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漂流ロックバンドの異世界ライブ!〜このくだらない戦争に音楽を〜  作者: 桜餅爆ぜる
第四章『ロックバンド、水の国で魔族と出遭う』
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二十四曲目『真紅郎の戦い』

 最初に動き出したのは、真紅郎だった。

 真紅郎は魔族の周囲を回るように走りながら弦を指で弾き、魔力弾を放つ。

 向かってくる魔力弾に対して、魔族はホルスターから銃を抜いて即座に発砲。魔力弾を撃ち抜いた風の刃は、勢いを止めることなく真紅郎を襲った。


「<アレグロ!>」


 だけど真紅郎は冷静に敏捷強化(アレグロ)を使い、素早い動きで避ける。

 そのままスピードを上げた真紅郎は、グルグルと魔族の周りを走り回った。あまりの速度に魔族は狙いが定まらないのか、舌打ちする。


「面倒な……だが、単調過ぎる」


 そう言って魔族は動きを読み、真紅郎の進行方向に向かって引き金を引いて炎の槍を放った。

 その瞬間、真紅郎は急ブレーキする。


「__そう来ると思ってたよ」


 水しぶきを上げて地面を滑るように急停止した真紅郎は、炎の槍とすれ違うように魔族に肉薄した。

 魔族相手に、接近戦仕掛ける真紅郎。

 それで一度失敗しているはずだけど、その時と違うのは今の真紅郎は冷静だということ。何か策があるに違いない。

 真紅郎は魔族に魔力弾を連続で放ちながら、一気に近づいていく。

 マシンガンのような魔力弾の雨に魔族はホルスターから新しい銃を二丁抜き、同時に引き金を引いた。


「無謀な突進だ。喰らえ__ッ!」


 真紅郎が無策で突っ込んでると思っているのか、魔族はため息混じりに二丁の銃から水の刃と風の刃を同時に放つ。

 その時__真紅郎はニヤリと笑みを浮かべた。


「__本当に無謀だと思ってるの?」

「む……ッ!?」


 走っていた真紅郎は、スライディングして地面を滑る。

 鼻先を掠るギリギリで水の刃と風の刃が通り過ぎてから、真紅郎はその体勢のまま上に向かって魔力弾を放った。

 上空に放たれた魔力弾は軌道を変え、弧を描いて魔族の頭上から襲いかかる。

 意表を突かれた魔族はバク転してその場から離れ、魔力弾を躱した。

 その回避行動が、真紅郎にとって隙を見せることになるとも知らずに。


「<フォルテ!>」


 体を起こした真紅郎は膝で地面を滑りながら一撃強化(フォルテ)を使い、魔力弾を放った。

 威力が強化された魔力弾は、ちょうどバク転して着地した魔族に向かっていく。

 今の状態から魔族が魔力弾を避けることなんて、出来ないはずだ。


「……ちっ」


 だけど、魔族は舌打ちすると足下からせり上がった岩の壁で、魔力弾を防いだ。

 魔力弾は岩の壁に直撃して防がれ、大きなヒビを入れただけで魔族に届かない。

 絶好のチャンスを逃したのか……俺はそう思っていた。


「ふふっ……やっぱり、そうなんだね」


 それなのに真紅郎はクスクスと小さく笑って、特に気にしていない。

 いきなり笑い出した真紅郎に、魔族は怪訝そうな表情を浮かべた。


「何がおかしい?」

「ボクの予想通り(・・・・)みたいだから、ちょっと面白くなってきたんだ」

「予想通り、だと?」


 意味が分からないと顔をしかめる魔族に、真紅郎は笑みを浮かべたまま語り出した。


風の刃(ウィンド・スラッシュ)石の礫(ランド・ラッシュ)水の刃(アクア・スラッシュ)火の球(フレイム・スフィア)、そして炎のフレイム・ランス……」


 真紅郎は指を折りながら、魔法名を呟く。

 今上げていった魔法名は、魔族が放った攻撃魔法だ。

 すると、真紅郎は魔族に__いや、魔族の体に巻き付いたホルスター(・・・・)に人差し指を向けた。


「あなたの体に巻き付いてるホルスター。そこに装備されている銃は五丁__それって、それぞれ一つしか(・・・・)攻撃魔法を放てないんじゃないかな?」


 真紅郎の言う通り、魔族が使ってくる攻撃魔法は五つ。装備されている銃は、五丁。

 魔族は銃を取っ替え引っ替えして、真紅郎が呟いた五種類の攻撃魔法を使っていた。

 真紅郎の指摘に魔族は憮然とした表情を浮かべ、何も答えようとしない。対して真紅郎は、笑みを浮かべたまま話を続ける。


「そして、無詠唱で使っていたのは岩の壁(ランド・ウォール)炎の壁(フレイム・サークル)……防御主体の魔法ばかりで攻撃する時は決まって銃を使ってる。それって、攻撃魔法を無詠唱で使うのが得意じゃない(・・・・・・)から__とか?」

