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漂流ロックバンドの異世界ライブ!〜このくだらない戦争に音楽を〜  作者: 桜餅爆ぜる
第四章『ロックバンド、水の国で魔族と出遭う』
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二十五曲目『勝利の方程式』

「今の魔法は……?」


 真紅郎が使った魔法__<スラップ>。俺はそんな魔法を知らないし、見たことがなかった。

 すると、俺の呟きが聞こえたのか真紅郎は笑みを浮かべながら答える。


「ボーカルのタケルだけが使える固有魔法の<ア・カペラ>。それを見て考えたんだ……ベースだからこそ(・・・・・・・・)使える、ボクだけの固有魔法を」


 それがベースの奏法の一つ、スラップ奏法から名付けられた__真紅郎だけが使える固有魔法。

 魔族の強大な魔法を撃ち抜き、突破するほどの高密度に圧縮された魔力弾。

 これが、真紅郎の見出した勝機ってことか。

 威力に驚いていた魔族は、すぐに表情を堅くさせて銃を構える。


「俺の魔法を破るとは……中々の威力だ。だが、当たらなければ意味がない」

「その通りだね。でも、当たれば例えあなたでも耐えきれない」


 真紅郎の言葉に。魔族は押し黙る。否定しないということは事実なんだろう。

 だけど、魔族相手に攻撃を当てることは難しい。現に真紅郎は……いや、俺たちは魔族に傷を負わせられていない。

 そんなことを考えていると、真紅郎はクスクスと小さく笑った。


「心配しないで、タケル。ボクにはもう、勝利までの道筋が見えている」

「ほう? 俺に勝てる算段があると?」

「そうだよ。ボクが勝つ__そのための作戦は、もうここにある」


 頭をトントンと指で突いて勝利宣言をした真紅郎は、ベースを構える。


「行くよ__<スラップ>」


 固有魔法である<スラップ>を使い、指で弦を叩くように弾いた。

 真っ直ぐに向かっていく高密度に圧縮された魔力弾に、魔族は風の刃を放って相殺しようとする。

 だけど、魔力弾は風の刃を撃ち抜いて魔族に襲いかかった。


「ちっ……やはりダメか」


 確認するために魔法を放ったんだろう。舌打ちしながら、魔族は側転で魔力弾を避ける。


「逃がさない! <スラップ!>」


 真紅郎は回避した魔族の動きを読み、ちょうど着地したところを狙って魔力弾を放った。

 回避に専念する魔族は地面を転がり、隙を見て銃の引き金を引く。

 放たれた炎の槍に真紅郎は魔力弾を放つ……ことはせずに、同じように地面を転がって躱していた。

 その姿を見た魔族は、口元を歪ませる。


「なるほど。その魔法、連射は出来ないようだな」

「……ご名答」


 魔族の指摘に、真紅郎は隠すことなく認めた。

 ククッ、と魔族は小さく笑みをこぼす。


「威力を上げる代わりに連射性を捨てる。それがその魔法の正体であり、弱点だな」

「そうだね。だけど__普通の魔力弾を混ぜればいい(・・・・・・)


 そう言って真紅郎はスラップを使っていない、普通の魔力弾を連射した。

 マシンガンのように撃ち込まれる魔力弾を、魔族は銃口から放たれた水の刃で相殺させる。

 防がれた真紅郎はまた魔力弾を発射し、上、左右と軌道を変えて魔族に向かわせた。

 

「<スラップ!>」


 そして、スラップを使って真っ直ぐに圧縮された魔力弾を放つ。

 軌道を変えて上、左右と挟み込むように向かってくる魔力弾に、魔族はバックステップで避けた。

 最後に真っ直ぐに向かってくる魔力弾は、手を使わずに側転して躱す。


「スラップを使った魔力弾は、真っ直ぐにしか飛ばせないようだな」

「またまたご名答。観察力も優れてるなんてね……」


 真紅郎は魔族の観察力に舌を巻き、頷いて肯定した。

 どうして真紅郎は、次々とスラップのデメリットを教えるような真似をしているんだ?

 疑問に思っていると、真紅郎は通常の魔力弾を連射した。


「……性懲りもなく、同じようなことを」


 軌道を変えて取り囲むように放たれた魔力弾を、魔族はバク転し、地面を転がり、バックステップして避け続ける。

 全ての魔力弾を避けた魔族に、真紅郎は不敵に笑って口を開いた。


「これはアドバイスだけど__あまり避けすぎない方がいいよ?」

「む? 何を……ッ!?」


 真紅郎の言っている意味が分からずに怪訝そうな表情を浮かべていた魔族は、あることに気付いた。

 今まで避けていた魔力弾が、雨に紛れてふよふよと浮かんでいる(・・・・・・)ことに。

 宙を浮かぶ無数の魔力弾に驚いている魔族に、真紅郎は弦に指を置いて呟いた。


「ボクの魔力弾は、自由に操作出来る。今まであなたが躱してきた魔力弾……この数、捌けるかな?」


 浮かんでいる魔力弾に号令を出すように、真紅郎は弦を指で弾く。

 ベースの重低音が引き金となり、無数の魔力弾が集まって螺旋を描いて魔族の周りを飛び回る。

 魔力弾はそのまま上空に飛び上がり、魔族に向かって上から掃射された。


「面倒な……ッ!」


 流れ星のように振る注ぐ魔力弾に、魔族は「クソッ」と悪態を吐く。

 落ちてくる魔力弾をパックステップで避けていく魔族。地面に着弾していく魔力弾が、地面を砕いて水飛沫を上げた。

 魔力弾を避けてどんどん後ろに下がっていく魔族は、港にある倉庫の前まで追いつめられる。

 だけど魔力弾が底をつき、最後の一発を避けた魔族は真紅郎に向かって鼻を鳴らした。


「捌けたぞ。数が足りなかったな」

「いや、足りたよ(・・・・)


