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漂流ロックバンドの異世界ライブ!〜このくだらない戦争に音楽を〜  作者: 桜餅爆ぜる
第五章『漂流ロックバンドとアングレカムの咲く丘』
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七曲目『友達』

「あはは! いっぱい買って、すっきりした!」

「フフッ。そうですね、私も久しぶりに色々と買い過ぎました」


 街で買い物を終えた俺たちは、家に戻ってきた。

 やよいは買い物でストレス発散したのかすっきりした顔で歩き、その隣をシランが微笑みながら歩いている。

 その後ろを俺とサクヤが歩いてるんだけど……。


「……そりゃ、こんなに買えばすっきりもするだろうよ」


 深い深いため息を吐いて、呆れる。

 俺の両手と両肩には、いくつもの紙袋。これはほとんど、やよいが買った物だ。

 中身は服がほとんどで、シランが買った菓子作りに必要な材料や器具。結構な重さに俺は辟易としている中、サクヤが肉の串焼きを片手に俺をチラッと見てくる。


「……大丈夫?」

「そう思うならサクヤも持てよ」

「……荷物持ちで来たんじゃない」


 そう言ってサクヤは、俺から目を逸らして串焼きを頬張る。

 ちなみに、その串焼きは俺がサクヤに奢った奴だ。十本ぐらい買ったはずなのに、物の数分で一人で全部食べやがって。

 財布が軽くなるのに比例して荷物が重くなっていくのは、肉体的にも精神的にも辛かったな……。

 また深いため息を吐いていると、ようやく家に到着した。やよいとシランが家の中に入った瞬間、慌てた様子のライラック博士が出迎える。


「__シラン! どこに行ってたんだ!?」


 ライラック博士はシランを見るなり、鬼気迫る表情で近寄っていた。


「……ごめんなさい。街まで買い物に出かけていました」


 シランは申し訳なさそうに顔を俯かせて謝ると、ライラック博士は心底安心した様子で胸をなで下ろす。


「……無事でよかった。外に出るなら一言声をかけてくれ。心配したぞ?」

「……はい。ごめんなさい」


 ライラック博士の様子を見るに、もしかしたら外に出るのは不味かったのかもしれない。

 暗い表情で落ち込んでいるやよいをチラッと見やったライラック博士は、ゆっくりと息を吐いた。


「ジーロも心配していたぞ。顔を見せて安心させてやりなさい。その後、少し診て(・・)貰うんだ」

「……分かりました」


 シランは部屋に戻る間際、やよいに向かってうっすらと笑みを浮かべながら手で謝る。

 シランがいなくなると、ライラック博士は額に手を当てて深刻そうな表情になっていた。


「……ごめんなさい」


 それを見たやよいは、ライラック博士に今にも泣きそうな顔で謝る。

 するとライラック博士はハッと我に返り、頬を緩ませながらやよいの頭をポンポンッと撫でた。


「気にしないでくれ、やよい。謝ることはない。私も最初からちゃんと説明していればよかったんだ」

「でも……」

「いいんだ。ほら、顔を上げなさい」


 ライラック博士に言われ、やよいは顔を上げる。暗く、落ち込んだ表情をしているやよいに、ライラック博士は申し訳なさそうに後頭部を掻く。


「別に、外に出るのは悪いことじゃないんだ。ただ、せめて私かジーロに声をかけて欲しい。いきなり姿を消されると心配するからな」

「……それは、病気だから?」


 そこでふとサクヤが問いかけると、ライラック博士は一瞬動きを止める。そして、観念したようにため息を吐いた。


「……そうだ」

「シランは、本当に病気なの?」


 やよいは縋るように、否定して欲しいと言わんばかりにライラック博士に聞く。

 だけど、ライラック博士は無情にも首を縦に振った。


「あぁ。病気については……すまない、もう少し待ってくれ」

「どうして……ッ!」

「__やよい」


 病気について詳しく聞こうとするやよいを、俺は呼び止める。

 例え友達だとしても、そこまで踏み込んだことを聞くのはよくない。せめて、本人が話さない限りは聞かない方がいいだろう。

 やよいも冷静になったのか、それ以上何も聞くことはなかった。


「……ありがとう」


 俺の気持ちを察したライラック博士は、絞り出したような声で礼を言ってくる。

 そして、ライラック博士は俺たちを連れ出した。

 向かった先は二階。そこには、ライラック博士の研究所があった。

 本棚にはいくつもの分厚い本、木の長テーブルにはフラスコや薬草、花が並び、紙の束が置かれている。

 研究所に俺たちを招き入れたライラック博士は、ポツリポツリと語り始めた。