「……ッ!」


 確信を持ったように話す真紅郎に、魔族はピクリと眉をひそめた。

 すると、それを見て真紅郎はまたクスクスと笑みをこぼす。


「図星みたいだね」

「……違う、と言ったら?」

「ふふ、嘘を吐くならもっと上手く吐かないと。あなたはボクの言葉に一瞬、反応した__ボク相手に騙し合いで勝負しようなんて、無謀だと思うよ?」


 幼少期から嘘ばかりの人間に囲まれて、騙し騙され合いを見せられ続けてきた。

 そんな環境で培われた、嘘を見抜く能力。

 真紅郎に騙し合いで勝てる奴は、俺は知らない。それを察したのか、魔族は頭をガシガシと掻き始めた。


「はぁ……で、それが分かったからといって、俺に勝てると?」

「いや、そんな簡単な相手じゃないのは承知してるよ。だけど、突破口(・・・)が見えたのはたしかだね」

「__ほう?」


 不敵に笑う真紅郎は、静かに人差し指を上に向ける。


「一つ。ボクの憶測が正しければ、銃は撃ち終わったら一度ホルスターに仕舞わないと(・・・・・・)使うことが出来ない」


 次に真紅郎は、指を二本立てる。


「二つ。ボクはどの銃が、どの魔法を放つことが出来るのか覚えているから、事前にあなたが放つ魔法が分かる」


 そして、真紅郎は指を三本立てる。


「三つ。銃を注意していれば、無詠唱での魔法が防御主体な以上……接近することは出来る」

「ほう? 俺相手に接近戦で勝てる、と?」

「いや、それは厳しいね。ボク、格闘とか苦手だから」


 魔族の言葉に真紅郎は苦笑いを浮かべながら、肩をすくめて首を横に振った。

 そして、ニヤリと口角を上げるとベースを構える。


「でも、接近した方がまだ勝ち目がある。中遠距離だと、威力で負けるからね。少しでも近づいて、銃を使わせなければいい」

「接近戦で俺に勝てないと分かっているのにか?」

「勝てないとは言ってないよ__厳しい(・・・)だけさ」


 真紅郎は体勢を低くし、真っ直ぐに魔族を見据えた。


「接近しながらあなたに勝てる方法を模索して、勝機を見出す。ボクが出来ることは……それぐらいだ」


 勝つために、あえて危険な接近戦をする。

 銃や魔法だけじゃなく、魔族の戦闘技術はかなり高い。格闘戦で圧倒的に強い相手に、真紅郎は勝機を掴み取るために近づく。

 その覚悟に、魔族は面白いと言わんばかりに吹き出した。


「くははッ……なるほど、いい覚悟だ。ならば__臆せずかかってこい!」

「言われなくても__ッ!」


 地面を蹴り、真紅郎が魔族に向かって疾走する。

 向かってくる真紅郎に、魔族はホルスターから銃を抜いて早撃ちした。

 放たれたのは、炎の槍。雨を蒸発させて水蒸気を纏いながら向かってくる炎の槍を、真紅郎は放たれたのと同時に軌道から逃れるように斜め前に走って避ける。

 次に魔族はホルスターからまた銃を抜いて、発砲。放たれた水の刃を真紅郎はスライディングして躱した。


「<アレグロ><ブレス><スピリトーゾ!>」


 地面を滑った真紅郎は即座に立ち上がると敏捷強化(アレグロ)をブレスで繋ぎ、魔法をさらに強化する魔法、<スピリトーゾ>を続けて唱える。

 二つの魔法で速度を上げた真紅郎は、一気に魔族の懐に入り込んだ。

