漂流ロックバンドの異世界ライブ！〜このくだらない戦争に音楽を〜

第四章『ロックバンド、水の国で魔族と出遭う』

二十一曲目『倒れていく仲間』

「＿＿てあぁぁぁッ！」

「＿＿オラァァァッ！」

　左から俺、右からアスワドが剣を魔族に向かって振り下ろす。

　同時に向かってくる剣に対し、魔族は二丁の拳銃で俺とアスワドの攻撃を防いできた。

　防いだ瞬間、魔族はその場で一回転。後ろ回し蹴りでアスワドを蹴り飛ばしながら、俺に銃口を向けて引き金を引く。

「うわッ！？」

　銃口が向けられた瞬間、咄嗟に反応してその場から離れた俺に向かって風の刃が飛んできた。

　後ろに倒れ込むように風の刃を躱そうとして、躱し切れずに頬を切り裂かれる。

　倒れながら右手で地面に着地し、片手でバク転しながら距離を取った。

　すると、俺と入れ替わるようにウォレスが二本のドラムスティックに展開していた魔力刃を、魔族に向かって振り下ろす。

「……遅い」

「ゴフゥッ！？」

　魔族は魔力刃を振り下ろされる前に右前蹴りでウォレスの顎を跳ね上げ、右足が地面に着地したのと同時に左回し蹴りでウォレスを蹴り飛ばした。

　蹴りの威力にウォレスは口から血を吐き、勢いよく港に積まれていた木箱の山に突っ込んでいく。

　ガラガラと音を立てて落ちてくる木箱に、ウォレスは下敷きにされてしまった。

「やぁぁぁぁぁッ！」

　ウォレスを蹴り飛ばした魔族の背後から、やよいが斧を振り被る。

　魔族は後ろを振り返らずに右手の銃を左脇から突き出し、背後にいるやよいに発砲した。

　放たれた水の刃はやよいの斧に激突し、衝撃に耐えきれずにやよいは斧を手放して地面に背中から落下する。

　予想以上の威力だったのか受け身も取れずに地面を転がったやよいは、そのまま力なく倒れ伏した。

　そして、その姿を見たアスワドがシャムシールを片手に魔族に肉薄していく。

「てめぇ！　やよいたんに何してんだ、ゴラァァァァ！」

　怒声を上げて右、左、斜めとシャムシールを連続で振るアスワド。

　だけど、魔族は最小限の動きでアスワドの連撃を避けていく。当たらないことに焦ったのか、アスワドが大きくシャムシールを振り上げた。

　その隙を狙った魔族は足を振り上げ、大きく振り上げられたシャムシールの柄頭を足で抑える。

「＿＿なッ！？」

「戦闘の最中に、感情を制御出来ないなど……愚の骨頂だ」

　攻撃の合間を縫ってシャムシールの柄頭を正確に足で抑えるという、離れ業をしてきた魔族にアスワドが目を丸くした。

　魔族はシャムシールを足で抑えたまま、銃をアスワドに向けて引き金を引く。

「……む？」

　いや、その前に魔族はその場から離れた。そして、魔族がいたところに一本の矢が撃ち込まれる。

　矢を放ったのはアスワドの仲間、アランだった。

「シッ！」

　アランは短く息を吐き、一回で四本の矢を魔族に放つ。

　こんな暴風雨で矢を放てば普通なら見当違いなところに飛んでいきそうなのに、アランの矢は真っ直ぐに魔族に向かっていった。

　飛来する四本の矢を見た魔族は、避けることなくその場で立ち尽くしている。

　そして、矢が当たる直前で目で追えないほどの速度で右腕を振り払った。

「……中々の腕前だ」

「嘘、だろ……俺っちの矢を、掴むなんて」

　アランの弓の技術を褒めながら、魔族は右手に持った四本の矢をへし折る。

　魔族は信じられないことに、飛んでくる四本の矢を一瞬で掴み取っていた。

　愕然としているアランの横を、シエンが駆け抜ける。シエンは魔族に向かいながら、ローブのポケットから何かを取り出した。

「これでも食らえッス！」

　そう言って投げたのは、丸い物体。

　向かってくる丸い物体に魔族は銃を向けて風の刃で撃ち抜いた瞬間、物体は爆発して白い粘ついた液体が飛び散り、魔族を襲った。

「特製ネバネバ玉！　これであんたはその場から動け……ない？」

　シエンは呆気に取られて、足を止める。

　魔族は地面に広がった、白い液体の真ん中(・・・)に立っていた。魔族が立っているところだけ、何故か白い液体が広がっていない。

「え？　え？　どうして、当たってないんッスか？」

「風で液体に風穴を開けただけだ。見えなかったか？」

　まさか、無詠唱で風属性の魔法を使って液体に穴を開けたのか。一瞬過ぎて、俺も見えなかった。

　信じられないと惚けているシエンに、魔族は銃を向ける。

「やらせるかよ！？」

　魔族が引き金を引く前に、アスワドが斬りかかって邪魔をした。