 魔族の言葉を否定しながら、真紅郎は弦を鳴らす。

 すると、倉庫の屋根に隠れていた一発の魔力弾が魔族の足下を狙って放たれた。

 すぐに察知した魔族はジャンプして避けた瞬間、真紅郎はベースを水平にスライドさせて素早く魔力弾を二発発射した。

 同時に放たれた二発の魔力弾は、空中にいる魔族に向かっていく。その速度に差があり、横並びになっていた二発の魔力弾の内、一発が先に魔族に届いた。


「__くッ!?」


 このままだと当たると判断した魔族は、空中で体を捻らせてどうにか避けようとする。

 ギリギリ当たるか当たらないかの瀬戸際で、真紅郎は叫んだ。


「__そこだ!」


 その叫びに反応するように、最初の魔力弾が少しだけ軌道を変えて魔族が体に巻いているホルスター__そこに仕舞われている銃に当たった。

 すると、銃に当たった魔力弾が銃に反射して、下に向かう。

 そして、遅れてやってきたもう一発の魔力弾とぶつかり合った。

 ぶつかり合った魔力弾はまた反射し合い、逆Yの字の軌道で魔族の両大腿部に直撃する。


「ぐあッ!?」


 両大腿部で爆発した魔力弾に魔族は苦悶の表情を浮かべ、受け身も取れずに地面に落下した。

 あの魔族にとうとう傷を負わせた真紅郎は、ニヤリと口角を上げる。

 地面を転がった魔族は砕けそうなほど歯を食いしばり、真紅郎を睨みつけていた。


「今のは、跳弾……最初から、お前はこれを狙っていたのか……ッ!」


 真紅郎の狙いは魔族じゃなくて、体に巻き付いているホルスターに仕舞われている銃だったのか。

 魔力弾を操作して銃に魔力弾を反射させ、遅れて飛ばした魔力弾に当てて、跳弾で足を狙う。

 そこまでの計算を、針の穴に糸を通すような緻密なコントロールを……真紅郎は最初から狙っていた。

 だけど、真紅郎は人差し指を立て、左右に振る。


「もちろん初めからこれを狙っていたけど、本当の(・・・)狙いはここからだよ?」

「なん、だと……?」

「そして__これが本当の狙い。<スラップ!>」


 そう言って真紅郎はスラップを使い、高密度の魔力弾を放つ。

 魔力弾は魔族ではなく、その上__魔族の後ろにある倉庫に向かってだった。

 倉庫の柱を撃ち抜いた魔力弾は、そのまま梁をも破壊する。メキメキ、と倉庫全体が軋む音が聞こえてきた。

 魔族は信じられないと驚愕した表情を浮かべて、真紅郎を見つめる。


「ま、さか……俺を倉庫の前に誘導していた……戦いながら、ここまで計算していたのか!?」

「__ご名答」


 倉庫を支えていた柱が、バキバキと音を立ててへし折れる。

 支えを失った倉庫は前に__倒れている魔族に向かって、倒れかかった。


「ちく、しょう……ッ!」


 魔族は痛む両足を必死に動かし、這うようにその場から逃げる。

 だけど逃げ切れずに、倉庫はガラガラと倒れて砂埃が舞った。


「す、すげぇ……」


 真紅郎は戦いながら、こうなるように計算していたのか。

 スラップによる攻撃。弱点をわざと教えて警戒させ、通常の魔力弾を避けられることを前提に連射し、倉庫の方に誘導する。

 避けさせた魔力弾を操作して倉庫の前に移動させ、跳弾による攻撃で足を攻撃。

 相手を動けなくしてから、最後は倉庫を崩して下敷きにする。


 これが真紅郎の作戦。戦いながら模索し、見出した__勝利の方程式。


 全てを計算していた真紅郎に、ブルリと体が震えた。


「やるじゃん、真紅郎……ッ!」


 思わす笑みを浮かべて真紅郎を見ると、さっきまでいたところに真紅郎の姿はなかった。

 どこに、と探していると砂煙が晴れていく。

 そこにはどうにか倉庫の下敷きになるのを回避した魔族と__いつの間にか魔族に接近し、頭に銃口を向けた真紅郎の姿があった。


「__チェックメイト」


 今の魔族に真紅郎の攻撃を避ける手段はない。完全に、真紅郎の勝ちだ。

 魔族は倒れながら、乾いた笑い声を上げる。


「クハハ……ここまでとはな。お前の手のひらの上でずっと、踊らされていたのか。こんな経験、初めてだ」

「降伏して下さい。あなたが魔法を使うより、ボクが撃つ方が早い。もうあなたは、何も出来ない」


 真紅郎は魔族に銃口を向けながら、弦に指を置いてすぐにでも魔力弾を放てる体勢だ。

 魔族が何かするよりも真紅郎の魔力弾の方が早いのは、魔族も分かっているだろう。


「あぁ、認めよう。完全に俺の負けだ」

「なら、降伏を……」

「__だが、俺はここで捕まる訳にはいかない!」


 どうするつもりなんだ、と首を傾げていると、雨に紛れて白い何か(・・・・)が蠢いているのに気付いた。


「真紅郎! そこから離れろぉぉぉぉぉ!」


 すぐに、俺は叫んだ。

 俺の声に真紅郎は、反射的にその場から離れる。

 そして、魔族と真紅郎の間に白く大きな触腕(・・)が振り下ろされた。




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