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十九曲目 『ユニオンメンバー試験』

 異世界に来て、早半年。

 修行や勉強の日々であっという間に感じられた。

 半年前に比べれば異世界での生活も慣れてきたし、体だけじゃなくて精神も鍛えられている。

 そして、今日__俺たちはとうとう、ユニオンメンバーになるための試験の日を迎えていた。


「よぉ、よく来たな。準備は出来てるか?」


 ユニオンに入るとロイドさんが出迎えてくれた。

 ロイドさんの問いかけに俺たちは力強く頷いて答える……いや、一人だけ違っていた。


「おい、ウォレス。大丈夫か?」

「へ? お、おう! だ、大丈夫に決まってるだろ! ハッハッハ!」


 どこか様子のおかしいウォレスに声をかけるとわたわたと慌て始め、凄く引きつった笑みを浮かべている。もしかして、緊張してるのか?

 そんなウォレスを見たやよいは、呆れたようにため息を吐く。


「そう言えばウォレスって、意外とあがり症だったよね?」

「うん、そうだね。最初のライブの時もテンパってた」


 やよいの言葉に真紅郎も同意した。

 マジで? 俺はRealizeに途中で参入したから、最初の頃のウォレスを知らない。出会った時はそんな風には見えなかったんだけど……意外だ。

 二人に指摘されたウォレスは、声を大にして否定していた。


緊張(ナーバス)!? オレが!? そ、そんな訳ねぇだろ、大丈夫だ! オレは、大丈夫だ! ハッハッハ……」


 全然大丈夫そうに見えないんだけど。でもあんまり言い過ぎると逆に緊張しそうだし、そっとしておこう。

 ロイドさんは「大丈夫か、こいつ」と言いたげな目でウォレスを見つつ、ゴホンと咳払いをしてから話を戻した。


「それじゃあ、今から試験をやるぞ。最初は面接から……と、言いたいところだがそれはなしだ」

「え? どうしてですか?」


 疑問に思って問いかけてみると、ロイドさんはニヤリと笑みを浮かべて答える。


「誰が修行を見てきたと思ってるんだ? 今まで俺は、ずっとお前らのことを評価してたんだよ。その上で、問題なしと判断したんだ」


 これは、褒められてるん……だよな?

