らを制圧したなら……約束通り、王国との戦争で我らが全面的に協力しようではないか」

 

 やっぱり、そういうことだよな。

 ゼイエルさんが俺たちに求めているのは、力。強大なモンスターや自然災害をも圧倒するライブ魔法を必要としているんだろう。

 だけど、俺たちはそれに協力するつもりはない。音楽の力を誰かを害するために使うなんて論外だ。

 真紅郎は張り付けたような微笑みで、はっきりと答えた。


「分かりました。ボクたちにお任せ下さい」


 協力すると答えた真紅郎に、ゼイエルさんは満足そうに頷く。

 そう、俺たちは今はこう答えるしかない。ぶっちゃけ協力する気は一切ないけど、ここで断れば面倒なことになる。

 それが分かっているから、真紅郎を除いた俺たちは何も言わずに無言を貫く。ここは真紅郎に任せるしかない。


「では、ボクたちも色々と準備がありますので、ここで失礼します」

「む? 何か私に用事があったのではないのか?」

「いえ、大丈夫です。忙しい中、ありがとうございました」

「そうか。いや、こちらも助かった。真紅郎殿、これから作戦会議を行うので、是非参加してはくれないか?」

「はい、参加させて頂きます。それでは、失礼しました」


 真紅郎に続いて俺たちは部屋から出る。

 そのまま屋敷を出て、宿に向かう道中……真紅郎は顔をしかめてため息を吐いた。


「こうなったら、もう争いを止めることは難しいね」

「どうするの?」


 真紅郎の言う通り、もう争いは止められない。貴族側も、星屑の討手も止まることはないだろう。

 やよいが不安そうに聞くと、真紅郎は腕組みしながら思考を巡らせ始めた。


「少しでも血が流れないように動くしかない。そのためには貴族側と星屑の討手側の作戦、両方を知る必要あるね」

「じゃあ、星屑の討手側は俺が探る」

「うん、そうして。ボクは貴族側の作戦会議に出て情報を集めるよ。やよいとサクヤは貴族街を見回りして、何か気になるところとか怪しいところを探って」


 真紅郎の指示に俺たちは力強く頷き、すぐに行動を開始する。

 もう時間はない。どうにかしないと。

 焦る気持ちを抑えながら、俺は貧民街に走った。



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