「詳しくは言えないが、シランは病を患っている。私はその病気を治すために、こうして研究しているんだ」


 そう言ってライラック博士は、テーブルに置いてあった花を手に取る。


「シランの病気は、原因不明の難病……いや、奇病(・・)だ。それを治すために魔法を研究した結果、花や薬草を使った薬で進行を遅らせることが可能だと分かった」

「もしかして、裏庭の花って……」


 話を聞いていてピンと来た俺が聞くと、ライラック博士は頷いた。


「そう。あの裏庭の花は、研究材料として育てている……まぁ、今となってはシランの趣味で他の花も咲いているがな」


 そう言って、ライラック博士はククッと笑みをこぼす。

 一頻り笑うと改めて、やよいの目を向けた。


「病気のこともあるから、シランには外に出るのは控えて貰っていた……だが、やよい。キミと一緒なら街に行くのも構わない」

「……でも」


 話を聞いていたやよいは迷っている様子だったけど、ライラック博士は優しい笑みを浮かべながらやよいの肩に手を置いた。


「病気だからと言って、シランに遠慮をしないで欲しい。せっかく出来た友達なんだ……むしろ、街に出て楽しんで貰っていた方が病気にいいかもしれないからな」


 そう言われても、やよいはまだ迷っているのか俯いたままだ。

 ライラック博士は最後に、やよいの頭をポンッと撫でると一階に向かう。サクヤはずっと俯いているやよいの服を軽く引っ張り、一緒に階段を下りた。

 すると、シランの部屋からジーロさんが出てくる。ジーロさんは俺たちに気付くと、やよいに手招きした。

 どうしていいか迷っているやよいの背中を俺とサクヤで押して、ジーロさんの方に向かわせる。

 そして、ジーロさんはドアを開いた。


「あ、やよい! 終わりましたから、お話しましょう?」


 部屋では、ベッドに横になっているシランの姿。やよいを見るなりシランは明るい笑みを浮かべ、体を起こして部屋に招いていた。

 そんなシランの姿を見たやよいは目を丸くさせ、ゆっくり深呼吸すると意を決したように部屋に一歩足を踏み入れる。


「ねぇ、シラン! また今度街に行かない? 次はシランの服を選びたいし!」


 さっきの話を振り払うように、やよいは明るく振る舞いながらシランに声をかけていた。

 やよいはシランが病気だとしても気にしないで、いつも通りに接することを決めたようだ。

 やよいの提案に、シランはニコニコと笑って頷く。


「はい! 私もまたやよいと一緒に買い物に行きたいです!」

「じゃあ、決まり! 今度はライラック博士の許可を貰って、二人で行こう! タケル抜きで!」

「え、でも、また誰かに絡まれたら……」

「うーん……あ! じゃあ次は真紅郎を呼ぼう! 見た目は女の子だけど、一応男なんだし!」

「フフッ。そんなこと言うと、真紅郎さんが怒りますよ?」

「あ、でもやっぱりなし! 真紅郎がいると、逆にナンパ増えそう……」

「フフッ、アハハハハ! もう、やよい。失礼ですよ? フフッ」

「シランも笑ってるじゃん! そう思ってるってことじゃないの?」


 二人は笑いながら、そのまま会話を続けていた。

 そんな二人の邪魔をしないように、ジーロさんが静かにドアを閉める。ドアの向こうで二人の笑い声が聞こえ、俺は自分のことのように嬉しくなって笑みをこぼした。

 すると、サクヤが首を傾げて俺を見つめている。


「……タケルはどうして、笑ってるの?」

「ん? なんか、嬉しくてな」

「……嬉しい?」


 言ってる意味が分からないのか、サクヤは訝しげな表情を浮かべた。

 俺はドアを見つめながら、理由を話す。


「俺たちの世界の話だけど、やよいには同年代で同性の友達がいなかったんだ。ほとんど俺たちと一緒にいて、話すとしても年上の人ばかり。この世界に来てもそうだったんだけど……ようやく、やよいに友達が出来た。それが嬉しくてさ」


 やよいは、学校であまり馴染めていなかった。というよりイジメられていたから、やよいは学校が終わればすぐに俺たちRealizeと一緒に過ごしていた。

 そして、この異世界に来てからも同世代の同性に出会うことはなかったけど……シランに出会って友達になった。

 それが俺には嬉しかったんだ。ようやく、年相応な姿を見ることが出来たからな。

 出来るなら、これからもずっと友達であって欲しい。そんなことを思っていると、サクヤはジッとシランの部屋の扉を見つめていた。


「……友達。よく、分からない」



 二人の笑い声が聞こえる扉を、サクヤは無表情で何を考えているのか分からない視線を向けている。

 だけど、俺にはそれが__羨ましそうに見えた。 




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