 分かり辛い褒め方だったけど、理解出来た途端に少し嬉しくなった。


「ま、悪いことをする度胸がねぇってだけかもしれねぇけど」


 どうして最後にそう言うことを言うかな、ロイドさんは。素直に褒めればいいのに。

 ジトッと睨んだものの、ロイドさんは気にした様子もなく話を続ける。


「と言う訳で面接はなし。次の試験は演習場で実技試験だ」


 トントン拍子に話は進み、演習場に向かうとロイドさんは置いてあるカカシを指さす。


「あのカカシに向かって魔法を使った一撃を与えろ。魔法はどんなものでも構わない。最初は……やよいからだ」


 魔法を使って、か。

 魔法を放って、じゃなくてよかった。音属性の特性上、放つ(・・)のは難しいからな。

 ロイドさんに言われ、やよいは魔装を展開させて斧型ギターを手に握る。

 そして、魔法を使って一気にカカシに向かって走り出すと全体重を乗せて斧を振り下ろした。

 カカシを一刀両断した斧は地面に叩きつけられ、轟音とともに地面が揺れ動く。

 そ、そんな本気出さなくてもよかったんじゃないか? カカシが見るも無惨な姿に変わり果ててるんだけど。


「よ、よし。次は真紅郎だ。お前の場合は魔力弾だけでいいぞ」


 その光景を見て冷や汗を流すロイドさんは、気を取り直して次に真紅郎を指名する。

 真紅郎は魔装の特性上、俺たちの中で唯一魔法を放つことが出来る。正確には魔力弾だけど、それでいいみたいだな。

 銃型のベースを展開した真紅郎はネックを新しく立てられたカカシに向け、弦を弾く。ネックの先端から放たれた魔力弾はカカシに着弾し、それを二発、三発と重ねていく。


「精密さ、威力、どれも大丈夫そうだな。よし、次はウォレス」

「お、おう!」


 呼ばれたウォレスは、ギクシャクとした動きで前に出る。


「……歩き方が、手と足一緒」


 やよいがウォレスを見て呟く。言わないようにしてたのに……。

 ウォレスはドラムスティック型の魔装を両手に持つと、カカシに向かって走り出した。


「って、おい! 魔法は!?」

「魔力刃も出てないよ!」


 魔法も使わず、しかも魔力刃も出さずにカカシに向かおうとしたウォレスに俺と真紅郎が声をかけると、ウォレスはハッと立ち止まる。


「そ、そうだった……フンッ!」


 気付いたウォレスは気合いとともに魔装に魔力刃を纏わせ、魔法を使う。ようやく準備が完了し、また走り出した。


「どわぁ!?」


 そして、ずっこけた。緊張しすぎだろ。


「くっ、うぉぉぉりゃぁぁ!」


 恥ずかしそうにすぐに起き上がったウォレスは、カカシに向かって魔装を振り上げる。


「って、あら?」


 そして、外した。嘘だろ?

 振り下ろした体勢で固まるウォレス。それまでの行動を見ていたロイドさんは、深くため息を吐いた。


「……終了。次、タケル」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! もう一回! もう一回だけ頼む!」

「ダメだ」


 にべもなく終了を告げられ、ウォレスはガックリとうなだれて戻ってきた。あがり症とは聞いたけど、ここまでとは思わなかったな。

 さて、次は俺だ。魔装を展開させ、剣を握るとロイドさんが口を開いた。


「お前は魔法じゃなくて、レイ・スラッシュをやれ」

「え? レイ・スラッシュを?」


 予想外の指示に目を丸くしていると、ロイドさんはそれ以上何も言わずに俺を見つめるだけだった。

 どうしてか分かんないけど、仕方ないか。


「__ふぅぅ」


 ゆっくりと深呼吸し、剣身に魔力を纏わせていくと淡く光り始めた。

 魔力を覆い終わり、カカシに向かって走り出す。剣を左腰辺りに構え、居合い抜きのように剣を横薙ぎに振り払った。


「__<レイ・スラッシュ>!」


 放った斬撃はカカシを横一文字に斬り裂く。

 なんの抵抗もなく真っ二つになったカカシは、地面に倒れ込んだ。どうにか成功したな。


「よし、いいぞ。これで試験は終わりだ」


 試験が無事終わったことにホッと胸を撫で下ろす。ロイドさんは困ったように頭を掻きながら、結果発表を始めた。


「手っ取り早く結果だけ伝えるぞ。やよい、真紅郎、タケル。おめでとう、お前らは今日から正式なユニオンメンバーだ」


 サラッと結果を言われ、理解するのに数秒の時間がかかってしまった。

 そして、試験に合格したことが分かり、俺たち三人は歓喜の声を上げる。


「よっしゃぁぁ!」

「やったぁぁ!」

「よかった、ボクたち合格したんだね」


 喜んでる俺たちを笑みを浮かべながら見つめるロイドさんは、パンパンと手を叩く。


「喜んでるところ悪いが、これで終わりじゃねぇぞ? これからが大変だ。ま、油断しないように頑張れよ」

「はい!」


 元気よく返事をする。そうだ、ユニオンメンバーになることが最終目標じゃない。これから先、俺たちはもっと厳しい戦いに足を踏み入れなきゃいけないんだ。

 油断しないよう、頑張ろう。だけど、今日ぐらいはそんなことを忘れて喜ぼう!


「あの、ロイド? オレは……?」


 蚊帳の外だったウォレスが、恐る恐る手を挙げて問いかける。そう言えば、ウォレスの名前は呼ばれなかったな。

 ロイドさんは首を傾げながら答えた。


「は? お前、あれで合格だと思ってんの?」

「いや、まぁ、思ってないけど……」

「お前は不合格。また一年、頑張るんだな」


 無情な言葉にウォレスは絶望し、膝を着く。また一年って、それはさすがにやばいな。

 どうにか出来ないのか聞こうとすると、その前にロイドさんがため息を吐きながら話を続ける。


「と、言うのはさすがに可哀想過ぎるからな。明日、お前には試験を受けて貰う。だが、それでもダメだったら本気でもう一年、訓練生のままだからな」

「お、おぉぉぉぉ! センキューロイド!」


 首の皮一枚でどうにかチャンスが残ったようだ。

 ロイドさんに深々と頭を下げるウォレスを見て、やよいから一言。


「……赤点取って留年になりそうな生徒が、追試のチャンスを貰ったみたい」


 言い得て妙だな。

 とにかく、今回の試験で俺とやよい、真紅郎は正式なユニオンメンバーになることが出来た。




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