　面倒そうに眉をひそめた魔族はシエンからアスワドに銃を向け、発砲。放たれた炎の球をアスワドがシャムシールで防ぐも、炎に巻かれて吹き飛ばされてしまった。

「ぐ、あ……ッ！」

「終わりだ」

　撃ち終わった銃をホルスターに仕舞い、新しい銃を抜いた魔族は倒れているアスワドに発砲する。

　アスワドに向かっていく風の刃。倒れているアスワドに、避ける手段はない。

　当たる、そう思っているとアスワドを守るように、両手に装着した盾を前に突き出したロクが風の刃を防いだ。

「ぐっ……ぬ、ぬぅぅぅぅ！」

　盾を構えたロクは風の刃の衝撃に必死に堪えていたけど、抵抗むなしく盾が切り裂かれて体に直撃する。

　体から血を吹き出しながら地面を転がるロクに、血相を変えたアスワドが駆け寄った。

「おい、ロク！　大丈夫か！？」

「う、うぅ……あ、にき……」

「クソッ！　シエン、止血剤だ！　急げ！」

「は、はいッス！」

　盾で威力を殺したおかげか、ロクは生きてるようだ。だけど、傷はかなり深い。

　ダラダラと血を流すロクの体を見て、アスワドはすぐに指示を出した。

　シエンが慌てて薬を片手にロクに近づこうとすると、魔族は容赦なく銃を構える。

「……戦場で悠長に治療している暇があるのか？」

　呆れたように魔族は言うと、引き金を引いた。

　放たれた炎の槍が、アスワドたちに向かっていく。アスワドたちを守ろうと前に出たアランが、炎の槍に向かって弓を放っているけど……無意味だった。

　矢を燃やしながら飛来した炎の槍は地面に着弾し、爆発する。

「ぐあぁぁぁぁッ！？」

　爆風にアスワドたちが吹き飛ばされ、地面を転がった。

　アスワド、シエン、ロク、アランの四人はボロボロの状態で地面に横たわる。

　残っているのは俺とサクヤ、そして真紅郎だけ。あっという間に、三人になってしまった。

「……シッ！」

　アスワドたちを片付けた魔族にサクヤは一瞬で距離を詰め、右拳を突き出す。

　だけど、サクヤの接近に気付いていた魔族はサッとサクヤの攻撃を躱した。

　避けられたサクヤはすぐに右足を振り上げて前蹴り、同時に軸足で飛び上がって空中で左前蹴りを連続で放つ。

　魔族はサクヤの二段蹴りを、バックステップで避けながら銃を構えた。

「……解放！」

　サクヤは着地したのと同時に叫んだ。

　すると、サクヤの周りを浮いていた魔導書が光り、保存していた音属性魔法が解放する。

　さっきよりも素早い動きで、魔族の懐に入り込んだサクヤ。どうやら、魔導書に保存していたのは敏捷強化(アレグロ)だったようだ。

　魔族に肉薄したサクヤは右拳に魔力を集め、一気に拳を突き出す。

「＿＿＜レイ・ブロー！＞」

　魔力を込めた拳を叩き込むサクヤの必殺技、レイ・ブローが魔族に放たれた。

　爆音が轟き、衝撃で地面が揺れる。間違いなく、直撃した。

　あの一撃を喰らえば、さすがの魔族も＿＿ッ！？

「いい一撃だ。だが、予備動作が大きいな」

「……そんな」

　魔族は右手で、サクヤの拳を防いでいた。

　しかも、レイ・ブローを受け止めたっていうのに、魔族に効いている様子がない。

　防がれて呆然としているサクヤに、魔族は口元を歪ませる。

「筋がいい。もう少し鍛えれば、物になりそうだ」

「……くッ！　解放！」

　余裕そうに評価してくる魔族に、サクヤは顔をしかめて右回し蹴りを魔族に放つ。

　同時に解放した魔法は一撃強化(フォルテ)。

　強化されて威力を増した蹴りも、魔族は軽々と掴んで防いでいた。

「これは音属性魔法か？　なるほど、お前らが選ばれた者(・・・・・)か」

「……何を、ぐッ！？」

　呟きながらどこか納得している様子の魔族にサクヤは離れようとすると、苦悶の表情を浮かべる。

　魔族はギリギリと音を立てながらサクヤの足を強く掴み、鼻で笑った。

「まぁ、今のお前らは驚異になり得ないな」

「＿＿うッ！？」

　そう言って魔族は、サクヤの腹に拳を打ち込んだ。

　メリメリと腹にめり込む重い拳に、サクヤは血を吐きながら地面を水しぶきを上げて跳ねるように転がっていく。

　残るは、俺と真紅郎だけ。

「もういいだろう？　いい加減、俺も帰りたいんだ。早く竜魔像を在処を＿＿」

「＿＿ハァァァァッ！」

「……教える気はない、か」

　やれやれと首を横に振る魔族に、俺は斬りかかる。

　魔族は面倒臭そうにため息を吐くと、ホルスターから銃を抜いて俺に向かって発砲した。