 肉薄してきた真紅郎に、魔族は口角を歪ませる。


「本当にどの銃がどの魔法を放つのか覚えているようだ。だが、近づいただけでは何も変わらない!」

 

 突き放すように右の前蹴りを放たれた真紅郎は、仰け反りながら顎先を掠めるギリギリで蹴りを躱した。

 避けられた魔族は前蹴りを放った状態で左足を軸にして、右の回し蹴りを放つ。


「__<エネルジコ!>」


 避けられないと判断した真紅郎は咄嗟に筋力強化(エネルジコ)を使い、ベースのボディ部分で蹴りを防いだ。

 だけど、雨を切り裂いて鞭のようにしなりながら放たれた蹴りが、ベースごと真紅郎の体を蹴り飛ばす。


「ぐ、あ……ッ!」


 爆発したような鈍い音と、真紅郎の苦悶の声が響く。

 だけど、真紅郎は強化された足で吹き飛ばされないように地面に踏ん張り、水飛沫を上げながら堪えた。

 すると、魔族は軸足で飛び上がって容赦なく右の踵落としを、真紅郎の頭部を狙って振り下ろした。


「うわッ!?」


 頭上から斧のように振り下ろされる右足に、真紅郎は慌てて地面を転がって避ける。目標を失った魔族の右足は、まるで隕石が落ちたかのような轟音と共に地面を蹴り砕いた。

 もしも防いでいたら、今の一撃で終わっていただろう。

 真紅郎は起き上がると、乾いた笑い声を上げる。


「あはは……あんなの喰らったら、トマトみたいに潰されちゃうね」

「どうした、その程度かぁぁぁ!」


 怒声を上げて真紅郎に右拳を突き込もうとする魔族に、真紅郎は引きつった笑みを浮かべて叫び返した。


「冗談! まだまだこれからだよ!」


 真紅郎はベースを構え、弦をかき鳴らす。連続で放たれた魔力弾に、魔族は足下から無詠唱で岩の壁をせり上がらせて防いだ。


「撃ち抜く__<クレッシェンド!>」


 魔力弾を放ち続けながら威力を徐々に上げる魔法、<クレッシェンド>を使う真紅郎。

 岩の壁に放ち続けた魔力弾は徐々に威力を増していき、岩の壁にヒビを入れていく。

 そして、とうとう岩の壁を撃ち抜いてその先にいる魔族に向かっていった。

 だけど、魔族は慌てることなく銃を構える。


「喰らえ」


 銃声が響き渡った。

 放たれた風の刃は雨のように放たれていた魔力弾全てを切り裂き、真紅郎に向かっていく。

 まるで大きなギロチンのように首を狙って向かってくる風の刃に対して、真紅郎は……笑っていた。


「__<スラップ>」


 俺が知らない魔法を唱えた真紅郎は、右手の親指で弦を叩くように弾く。

 そして、銃口から放たれた魔力弾は風の刃を相殺……いや、撃ち抜いた(・・・・・)


「な__ッ!?」


 魔力弾は風の刃を撃ち抜き、魔族に襲いかかる。

 だけど側転して避けられ、魔力弾はそのまま倉庫に向かって飛んでいき__まるでトラックが突っ込んだかのような爆音を港に轟かせた。

 ガラガラと倉庫が崩れる中、真紅郎はニヤリと不敵に笑う。


「さぁ、反撃開始だ」


 そう言って真紅郎はベースを構え、目を丸くしている魔族に銃口を向けた。

 


 

 

 


 


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